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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第1章 新学期
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第5話 隣の友人たち


 新学期が始まってしばらくした4月半ばの月曜日の事。今日までに新入生の倶楽部入部や委員会の集まりなんかがあって、だいぶ学校生活らしくなってきた。

 私たちは特に何かなければ基本的にみんな一緒に登校している。でも、何故か今日だけは女子4人だけの登校になった。


「今朝はどうして慶人君たち、早い時間に登校したんだろう?」

「んー、珍しく朝練があるって言っていたけど、朝練があってもこの時間なら一応間に合うはずだよね?」

「むしろ私は行きがけに言われた『大変だろうが頑張れ』っていう朔夜と玲の言葉が気になる……」

「そうね。何かありそうな雰囲気だったわね」


 首を傾げて考えるけど、私たちにはその真意が分からなかった。

 私たちは朝練がないからゆっくり話しながら歩いた。学校ち近くまで来たところで急に佳穂が立ち止まった。


「佳穂、どうしたの?」

「あれ、紗奈よね? 何しているのかしら?」

「えっ?」


 佳穂の視線の先を見ると、確かに紗奈ちゃんがいた。正門から少し離れた場所から、様子を伺うように何かを見ている。いったいどうしたんだろう?


「紗奈ちゃーん」


 後ろから声をかけると、紗奈ちゃんは少しだけ肩を揺らしてこっちを振り返った。


「優、アオちゃん、さーちゃん、佳穂」

「おはよう。どうしたの? そんな所で」


 聞くと、紗奈ちゃんは少しだけ困ったように正門の方をチラッと見た。なんだろうかと、私たちも見てみる。途端に私たち全員の顔色が曇った。


「うわぁ……」

「今日って、風紀委員会の抜き打ち検査の日だったのね」


 私たちの視線の先、正門の前には“風紀委員会”と書かれた腕章をした生徒が数人立っている。


 この学校、クラスによって微妙に違うんだけれど、意外と服装と頭髪に関して校則が厳しい。特に厳しいのが執事・侍女クラスだ。制服の着崩しは厳禁で、髪型もだらしなく見えるモノは禁止されている。理由は王城や貴族邸宅に勤めるようになってから支給される制服を着崩すなんてもっての外だからだ。髪も似たような理由みたい。今の内から心得るように厳しくされているらしい。

 その次に厳しいのは文官クラスかな。こちらも執事・侍女クラスと理由はほぼ一緒だ。騎士クラスや魔法クラスは、そこまで厳しくはないけど独自の指定の持ち物とかあるから、そっちの方で厳しいかも?

 一番厳しくないのは特進・総合クラスなんだけれど、他のクラスが何かと厳しいのにこっちだけ自由なのは示しがつかないから、それなりには規制されている。


 意外と許されているのは指輪やネックレスなんかの宝飾品類かな? 理由は2つあって、1つは貴族の人の中には婚約している人もいて、そう言う人は大抵婚約指輪をしているからだ。貴族の婚約は家の繋がりとか政治的な意味合いも含まれる事が多くて、婚約者がいる人はその証を着けて間違いが起こらないように気を付けるそうだ。もう1つが、魔道具の可能性があるからだ。制御装置だったり、護身のためだったりで着けている人が結構多い。だから、華美な物はさすがに避けるように言われているけれど、多少の宝飾品は許されているんだ。


 そして、全クラスで基本的に禁止されているのは髪の過度な染色だ。茶髪ぐらいなら許容範囲みたいだけど、それ以外はね……。でも外国人の髪色は結構色々あるから、瑞穂国の人でも海外の血を引けば黒髪以外になる事はよくある事だ。だから、黒髪・茶髪以外の髪色の人は許可証が必要になるんだ。


「――だから慶人たち、検査が始まる前にさっさと行っちゃったんだ!」

「匡利くんと朔夜くんと玲くんは大丈夫だろうけど、慶人くんと誠史くんと雅樹くんは確実に止められるもんね」

「私たちに教えなかったのは紗奈が1人になるからかしら?」

「私たちは確実に止められるもんね……」


 私は金色、アオは真紅、サオは紺色、佳穂は雀茶色、紗奈ちゃんは金茶の髪だ。どの色も検査に引っかかる髪色だ。一応全員、許可証を持っているから校則上は問題ないんだけど、そんな事お構いなしに色々言う人が意外と多いんだよね……。すると、アオが首を傾げた。


