第14話:王子
「そう言えば兄上、ず~っとレオちゃん見かけないけど、何してるか知ってる?」
部屋のソファーにみっともなく横たわり、ゴロゴロとしているこの男は
プッセン王国第二王子ウルリッヒ・フォン・プッセンである。
現在、最も王位に近い存在とされている。
と言うのも、この、ダラダラとしている弟と正反対に。
この部屋で実直に執務をこなしている、プッセン王国第一王子パウル・フォン・プッセンは、
王位に微塵も興味がないのだ。少し前までは、『賢王』か『善王』の誕生争いと言われていた。
王国内でも有数の知識人として知られる第一王子。
それに対し、王国内で最も民想いな王族として知られる第二王子。
どちらが王位に就いても、プッセン王国は安泰であると言われていた。
が、最近になって。第一王子が王位に全く興味がない、と言うことが明らかになった。
第一王子は、老いた宰相の後を継ぐことを望んでいるのだ。
同様に第四王子は王位に全く興味がなく、第二王子の敵は第三王子のみとなった訳だが。
第三王子の素行や態度の悪さは、王国民までもが知るところ。
第一王子と言う強大な相手が退いた今、第二王子が最も有力な次期王とされている。
それはさて措き、第一王子は筆を一切止めることなく、会話を行う。
「ああ。レオポルトなら、弟子を取ったらしい。それで、暫く屋敷で魔法を叩き込んでいたとか。
そう言えば今日が、その弟子が魔導師試験を受ける日だったか?」
その言葉を聞いた途端、第二王子がソファーから大きな音を立てながら転げ落ちる。
そして、神速と言っても過言ではない速度で起き上がると、兄に詰め寄る。
「堅物で、他人に興味がなくて、冷酷で、鬼畜なレオちゃんが弟子を取った?
ホントに?・・・いや、兄上はそんな嘘をつくタイプじゃないか。
じゃ、じゃあ、どんな相手?まさか、隣国の特師級魔導師とか?もしかして、勇者達?!」
王族でありながら、動揺を一ミリも隠せていない弟に対して、兄は溜息をつくと、
書類を処理する手を一瞬だけ止め、引き出しから資料を取り出して、弟に渡す。
すると弟は、何日も食事を取っていない肉食獣が獲物を見つけた時の様な目で、資料を眺める。
名:ミオ・シノノメ / 推定年齢:15~19歳 / 性別:女性 / 出身地:不明。
約1年程前からハーゲンドルフ公の下で魔法の修行を行っている。
それ以外の情報は一切なく、ハーゲンドルフ公と何処で知り合ったかさえ不明。
「・・・ねぇ兄上、滅茶苦茶怪しくない?」
渋い顔をする弟に、兄は短く「続きを読んでみろ」とだけ呟く。
弟は大きな溜息をつくと、資料の続きに目を通す。
不審に思い調査を続けた結果、彼女が勇者である可能性が浮上する。
第一の理由として、彼女の纏っている服装が、勇者一行と類似している。
続けて、勇者召喚と彼女の存在が確認された時期が一致する。
その他、勇者一行との類似や点などが複数見つかり、彼女が6人目の勇者である可能性が大となった。
弟は、別の意味で渋い顔をする。
もし、彼女が勇者なのだとしたら、幾つかの問題が出てくる。
が、自分よりも聡明な兄が何もしていない訳がないと思い、顔を上げる。
「お前の抱いた疑問は最もだ。・・・旗下の諜報員に、当時の召喚師達を調べさせた結果。
勇者は5名ではなく、6名いたことが分かった。
召喚師達は、彼女の保有魔力量が少なかったことを理由に、無下に扱ったようだ。
完全にこちら側の失態だな。ああ、その無能者共は既に牢に収監しているから安心しろ。
だが、それで問題が解決したわけじゃない。否、むしろ問題は大きい。
レオポルトがその素養を認めた存在となると、勇者の中でも最上級の実力を有しているのだろう。
幸い、彼が引き留めてくれたお陰で、強力な戦力が他国に流出するのを意図せず阻止できたわけだが。
問題は、そんな戦力が特師級魔導師の弟子となって、力を付けてしまったことだ。
もし、彼女が今日の二級魔導師試験に合格し、魔導師管理委員会から二つ名など与えられたら・・・」
「彼女は独立した存在になる。しかも、最強の後ろ盾を持った。・・・父上にはこのことを?」
兄は頭を左右に振るが、弟も兄の判断に納得していた。
彼らは父親のことを尊敬してはいるが、平凡過ぎる王であることも理解している。
下手な情報を伝えると、性急な判断をしかねない。
二人は同時に大きな溜息をつき、頭を抱える。
本来、勇者は国家が責任を持って協力関係を構築すべき存在。
魔王に対抗できる戦力とは、国家を滅ぼせる戦力と言うこと。
それに、過去には、力に溺れた勇者が国政を壟断した例もある。
故に、国家と勇者は対等な関係を維持し、魔王と言う脅威に対抗してもうらう代わりに、
それ相応のもてなしや対価を支払う。
だがもし、彼女が二級魔導師と言う貴族や豪商に並ぶ権力を手にしたならば。
その師匠が世界有数の特師級魔導師のレオポルトであることが知れれば。
下手な貴族よりも圧倒的に厄介な存在となり得る。
「・・・そこでだ、ウルリッヒ。お前に彼女の試験を見学してきてもらいたい。
三級魔導師として、ミオ・シノノメがどのような存在かを見極めてこい」
兄からの提案。だったが、弟もそのつもりだったようで、
大きく頷くと、急ぎ足で兄の執務室を後にする。




