第47話 衣裳係は大忙し! 前編
サオが実行委員会で遅く帰って来た日、私たちはまた夜に集まって残りのデザイン画と型紙案を仕上げた。すでにどんなデザインにするかは決まっていたから、前の晩よりもサクサクと進み、日付を超えて少しした頃には終えて眠る事ができた。2日連続の徹夜はしたくないから頑張ったよ!
次の日には他の衣裳係の子たちにもデザイン画を見せて意見を聞いた。概ね好印象な意見をもらって、所々細かい所の手直しと提案があったくらいでほぼ私たちが考えたデザインで決定した。ウエイター・ウエイトレスの型紙案も作り、どのくらいの布が必要になりそうか計算をする。この時に、ウエイター・ウエイトレスの衣装はS・M・Lの3種類を用意する事が決まった。
そして翌日、予定通り布見本が届いた。
基本的にコットン生地で揃えて、必要に応じて他の布地を使うつもりだ。何種類か用意する事になっているエプロンは定番の黒と白の他に、落ち着いた色合いの赤・青・緑の3色を入れた計5色にする事になった。昼休みまでに1人2色まで希望を聞いて、予備の分も加えて用意する枚数を決める。そこからサオが必要な布の量を計算して、放課後には全ての発注書が用意できた。あとは生徒会への提出だけだね。
「採寸前だけど、もう発注書を出すの?」
発注書ができた時に衣裳係の1人が聞いてきた。まぁ、確かに普通は採寸してから布の種類やサイズを選ぶもんね。
「えっとね、今回ウエイター・ウエイトレスの衣装は、1人1人に合わせたサイズじゃなくてS・M・Lの3サイズで用意した方が良いって言ったじゃない?」
サオ曰く、1人1人に合わせて作ろうとすると、型紙が人数分必要になってしまって数が膨大になり、用意するのも管理するのも大変になってしまう。でも、3サイズだけなら1サイズに付き3組くらい用意するだけで十分になる。幸い、このクラスには極端に細い人もふくよかな人もいない。しいて言えば、匡利・朔夜・玲の身長がかなり高い事だけど、ウエイターの衣装は3サイズとも気持ち大きめに作れば問題ないらしい。なんなら、最後の衣装合わせの時に裾やウエストの調整をすれば十分だとサオは言う。
「――元々型紙は一般的な服のサイズを参考にしているし、クラスのみんなからは普段着ている服のサイズも聞いているからね」
ちなみに匡利たちの衣装に関しては目測で大体のサイズが分かったから、そこから少し余裕を持たせた型紙案を作ったみたい。匡利たち衣裳もウエイター・ウエイトレスの衣装も型紙はまだ仮の物でしかないけれど、ほぼ決定でも良いくらいの物を考えたらしい。布に関しても、裁断の際の型紙の配置も余裕をもって考慮していて、計算通りなら1着分くらいは余る量で発注したとサオは言った。
ここまでを何でもない事のようにサオは言うけれど、それができるのはひとえにサオの《裁縫》のレベルが高いおかげだ。スキルはレベルが高ければ高いほど、できるようになる事が増える。熟練とされるレベル30を超えていれば、常人には無理な事でもやってのけてしまえる。だから、この方法は《裁縫》のスキルが余裕でレベル30を越えているサオだからこそできた技なんだよね。私とアオの《裁縫》もレベルは高い方だけれど、さすがにサオが説明したような事はできないよ……。多分、他の衣裳係の子たちには桁違いな話なんだろうなぁ……。
「……凄いね、日向さん」
1人が呆然と呟くように言い、他の子は無言で頷く。その様子にサオは苦笑して頷くだけだった。
数日後の週明け。この日から3日間は授業が午前中だけになり、午後は学園祭の準備の時間になった。この3日間の後、学園祭当日までの残りの7日間は終日で準備をする予定なの。だから、この3日はその終日準備期間までにやらなきゃいけない事が色々あるから大変だ。それぞれ教室と当日に使う第3会議室、割り当てられた調理実習室に分かれて準備している。
衣裳係の半日準備期間の初日は採寸から始まった。私たち衣裳係は教室の一角を机とか暗幕を駆使していくつかに区切られたスペースを作った。ここはそのまま当日に着替えのスペースとして使う予定ね。スペースは全部で6つあって、私たち3人ともう1人の子が1人で採寸する事になっていて、後の4人は2人でペアになってやる事になった。今はそれぞれ分かれてスペースに入って分担でクラスメイトの採寸をしている。
誰の採寸を担当するかは事前に決めていて、私たち3人は匡利たち6人と佳穂と紗奈ちゃんを含めた12人が担当だ。
「――それで、佳穂と紗奈ちゃんと他の4人は3人の中で空いた人からやるとして……匡利たちはどうする?」