「でも、確か今年から風紀委員の先生って田原先生でしょう? 田原先生なら、私たちの髪の事は許してくれているはずじゃ……」


 あら、去年までは別の先生で結構面倒くさかったんだけど、変わったんだ。桜先生や田原先生を始めとした何人かの先生は「実力主義」の理念に則って、特進クラスでトップの成績を維持する私たちの髪色に関して、何も言ってこないんだ。

 それなら、何もこんなコソコソとしなくてもいいんじゃないかな? そう思っていたら、紗奈ちゃんが肩を竦めた。


「それが今日は田原先生いないみたいで……」

「あぁ~、そうなんだ……」

「しかもね、あの手前で凄く頑張っている人がいるでしょう?」

「うん」

「よく見てみて」


 ため息交じりの紗奈ちゃんの言葉に私たちはもう一度正門に目を向ける。確かに、一番手前にやけに張り切っている男子がいる。あの人って確か……。


「……うわっ、最悪」


 誰か分かった瞬間、ポロッと本音が漏れた。


「えー。あの人、今年も風紀委員になっちゃったの?」とアオ。

「ますますどうしよう……」とサオ。

「困ったわね……」と佳穂。


 あの男子は武部実(たけべみのる)。成績は結構優秀で違うクラスだけど彼も特進だ。あの人、何でか知らないけど私たちの事をライバル視しているみたいで何かと突っかかってくるんだよ。最近は成績で勝てないからか、私たちの髪やら瞳の事でイチャモンをつけてくるんだ。髪を染めすぎだーとか、瞳の色を変える魔道具を使うのは学校生活に不必要だーとか……。思い出しただけでも本当に面倒くさい!

 ちなみに私たちだけじゃなくて、他の校則違反になる人に同じように突っかかっているのを見た事がある。


「あの人去年、貴族の人に突っかかって問題にならなかったっけ?」

「それが、一応主張に一理あるからって厳重注意で済んだらしいよ。あれ以来貴族は、検査の日は別の門を使って別口で検査する事になったらしいし……だから、正門を使っているのは平民だけだよ」


 紗奈ちゃんの説明に何も言えなかった。厳重注意だけで済まさないでよ……風紀委員会を出禁にしてよ……。


「――とりあえず、行くだけ行くしかないわね。いつまでもこうしているわけにはいかないし」


 佳穂の言葉で他の私たちは観念したように頷いた。

 正門まで向かう間、私たちは無意識のうちに身を寄せ合った。人に紛れ、なるべく武部くんから離れるように歩いた。正門では意外と止められている生徒が多いから、案外大丈夫かも……。


「そこの5人! 待てぇっ!」


 ……現実はそう甘くなかったか。

 呼び止められた私たちは思わずげんなりとした表情になる。武部くんの方を見れば肩を怒らせながら向かってくる。諦めて彼の方に向き直った。

 ここは精神的に年上の私が前に出ましょうか。


「おはよう、武部くん。何かご用?」

「『何かご用?』ではない! 相も変わらずそのような派手な装いでこの俺の前を素通りしようとはいい度胸だな!」


 ビシッと指をさしながら叫ぶ武部くん。人を指差すな。

 良い度胸って言われても、元々私たちは彼にあれこれと言われるような事は何もないんだけどな……。


「――って、聞いているのか!」


 色々と言ってくる彼をスルーしながら物思いに耽っていたらそう怒鳴られた。


「はいはい、聞いてます。聞いてます」

「嘘をつけぇぇぇえええ!!」


 適当に返事をすればそう言われる。本当にどうしろって言うのよ……。

 周りをチラッと見れば、他の風紀委員の人も生徒も同情の眼差しで遠巻きにこちらを伺っている。当事者の私たちと言えば、すでにアオが涙目だ。サオと紗奈ちゃんもオロオロとしている。佳穂はさすがと言うか至極鬱陶しそうな顔だ。私と目が合うと、佳穂も困り顔でため息を吐いた。


