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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第1章 新学期
8/54

第7話 模試本番とご褒美

 ついに模試の日がやってきた。

 1日目は地理、化学、古典、歴史または政経の4科目。2日目は現文、数学、生物または物理、外国語の4科目がある。2日間とも午前中で終わって、午後は授業も倶楽部もない。生徒はみんな帰宅するか図書室や教室で勉強をしている。


 私も1日目の模試終了後、アオとサオと一緒にいつも通り屋上でお弁当を食べてから教室で明日の勉強をしていた。


「ねぇねぇ、優。この文章問題ってどの公式を使うと解きやすいの?」


 アオが問題集を手に聞いてきた。


「どれ? ……その問題ならこっちの公式かな。此処にこの数字、こっちにこの数字を当てはめればすぐに解けるはずだよ」

「……あっ、なるほど」

「それ、ひっかけ問題だから間違えやすいけど、そこさえできれば後の2問は割と簡単だよ。……ねぇ、サオ。この問題ってこの文章で考えていいの?」

「それは……こっちの文章の方が良いかも」

「……あ~、確かに」

「次の問題も同じ文章で考えると良いと思うよ。……アオちゃん、この単語の訳ってこの意味で考えていいと思う?」

「どれ~? ……あぁ、それね。私も迷ったんだけど、それより2個下のこの意味の方が自然に訳せるよ」

「……本当だ」


 私たちはそれぞれアオが数学、サオが外国語、私が現文の勉強をしている。問題集や辞書を広げて、分からない問題はお互いに聞きながら進めている。


 勉強を始めてから1時間くらいたった。みんな区切りが良いところだったから、一旦休憩をとる事にする。


「――ところで2人は明日の午後はどうするの?」


 《無限収納(インベントリ)》からジュースを出し、それを飲んでから私は2人に聞いた。


「私は誠史くんと出掛ける予定だよ」

「どこに行くの?」

「映画だよ」

「わぁ! 良かったね。アオちゃん」


 この世界の映画は50年位前からある娯楽の1つらしくて、まだまだ発展途上なんだよね。だから、映画館も映画その物も、その数は前世を知る私からするとまだ少ない。デートコースとしてもちょっぴり贅沢の部類に入るらしくて、だから映画デートって憧れる人が結構多いみたい。

 それにしても映画デートかぁ。


「私の好きなアニメが映画化されてて観たかったんだけど、誠史くんが映画の前売り券をたまたま(・・・・)貰ったんだって」


 きらきらとした笑顔でそう言うアオ。それを見る私とサオの気持ちは1つだった。


「((絶対に“たまたま”じゃないんだろうなぁ))」


 そう言えばついこの間、玲から「最近、葵が観たそうにしている映画はないか?」って聞かれたなぁ。それで丁度アオが好きなアニメが映画化されているから、それを教えたんだよね。あの映画、ちょっと私も気になっているんだよね。


「映画の前にご飯を食べて、帰りにはカフェにも行こうねって言っているの!」

「それは楽しみだね」

「うん! 優は?」

「私はね、今回の模試の勉強を頑張ったご褒美で、匡利にドーナツ屋さんに連れてってもらう約束しているよ」


 私は緩む口元をそのままに1週間ほど前の事を思い出した。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 1週間前、私はあの日も家の図書室で匡利から勉強を見てもらっていた。


『――もう無理!』


 この時、1問1答でタイムレースクイズ風に問題を出してもらっていた。地理だけじゃなくて古典とか歴史とか、暗記中心の教科でやっていたんだ。私が根を上げたのは、10問1セットを5セットくらいやった時だ。


『……今のところ全問正解しているぞ』

『だって、間違ったらデコピン一発だし、匡利のデコピン強烈すぎ……』


 私は涙目できっと赤くなっているであろう額を撫でた。最初の2セットは1問か2問くらい間違えちゃって、デコピンを2発食らったんだよね。それがまぁ、痛いのなんのって……抉れたかと思ったよね。


『加減はしている』

『加減の意味を知っている?』

『当たり前だろう』

『いやいやあれで加減してるって……聞いた事もない“バチン”って音がしたよ? 目の前で星が飛んだよ?』


 匡利は首を傾げながら自分の左手を見ている。無自覚怖い。マジで本気のデコピンだったらどんな威力なのよ……流血沙汰になりそう……。想像するだけで額が痛くなって、何もされていないのに思わず押さえ込んだ。


