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終わりかけの世界に魔法使いがログインしました  作者: 芋もち
ゾンビ蔓延る世界と魔法使い
9/9

変化していく世界と旅立つ魔法使い

 途中で数えるのが面倒になったから正確な日数は分からないけど、この世界に来てまあ大体四百年くらいの月日が経った。

 気がついたらゾンビたちは飢えかなんかでほとんどが死に絶えて、そのうち結界は解除した。



 私のような異世界の異分子が混じったせいか、この世界は徐々に私がいた世界と似たような物になりつつある。

 つまりはまあ、魔力が無かったこの世界に魔力が生まれたのだ。そして魔力を持つ人間も生まれ始めた。

 まだ魔法を行使できる所まで至ってはいないが、このままいけば遠からず人々は魔法を手にする時が来るだろう。



 まさかただの興味本位で異世界へと渡る魔法を生み出したら、辿り着いた先の異世界を大きく変化せることになるとは思わなかった。

 まあほぼ人類が死に絶えて、世界がかなり死に近づいてしまった結果こうなってしまったのかもしれない。

 再生するために、再び人類が繁栄するために、新しい力を獲得しようとしたのだろう。



 もう少しこの先も観察したいなって思ってたけど、魔法の改良が済んだのでそろそろこの世界ともおさらばである。

 そこそこの年月過ごしたけど、やっぱり愛着は湧かなかったなぁ……。元々そういう性質だからしょうがない。



 なによりもうこの世界にも、ここで暮らす人々にも私の手助けは必要無い。

 なら、さっさか出て行くのが一番だ。



「そういうわけだから、明日には旅立つよ」

「……私たちは本当に付いて行くことはできないの?」

「無理。君たちはただのゾンビで、ここ四百年で魔力を獲得する気配すら無かった。悪いけどこれから行く先の世界がどんな場所か分からないのに、足手纏いは連れて行けない」

「そう……」



 残念そうに呟いて、ライラは顔を伏せた。

 彼女を間に挟んでソファに座るレベッカとミーナも落ち込んだ様子で俯き、じっと膝の上に乗せた手を見つめている。



 たぶん彼女たちは悲しいのだろう。もしくは、寂しいのだろう。大体の人間は別れを惜しむみたいだし。

 惜しまれるだけのことをしたかは分からないけれど、四百年くらい一緒にいたら流石に情が湧いたのかな。



「家はこのまま残して行くし、君たちの体が腐敗しないように魔道具も残して行くから、生活に支障が出ることはないよ。だから安心して」

「ねえ、リュシャーナさん。一つお願いをしてもいいかしら?」

「うん? 珍しいね、レベッカがお願いしてくるの。最後だしできる限りのことはしてあげるよ」

「なら、どうかわたしを貴女の手で終わらせてください」



 えぇーと心の中で声を上げ、ちょっと引いた。

 え、自殺願望あったの君??



「リュシャーナさん、あたしもお願いします! あたしも、お姉ちゃんと一緒にリュシャーナさんの手で終わらせてください!」

「君もかぁ」

「あら、先を越されちゃったわ。ねえリュシャーナ。私もお願いできるかしら?」

「ライラまで? 君たち三人とも自殺願望があったの??」



「えぇー」と今度は口に出して、三人のお願いにドン引きした。

 なんなの君たち、なんでそんなに自分という存在を殺しにかかるの? そこまで精神が病むようなことありました?



「私たちがゾンビになった理由は話したわよね?」

「盾にされたり、裏切られたりしたからだっけ」

「そう。私もレベッカもミーナも、生前人間関係で嫌なことばかりだった。しかも最期は盾にされたり、裏切られたりしてゾンビになった。……このままこの世界で、人間がまた支配し始めた世界で生きていくだなんて吐き気がするわ」



 ライラの言葉にそうだそうだと言わんばかりに力強く頷くレベッカとミーナ。

 あー、うん。人間ってちょっとしたことで倫理観とか良識とかポイして、残忍極まる行いができる生き物だものね。

 それで死んだら人間って生き物に嫌気が差すし、一緒に生きていくなんて無理! ってなるよねぇ。



 理解して、納得して、だから三人の希望通りにすることにした。

 彼女たちと過ごした家を、一緒に育てた畑を、思い出の品々を全て焼き尽くし、四人で過ごした確かな証を丸っと消し去る。



 寂しさは無かった。惜しむ気持ちも無かった。

 だから悲しそうに、名残惜しそうに、何もかも燃えてしまったその場所を見る三人に共感はできない。

 そのことだけはほんの少し申し訳無く思うけれど。でも、それだけだ。

 それだけしか、私は思わない。彼女たちのようには想えない。



 故にどこまでも淡々と。

 この世界でできた友人たちと別れを告げる。



「それじゃ、元気で……っていうのはおかしいかもだけど、元気でね」

「ええ、そちらこそ元気で。ちゃんと朝昼晩食事は食べるようにしなさいね」

「今まで本当にありがとうございます。どうか、お元気で」

「リュシャーナさんさようなら! 研究ばっかりして病気になって倒れないでね!」



 それでも彼女たちは笑っていた。

 二度目の死を前に、朗らかに。柔和に。楽しげに。

 涙を流しながら、笑って手を振った。



「……今まで散々お世話になりました。ありがとうね」



 感謝を捧げて、苦痛が無いように一瞬で三人を焼き尽くす。

 ちゃんと三人分の遺灰が残るように火力を調節して、回収した遺灰を用意していた小瓶に入れる。

 色は三人の好きな色にした。ライラのは青色、レベッカのは紫色、ミーナのはオレンジ色。



 それ等を異空間の中に入れ、軽く頬を叩いて気合いを入れた。



「さあ、次の世界はどんな所かな?」



 魔法を使い、空き地となったその場所に魔法陣を描く。

 一方通行の異世界行き切符。もう二度とこの世界にはやって来れない。そういう魔法は作っていないから。

 でもそれでいい。それがいい。



 私は未練を残さない。

 私は未練を抱かない。



 だから帰り道なんて必要無い。辿ってきた道を振り返ったりしない。

 終わりを迎えない限り、ただ先へ先へと進むだけ。



 多くの人と物を置いていきながら。

 もしくは、多くの人や物に置いていかれながら。



 魔法陣が光を放つ。

 目が眩んでしまう程の強い強い光。

 あまりの眩しさに目を瞑ってしまいたくなるけれど、最後だからと瞼は下ろさずこの世界の景色を焼き付ける。



「さようなら、楽しかったよ。それではどうかお達者で!」



 誰に届けることもない別れの挨拶をする。



 どこまでも青い空を、魔力によって少しだけ姿形を変えた鳥たちが舞う。

 大地には鳥たちと同じように少しばかり姿の変わった動物たちが勢揃いしていて、各々声を張り上げた。



 それが私がこの世界で見た最後の景色だった。

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