牙を向く生存者たちと困惑する魔法使い
「いっよっしゃあぁぁぁぁぁ!!」
拳を天に突き上げ、歓喜の雄叫びを上げる。
ちゃんと自分の意思で動いて喋るクローン人間完成しましたー!!
そこら辺のゾンビ拾ってきてはキレイキレイして、クローンの肉体を作って、脳を移し替える作業を何百回とした。
偶に失敗してちゃんと動いてくれなかったり、記憶がほぼ全部吹っ飛んでたり、肉体と脳が上手く適合できなくて死んじゃったりしたけど、やり直しができるので問題なかった。偉大なりや異世界の発明。
魔法であれこれ直したり、調整したりと忙しかったが、それに見合う成果が出てくれて良きかな良きかな。
住民が増えるので、安全圏も更に広げた。
魔法で管理していた畑は、増えた住民たちで世話をさせるようにして、家畜にできる動物を捕まえて飼育できる環境を整えて、と。
人が人として生きていけるよう環境作りに奔走した。いやぁ、この二週間ほんと忙しかったよー。
幸いだったのは、クローン人間たちの基となった人たちの中に色々な専門知識を持っている人や、その道のプロフェッショナルがいたこと。
環境は用意できたとしても、こちらの知識はまだまだ不足気味。だから、それを補える人材を確保できたことは本当に幸運だった。
そんなこんなで、色々やってたら気がつくと十年経ってた。
別の世界へと渡るための魔法はまだまだ研究段階だが、それ以外のことは大体上手くいってる。
ただ困ったことに、初めに保護した生存者であるロベールたちが何故かクローン体になることを拒否しているんだよねぇ……。
彼等が来てくれたおかげでこの世界の言葉を学ぶことができ、色々と楽しい日々を過ごせることとなったのでお礼がしたいのと、なんかの拍子で感染が広がってしまうことを考えて、あのやべえ病原菌の抗体持ったクローン体に移し替えたいのに……。
「こんなの人間じゃない!」とか、「人のまま死なせてくれ!」とか、わけの分からないことを喚いているのだ。
クローン体に脳を移し替えたら、化け物になってしまうかもという恐怖からは解放されるし、体も二十歳のものになって人生を再スタートするのにピッタリなのに。
というかクローン体は誰かの模造品であるけれど、間違いなく見た目も遺伝子も人間だ。
何かにものすごく劣っているということもなければ、何かにものすごく優れているわけでもない。
多少遺伝子系統を弄ってはいるけど、大きく弄ったわけじゃない。病気とか障害が遺伝しないように調整したくらいだ。
と、説明したんだけど全然納得してくれなかった。
最近じゃあクローン体に移し替えられるのが嫌だとかで、結界の外に逃げ出そうとしてた。
うっかり出てしまったら危ないから、私の許可無く出れないように設定しててよかったよほんと。
「リュシャーナさん夕食ガできましタよ」
「冷めなイうちに食べよウ!」
「はーい。今行くー」
薬草畑の手入れをしていたらレベッカとミーナに声をかけられたので返事をする。
何故かゾンビのままでいいと言ったレベッカたちは、この十年でまともに人の言葉を話せるようになったのだ。
ゾンビの成長凄いなと感心するのと同時に、ロベールたちの説得をどうすればいいのかと、夕焼け色に染まる空を見上げた。
今日の夕飯は牛肉のワイン煮込みにコーンスープとパンだった。
ワイン煮込みとコーンスープはレベッカとミーナが作ったものだが、パンはライラが焼いたものだ。
なんかノリでパン窯作ったらパン作りにハマったみたいで、それ以来ライラがパン作り担当になっている。
今日のパンは茶色い丸パンだ。ふんわりもっちりで、素朴な味が濃い味付けのワイン煮込みに合った。
「ごちそうさま!」
「オ皿は流し台ニお願いしマす」
「ほいほい」
美味しく食べて食べ終わった皿を流し台に運び、それからいつものようにジャパンのアニメを観る。