「おいっ! 無視するんじゃないっ!」


 ……まだ何か言ってるよ。これ、相手しないといつまでも終わらない感じなのかなぁ。


「ハァ……。あのね、武部くん。何度も言っているけど、私たちの髪も瞳も生まれつきなの」

「生まれつきだろうが何だろうが、校則では過度に派手な装いは控えるようにあるんだ! この学校に通う以上はそれに従うのが筋だろうが!」

「いや、だから許可をもらっているんだってば」

「その許可も生徒会長の天宮が何かしたんだろう!」


 何を言い出すんだ、この人。


「慶人は関係ない。ちゃんと正式に学校から許可をもらっているの! 何だったらここで許可証を出そうか!?」

「教師が許そうが学校が許可しようが、この俺だけは断じて許さんぞ!」

「理不尽極まりないな!」


 思わず叫んだ。埒が明かない上に面倒にもほどがある! 何だかイライラして頭が痛くなってきたような気がする……。

 どうしたものかと頭を悩ませていると、私たちに近づく人影がある事に気付かなかった。


「――いったい何の騒ぎだ」


 武部くんとの間に火花を散らす私たちの後ろから聞き慣れた声がした。振り返ると、一際厳しそうな面立ちの男子生徒が立っていた。


「龍一!」

「龍一くん!」

「澤田……」


 私たちは助かったと言わんばかりに歓喜の声を上げる。一方で武部くんはちょっと苦々しげだ。


 彼は澤田龍一(さわだりゅういち)。代々騎士の家系である子爵家の次男で、本人も将来は騎士になるのが目標らしい。自分にも他人にも厳格でその物言いに一部の人からは恐れられているけど、親しくなると義理堅くて人情に厚い人柄が垣間見える。

 今は隣のクラスだけど、中学3年の時と去年の2年連続で同じクラスだったんだ。他にも雅樹と同じバスケ倶楽部で部長をしていたり、誠史と玲にとっては“親友”と言える間柄だ。当然私たちとも面識があって、仲良くさせてもらっている。


 それに、龍一は私たちが普通の能力者じゃなくて異能者(ミュータント)だと知っている。彼が知ったきっかけは至極簡単で、一昨年の中学3年生だった時に偶々もう1つの姿を見られたからだ。その時に私たちが異質の異能者だという事も包み隠さず全て話した。この時の私たちは、もしも龍一が私たちを拒絶するようだったら、私たちに関する記憶を消す覚悟だった。

 でも、龍一は3日くらい考えた末に私たちの素性を受け入れた上で、これまでと変わらない関係を続けると言ってきた。しかも私たちの秘密に関して「魔導契約」を結ぶと言って、本当に契約してしまった。これは、魔道具である「魔導契約書」で交わす契約の事で、魔法による契約なので制約が厳しく拘束力も高い。使い方によってはかなり危険を伴うものだ。龍一はその契約書に何の躊躇いもなくサインをしていたから、私たちは目を丸くしたなぁ。

 それ以来、彼との仲はそれ以前よりも深まったし、仲間以外で気を許せる数少ない人の1人となったんだ。


「――ん? 優梨たちじゃないか」


 近くまで来て武部くんと揉めている相手が私たちだと分かったようだ。ちょっとだけ訝しげだ。


「龍一くんはどうしてここに?」


 一番側にいるアオが聞いた。


「どうしてって、風紀委員だからだ。お前たちこそどうしたんだ」

「それが……」


 私たち5人は一斉に武部くんを横目で見た。武部くんは早く龍一にいなくなって欲しそうに苛立っている。


「……なるほどな」


 視線の先の武部くんを見て納得したのか、龍一は小さく呟いて武部くんに向き直った。途端に、彼はビクッと肩を震わせた。


「武部」

「なっ、なんだよ」

「この5人はここで止める必要はない。お前が気にしているであろう事は、学校側が許可している事を田原先生も承知している」

「だ、だが!」

「学校側の決定に、お前は異論を唱える権限でもあるのか?」


 そう言われてしまうと、さすがの武部くんも言葉に詰まった。ハラハラとしながら見ていると、キッとこちらを睨んできた。一瞬だけ怯むと、彼の視線から庇うように龍一が間に立った。


「なんだ。まだ何か異論があるのか」

「ぐっ……」

「……何もないのなら、サッサとあちらに行け」


 龍一が指さすのは検査のために立つ風紀委員の端っこだ。武部くんは苦虫を噛み潰したような顔をして、その場から離れた。離れ際に小さく舌打ちしたのは聞こえたからね!


