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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第1章 新学期
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第8話 お出掛け 前編

 ~ Side 葵 ~




「葵、お昼は映画館の近くのカフェレストランにしようと思っているんだけれど、良いかな?」

「もちろん!」


 映画館に向かう途中で誠史くんが提案してくれた。私たちが暮らす第8地区に映画館は2か所だけあるんだけれど、私たちが向かっているのは中央区寄りの場所だ。その辺りは色々とお洒落なお店が多くて、誠史くんが提案してくれたカフェレストランは、あまり高くない上にお洒落なメニューが多い事で話題になっていた。ちょうど行ってみたいと思っていたし、誠史くんが誘ってくれて殊更嬉しいな。


「最近、暖かくなってきたね」


 レストランに向かう道中、私と誠史くんは会話に花を咲かせていた。


「うん。まだまだ寒いかと思ったけど、一気に暖かくなったね」

「もう少ししたら、植物園とかの見ごろの花も種類が変わってくるんじゃないかな」

「わぁっ」


 今まで何回か誠史くんに誘われて植物園に行った事があるんだ。行くたびにその季節の見ごろの花が満開に咲いていて、凄く感動するんだよね。今までで見応えがあったのは、やっぱり薔薇の季節かな? 色とりどりの薔薇があちこちでいっぱい咲いてて豪華だったなぁ。他のお花の時も、薔薇とは違った雰囲気で素敵なんだよね。


「今度、また一緒に行こうか」

「うん、行きたい!」

「フフッ。じゃあ、都合を合わせて行こうね」

「楽しみにしているね」


 やった! 偶然とはいえ次のデートの約束までできちゃった。今から楽しみだなぁ。

 次のデートの約束に心躍らせていると、横にいた誠史くんが凄く微笑ましそうに見つめていた。それがちょっとだけ照れ臭かったのは内緒だ。


「――あっ、ここだね」


 映画館の近くまで来ると、誠史くんが声をかけてきた。誠史くんが向いている方を見ると、店名の書かれた立て看板があった。看板の文字とか絵がクルクル変わっているのは魔道具なのかな?

 誠史くんが扉を開けてくれて先に中に入ると、フワッと紅茶の香りがしてきた。お店の中は落ち着いた雰囲気で、それなりにお客さんも入っていた。半分以上がカップルで後は女の人が多いけど……。


「(女の人たちの視線が痛い……)」


 女の人のほとんどが誠史くんに釘付けになっている。なんなら、店員さんまで見ているよ……。

 分かるよ。誠史くん、物凄く綺麗な顔しているもんね。中性的な感じだけど、ちゃんと男の人っぽい雰囲気もあって、それがまた格好良くて……。見慣れているはずの私だっていつも見惚れちゃうし、ジッと見つめられたら照れてしょうがないもん。そんな人が入ってきたら見惚れちゃうよねぇ。


「…………?」


 ちょっと視線を感じて振り向くと、カップルの人たちまでこっちを見ていた。男の人までこっちを見ていたけど、その人たちは誠史くんが視線を向けたら逸らしていた。何だったんだろう?


「いらっしゃいませー。2名様ですか?」

「はい」

「お席にご案内します」


 ほんのりと頬を赤くした女性の店員さんに案内されて、私たちは窓際の席に着いた。外にはテラス席もあるみたい。天気がいい日のテラス席は気持ちいいんだろうなぁ。


「葵。何食べる?」


 誠史くんにそう聞かれて、誠史くんが持っているメニューに目を向けた。本物そっくりのイラストが付いたメニューで、メニュー名や料理の説明は可愛らしい字で書かれている。最近は写真を使う所が多いけれど、イラストの方がここの雰囲気に合っていて良いね。


「葵、決まった?」

「うん」


 私が返事をすると、誠史くんが店員さんを呼ぶ。


 ……うーん。誰が注文を取りに来るか揉めているなぁ。小声だから他の人には聞こえないだろうけれど、私はもう1つの狐の獣人の影響で耳が良いから丸聞こえ……あっ、じゃんけんしてる。

 何戦か交えて、私たちを席に案内したのと同じ人がいそいそとやってきた。


「ご注文をお伺いします」

「日替わりランチプレートAとアイスコーヒー、日替わりサンドイッチのセットとフルーツ・フレーバー・ティーのアイスをお願いします」

「かしこまりました」


 誠史くんから注文を聞いた店員さんは、少しだけ名残惜しそうに離れて行った。私はついその店員さんの背中や周りの席にチラチラと目を向けた。


「葵、どうしたの?」

「ううん、何でもないよ」


 そう言ったけど、他の席にいる女の人たちが時々こっちを見ながらヒソヒソと話すのがちょっと気になった。本人たちは聞こえてないと思っているんだろうけど、私にはやっぱり聞こえるからなぁ……。