今日はとんでもない五歳児が活躍するアニメの映画だ。子ども向けのアニメの中では一番好き。
もう日本語も完璧。最近は中国語と韓国語に挑戦中。その後はフランス語か、イタリア語にでも挑戦しようかな。
この世界、国が多い分言葉も多種多様だから楽しい。アフリカの方だったか、びっくりするくらい難解な言語あって笑った。そのうちそっちにも手を出そうかな。
……そういえば集めてきたゾンビたちって、今いるアメリカって国のゾンビしかいないんだよね。
そのうちクローンたちの中から子ども作るのが出てくるだろうけど、今いるクローンたちだけじゃあそのうち近親交配になっちゃうし。
なるべく多く他の血も入るようにしないと……。もう少し安全圏拡張して、他の国のゾンビも確保しなきゃだな。
結界維持するための魔道具の量産もしていかないと。それから最近見かけるゾンビたちは組織だって動いてるっぽいから、他の場所でもそうなのか調べよ。
組織だって動くってことは、それだけ多くのゾンビが一箇所に集まってくれてるってことだし。色んな人間のクローンが作れる。
ウハウハだ。ボーナスタイムだ。いっぱい捕まえちゃる。
でも、増えたら増えたでなんか問題起こしそう。クローン同士でなんかでかい諍いが起こったりとか。
国ができるくらい人が増えると、内乱くらいは起こってしまうかもしれない。
今はまだ数が少ないからそこまで心配しなくていいけど……少し感情の抑制をする魔道具も用意しとこうかね。
人間って数が多くなると、本当にちょっとしたことですぐ残虐ファイトしだすし。そして気がついたらなんか滅んでる。
せっかくここまで復興できたんだし、私がこの世界からいなくなった後ならともかく、いる間は滅ばない程度に調整しとかないと。
何より巻き添え食らったら面倒だし。
「なーんかまた脱走しようとしとる……」
今後やるべきことを忘れないようにメモ帳に書いていたら、ロベールたちがまた結界の外に出ようとして阻まれている。
新しくできた街の様子を見たいというから送ってみたけど、やっぱり脱走しようって考えてたんだなぁ。
まあ無理だけど。いくら離れたところで私が許可しない限り外には絶対に出られない。ってことを何度も説明したのに、全く諦めようとしないのは本当になんなんだろう?
まあいいや。人間ってよく変なことに固執したり、意味不明な行動するものだし。
放っておいたらそのうち諦めるでしょ。そもそも外に出た所で彼等が安全に、そして快適に生きていける場所なんて、この世に残ってなんかいないんだから。
もう安全圏の外では、人類は完全に絶滅している。
他にも国があるって聞いて、一応探してみたけど生き残りは見つけられなかった。
みーんなゾンビになってるか、物言わぬ骸となっているかだった。もしくはあの施設で見た怪物みたいなのになってしまっているか。……アレ本当になんなの??
それをちゃんとロベールたちにも教えたのだけれど、何故か未だ『外』に固執するんだよなぁ。
まあ確かに平和な箱庭の中だけで過ごすのは少々窮屈かつ退屈だろうけれど、化け物に食い殺されて死ぬよりマシじゃない?
人間の尊厳がどうのこうのと言っていたけれど、尊厳奪うようなことは何一つしてないし、するつもりもないのに……。
どうして彼等は私の言葉を一つとして聞き入れてくれないのやら。
人間って分かんないなーとぼやく。
そんなことがあった日から二週間後。
完全武装したロベールたちがライラの両手足を切り落として、まるで人質にするような感じで彼女の首に刀の刃を押し当て私の方に見せつけるようにしながら、狂気の滲んだ声で言った。
「俺たちを解放しろ!!」
「えぇ……」
全員目が血走ってるし、行動的にたぶんすんっごい錯乱してるっぽいけど大丈夫? 精神安定の魔法かけとく?