第一生存者発見とドン引きする魔法使い
追加で捕獲したゾンビ二体も腐臭がやべえのでキレイキレイしたら、なんとまあ美少女になった。
拾ってきたゾンビたちが悉く顔面偏差値高過ぎて笑えてくる。
たぶんこの二人は姉妹なんだろう。どことなく雰囲気とか、顔立ちが似てた。
姉らしき子が読書家っぽい大人しそうな感じの美少女で、妹らしき子は明るく運動大好き食べるの大好きって感じの美少女。
ちなみに最初に拾ってきた女性ゾンビはツリ目のキリッとした仕事できそうな美女。
……本当にどうして君は最初あんなに横幅広かったの? おまんじゅうみたいにまん丸だったんだが?
姉妹美少女たちは大体十代後半くらいで、ツリ目美女は二十代後半から三十代前半くらい?
外見から年齢察するのって苦手だから、全然違うかもだけど。
三人共ゾンビになる病原菌が進化してて、人間だった頃と変わらない知性と理性を獲得している。
ただ言語能力は死んだまま。ちゃんと喉は直したんだけど意味の分からない呻き声しか発せない。それでもゾンビ同士では会話が成立してる模様。
なんか呻き声にパターンがあるのかと思って暫く観察してみたけど、どうにも違う感じ。なんなんだろうほんと。
そんな三体に一号、二号、三号と名付けて、結界も取っ払って普通の同居人として過ごしてる。
一応念のためにこちらを食い殺そうとしてきたら、瞬時に肉体が腐り落ちる呪いをかけてるけど、発動する気配は今のところ一切ない。
人間らしさをほぼ完全に取り戻したと言っていいだろう。ただ生き返ったわけじゃない。
体は死体らしく血が通っておらず氷のように冷たくて、防腐加工してないと普通に体が腐ってく。
だというのに何故か普通に食事をして、しかも消化できてるんだよなぁ。………なんで??
心臓止まってて、その他の臓器も完全に機能を止めてしまっているのに、何故胃と腸と脳だけはちゃんと働いているんですか……?
ちなみに動かしてるのは彼女たちの体をゾンビに変えよった病原菌だ。
本当になんなのこれ。異世界の病気意味不明過ぎてまじこわい。
「パンケーキ作るけど食べる人ー」
「あぁぁう、うがぁぁぁ」
「ゔぅぅぅ!」
「んぎゅあぁぁいあぁ」
「意思疎通一切できてなくてウケる……」
フライパンと小麦粉持ってパンケーキ食うかどうか聞いたけど、一号にフライパンと小麦粉を取り上げられ、二号と三号が私から取り上げたフライパンと小麦粉を受け取って台所の方に移動。
私の方は一号に回収され、リビングのソファに座らされた。ついでに紅茶とクッキーも出してくれた。
違うよ……。
お腹空いたから君たちになんか作ってって伝えようとしたわけじゃなく、パンケーキ作るから君たちも食べるか食べないか聞いたんだよ……。
私たちの間に立ちはだかる言語の壁があまりにも分厚過ぎて叩き壊せない……。
紅茶とクッキーに舌鼓を打ちつつ、全くと言っていいほどコミュニケーションが取れていない現状をどうしたら打破できるのかと頭を悩ませる。
たぶんこっちの世界の言語を学ぶことができたら意思疎通は可能だと思う。時々読書してる姿を見かけるから、文字は読めてるみたいだし。
しかしまともに教えてくれる相手がいない。ゾンビたち? 呻き声しか上げられないのにどうやって教えてもらったらいいのさ……。
パンケーキの焼ける美味しそうな匂いが漂ってきた。
異空間から蜂蜜と樹液から取れたシロップを取り出しテーブルに並べてたら、ふと何者かが結界を通過したのを感知した。
ついでに結界を通ろうとして弾かれてるのもいるな。ここ最近動物の出入りは全くなかったけれど……もしかして?
