第52話 開催! 藤永学園祭
ついに学園祭本番1日目を迎えた。
衣裳係は他のみんなより先に登校してきて着替えの用意をしている。実行委員のサオと朔夜はそれよりも早く来て最終確認をしたり、登校してきたクラスメイト達に次々に衣裳を渡して着替えスペースに案内したりしていた。
そして、昨日新たに設置した着替えスペースでは、匡利たちの着付けをしている。
実は昨日、夕飯の後に佳穂から匡利たちの着付けを手伝えなくなったと伝えられた。驚いたけれど、元々は私たちだけでやるつもりだったから快諾した。その時の佳穂の表情がちょっと気になったんだけど、さすがに聞けなかったなぁ……。
とりあえず、最初に1番大変な匡利の着付けを私とアオと紗奈ちゃんの3人ですませて、匡利には紗奈ちゃんと一緒に隣のスペースに移動してもらった。そこでは、紗奈ちゃんにヘアメイクをしてもらっている。
匡利の後は慶人、誠史、雅樹、朔夜、玲の順に着付けて行った。最後の玲は他のみんなと違って和服だったから心配だったけれど、本人にも手伝ってもらったから何とかうまくいったよ。
着付けが終わった後は、紗奈ちゃんのヘアメイクが終わるのをそのままブースの中でアオと一緒に待っている。そこに実行委員の仕事が一段落したサオが顔を出してきた。
「優、アオちゃん。みんなの着替えはどう?」
「サオちゃん!」
「着付けはもう終わったよ。今はヘアメイクが終わるのを待っているの」
そう話していると、ヘアメイクスペースと着替えスペースの間のカーテンが揺れた。現れたのは匡利だ。
「(……う、わぁ……)」
現れた匡利の姿は紛れもない傾国の美女だった。
匡利の衣装は予定通り昔の華楊大国の衣装である漢服で、皇帝の妃が着るような豪華な物だ。上半身は服の合わせ目が着物みたいになっていて、布を重ねているから露出は少ない。袖口は大きく広がっているタイプだ。下半身の現代で言う所のスカート部分は裾が広がっている形で、布を幾重にも重ねている。その1番上に重ねた布が少しだけ薄手で、動くたびにフワッと広がるのが華やかに見えた。色は青や緑の寒色系に銀色の糸で刺繍もしてあって、その色合いが匡利の瞳の色とよく合っている。
眼鏡は外してもらって、メイクは元の素材を活かすように薄めだ。でも、それだけでも十分すぎるくらい綺麗……。
髪は匡利の髪色と同じロングのウィッグを被って、ハーフアップに結い上げている。髪を飾る豪華な簪や首元と腕を飾る装飾品は、どれも演劇倶楽部から借りた物だ。その贅沢な感じがまさに「宮廷の華」と言う感じがして、やっぱり借りて正解だったね。
「……想像以上」
「うん……」
「凄い……」
私とアオとサオは、それ以上の言葉が無いほどに見惚れて感嘆の息を漏らした。一方で匡利は無表情ながらも僅かに眉をひそめている。……うん、今の状態じゃその表情すらも綺麗だ。
「……俺は一体何の衣装を着ているんだ」
言葉を失っている私たちに、匡利は自分が着る衣裳をまじまじと眺めながら聞いてきた。
「モチーフは華楊大国の董貴妃だよ」
「董貴妃……」
なんか、物凄く複雑そうだね。でも、そんな姿すら綺麗なんだからメイクと衣裳の威力は本当に凄い。
「……おい。優梨、葵、咲緒理」
匡利の背後から声がしてそちらを見ると、今度は慶人が立っていた。
慶人の衣装は深い色合いの赤いドレスだ。接客をするからあまりボリュームは持たせていないんだけれど、それでも何枚も布を重ねたスカート部分は豪華だ。そのスカートの金色の刺繍はなかなか大変だったけれど、頑張った甲斐があってとても華やかになっている。
髪は慶人の髪色と同じロングのウィッグを被っている。毛先を巻いているからなんだかゴージャスな印象だ。さらに編み込みを混ぜながらハーフアップに結い上げて、頭の上には綺麗なティアラを着けている。
首元や耳、腕には匡利と同じで演劇倶楽部から借りた装飾品を着けているんだけど、何故かドレスと同じ色合いの扇子も手に持っていた。