私の手には私たち3人が担当する人たちの名前が並んだ紙がある。アオとサオに聞けば、2人とも肩を竦めた。
「とりあえず慶人君たちから始めちゃった方が良いんじゃないかな?」
「そうだよね……。とりあえず、誠史はアオに任せようかな」
「いいよ。じゃあ、匡利くんは優だね」
「ありがとう。……あと、慶人もやろうかな」
「それなら朔夜君は私がやろうかな。委員会の事でちょっと話したい事もあるし……あと、玲君もやろうかな」
「じゃあ、雅樹くんは私がやるね」
相談の結果、私が匡利と慶人、アオが誠史と雅樹、サオが朔夜と玲を担当する事に決まった。
それぞれ自分のスペースに入って採寸する人を呼び出す。この準備期間中は普段は禁止されている通信機や攻撃魔法以外の魔法の使用が許可されている。魔力は探知されても何の魔法を使っているかまでは分からないから、この期間中は色々と使えて楽なんだよね。とはいえ、学校に提出している「保有スキルリスト」とは違う魔法はもし使って見られると怪しまれるから、他からは分かりにくいのしか使えないんだけどね……。《瞬間移動》とか使えた方が本当は楽なんだけど……。
さて、とりあえず最初は……慶人からにしようかな。そう決めて、私は《念話》で慶人に呼び掛けた。
「【慶人】」
「【優か。なんだ?】」
「【今、手は空いている?】」
「【一応空いているが……】」
あっ、ちょっとだけ訝しんでいる。声だけなのに顔をしかめているのが分かる気がする。
「【あのね、衣裳の採寸をしたいから教室に来て欲しいんだけど、良い?】」
「【それか……分かった。今行く】」
「【ありがとう。私がどこにいるかは、かかっている札を見てね】」
「【あぁ】」
そう言うと、プツッと《念話》が切れるのを感じた。なんとなくだけど、今いるのは第3会議室かな? それならこっちに来るのはちょっと時間かかるか。
しばらく待っていると、バサッと暗幕が揺れる音がした。見ると、明らかに不機嫌そうな表情の慶人が立っていた。
「あっ、来た」
「早く済ませるぞ……」
ムスッとしている慶人に苦笑しつつ、私は籠を差し出す。
「この籠にポケットの中身を入れてね。それからジャケットとベストを脱いでもらって……できたらワイシャツも脱いでほしいかな」
慶人は言われた通り、ズボンやジャケットのポケットに入っていた携帯通信機や財布、ペンなんかを取り出してどんどん籠に入れていく。それからブレザーのジャケットとベスト、ワイシャツを脱いでTシャツ姿になった。
「じゃあ、測るね」
「あぁ」
メジャーを手に決められた部位のサイズを測っていく。測るのは胸囲、ウエスト、ヒップ、肩幅、そで丈、裄丈、首回り、股上、股下、太ももの付け根回り、着丈の11か所だ。いくつかは左右両方を測る必要がある。部位によっては慶人に手伝ってもらいつつ、用意していた表に記入をしていった。結構測る場所が多いからちょっと時間かかったな。背が高いからいくつかの部位は台に乗る必要もあったしね。
「――はい。これでおしまいだよ」
「やっとか……」
ため息交じりの慶人の言葉に苦笑する。嫌々ながらも協力してくれるだけ有難いかな?
測り終わって慶人はワイシャツ・ベスト・ジャケットを着ると、籠に入れた物をポケットにしまっていく。
「次は誰だ」
しまい終わると、振り返って聞いてきた。
「次は匡利の予定だけど……」
「戻るついでだ。呼んできてやる」
「ありがとう」
スペースを出る時にフワッと慶人の魔力を感じたから、匡利に《念話》で声をかけているんだろうな。匡利が来るまでに私の方は心の準備をしておかないと……。
しばらくして匡利がやって来た。匡利の事はこれでも見慣れているはずなのに、暗幕の向こうから現れた時にドキッと胸が鳴るのを感じた。
「……どうすれば良い」
「えっと、ポケットの中身をこの籠に入れて、ジャケットとベスト、できたらワイシャツを脱いでもらいたいんだけど……」
匡利は軽く頷くと、ポケットの中身を取り出して籠に入れていく。匡利の持ち物も慶人とあまり変わらなくて、携帯通信機とか財布だ。あと、匡利らしく綺麗にアイロンがけされた深緑色のハンカチも入っていた。次にジャケット・ベスト・ワイシャツを脱いで、慶人と同じようにシンプルなTシャツの姿になった。
「それじゃあ、測るね」
「あぁ」
匡利の側に寄ってさっきと同じようにメジャーで測っていく。たださっきと違って今の私は平静を装っているけれど、いつまでも心臓がドキドキと鳴っている。
全然治まりそうにないけれど、聞こえていないよね……? 普段、こんなに側に寄って何かする事なんてないから、いつも以上にドキドキしているよ~!