「おお、生きてる人間だー!」
「あぁぁ?」
近くを巡回していた鳥型ゴーレムの目を使って確認すると、なんとなんとこの世界に来て初めて生きている人間を見た。
街中で見るよりもゴツい見た目の動く箱から出てきて右往左往してる。
人数は男三人の女二人。結界を通れなかった男女二人は病気に感染してるんだろうけど……ゾンビになってないな?
噛まれてからそんなに時間経ってない? それともあのわけの分からない病原菌の抗体を偶々保有してたか、上手いこと適応できたのか?
「ちょっと出てくるね!」
こうしちゃいられねえと、不思議そうにこっちを見ている三人に手を振って、生存者たちを保護するために転移する。
ただ転移する場所は彼等から少し離れた場所にした。いきなり真ん前に人が出てきたらビビるだろうし。
というわけで来たんだけど、なんか凄い悲壮感出してる。
結界通れなかった二人が通れた人たちに俺たちは置いていけー、って言ってる感じ? そして二人の後ろにはゾンビたちが迫って来ている。
軽くあの二人を解析してみたが、病原菌に見事適応しているみたいだった。そのせいか、病原菌が少しその性質を変えているみたい。
他者に移るようなことはなくなったみたいなのはいいんだけど……どうして病原菌に適応できたら人並み外れた身体能力を獲得するんですか?
脳のリミッターが外れるからめっちゃ力持ちになるのは分かるけど、ついでにそのパワーに耐えれる強靭な肉体も得るってどゆこと??
異世界の病気ほんと意味不明過ぎて面白いを通り越して超こわいんだが。
あまりのことに好奇心よりも恐怖が勝るなんて初めての経験だ……。
ドン引きしながらも彼等に近づく。
……な、なんか、襲ってきたゾンビ相手に剣……違うな。あれ刀か。こっちの世界にもあるんだなぁ。それでゾンビたちの首をバッサバッサ切り落としてる。
やべえなあの二人。この世界においては人類最強って名乗ってもいいかも。
結界内にいる人たちも手に持っている黒い筒から何かを打ち出して、ゾンビたちの頭に風穴を開けていた。
ただまあ、あの程度では数の差はどうにもならない。
段々二人の余裕が無くなっていってるのを見て、そろそろ助け舟を出そうと魔法を発動させた。
「それ、ファイヤー」
汚物とゾンビは燃やせー!
うっかり刀振り回している二人を巻き込まないように気をつけつつ、迫って来ていたゾンビたちを半分程燃やした。
すると残りのゾンビたちは動きを止めて、悩むように暫くその場に突っ立っていたけど諦めた様子で去っていく。
知性が芽生えると面倒なことが増えるが、こうして手間が減ったりもするからある方が楽かもしれない。
今度こそ生存者たちへと近寄る。
突然ゾンビたちが目の前で燃えてしまったことにもの凄く驚いたみたいで、唖然とした顔で固まっていた。
しかし私に気がつくと我に帰り、すぐさま手に持っていた武器を私に向けてきた。
なんか口々に言ってくるけど、ごめんね。なに言ってるか全然わからないんだ……。
「とりあえずそっちの二人も通れるようにしたからこっちおいで」
結界の向こうで、どうしようみたいな感じで顔を見合わせてる二人に声をかけ手招きする。
が、通らない。まあ言葉通じてませんもんね!
仕方が無いので風を使って二人を移動させて結界の中に入れた。
結界内に入れたことによっぽど驚いたらしく、二人は完全に固まってた。他の人たちも固まってた。
「こっちおいでー。ご飯と飲み物あげるよー」
何度か声をかけてやっと全員の硬直が解けた。
不審者を見るような目を向けられたけれど、ここから一番近い街まで案内するため歩き出す。
でもついて来てくれないので、数回立ち止まっておいでおいでと手招き。
それでも顔を見合わせたり、何事か相談したりで動かなかったので、しょうがないのでちょっとお空の旅を全員でした。
どちゃくそ悲鳴上げられたし、黒い筒からなんかバンバン打ち出してたけど無視して街まで移動した。
あ、ちょ、味方に撃ち込んじゃダメなんじゃないのそれ!? 同士討ちするのはやめて!?
ああ、もう! 回復回復ぅっ!!