「わぁ……」
「これはまた……」
「匡利君とはまた違った美女……」
3人揃って驚いたり見惚れたりと忙しい。慶人の表情は匡利以上にムスッとしているけれど、それすらも様になって見えているんだよね。何て言うか「気位の高いお姫様」って感じで……。
「俺は一体何なんだ」
「モチーフはそのまま『お姫様』なの。せっかくだからゴージャスに赤いドレスにしてみたんだけど、正解だったね」
慶人は複雑そうな顔をしているけれど、私たちは想像以上の出来栄えに大満足よ。
「葵、優、咲緒理」
また別の声がして見ると、今度は誠史が立っていた。
誠史の姿は私の記憶にある「白雪姫」そのものだ。黄色と青が基調のドレスを纏って、さらに頭には大きな赤いリボンのカチューシャをしている。
装飾品は匡利と慶人に比べて抑え目に、アオが持っていたリンゴみたいに赤い石のイヤリングを着けているだけだ。でも、不思議とそれだけなのに華やかな印象がある。
髪色は白雪姫の黒髪とは違うけれど、誠史の紺青色の髪もなかなか素敵だ。誠史は元々少し髪が長めだったから、ウィッグは被らずにそのまま活かしている。
「キャ~! 誠史くん可愛い!」
誠史の姿を目にした途端、アオが嬉しそうに声を上げた。でもその気持ちも分かるほど、確かに今の誠史は可愛い。誠史ってどちらかと言えば中性的な顔立ちだから、白雪姫の格好が本当によく似合う。
「そう? 葵のウエイトレスさんも可愛いね」
「えへへっ、ありがとう」
誠史に褒められたアオは嬉しそうに笑うと、その場でクルッと回って見せた。うん、アオも可愛いよ。誠史も満足そうな顔でアオを眺めている。それにしても、真っ先にアオを褒めるのは本当に誠史らしい。まぁ、アオ自身はいつもの「家族として」の誉め言葉として受け取っているんだろうけれど、アオが嬉しそうだから良いか。
「あっ」
「ん?」
軽く声を上げたサオの視線の先を辿ると、雅樹が不機嫌顔でカーテンの向こうから出てきた。雅樹はエメラルドグリーンのアラビア風の衣装だ。
雅樹も演劇倶楽部から借りた装飾品を着けているけれど、その数は一番多い。首元や腕だけじゃなくて頭や腰にも色々と着けていて、雅樹が動くたびにそれがシャラシャラと音を立てて耳心地が良い。
衣裳の方はボトムスがふっくらとボリュームのあるズボンタイプだ。その上から少し薄手の布で作ったスカートを着ているんだけれど、前の部分が開いているから足の動きを邪魔しない。トップスは長袖タイプで、袖の部分は少し梳けるタイプの布を使っている。本来はトップスとボトムスの間に布は無くてお腹が見えているんだけれど、それだと雅樹が嫌がると思ってその部分にも袖と同じ布を使っている。この布、透けているのは分かるんだけれど、雅樹の細いながらも筋肉質な腕とか腹筋が目立たなくて、なかなかいい塩梅の透け具合だと思うんだよね。
髪は雅樹の髪色と同じ銀髪のロングウィッグを被っていて、特に結わないでそのまま背中に流していた。その髪を覆うようにエメラルドグリーンのベールを着けている。綺麗にメイクをされた顔にも「フェイスベール」って言うのを着けていて、雅樹のミステリアスな雰囲気によく合っている。
衣裳もベールも金色の刺繍がいっぱいしてあるんだけれど、それだけで結構豪華に見えるから頑張って良かったなぁ。
それにしても極力露出を控えたデザインだけれど、何故かとても妖艶に見えるんだよね。本当に不思議……。
「わぁお……」
「綺麗と言うか色っぽいと言うか……」
「セクシーの一言に尽きる……」
アオとサオの言葉を受けてそう言うと、2人とも無言で頷いた。一方で雅樹は物凄く複雑そうな顔をしている。その悩ましい表情すら綺麗……。
「俺は一体何の衣装なんだ……やたら派手に見えるんだけど……」
「アラビアの踊り子だよ。雅樹の衣装はそれ以外思い付かなくて」
「…………そうか」
私が笑顔で言うと、雅樹は何とも言えない表情で返事をしてそのまま大きくため息を吐く。気持ちは分からなくないけど、事実だしなぁ……。
