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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第4章 波乱万丈! ドタバタ学園祭 ~ 準備期間編 ~
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第46話 学園祭実行委員会

  ~ side 咲緒理 ~




 優とアオちゃんと別れてから、私は足早に廊下を進んでいる。会議が行われるのは、3棟ある専門校舎の内の1つであるF棟だ。D棟と渡り廊下をいくつか通ってF棟に入る。それから生徒会室の近くにある生徒会用の会議室に向かった。ここは各委員会と生徒会の全体会議の時にも利用されるみたいで、結構広めの部屋だ。今回の実行委員会の話し合いも生徒会役員と実行委員が各クラス2名ずつ集まると、かなりの人数になるからこの会議室を使っている。最初来た時は生徒が使用する会議室とは思えない広さにビックリしたなぁ……。

 やっと会議室に着いたけれど、あまり人の気配がしない。一応ノックしてからゆっくりと扉を開けた。


「失礼しまーす……」


 会議室の中は3人ずつ席に着けそうな長テーブルがズラッと並んでいる。その中の窓際の席に1人だけ座っている人がいた。その人は私が中に入ると、こちらを振り返った。


「あっ……」

「あぁ、姫さんやないの」

「沖田君……」


 いたのは沖田君だ。沖田君は私を目にすると、いつもの優しい笑顔を浮かべて私を手招きする。一瞬どうしようかと思ったけれど、不思議とその手招きに誘われるように沖田君に近付いた。


「まだ誰もきてへんのや。座ってよう」

「う、うん」


 私はそのまま沖田君の隣の席に座る。手にしていた資料をテーブルに置いて、鞄から筆入れを出す。そこまで済むと、なんとなくソワソワとした気持ちになってきた。

 こういう時って、何か話した方が良いのかな……?

 沖田君とはわりと話し慣れているとはいえ、元々人見知り気味の私には少しだけハードルが高い。でも、無言のままも何だか気まずくて、思い切って話しかけてみる事にした。


「「……あの」」


 声をかけようとしたら、お互いの声が重なって驚いた。沖田君も驚いたみたいで目を丸くしている。途端に、話そうと振り絞った勇気がしおしおと萎びていくのを感じた。


「ご、ごめんね……」

「俺こそスマンな。姫さんからええよ。なんや?」


 穏やかに微笑みながら問われて、私は頬が熱くなるのを感じる。内心ちょっと焦りながら、私は何を話そうかと思考を巡らせた。


「えっと……あの、沖田君のクラスのもう1人の実行委員の子は……?」

「あぁ……。何や知らんけど、ちょい用事がある言うて、後から来るんや」

「そうなんだ……」


 顔だけならすでに2回行われた実行委員会で見ているけれど、どんな子なんだろう……。もし沖田君のファンの子だったら、1つしかない隣の席を取っちゃって悪かったかな……。


「姫さんの方は? 石井が一緒やないなんて、珍しいやんか」

「なんか、ここに来る前に図書室に寄ったら先生に捕まっちゃったらしくて……。それで、先に来たの」

「なんや石井らしいな」


 そう言って苦笑いする沖田君はそんな表情もかっこよくて、私は胸がドキッと鳴るのを感じた。


「(ドキッて何で……?)」


 こんな風に気持ちが揺れるのなんて初めてだ……。その事に内心あたふたとしていたけど、沖田君はそんな私をよそに話を続けた。


「そう言えば、俺のクラスは甘味処をやるんやけど、姫さんのクラスの出し物って何なん?」


 そう聞かれて、何とか平静を装って沖田君の方を見る。


「えっと、カフェだよ。昔ながらの喫茶店風の」

「へぇ、そうなんか。ええなぁ、カフェ。俺、カフェとか喫茶店って好きなんや」

「そうなの?」

「せや。たまに雰囲気のええ所見つけて行ったりしてるで」


 沖田君の好きな物を聞くのはこれが初めてだ。そっか、カフェとかが好きなんだ……。


「ほんなら、当日は俺も行くわ」

「本当? ありがとう」


 嬉しくて思わず笑顔で言うと、沖田君はなんだかいつも以上に優しい微笑みを浮かべる。その視線が不意に私の手元にある資料に向いた。


「……咲緒理ちゃん」

「えっ、はい?」


 これもまた胸がドキッと鳴った。沖田君は普段は「姫さん」と呼ぶのに(これはこれで恥ずかしくはあるけど)、時折こうして名前で呼んでくる事がある。その度に私はいつもと違った意味でむず痒い気持ちになっていた。

