第11話:ダンジョン
ダンジョン。洞窟のような見た目をしているけれど、魔獣の一種とされている。
ただ、その生態はあまりにも不思議な所が多く。生き物であるかどうかすら議論されている。
分かっていることと言えば、ダンジョンに侵入してきた生物(の死体と魔力)を捕食すること。
ダンジョン自体が、魔獣や稀に魔物を生み出し、侵入してきた生物を狩らせていること。
ダンジョンの最奥にあるコアを破壊すると、その活動の全てを停止させること。
ダンジョン内で発生した魔獣・魔物はダンジョンの外に持ち出すことが出来ないということ。
みたいなことを、師匠がここに来るまでの道中に教えてくれた。
あ、あと。ダンジョンは魔物を生み出すだけの洞窟?で邪魔にしかならないから、
冒険者組合?ってところが、各国からの要請を受けてダンジョン・コアの買取をやっている。
ダンジョンが多すぎると、その周辺の生態系が崩れることもあるらしい。
・・・やっぱり。この世界、地球と違い過ぎて生きて行けるか不安になってくる。
で、でも!魔法の訓練期間が終われば、私も正式に社員になれる!!
そうすれば、この世界で仕事をしつつ、元の世界に帰る方法を探すことができるはず。
そう。これは、正社員になるまでの我慢。・・・いや、やっぱり我慢できないかも。
だって。怖いし。ダンジョンの中って暗いし、危険な生き物も一杯いるし。
「おい。いつまで入り口でぼーっとしているつもりだ?早く行け」
師匠は相変わらずスパルタだし。・・・うぅ。よ、よし。私ならできる。
ダンジョンでの戦い方は、師匠から1週間くらいかけて叩き込まれた。
教えられた通りにやるだけ。うん。地球にいた頃と変わらない。
「ウエストポーチ・・・よし。消毒薬、包帯、水筒・・・よし。
服装、余分なものなし。鎖帷子も、よし。
動きを阻害するようなものも、音が出るような物も、なし。
準備万端・・・ふぅ・・・ᚾᚪᚳᚺᛏᛋᛁᚳᚺᛏ」
まずは暗視の魔法。下級から中級くらいの魔法で、消費魔力量は多くはないけど少なくもない。
でも、明かりを確保する魔法だと、敵に自分の位置を知らせるようなもの。
自分の生命を優先するためにも、暗視魔法を使うのが一番だ。
・・・確か、ゴブリンは簡易的な罠を造ったり、
道具を使ったりできる程度の知能は有しているんだっけ?
注意して行こう。・・・うぅ。やっぱり怖い~。怖いよお。
うじうじしている私を見かねた師匠は、大きな溜息をつく。
「俺も一緒に行くんだ。失敗しても助けてやる。だから、とっとと行け」
そして鋭い視線を向けてくる。・・・うぅ。このままだとゴブリンより先に、師匠に殺される。
身の危険を感じた私は、仕方なく、ダンジョンの奥へと向かって歩き始める。
ダンジョンの中って、こう。誰かにジッと見られているような気がする。
「ギャギョギョギャー!」
聞こえた!これはコブリンの声だ。ああ、どうしよう。と、兎に角隠れないと。
って、どこにも身を隠せるような場所がない。・・・ここは一旦引いて、態勢を。
いや。そんなことしたら、怒った師匠に殺されちゃう。
どうしよう。どうしよう。と焦っていると。いつの間にか、一・・・匹?
のゴブリンが、私の前に立っていた。
よく見てみると、牙?歯?が鋭く、目も獣っぽくて怖い。人の形をした獣。
「ゴルギャー!!」
そんなゴブリンが、奇声を発しながら私目掛けて一直線に駆け寄ってくる。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いっっっ!!!!
私は腰を抜かして地面にへたり込む。けど、ゴブリンが足を止めることはない。
ここままだと死ぬ。そう直感した私は、手を突き出す。
「ᚺᛁᚾᛞᛖᚱᚾᛁᛋ」
私は、可能な限りの魔力を込めて『障壁』の魔法を展開した。
(※障壁:あらゆる攻撃から、魔導師自身を守ってくれる魔法。
魔力操作で、障壁の硬度を高めたり、逆に脆くしたり。障壁の展開域を広げたり、狭めたりできる。
が、硬度を高めたり、展開域を広めたりするのに比例して、魔力消費量も増えて行く。)
飛びかかろうとしていたゴブリンは、障壁に阻まれて、鈍い音と共に地面に落ちる。
急に、見えない壁に阻まれることなんて想定していなかったんだろう。
強く衝突したせいで、頭から血を出して、ピクピクと痙攣している。
その光景を直視してしまった私は。朝食を戻してしまう。
いや。光景というよりかは、目の前の光景を作り出してしまった事実に。
「・・・40点だな。まず、恐怖に勝って行動できた点で10点。初魔獣討伐で10点。
魔法の展開速度の速さは完璧だ、20点。
だが、ゴブリンごときの攻撃を防ぐのに魔力を使い過ぎだ。
それと、その魔法の展開速度なら、奴が動き出す前に攻撃魔法を撃てたはずだ。
初めての戦闘ということで40点にしてやったが、もし、お前が一人前の魔導師なら。
俺は、引退を勧めるところだったぞ。まあいい、早く立て」
うぅ。ダンジョンに着いてから、ずっと師匠が厳しい。
もしかして、私が訓練通りの動きを出来ていないから、腹を立ててるのかな?
ああ。やっぱり、私って何をやっても駄目なんだ・・・。でも。でも、諦めたくない。
諦められない。この世界で生きて行くには、これが必要。
私は水筒の水で口の中を濯ぐと、ゆっくりと立ち上がって、目元の涙を拭う。
「いい顔だ。最初は殺しにも慣れないだろう。だが、これは訓練だ。
実戦で躊躇したら一瞬で死ぬ。この訓練で、一切の躊躇いを捨てろ」
私はゆっくりと頷くと、ダンジョンの奥へと向かって、歩みを進める。