「フゥ……。ありがとう、龍一」


 息を吐いてお礼を言うと、龍一は「礼には及ばない」と言った。その表情はどこか得意げだ。


「――皆さん、大変でしたね」


 龍一と正門を通ると、もう1人の見知った人が立っていた。


「あれ、ナオだ。どうしたの?」

「僕も風紀委員なんです」


 彼は矢尾板治士(やおいたなおし)。平民だけど、貴族にも顔が利く大きな商店の跡取り息子で、それなりに上流の人間だ。貴族相手の商売のため、礼儀作法を昔から叩き込まれているのか、とても物腰の柔らかくて人当たりの良い人だ。その性格と丁寧な言動が、身分問わず女子から人気だ。

 龍一と一緒で一昨年と去年同じクラスで、今は龍一と同じ隣のクラスだ。あと、雅樹と龍一と同じバスケ倶楽部に所属している。

 龍一と違って私たちの“秘密”は知らないけど、遠巻きにされがちな私たちの見た目に臆せず接してくれて、今では龍一と一緒で仲良くさせてもらっている。雅樹に至っては「親友だ」って言えるほどの間柄みたい。


「治士くんも風紀委員? えっ、龍一くんも風紀委員だよね?」


 紗奈ちゃんが混乱したように龍一とナオを交互に見ている。私たちも少しだけ混乱している。だって、確か風紀委員の定員は一クラス当たり2名のはずだ。


「B組、風紀委員が3人になっちゃったの?」

「いいえ。正式な風紀委員は、僕と澤田くんです」

「……じゃあ、何であの人、風紀委員の腕章をつけてあそこにいるの?」


 ナオの言葉に思わず私は、顔をしかめて低い声で言った。龍一とナオは顔を見合わせると、ため息をついてこちらを向いた。その表情は、龍一の眉間には皺がより、ナオは何とも言えない苦笑いを浮かべている。


「それがですね。先週の委員会の集まりの後に、彼が澤田くんの所に来たんですよ」

「龍一のところに? 何で?」

「委員長だからですね。それで、澤田くんと田原先生に今日の検査を手伝わせて欲しいと直談判したんですよ」


 ……何やってんの、あの人。マジで。

 私を含めて全員が絶句した。何とも言えない表情を浮かべていると、龍一がもう一度大きなため息をついて肩を竦めた。


「この検査は毎回人手が足らないんだ。なにしろ、正門とあちらと二手に分かれるからな。人員も、貴族を相手にするあちら側の方に回され、田原先生も向こうに行ってしまう。検査対象はこっちの方が多いのだが、どうしてもな……」

「それでその元凶(武部くん)が手伝うって?」

「背に腹は代えられないからな。熱意もあるようだから、俺も田原先生も丁度いいと考えた。だが……」

「目的は皆さんだったようですね」

「傍迷惑にも程がある……」


 力なく言えば、アオたちも無言で頷いていた。私たちの気持ちがわかるのか、龍一はとっても苦々しげだ。


「このような事をしでかすとは思わなかったんだ。だが、次からはお前たちに不快な思いはさせないと約束しよう」

「うん、そうしてくれると助かります……」


 苦笑気味にそう言えば、龍一は大きく頷いてくれた。その横でナオも同意するように頷いてくれている。


「そろそろ予冷が鳴る頃ですね。皆さんも教室に行った方がいいですよ」


 ここから見える校舎にかかる時計を見て、ナオがそう声をかけてくれた。


「そうだね、ありがとう。2人とも」

「またね、龍一くん、ナオくん」


 私とアオがそう言うと2人は微笑んでくれた。


「あぁ」

「では、また」


 私たちは龍一とナオに手を振って駆け足でその場を離れた。残った2人は私たちの背が小さくなるのを見届けてから、残りの検査へと向かっていった。



 そして、その後の武部くんは風紀委員会の手伝いと称して理不尽な言いがかりをつけてくる事は、二度となかった。



ここまで読んで下さりありがとうございました!




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