 誠史くんの方は気付いていないのか、ただ単に気にしていないのか分からないけれど、いつもの穏やかな笑みを浮かべている。

 せっかくのデートなんだから、私も気にするのをやめてこの時間を楽しもう。そう思って誠史くんに意識を向けた。


 少しして注文したものが来た。

 私が頼んだ日替わりサンドイッチはクラブハウスサンドだった。野菜とチキンとカリカリに焼かれたベーコンがサンドされていて、バターの染みたトーストとよく合っていて凄く美味しい。フルーツ・フレーバー・ティーは透明なガラスのティーポットに入っていて、紅茶にイチゴやオレンジ、リンゴとか色々なドライフルーツが浮かんでいる。見た目にも可愛いし、フルーティーな香りと味が凄く好みだった。

 誠史くんが頼んだランチプレートはスパイスを利かせたチキンのグリルで、フワフワの丸パンとコーンスープがセットになっている。一口だけチキンを貰ったけど、色々なスパイスの香りがしてピリッと辛かったけど、それが美味しかった。これは丸パンとかご飯によく合う味だと思う。


 一通り食事を楽しんだ後、私たちは映画の時間が近づいてお店を出た。お店を出た時に、店中の女の人たちがため息をついていたのは、きっと気のせいじゃない……。


「良いお店だったね」


 お店を出てから誠史くんがそう声をかけてきた。


「うん! また来たいね」


 色々と視線は気になったけれど、それを差し置いてもまた来たいと思うくらい美味しかった。次は違うメニューも食べたいし、その時はぜひデザートも楽しみたいなぁ。


「俺で良ければ、いつでも付き合うからね」


 にこやかにそう言われて、嬉しくなった私は誠史くんに満面の笑みを返した。


 それから、私たちはこれから観に行く映画の事を話しながら映画館へと向かっていった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ~ side 慶人 ~




 沖田から貰った割引券の店は、図書館からそれほど離れていなかった。学校からここまでは魔導バスを利用したが、時間もそれほどかかってない。図書館のすぐ側には王都内でも数少ない自然公園があるが、そのカフェはどうやらこの自然公園と雰囲気を合わせて作っているようだ。カフェの周りには惜しげもなく様々な花や植物が植えられていた。


「ここだな」


 扉を開け、先に咲緒理を中に入れる。俺も入ればいつもの(・・・・)感覚を覚えた。


「いらっしゃいませ。2名様ですか?」

「はい」

「お席にご案内します」


 店員に案内されたのはテラス席だ。ここも花を飾っている。


「素敵なカフェだね。誠史君とかアオちゃんも好きそう」

「そうだな」


 誠史は根っからの植物好きだ。この自然公園も来ているだろうから、すでに情報を得ているかもしれねぇな。


「(ただな……)」


 俺は周りを一瞥する。割と客にも店員にも男がいて、その視線は咲緒理に向けられている。まぁ、俺の方には女の視線が向けられているがな。

 つーか、客の男は女連れだろう。咲緒理を見ている場合か? ……いや、女の方は女の方で俺を見ているか。一応、自分が人目を惹く容姿をしている事は自覚しているが、ここまでとはな……。


「(沖田が1人では来づらそうにするのも分かるな、これは……)」


 沖田も俺らと系統は違うが人目を惹く見た目だ。おまけに人当たりも良い。こんな所に1人で来ていたら真っ先に囲まれるだろう。

 そんな事を考えていると、咲緒理が苦笑いを浮かべていた。


「凄いね、慶人君」

「お前だって男共の視線の的だぞ」

「そうかな?」

「(女の視線には気付いて、男共の視線には気付いてねぇのかよ)」


 どの男も連れの女に睨まれた途端に視線を逸らしてはいるが、結構な数だったぞ。……自分にファンクラブが存在する事すら不思議がっているくらいだから仕方ねぇか。


「――それで、何を頼むんだ?」

「ん~、どうしようかな……」


 まだ何か迷っているのか? 確かにメニューには咲緒理が好きな料理がいくつも並んでいる。いくつかは写真も載っているが、腕がいいのか中々美味そうに写っている。


「何で迷っているんだ」

「マカロニ・グラタンとオムライス」


 どっちもここの人気メニューのようだな。加えて咲緒理の好物か。


「それなら俺がオムライスを頼むから、お前はグラタンを選んだらどうだ。半分ずつにすればいいんじゃねぇか」


 元々咲緒理に合わせて頼もうと思っていたんだ。そう提案すると、咲緒理は目を丸くして俺を見た。


「……良いの?」

「構わねぇよ。ドリンクはどうする?」

「えっと……アイスティーのレモンで」


 咲緒理の返事を聞いて店員を呼んだ。おそらく、ここで一番上の立場であろう女の店員が颯爽と向かってきた。その後ろで他の店員が残念そうにしているのが何とも言えねぇ……。


