第21話:影の勇者は不安
師匠の質問の意図が分からない。・・・いや、これはもしかして、遠回しなクビの宣告?!
仕事が遅すぎた?何か気に障ることをしてしまった?要領が悪すぎたのかな?
兎に角、今すぐ不満はないってことを伝えて、謝らないと!!
「い、いえ!出て行きたいとは一切っ!一切、思いません。師匠には拾ってもらった恩もありますし、
屋敷の皆さんにはよくしていただいていますし、温かくて美味しい食事に、ゆっくりとした時間、
柔らかいベッドに、広くてゆったりと浸かれるお風呂、睡眠時間も十分にありますし、それに、それに、
皆さん・・・私に・・・とても優しく・・・して・・・・・くれ・・・・ます・・し」
あれ?なんでだろう。涙が溢れて。・・・ううん。今思い返してみたら、私、恵まれてる。
この世界で路頭に迷いそうになったところを、師匠に助けられて。
とても恵まれた生活環境を与えてもらった。
この世界に来てから、すごく疲れることはあったけど。辛いと感じることはなかったと思う。
そう。恵まれていたんだ。本当に、嘘とか、クビにされないためとか、そういうのは一切なくて。
ただ、ただ、本当に出て行きたい理由が一つもないんだ。
「お、おい。どうした、急に泣いたりして。何か、酷いことを言ってしまったか?」
師匠、慌ててる。早く泣き止んで謝らないと。でも、涙が止まらない。
・・・多分、コレが幸せってことなんだ。この生活を、手放したくないんだ。
「いえ。ただ、私、本当によくしてもらって。幸せだなって。
・・・あの、だから、クビにしないでください!師匠、もっと頑張って働きますから。
魔法ももっと勉強しますし、もしそれでも足りないなら、お屋敷の手伝いでも、なんでもしますから」
私の言葉を聞いた師匠は、困ったような顔をしながら見つめてくる。
うぅ。やっぱり、クビは覆せないのかな?・・・もし、出て行けって言われたら受け入れよう。
この1年間良いことばかりだったし、これ以上、師匠達に迷惑はかけられない。
二級魔導師になった今、多分、就職先には困らない、はず、だし。
でも、ここ以上に素敵な職場は見つからないんだろうな。
なんて、考えていると。師匠が、ハッとしたような顔をした。
「分かった、そういうことか。ミオ、お前は勘違いをしている」
私は言葉の意味が分からず、キョトンとした顔で師匠を見つめる。
「そうだな。まずは、これからの予定について説明する・・・」
師匠の話によると、これから私達は王城に行って私が選別した書類を第一王子殿下?に提出する。
それと同時に、私は王子殿下と非公式に謁見?する、らしい。そして、問題はここから。
師匠曰く
「パウル(第一王子)は、お前が勇者であることに恐らく気づいている。
アイツは合理主義者であると同時に、規則や規律といったモノに五月蠅い奴でもある。
恐らく、お前を勇者(という立場)に引き戻そうとするだろう。
だが、お前には二級魔導師という権力、俺という後ろ盾、
そして召喚時に無下に扱われたという事実、がある。だから、奴にハッキリ言ってやれ。
「私は師匠の下でこの国に貢献いたします」ってな。これならアイツも、何も言えなくなるだろう。
・・・問題は、奴もそれを理解しているということだ。
無駄に頭の切れる奴だからな。油断していると、足元を掬われかねない。
兎に角だ、もし、俺のところで魔法を勉強し続けたいと思うのなら。
奴との舌戦に勝利を収めなければならない。
お前はある程度頭がいいし、元いた世界ではそれなりの教育を受けていたのだろう?
なら、奴とも渡り合えるだろう。まあ、不利になれば具合が悪いとかなんとか言って逃げろ。
後は、俺が強引にでもお前を国から奪う。安心しろ、特師級魔導師の持つ権力は絶大だ」
とのこと。
師匠があんな質問をしてきた理由は、私が第一王子殿下?の提案に乗らないように。
つまり、このお屋敷や、師匠の下から出て行かないようにした質問、ということになる。
クビ宣告じゃなかったと分かったら、また泣きそうになったけどなんとか我慢した。
でも。そっか。そんなことが・・・。うん。私はこのお屋敷で、師匠の下でもっと働きたい。
その第一王子殿下?には申し訳ないけど、し、師匠の弟子って立場、守らせてもうら。
「わ、分かりました!私、今までの通りの生活を送れるように頑張ります!!」
私の言葉を聞いた師匠は、満足そうにニヤリと笑うと「そうか」と短く呟いた。
うん。師匠の訓練とか、押し付けられる仕事とかはとても疲れるけど・・・。
それ以上に、師匠やこのお屋敷の皆さんとの生活はとても大切なものだと、断言できる。
「ではミオ、早速王城に向かうぞ。パウルの奴を盛大に振ってやれ」
「っ!はい」
この世界に来てから一年、色んなこと・・・。色んなこと・・・。色んなこと?
訓練と勉強しかしてない。あれ?地球にいた頃とあまり変わりない???
いや。でも。生活も、人間関係も、全てが比べモノにならないくらいいいものばっかり。
いつか、元の世界に帰らないといけない日が来るかもだけど。
それまでは、このお屋敷で、師匠の下で、頑張って働こう。