そんな風に思っていると、今度は朔夜がカーテンの向こうから出てきた。
今回、朔夜は前世のコンタクトレンズみたいな魔道具を装着して眼鏡を外してもらっている。普段は少し厚めの眼鏡に隠された素顔を見せているから、物凄く貴重だ。私も久しぶりに見るけれど、やっぱり凄くかっこいい。今はメイクをしているから、どちらかと言うと「綺麗」なんだけれどね。と言うか、意外と赤いリップが良く似合うね。
黒いウィッグを被ってもらって、それをさらに頭の高い位置で結い上げてアップスタイルにしている。前髪と顔周りに後れ毛があるんだけれど、結構こういう髪型も似合うかもね。普段は短髪だから新しい発見だな。
ドレスは私が見本で描いた「ハートの女王様」をモチーフにした赤と黒のドレスなんだけれど、袖部分を大きく変えている。確か私が知っているハートの女王様の服は半袖だったと思うんだけれど、朔夜が着ているのは長袖タイプだ。それに肩部分を大きく膨らませて、袖の部分は肩口から袖口にかけて大きく広がる、いわゆる「ベルスリーブ」と言うのにしている。このおかげで割と筋肉質で太めの朔夜の腕も目立たなくなっている。
装飾品は頭の上に演劇倶楽部から借りた小さな王冠を被って、胸元と耳には私とアオが持っていたアクセサリーを着けている。控えめだけれど、それが逆に凛としている雰囲気に合って綺麗だ。
「わぁ~! 想像通り、素敵!」
「……そうか。これは優の考案なんだな」
「そうなの。でもアレンジはサオだよ。ねっ?」
「うん。やっぱりこのデザインにして正解だったね」
「朔夜くん、良く似合っているよ!」
3人で口々に褒めると、朔夜はそれ以上の言葉が見つからないのか苦笑いを浮かべている。ハートの女王様って物語だと悪役的な立ち位置だけど、朔夜の女王様はなんだか優しそうだなぁ。むしろ味方になってくれそう。
「朔夜、優、葵、咲緒理」
声がして見ると、玲が紗奈ちゃんと一緒にカーテンの向こうから出てきた。
玲は紺地に紫の桔梗柄の浴衣を着ている。帯はアオが持っていた帯だ。片面が赤紫、もう片面が暗めの緑の物で浴衣に合わせて見せる側を変えられる物なの。今回は桔梗の色に合わせて赤紫の方を表側にしている。
髪は腰まで長さのある黒のロングウィッグを被っていて、ハーフアップにして簪でまとめている。簪はサオが持っていた淡い色合いの青い花の簪だ。それ以外の装飾品は特にないんだけれど、それがこの衣裳にはよく合っている。
メイクもあまり濃くならないように薄めなんだけれど、それだけで十分なくらい美人さんだ。
「超絶和風美人!」
「やっぱり玲くんは和風で正解だったね」
「すっごく素敵!」
「メイクもあまり濃くしない方が良いと思ったんだけど、そうして良かった~」
紗奈ちゃんも加わって4人で褒めると、玲は何か言いたげに複雑そうな顔をした。まぁ、これだけ褒められたら何も言えないよねぇ~。
「それにしても……」
6人がこうしていっぺんに並ぶと、眼福と言うか眩しいね! 暴力的なまでの美人揃い!
そう思っているのは私だけじゃないらしく、アオもサオも紗奈ちゃんも感嘆の息を漏らしている。いやぁ、アレックス君が提案した時はどうなるかと思ったけれど、多分これが最初で最後だろうからちょっぴりアレックス君に感謝かも……。6人には口が裂けても言えないけど。特に慶人。
この後、すぐに他のクラスメイトにもお披露目となった。みんな一瞬静まり返ったかと思ったら、一斉に悲鳴のような歓声が上がる。みんな口々に色んな事言うから、さすがに聞き取れなかったよ……。でも男子も女子も関係なく、みんな顔を赤く染めて見惚れていたな。女装を提案したアレックス君は物凄く満足そうな顔をしている。
「やっぱり俺の目に狂いは無かったね」
「さすがアレックスね。みんなとっても美しいわ」
アンジュとアレックス君が私を間にそう言い合っている。というか、何故私を間に……?
