進化してるゾンビと誘拐犯になった魔法使い
理性がねえ! 知性もねえ! 悪臭もやべえ! そして何で未だに動き続けるんだゾンビ君ちゃん!
奴等本当にどうして動いてるの?
動力源何? 元の世界なら魔力で形保って動いてるから、魔力切れになるまで何も食べなくても動き続けられるけど、この世界には魔力またはそれに近しい力は無い。
魔法が使える存在は私だけで、他に魔法を使えそうな相手はいなかった。
本当にどうしてゾンビ君ちゃんたちは動いてるのか。
ただの死体だぞ? ただの死体が魔法や呪い以外の原因で動いてるとか不気味どころの話じゃない。
本当に異世界ってやばいな。病気で魔力も無い死体が元気に動き回るんだぜ……?
しかもその病気作ったのが人間っていう。たぶん兵器運用したくてあんなもん作ったんだろうけど、制御できないもん作るって馬鹿じゃなかろうか。
しかもこの世界のゾンビ、元の世界のゾンビと比べると活動期間が長い長い。あっちだと一週間動けたらいいとこなのに。
あんまりにも長いからどのくらいで動けなくなるか確認するため、半年程前に女性のゾンビを捕獲したけれど未だに動いてる。
肉も水も一切与えてないのに半年も動けるとか化け物か? 化け物だったわ。
冬の初めに捕まえて、飲まず食わずで置いとくから半月持てばいい方かなって思ってたのに、冬が明けたどころかもう初夏くらいなのにまだまだ動いてるよ……。
流石に捕まえた当初より動きが怠慢になってるけど。あと、初めの頃は横幅が凄かったのに今はめちゃくちゃ痩せてる。
死体でも痩せるんですね……思わぬ発見だ。
「綺麗にしたらいい感じになりそうだよなぁ」
「ううぅぅぅ」
「結界で囲ってないと腐臭凄いし……。ちょっと直して防腐加工するか」
「ばぁぁうぅぅぅ」
「何言ってるかちっともわっかんねー」
話し相手には不向き過ぎるゾンビに話しかけながら、ちょちょいっと腐った肉を綺麗なお肉にした。お腐れあそばしてる中身も綺麗にしとこ。腐り落ちたっぽい目玉は再生させてっと。
それにしてもこのゾンビ顔面偏差値たけぇ。痩せてたらめちゃくちゃ異性からモテただろうに。どうしてあんなぽっちゃり通り越した図体してたの。
綺麗にし終わったら腐らないように防腐加工して、ボロ布状態の服を剥ぎ取って別の服を遠隔で着せる。
せっかくだし化粧もしとこ。ほれほれ、大人しくするのじゃー。
「うし、いい感じ」
我ながら結構いい感じに仕上げられた。
せっかくだしと異空間から出した姿見見せてみたら、なんかゾンビの動きが完全に停止した。
このタイミングでとうとう動けなくなったんかいワレェ!?
びっくりしてたら普通に動き出して、じっと鏡に映る自身の姿を見てる。なるほど、鏡に映った自分に驚いたのか。
……え、驚いた?
改めてゾンビを見た。未だに鏡に映る自分をガン見している。
自己認識できてんの? それとも獲物かなんかだって勘違いしてる?
「おいおい待てよ。何普通にポーズとってんの? そんな、あはんみたいな動きすんなよ。投げキッスすな。お前さては意識あるな?」
「あぁぁぁぁ」
「自己認識できてるくせに言語能力死んでるのなんなの」
えぇ……何このおかしなゾンビ。拾う前になんか変なもん食ってたの?
なんか変質したんか? そんな疑いを持ち、ちょろっとお肉をいただく。
あーあー、おやめくださいお客様ー。ちょっと前まで何されても平気そうだったのに、急に肉取られた腕押さえて「やだもう、痛いじゃないの!」みたいな反応しないでくださいお客様ー。
虚無しか無かった目に、急にめちゃくちゃ感情出してくるじゃんよ。罪悪感感じるからやめて。
あーはいはい。ごめんって。直すから許してって。……直したから痛覚も復活したとかそんなこと無いよね?
まさかなーと思いつつ、回収した肉片を解析。
……なんか、病原菌の形が最初に見た時とだいぶ変わってませんか?
え、こいつマジで変質してたの? 何で?
魔法で肉体の時間巻き戻したのが原因か?
いや、待って違うぞ!? この病原菌変質ってか進化しとる! 時間経過とか環境変化によって進化するタイプかよ!?
んで、変質の影響で知能の飛躍的な向上が起こったのか! それで人間の頃と変わらない状態にまでなった……と。
なにそれこっっっわおもろ!!
あ、じゃあもしかして結界外のゾンビたちの持ってる病原菌も進化してんじゃね!?
うぉぉぉ、待ってろまだ見ぬ新しい実験体ー!!
意気揚々とお外に出てゾンビを捕獲しようとしたけど、なんか全然見つからなかった。
前はお空飛んでたら普通にいっぱい見つけられたのに。でも、前に安全圏から出てお空飛んでたのもう一年以上は前だからなぁ。
気がつけば異世界に渡って五年経ってるとか、時間の流れの速さに困惑するしかない。
そして五年経っても人っ子一人見つけられないので、もう完全に人間は滅んだものと考えている。
そんなんだから新しくゾンビが増えることもなく、徐々に弱って数を減らしてしまったのかもしれない。
弱ってる野生動物しか捕まえられないくらい動きがとろいのだ。体が腐ったり欠けたりしてるから。
いなくなってしまっていてもしょうがない。
しょうがないけど……じゃあ動かなくなったゾンビどこ行った? どうして行き倒れた奴等が見つからない?
過った疑問に少しの高揚感を抱きながら、周辺を探知魔法を使って探る。いた。見つけた。
眼下の森を見下ろす。とろとろノロノロ、森の中を動いていたゾンビたちは今や木の影に隠れて、空にいる私に見つからないようにしている。
明らかに知性がある動きをしている。
最初の頃は食欲しか無くて、ただ見つけた獲物を食い殺しに来ていただけだったのに。
いくらお仲間を焼き払われても、恐れず懲りず襲いかかってきていたのに。
「マジかよおもろ」
すぐに隠れているゾンビを二体捕獲した。
結界で作った入れ物の中に入れて、そのままお持ち帰りする。
……あの、なんで君たち身を寄せ合ってそんなガタガタ震えてるんです……?
ゾンビたちの態度に戸惑いつつ拠点に戻り、お仲間増えたぞーと姿見の前でまだポージングしてた女性ゾンビがこっちを見て、結界の中の震えるゾンビを見て、そしてまた私を見た。
あの、その……どうしてそんな「おめー、とうとうやりやがったな」みたいな呆れたような、犯罪者見るような眼差しを向けてくるんですか?
やめてください、まるで私が誘拐犯か何かみたいじゃないですか。
「……」
結界の中のゾンビたちを見る。
ガタガタ震えてますね。理性も知性も持たないはずなのに、怯えた目で私を見てますね。
うん、人攫いに向ける被害者たちの目だねこれ!
ごめんなさいと、昔ニホン人から教わった土下座を結界の中のゾンビたちにした。