第19話:議論・弐
「ふむ。それでは少々遅すぎるな。早急に勇者御一行を強くする方法はないのか?」
魔法を知らぬ者の純粋な質問に答えたのは、彼の息子であり、ロドリゲス学園長に師事する
プッセン王国第二王子ウルリッヒ・フォン・プッセンであった。
「失礼ですが父上。一人の魔導師として意見するならば、5~6年でもかなり早いと言えます。
通常、初級魔法の習得には2、3ヶ月、下級は半年以上、中級は1年以上、上級は2、3年以上かかります。
特級からは高い魔法の才を有するものしか扱えず、習得には4、5年以上かかります。
そして弩級は6~7年。つまり、普通の魔導師なら弩級魔法を扱えるまで約17年の月日を要するのです。
ハーゲンドルフ魔導師長ですら、弩級魔法を扱えるようになるまで5年・・・」
第二王子が、「5年の月日」と言おうとするのを遮り、ハーゲンドルフは「4年と11ヶ月だ」と呟く。
この場にいる全員(王と第一王子を除く)が苦笑いをする。
第二王子は咳ばらいを行うと、話を続ける。
「4年と11ヶ月の月日が必要だったのです。
さらに、師匠。いえ失礼。ロドリゲス学園長の仰る通り、
魔法を学問として捉えるのと、戦闘の道具として捉えるのでは、全く意味が異なります。
勇者御一行を魔王と対等に戦える存在に育て上げたいとお思いになるのであれば、
それ相応の時間が必要。これ以上早くしろ、と言うのは少々酷かと」
王は、王国9魔将らの顔を見る。すると全ての者が軽く頷いた。最低でも5、6年は掛かる。
だが、魔王軍の動きからして確実に2、3年以内には攻め込んでくる。
となると、暫くは勇者一行抜きで魔王軍の侵攻を防がなければならない。
「・・・でしたら、暫く魔王軍の侵攻を防がなければなりません。が、騎士団だけでは厳しいですな。
国境は一つだけではありませんし、騎士団の総戦力の内、魔王軍に充てられるのは・・・。
せいぜい4~6割といったところでしょうか。ですが、斥候の持ち帰った情報が正確ならば。
冒険者か傭兵の類でも雇うか、徴兵しなければ、1年と持ちこたえられないでしょう」
騎士団長がそう言い終わると、宰相が立ち上がった。
「ええ、失礼して。国の政を預かる者として言わせていただくならば。
冒険者や傭兵の雇用には、莫大な資金を要します。
短期間なら可能でも、長期的なモノになれば、国の予算の大半を回さなければならなくなります。
また、民を徴兵すれば、経済が滞る可能性があります。
生産効率が落ち、十分な冬への備えが出来なければ、魔王軍どころの話ではなくなります」
会議は踊れどされど進まず。軍事的な案と、政治的な案は激しく対立していた。
国家の予算や、経済効率のことを考える宰相と、
魔王軍の侵攻を如何にして食い止めるかを考える近衛騎士団長。
どちらの主張も的を射ており、会議は難航していた。
そんな状態に、早く魔法の研究を行いたいハーゲンドルフは苛立っていた。
無意味に議論を続ける宰相と近衛騎士団長を、魔法で吹き飛ばしてやろうか、とすら考えていた。
魔法で・・・吹き飛ばす。その言葉から、ハーゲンドルフはとあることを思い出した。
「では、優秀な魔導師を集め、高火力・広範囲の殲滅に長けた部隊を作ればいい。
魔導師なら、移動系の魔法を行使すれば、騎兵よりも高い機動力を得られる。
騎士団が防御に徹し、敵を引き付けている間に、この魔法部隊が敵を叩く。
それを、各戦線で繰り返し、敵を各個に撃破して行けばいい。
この方法なら、勇者が育つまでの間、少ない戦力で敵の侵攻を食い止められるのでは?」
その場にいた全員が、ハーゲンドルフの発言に驚いていた。
何せ、彼は魔法以外には興味がないということで有名だった。
そんな彼が、この会議で発言したことも驚きだったが・・・。
「ハーゲンドルフ殿、その話、詳しく聞かせてもらえるか?」
何より近衛騎士団長ですら思いつかなかった作戦案を出したことに、皆驚いていた。
・・・はぁ。ミオから聞いた異世界の歴史の話がここで役に立つとはな。
そう、ハーゲンドルフはかつて、興味本位から澪の世界について訊いたことがある。
その時に、澪に歴史の話をされ、それをついさっき思い出したのだ。
「遊撃戦・・・。なるほど、斬新だが。確かに、とても有効そうだ。
その、ハーゲンドルフ殿のお弟子殿は、有名な軍略家なのだろうか?」
近衛騎士団長のからの質問に、ハーゲンドルフは首を左右に振り「さあな」とぶっきら棒に答える。
かくして、後に魔法戦略理論に大きな影響を及ぼすこととなる『魔導遊撃戦』が確立されたのである!