そう思っていると、アレックス君は慶人たちの所に行って直接褒めている。慶人の顔がなかなか怖いけれど、それに動じないアレックス君って凄い……。
「本当に素敵ね。どうやって作ったの?」
残されたアンジュが興味深げに聞いてきた。んー、確かに私たちが作ったけれど、主導はサオだしなぁ。
「詳しい事はサオに聞いた方が良いかも。デザインとか型紙とか、ほとんどサオの考案なの。サオって裁縫に関しての知識と技術はプロ並みだから、興味があるなら聞いてみたら良いと思うよ。多分、喜んで教えてくれるよ」
「そうなの? じゃあ、学園祭が終わったら聞いてみようかしら」
「それが良いと思うよ。……あっ、ちなみにね、編物にも興味あったら紗奈ちゃんに聞くと良いよ。編物に関しては紗奈ちゃんの方が詳しいから」
「まぁ、みんな多才なのね」
アンジュは目を丸くしてそう言ったけれど、すぐに微笑んで「素敵だわ」と言った。素直にこうして人を褒められるところはアンジュの美徳だよね。
それからアンジュは匡利の所に行くと言って私の側を離れた。匡利の側に行ったアンジュは何かを話しかけて、匡利もそれに答えている。実はアンジュが匡利にしつこく話しかけなくなってから、匡利もあぁして普通に話すようになったんだよね。気持ち的には複雑だけれど、アンジュの性格を思うとそれ以上何も言えないんだよね。匡利との話が済むとアンジュはサオの所に行った。きっと、学園祭後に色々教えてって言っているんだろうな。サオの表情がちょっと嬉しそうだ。
アンジュとサオの様子を眺めていると、佳穂がみんなの輪から離れた壁際に佇んでいるのに気付いた。俯いているその顔に表情はない。何か考え事かな?
みんなから離れて、私は佳穂に近付いた。
「佳穂」
声をかけると、佳穂はハッと我に返ったみたいにこちらを振り向いた。私を目にすると、僅かに眉を寄せた。
「優梨……なに?」
……なんだろう。なんか、声に棘があるような気がする。
「いや……こんな所でどうしたのかなって思って……」
「……何でもないわ」
誤魔化すように言うと、佳穂は少しだけ顔をしかめて私から視線を逸らした。えっ、何で?
呆然としていると、佳穂は視線を教室の入口に向けた。
「移動するみたいよ」
「う、うん……」
私の返事を聞くや否や、佳穂は私から離れて行く。腑に落ちなくてその背中を見つめていると、何やら視線を感じた。その方向に目を向けると、匡利がいた。匡利は私と目が合うと、何事もなかったかのように視線を逸らす。そして、慶人たちに続くようにして教室を出て行った。
「(……匡利も佳穂も、一体何なの……)」
肩を落とし、思わずため息を吐く。これから学園祭が始まるっていうのに、良くない感情だな……。気持ちを切り替えようと軽く頭を振ってみる。大して変わっていない気もするけど、気付かないふりをして顔を上げた。それからアオと一緒に教室を出て、戸締りをするサオを待つ。そして、私とアオとサオは他のみんなより少し遅れて第3会議室へと向かった。
『――学園祭実行委員会です』
あと少しで会議室に着きそうな所で、学校中に放送が響いた。それに反応したのはサオだ。
「あっ、萩原先輩だ」
「実行委員長?」
「うん」
へぇ、実行委員長は女子だったんだ。なんか優しそうな声だな。
そんな風に思っている間も、放送は続く。
『本日、学園祭1日目は校内発表になります。学園の関係者とそのご家族および招待された方々がいらっしゃいます。みなさんには大いに楽しんでもらいましょう。そして、私たち生徒も思う存分楽しみましょうね』
どこからか歓声が上がったような気がする。みんな気合が入っているなぁ。
『……まもなく開催の9時半になります』
しばしの間、無言の時間が続く。その間に私たちも第3会議室に着いて、それぞれの持ち場へ向かう。全員が位置に着くと、自然と視線は時計へと注がれた。カチコチと時計の音が静かな室内に響く。
そして、秒針が数字の12に差し掛かる。同時に長針が数字の6を指していた。
『――それでは、学園祭1日目を開催いたします!』
実行委員長の宣言と同時に学園中が歓声に溢れ、校舎が揺れたような気がした。
ついに待ちに待った大イベント、学園祭が始まったのだった。
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