「ご注文をお伺いいたします」


 やってきた店員は咲緒理の事は丸っと無視して、俺に笑顔を向けて聞いてきた。……見目は悪くねぇから、大概の男はこの笑みにコロッと落ちるんだろうな。これは何度もこの手を使っているな。


「オムライスとグラタンのセットを1つずつ。ドリンクはアイスティーのレモンとアイスコーヒーを食前に。あと、取り皿を2枚貰いたい。以上だ」


 女の方をほとんど見ずに言ってメニュー表を差し出せば、驚いたように目を丸くしている。


「……かしこまりました」


 自分の武器(笑顔)が全く響かない事に女は落胆したようにメニュー表を受け取って戻っていった。……その後姿を何で咲緒理は気の毒そうに見ているんだ。


「……なんだ」


 そう声をかければ、咲緒理は苦笑いする。


「ううん。ちょっとだけ可哀想だなって思っただけ。あの人、綺麗な人だったよ?」

「好みじゃねぇ」


 そもそも連れがいる客の男に媚を売るような女はお断りだ。


「慶人君の好みって結構厳しそう……」


 俺の返答に何を思ったのか咲緒理はそう言う。


 俺の容姿に惹かれ、声をかけてきた女は数知れねぇ。加えて、大抵の奴らは俺の“見た目”にしか興味ねぇんだよ。自分の横に俺を立たせ、羨望の的になりたい奴らばかりだ。だが、そういう奴らに限って“中身”を知った途端に手のひらを返しやがる。

 今となっては声をかけてくる奴がどんな人間か、その見分けがつくようにはなったがな。


「――そう言うお前はどうなんだ」


 そういえば優と葵の話はよく聞くが、咲緒理からはそう言う話を聞いた事がねぇな。


「私? 私は特に……優とアオちゃんから恋バナを聞いて満足っていうか……恋愛をしている自分が想像できない」

「その優と葵は、匡利と誠史と出掛けているようだな」

「うん。だから帰ってから2人の話を聞くのが今から楽しみなんだ」


 本当にあいつらの話だけで満足しているようだな。まぁ、こういう事は焦ってする事でもねぇしな。特に俺らは“他人”とのかかわりは慎重になりがちだ。そんな中で優たちが俺らの中で“そういう対象”を見出すとは思わなかったな。


「ところで、葵と誠史は未だに気付ていねぇのか?」

「そうだね」

「何で気付かねぇんだよ。俺らから見れば普通に恋人同士だぞ」

「んー、何でだろう? こういうの“両片想い”って言うのかな? でも、私たちは私たちでそんな2人の関係を楽しんじゃって、あえて教えていないからねぇ」

「まぁな……」


 とはいえ、今は良いとして本気で伝えようと思った時に拗れそうだぞ。特に葵が手強そうだな。


「優と匡利も相変わらずか」

「うん」


 あの2人の場合はな……匡利がそう言う事に疎いと言うか興味がないというか……。俺が口を出す事じゃねぇし、優が現状で満足しているようだから、このままでも良いのか?


「お待たせしました」


 会話が止まったタイミングで注文したものが運ばれてきた。咲緒理の前にはグラタンが、俺の前にはオムライスが置かれた。セットになっているスープとサラダが揃うと、店員は離れていく。俺と咲緒理はそれぞれの料理を取り皿に半分ずつ盛り、交換をする。

 オムライスはよくあるシンプルなチキンライスだ。トロっとしている卵と上にかかるトマトソースの相性が中々良く、美味いな。グラタンはマカロニや鶏肉、キノコと言った具材にホワイトソースが絡んでいる。しっかりとした味付けだが、素材のうまみもしっかりと感じる。ここの料理担当は中々の腕のようだな。


 咲緒理は好物を両方とも堪能できて始終嬉しそうだ。店の雰囲気も気に入っているようだし、誘って正解だったな。偶々とはいえ、割引券をくれた沖田には休み明けにでも礼を言おうと思う。


ここまで読んで下さりありがとうございました!




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