第2話:青年
「・・・と言うことなのですじゃ。ご理解いただけたじゃろうか」
お爺さんの話によると。私達は『魔王』を倒すための『勇者』として、別の世界に召喚された。らしい。
正直、この人達が何を言っているのか分からない。
でも状況がつかめない以上、今はこの人達に従うしかない。
彼らはまず、私達六人の魔力量?を調べる。とかで、水晶に触れるように言われた。
「おお!A+、貴方様は真の勇者で間違いございません!!他の方々も、A-以上。素晴らしい。
さあ、最後は貴女です。この水晶に触れてください」
私は、ローブの人の言う通りに水晶に手を置いた。すると『C+』と言う表示が出て来た。
その途端、ローブの人達の表情が険しくなって。私に対する視線が、冷たいモノへと変わった。
そして、その内の一人が。「貴方は部屋の外で待っていなさい」と言って、私を追い出した。
もう、訳が分からない。けど、知らない場所で行動を起こせる程の勇気を、私は持っていない。
・・・一体、どのくらい経ったんだろう。時計が見当たらないから、正確な時間が分からない。
人も全然通らないし。どうしたらいいんだろう。待つしかないのかなぁ。
うぅ。ずっと立っていたせいで、足が痛くなってきた。どうせ、人が一切来ないなら、地面に座ろう。
そう思って、腰を屈めた瞬間。
「お前、何してんだ?」
と、男の人の声が聞こえた。私は反射的に顔を伏せながら「ごご、ごめんなさい!」と謝っていた。
・・・うぅ。男性の声って、何回聞いても慣れない。
銀髪の青年は、妙にオドオドしている私を目の前に、首を傾げる。
そして大きな溜息をつくと、少しめんどくさそうな声で話しかける。
「お前はこんなところで何をしているんだ?何か、困っているようだが・・・」
その言葉に、私はピクリと反応し、ゆっくりと顔を上げる。
すると、とても整った顔立ちの青年が、自分のことを見下ろしていた。
一瞬、彼の顔に見とれそうになった私は、急いで顔を伏せる。
そんな私の行動に、彼はもう一度大きな溜息をつくと。屈んで顔を覗き込んでくる。
「この国では見たことのない服装だが・・・。俺の話している言葉は分かるか?」
彼の夜のような黒い瞳に見つめられて動揺した私は、
変に高くなってしまった声で「はいっ」と答えてしまう。
「そうか、ならば・・・」と何かを言いかけた彼は、私のことをジッと見つめると。
急に手を取り「ついて来い」と、半ば強引に何処かへ向かって歩き出した。
突然の出来事に、私は何もすることが出来ず。
ただただ彼に引っ張られるがままに、廊下を歩いた。
暫くすると、薄暗く、何て言うか。少し臭う部屋に連れ込まれる。
そこで、ようやく手を放し、振り返った彼は、真剣な表情をしていた。
「お前、魔法の適性は調べたことあるか?」
突然の質問に、困惑していると。
「そうか、少し待っていろ」と、彼が部屋の奥に行ってしまう。
ガサガサと何かを探すような音が暫く聞こえた後、戻って来たその手には水晶があった。
「これに手を置いてみろ」
水晶。・・・あれ?でもコレ。さっきローブの人達が持っていた水晶と何か違う。
私が恐る恐る水晶に触れると、中に様々な色が浮かび上がった。
けど、最終的には。紫?いや、黒色かな?が一番多くなる。
水晶を見つめていた彼は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべると。
「お前、勇者だろ。召喚の間の前で放置されてたってことは、保有魔力量は少ないようだが。
調べた結果、闇魔法の適性はかなり高い。馬鹿な魔導師共は、保有魔力量で魔導師の適性を決めるが、
最も重要なのは適性だ。保有魔力量は増やせるが、適性は天性の才。努力だけではどうにもならない。
お前、俺の下で働かないか?給料は弾むぞ。そうだな、日給『3万ドルク』なんてどうだ。
どうせ住むところもないんだろ?無料で食事と住むところも提供してやる」
急な展開に、私は困惑していた。そもそも、自分が置かれている状況も分からないのに・・・。
この世界で暮らすか、元の世界?に帰るか。どちらにしても、暫くはここで生活しないといけない。
正直、この人が怪しくないと言えば嘘になるけど。
ここで断ったら、何されるか分からないし、どうやってお金を稼げばいいかも分からない。
何も知識がない状態で、外に放り出されるのも怖いし、無事に生きて行けるか分からない。
『3万ドルク』?が一体幾らなのか分からないけど、きっと少なくはないはず。
私は、拳を強く握って。勇気を振り絞る。
「よ、よろしくお願い、します」
彼は頷いて。私は、異世界?で新しい仕事に就くことになった。