『……一度、休憩しよう』

『はーい』


 匡利は手に持っていたノートをテーブルに置いた。私はほぼ無意識にそのノートに手を伸ばしてページをパラパラとめくった。

 不意に匡利が左手を伸ばしてきて指先で私の額を撫でた。すると、ポワッとちょっとだけ温かい魔力を感じた。


『(あっ……治してくれたんだ)』


 大した事ないけど、気にしてくれたんだなぁ。

 優しく触れていた指先が離れていくのがちょっとだけ寂しく思った。


『……2日目の午後、どこか行くか?』


 そう言うのが聞こえて、目を丸くした私は側に立つ匡利を見上げる。匡利は腕を組みながら私を見つめていた。


『この調子で頑張ったら、好きな場所に連れていく』

『……いいの?』

『頑張れたらな』


 無表情のままそう繰り返す匡利。私は自分の頬が緩むのを感じた。


『あのね、ドーナツ屋さんが良い。今、春の新作が出ているの』

『ドーナツ……お前が好きでよく行っている場所か』

『うん! 甘くないドーナツのランチプレートとかもあるの。お昼ご飯も兼ねてそこが良い』

『構わない』

『ついでに本屋も行きたい。匡利のおすすめの小説とか教えて』

『あぁ』

『フフッ、楽しみだなぁ』


 現金なもので、匡利と出掛ける予定ができた途端にやる気が出てきた。匡利の方は相変わらず無表情のままノートを手にした。


『続きをするぞ』

『はぁい』


 返事をすると、早速問題を出され始めた。でも気持ちが違うのか、それまで以上に落ち着いて答えられた気がしていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 あの時の事を思い出しつつ2人に話して聞かせる。きっと、今の私は頬が緩みっぱなしだと思う。


「良かったね、優」


 アオがそう言ってくれて、私は満面の笑みで頷いた。


「ついでに一緒に本屋とかも行こうかって話になっているんだ」

「なんか2人らしいお出掛けコースだね」

「まぁね。……サオはどうするの?」


 今度はサオに声をかけてみる。


「私は慶人君と区立図書館の側にできた新しいカフェに行く約束をしているよ」


 慶人と? 珍しい組み合わせだな。アオもそう思っているのか、目を丸くしている。


「慶人となんだ」

「珍しいね。2人が一緒に出掛けるなんて」

「なんでも、隣のクラスの沖田君から割引券を貰ったらしいんだ」


 沖田くんは私も知っている。浪華っていう、日本で言えば大阪出身の人だったかな。慶人と同じ倶楽部で、同じクラスにはなった事はないけど、慶人にちょくちょく会いに来るから私たちも話すようになったんだよね。

 中々のイケメンで、雅樹と同じくらいの長い髪と眼鏡が良く似合っているんだよね。そんな人が気さくに優しく微笑みかけてくれるものだから、慶人たちに勝るとも劣らずの人気っぷりだ。

 彼、私たちの事を不思議な呼び方をするけど、それが何故か似合ってると言うかしっくりくると言うか……要は嫌じゃないんだよね。サオは「姫さん」って呼ばれて物凄く恥ずかしそうだけど。


「その割引券が2枚なんだけど、優もアオちゃんも佳穂も予定があるから、私を誘ってくれたみたい」


 私たちの予定は匡利とか誠史に聞いたのかな?

 図書館の近くのカフェか……確かこの間広告を見た気がするなぁ。結構女の子が喜びそうな雰囲気みたいだし、サオが好きそうな気がした。


「(もしかして、割引券を貰ったのは本当なんだろうけれど、慶人は最初からサオを誘うつもりで声をかけたんだろうなぁ……)」


 あの慶人がサオの好みを把握せずに誘うはずがないしね。でもそれを慶人が敢えて口にしていないのなら、私が教える事でもないからね。


 話の盛り上がりが大分落ち着いたところで、結構時間が経っている事に気付いた。休憩は終わりにして、私たちは再び模試の勉強に励んでいた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 翌日、模試2日目の最終科目は外国語だ。教室にいる全員が必死に手を動かして問題を解き続けている。


「(あと5分……)」


 一通りの問題を解き終わった私は最後の見直しをしている。空欄はないか、解答欄を間違えていないか、それ以外にも些細なミスをしていないか……。答案用紙の隅々まで目を通した。

 最後の問題の見直しが終わったところで、校舎中に終了の鐘が響いた。


「はい、そこまで。ペンを置いて後ろから回収してください」


 桜先生の声の後、教室中からは嬉しそうな声が上がった。

 テストを回収し終えた桜先生は一度職員室に行くと言って教室を出て行った。すると、みんな友人同士で集まってテストの出来栄えを話し始めた。私も桜先生が教室を出るのと同時にアオの所に行った。