 私の戸惑ったような返事を気にせず、沖田君は私の目の前にある資料を指さした。


「あんな、たまたま目に入ったんやけど……。その資料にある『マル秘企画』って何やの?」

「あっ、これ?」


 沖田君が聞いているのは、例の慶人君たちの女装の企画の事だ。

 女装の事が決まった時に朔夜君と慶人君と話したんだけれど、資料に書いても書かなくても生徒会長の慶人君は内容を知っているんだから書かなくても良いって事になって、資料にはこういう風に記載していた。何よりも、慶人君たちが当日を迎える前に周りに知られたくない、と言うのが本音みたいなんだけれどね。

 んー、沖田君は慶人君と仲が良いらしいし、なおさら知られたくないよね……。


「えっと……まだ秘密、です」


 シーッと口元に人差し指を寄せてそう言うと、沖田君は一瞬だけ目を丸くしてから苦笑いを浮かべた。


「え~、ますます気になるやん」

「フフッ、当日を楽しみにしてね」


 クスクスと笑いながら言えば、沖田君も残念そうにしながらも同じように笑っていた。


 それから少しして、実行委員長の萩原(はぎわら)君枝(きみえ)先輩と慶人君、匡利君、玲君、朔夜君が会議室に入ってきた。朔夜君だけ私の隣の席に座って、慶人君たちはそのまま一番前にある長テーブルにこちらを向くように座る。

 さらに数分後、他の生徒会役員や実行委員が集まってきた。その中には当然沖田君とペアになっている子がいる。


「沖田くん! お待た、せ……」


 沖田君に気付いて笑顔で駆け寄ってきたその子は、隣の私に気付くと顔をしかめた。何故私が隣に座っているのかと言いたげな視線に、何だか居心地が悪く感じてつい俯いてしまった。朔夜君が隣にいなければ、多分逃げ出していたと思う。


「別にええよ。……悪いんやけど、席後ろでもええか?」


 沖田君が軽く周りを見る気配がすると、後ろのテーブルを指してそう言う。チラッと相手の子を見ると、心なしか口元が引き攣っているような気がした。……朔夜君はどうして笑いを堪えているのかな?


「……えぇ。大丈夫よ……」

「堪忍な」


 そう言われ、沖田君のペアの子は私たちの後ろのテーブルの席に着いた。横を通った時にもう一度見たけれど、明らかに怒っていたと思う。


「なぁ、沖田。……あの子がいる事忘れていただろう?」

「……ノーコメントでええか?」


 私の頭上で沖田君と朔夜君が顔を寄せて小さな声でボソボソと言い合う。多分後ろには聞こえていないけれど、私にはしっかりと聞こえた。……何で2人ともちょっと楽しそうなの? うぅ、なんだか後ろからの視線が痛い気がする……。

 そうこうしている内に実行委員会会議が開始される。最初の議題は、全学年の実行委員が結構な人数になるから、各学年の代表リーダーを決める事になった。リーダーは主に実行委員長との連絡係になって、実行委員会以外で何か連絡事項ができた時に実行委員長からリーダーへ、リーダーから各クラスの実行委員へ伝える仕組みになる。他には、学園祭当日に各クラスの様子や売り上げを委員会に伝える役目もある。

 3年生は実行委員長がそのまま代表リーダーになって、1年生と2年生はそれぞれ話し合いが行われた。2年生は何人かの推薦と多数決で、なんと沖田君に決まった。沖田君は複雑そうな顔をしていたけれど、任されたからには力を尽くすと言っている。

 リーダーが決まると、今度は各クラスの出し物の発表がされた。内容によっては生徒会や他の委員との意見交換もある。この発表は朔夜君に補助をしてもらいながら私がする事になった。マル秘企画に関して気にする人が少しいたけれど、慶人君が「生徒会の方で把握と承認をしているから問題ない」と言ってくれて、それ以上何か言われずに済んだから良かったな。

