第13話:師匠
「・・・すみません。落ち着きました」
涙のせいで化粧。いや、今日はダンジョンに行く日だったから、化粧は一切してないんだった。
兎に角、今の私の顔は到底人に見せられるモノじゃない。
特に。子供みたいな姿を見せてしまったミュラーさんに、これ以上の醜態を晒すことはできない。
と思った時、今までジッと私の話を聞いてくれていたミュラーさんが、口を開く。
「ミオお嬢様。旦那様は気に掛けている方以外には、厳しく致しません」
私はミュラーさんの言っている言葉の意味を理解できずに、困惑してしまう。
そんな私のことを気にせずに、ミュラーさんは話を続ける。
「旦那様は昔から、気に入ったお方には徹底的に厳しくなさる方でした。
対照的に、興味がない、嫌いなお方には、とても丁寧な態度を取るんです。
『形式的な態度を取り続けるということは、一定の距離を保ち続けるということ。
馬鹿でも数年続けていれば、ああ、この方は私と馴れ合う気はないのだ、と理解できる。
それに加え、「敵対」しているのではなく「興味がない」と言う解釈をしてくれるだろう。
可能な限り敵を作らず、興味のない者から距離を置く最適の方法だ』。
と、旦那様は仰っていました。
・・・私めの知る限り、ここまで詳しく、そして厳しく魔法を他人にお教えになるのは、
初めてのことです。
ミオお嬢様、旦那様に長年仕えて来た私が断言いたします。
旦那様は、ミオお嬢様のことを必要とされていると。」
ミュラーさんはそう言うと、私の手を取り、真っすぐな目で見つめて来た。とても真剣な目。
・・・彼女は師匠じゃないから、ホントに私が必要とされているかは分からない。
でも、そのあまりにも真剣な目を、私は信じても大丈夫だと思った。ううん。思えた。
私が、その柔らかく温かい手を強く握り返し「ありがとうございます!」と答えると
ミュラーさんは、そんな私に優しい笑顔を向けてくれた。
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うぐっ!なんか、安心したら眩暈と吐き気が。
「ウゲェ」
・・・私は、ミュラーさんの前でさらなる醜態を晒すこととなった。
(幸い、胃の内容物は全て消化されきっていたみたいで、胃酸だけを戻すことになった。)
~ 一週間後:ゴブリンダンジョン? ~
「グギャアアア!!!」
ゴブリンダンジョンに入ってから守護を倒すまでの時間。約9分。
使用した魔法は6種類で、使用した魔力は1/10。これから飛行魔法で帰っても3割は魔力が残るはず。
でも。やっぱり、命の奪い合い?って、慣れない。恐怖心も、結局なくならなかった。
今回も、不合格かな?また、師匠を失望させちゃうのかな?
と考えていると、ガシャン!と陶器みたいな物が壊れる音が聞こえて来た。
音のした方を見ると、師匠がダンジョン・コアを破壊しているのが目に映る。
師匠はダンジョン・コアの欠片を拾うと「ᛖᛁᚾᛋᛏᛖᛗᛈᛖᛚ」と、魔法の詠唱を行う。
アレは、初級魔法『刻印』。・・・何をしているんだろう?
暫くして、師匠は刻印魔法を掛けたダンジョン・コアの欠片を、私に渡してきた。
「師匠が自らの名を刻んだ物を弟子に送ると言う行為は、
弟子が一人前になったことを『認める』と言う『証』だ。
まだ、二級魔導師試験に合格していないが。
まあ、この分なら問題なく合格できるだろう。
さあ、早く帰るぞ。今日試験の申し込みを行えば、二級なら数日中に試験を受けられるだろう」
師匠はそう言うと、ダンジョンの外へ向かって歩き始めた。
私は、ダンジョン・コアの欠片を強く握りしめると、小さくガッツポーズをとる。
それと同時に、これ以上、師匠を失望させてはいけないと、決意を改める。
二級魔導師試験。絶対に一回で受からないと。
私はダンジョン・コアをウエストポーチに丁寧にしまうと、師匠の後ろを追いかけた。
~ 数日後 ~
「旦那様、行ってらっしゃいませ。ミオお嬢様、合格をお祈りしております」
私達はミュラーさんに見送られながら、魔導師試験の会場へと向かう。
師匠曰く、魔導師試験には幾つかの段階があるらしい。
まず、受験者の魔法適性と保有魔力量を測る『検査』。次に魔法理解を測る『筆記試験』。
実戦で『魔法展開速度』『魔力操作』『魔法順応適性』を測る『実技試験』があるとのこと。
『検査』と『筆記』は兎も角、実戦では実際に二級魔導師の方と戦うっぽい。
うぅ。人との魔法戦。師匠と何度か訓練で行ったことはあるけど。
一度も私の魔法が師匠に届いたことはない。そんな私で、本当に通用するんだろうか?
「・・・ミオ、少しズルをさせてやろう。ああ、誰もがやっていることだ気にするな。
今日の実技試験のお前の相手は・・・」