ヒヤヒヤとしながらも順番に測って記入をしていく。じっくりとこの時間を味わいたいなと思う反面、このままじゃ心臓が持たなくなりそうな気もした。だから無心に作業を進めていると、心なしか慶人の時よりも早めに終えられた。
「――はい、終わったよ」
乗っていた台から降りながら言うと、匡利は軽く息を吐いてワイシャツを手にした。匡利がワイシャツとベスト、ジャケットを着終えるのを見計らって持ち物が入った籠を差し出す。
「はい」
「ありがとう」
籠から匡利が持ち物を取っていくのを眺めているうちに、なんだか胸のドキドキが少し治まったような気がする。このまま平常心、平常心……。
「――次は誰なんだ」
これ以上ドキドキしないように自分に言い聞かせていたらそう聞かれ、慌てて匡利に目を向けた。
「佳穂か紗奈ちゃんかな」
「呼ぶか?」
「ん~、アオとサオの進み具合を聞いてからにするから大丈夫だよ。ありがとう」
微笑みながら言うと、匡利は頷いてそのままスペースを出て行った。その後姿が暗幕の向こうに見えなくなると、無意識に深いため息を吐いていた。
「(ハァ……心臓が持たないかと思った……)」
匡利が側にいるのなんて慣れているはずなのに、意識しちゃうとやっぱりドキドキするんだよね。でも、さっきはさすがにドキドキする音が聞こえているんじゃないかと気が気じゃなかったな……。これから色々とやる事あるのにその度にドキドキしていたら本当に心臓が持たないから、何とか慣れないとなぁ。
そんな風に一通り反省会をした後、ようやくアオとサオの進み具合を聞こうと《念話》で話しかけた。
「【アオ、サオ。そっちの進み具合はどう?】」
「【私は誠史くんが終わって、今は雅樹君を測っているよ】」
「【私は朔夜君が終わって、もうすぐ玲君も終わるよ】」
「【じゃあ私は慶人も匡利も終わったから、紗奈ちゃんの採寸をしちゃうね】」
そう言って2人との《念話》を切り、今度は紗奈ちゃんに《念話》で話しかけた。
「【紗奈ちゃん、今大丈夫?】」
「【優、大丈夫だよ。どうしたの?】」
「【衣裳の採寸をしたいから、教室まで来られるかな?】」
「【分かった。今、調理実習室だから少し待ってね】」
「【ありがとう。私がいる場所は暗幕にかかっている札を見てね】」
「【了解】」
調理実習室も教室から少し離れているから、紗奈ちゃんが来るまでにサオが持っている記入票をもらいに行く。ついでに紗奈ちゃんの後に測る予定のもう1人の分も受け取った。ちなみにアンジュね。アレックス君は他の衣裳係の5人のうち誰かが測る予定だ。
紗奈ちゃんとの《念話》が切れてからしばらくすると、紗奈ちゃんがやって来た。
「よろしくね、優」
「うん!」
紗奈ちゃんにも慶人と匡利にしたように説明をしつつ、机の上の時計を見た。あと少しで5限が終わる。
「(紗奈ちゃんとアンジュが終わったら他の進み具合を聞いて、衣裳係メンバーの採寸もしなきゃだから……ギリギリ全員分できるかなぁ……)」
そう考えつつメジャーを手に、ジャケットとベストを脱いだ紗奈ちゃんの背中側に回っていた。
その後、アンジュの採寸が終わると衣裳係で集まって全員の進み具合を確認した。みんな自分の担当の分は終えていて、後は衣裳係の採寸だけだった。2日目の予定を確認して話し合いが終わると、丁度6限終了の鐘が鳴って半日準備期間1日目は終わった。
この日は倶楽部に参加する人は向かって、それ以外の人は残って作業を勧めたり帰宅したりしている。私とアオとサオはそれぞれ軽く倶楽部に顔を出して、学園祭に関する話し合いを少ししてから家に帰った。
それから半日準備期間2日目。この日は衣裳係の採寸を終えた後、いよいよ型紙の作成になった。
サオが作ってくれた型紙案を基にウエイターとウエイトレスそれぞれ3サイズを3組ずつ作る。その後はクラスメイトの採寸した表を見ながら、それぞれのサイズを何着作るか決めた。これは私たち以外の5人の子たちが作ってくれている。
私とアオとサオは匡利たちの女装衣装の型紙だ。これはそれぞれの採寸したサイズに合わせて型紙を作る。サオが考えてくれた型紙案を参考に作っているんだけれど、これがまた大変だった。ウエイター・ウエイターの衣装に比べて遥かにパーツが多くて、番号も振っておかないとどれがどれだか分からなくなりそう。
この型紙作成は全員が黙々と作業を進めてもなかなか時間がかかって、半日作業最終日の3日目もやる事になった。結構ギリギリまでかかったけれど、なんとか3日目のうちに予定した分を作り終えることができた。
そして、いよいよ本番前の終日準備期間へと突入した。
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