「終わったねー、テスト」

「ねっ! これでやっと落ち着いて休みを過ごせるね」

「そうだねぇ」


 安堵の気持ちを込めてそう話していると、近くの席にいた男子が驚いたように私たちを見た。


「汐崎と大野は、テストが落ちているかもしれないとは思わねぇの?」

「「えっ? 全然」」

「そうかよ……」


 けろっと答えたら、その男子は若干引いたような反応をする。この会話が聞こえたのか、席が近い佳穂と朔夜が苦笑いを浮かべていた。

 だってさ、あんなに一生懸命匡利に教えてもらったのに落とすわけにいかないじゃない? アオだって誠史に教わっていたんだから。それに、ご褒美が待っているんだもん。そこは頑張りますよ。


 桜先生が戻ってくると、SHRになった。休み明けの連絡事項と、模試の結果は明後日の月曜日に郵送される事、補習の場合は火曜日から金曜日までの4日間で行われる事が伝えられた。

 SHRが終わると、教室のみんなは一斉に帰り支度を始める。もちろん、私たちもそれぞれ予定や約束があるので急いで支度を進めている。


「葵。もう行けるかな?」

「うん!」


 アオと誠史の声が聞こえて顔を上げると、アオと目が合う。アオは嬉しそうな笑顔で手を振ってきた。それに振り返すと2人は教室を出て行った。


「咲緒理、用意はできたか?」


 今度は慶人がサオに声をかけるのが聞こえてきた。そっちに目を向けると、準備を整えているサオの側に慶人が立っている。


「あとちょっと……うん、行けるよ」


 サオはそう答えて、慶人と並んで教室を出て行く。私と目が合うと、アオと一緒で手を振り合った。

 なんとなく教室をグルッと見ると、朔夜と玲は2人で何か約束しているのか、相談しながら帰っていった。あと、気付かなかったけどいつの間にか佳穂も教室からいなくなっていた。どこかに出掛けるのかな?


「優梨」


 前の席から声をかけられて振り向くと、匡利が用意を終えて立っていた。


「行けるか?」

「ごめん、少しだけ待って」


 慌てて机の中を見て忘れ物がないかを見る。無意識に手を動かしていたけど、ちゃんと用意は終えていたみたい。


「うん、行けるよ」


 鞄を持って匡利の横に並んだ。


「優、またね」


 紗奈ちゃんの席の近くを通った時に声をかけられて、それに答えようとした。


「――なんだ、匡利と優も一緒に出掛けるのか?」


 後ろから声をかけられて、振り返ると雅樹が立っていた。


「うん、そうだよ」

「前に約束したんだ」


 匡利と2人で答えると、雅樹は気怠そうに「ふーん」と言って紗奈ちゃんに目を向けた。


「紗奈は何か予定あるか?」

「えっ? 特に決めていないかな」


 あらら? なんだか思わぬ空気になってきたな。

 私は雅樹がどうするのか気になってついその場で眺め始めてしまった。なんとなく匡利が私のしたい事を察したのか「やれやれ」と言いたげな雰囲気で待ってくれている。


「それなら、俺と一緒に出掛けないか?」

「えっ?」

「ちょうど暇だし。家に帰っても誰もいないみたいだし」

「う、うん。良いけど……」

「じゃあ、早速行こう」


 雅樹はそう言うと、紗奈ちゃんの鞄を自分の鞄と一緒に持った。そのまま若干戸惑っている紗奈ちゃんの手を掴んで歩き出した。


「またな。優、匡利」


 去り際にそう言って、2人はそのまま教室を出て行ってしまった。私と匡利は紗奈ちゃんと雅樹の後姿を呆然と見つめていた。


「……何だったんだ、今のは」


 あっという間の出来事に匡利が呟いた。私も首を傾げる。


「雅樹が私たち以外の誰かをあんな風に誘うなんて珍しいね」

「そうだな」

「まぁ、紗奈ちゃんなら雅樹もそれなりに仲良くしているけどね。出掛けるお誘いをするのは予想外だなぁ」

「いつもなら矢尾板と出掛けているが、今日は予定が合わなかったんじゃないか?」

「それはあるかも。珍しいけど、ナオとか龍一以外で雅樹が誘いそうなの、紗奈ちゃん以外考えつかないし……」

「……とりあえず、俺たちも行くか」

「うん、そうだね」


 思いがけない雅樹の行動の事はとりあえず忘れて、私は匡利とのお出掛けを楽しむ事にしよう。楽しみだなぁ。


ここまで読んで下さりありがとうございました!




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