 発表の後は当日の発表ブースを決める事になった。まずは自分たちの教室でやるのか否かを聞いて、次に屋内か屋外かで分けられた。その後は屋外のブースと屋内のブースでそれぞれくじ引きを行う。私たちのクラスは屋内の方だ。朔夜君が引いてくれて、見事に第3会議室を確保できた。第3会議室はいくつかある会議室の中でも広めの場所だから、カフェをやるには十分な広さだと思う。ちなみに、教室は私たちA組の生徒が休憩をしたり着替えたりする部屋として使う事になった。


 全クラスの発表ベースが決まると、今日の実行員会は終わり。みんな帰る支度を始めて、椅子を引く音もする。


「お疲れ様でしたー」

「お疲れー」


 会議室のあちこちからそう声を掛け合う声が聞こえてくるのを、私はボーッと聞いていた。朔夜君と沖田君は会議が終わるのと同時に慶人君達の所に行って何かを話している。


「(外、暗くなってきてる……)」


 時計を見ると18時を大分過ぎている。やっぱり下校時刻近くまでかかったな……。

 そう思っていると、後ろの気配が動くのを感じた。沖田君のペアの子だ。前の方にいる沖田君に何やら話しかけている。沖田君はまだ慶人君達と話している最中だったけれど、その子と一言二言話す。途中、慶人君も何か彼女に言っている。少しして、彼女はこちらに戻ってきた。チラッと見ると、眉を吊り上げて怒りを帯びた悔しげな表情をしている。それにビックリしていると、目が合ってしまった。その途端、鋭い目つきで睨まれて思わず視線を逸らしてしまった。


「(や、やっぱりこの席を取っちゃったのが良くなかったのかな……?)」


 そう考えるけれど、もうどうする事もできない。ドキドキとしながらその子の気配を追ったけれど特に何も言われず、後ろの席にあった荷物を持ってそのまま会議室を出て行ってしまった。

 ……何もなくて良かったけれど、次の時は席の場所に気を付けよう……。

 ひとまず今は帰る支度を済まそうと、手を動かした。


「姫さん」


 資料をまとめていると、不意に呼びかけられる。相手はもちろん沖田君だ。顔を上げると、いつの間にか目の前に沖田君が立っていた。


「沖田君。慶人君たちとの話は終わったの?」

「せや。そんで天宮たちなんやけど、まだやらなアカン事があるから、先に帰ってほしいって言うてたで」

「えっ、そうなの……?」


 見ると、確かにいつの間にか慶人君たちはいなくなっている。朔夜君も一緒に行っちゃったのかな? そうなると、帰りは1人か……。

 チラッと窓の外を見る。まだ明るいとは言え空は赤く染まっているし、太陽はもう沈み始めている。暗くなるにはまだ時間があるとはいえ、1人で帰るのはちょっと不安だな……。


「(歩かないで《瞬間移動(テレポート)》で帰ろうかな……)」


 あれやこれやと考えていると、沖田君がテーブルに両手を突いた。


「――なぁ、咲緒理ちゃん」

「うん?」


 見上げると、沖田君は少し力のこもった眼差しで私を見ていた。


「あんな、俺で良かったらなんやけど……家まで送ってくで」

「えっ!?」


 予想外の申し出に思わず声が上がる。


「そ、そんな大丈夫だよ。まだ明るいし、それに何だか悪いし……」


 段々と尻すぼみに言うと、沖田君は苦笑いを浮かべた。


「せやけどなぁ。王都は確かに安全な方やけど、こないな時間に女の子1人で帰せへんよ」

「で、でも……」

「それにな、なんや最近変な奴が出るらしいで。痴漢みたいなんが」

「…………」


 ち、痴漢は嫌だな……。でも、わざわざ送ってもらうのも申し訳ない……。

 どうしようかとオロオロしていると、沖田君は優しい微笑みを浮かべて私を見た。


「俺がそうしたいだけなんや。だから、気にせんといて。なっ?」


 顔を覗き込みながらそう言われる。なんだか沖田君らしいな。……付き合っているわけでもない私を心配してくれる。初めて会った時、見ず知らずの私を助けたあの日からずっと優しい。そんな沖田君なら送ると言ってくれるのも無理ないのかな……。

 しばらく考えてから私は少しだけ肩を竦めて、沖田君を見上げた。


「じゃあ、お願いしようかな……」

「あぁ、任せとき。ほな、行こか」

「うん」


 資料を鞄にしまって立ち上がり、沖田君の隣に並んで会議室を出る。それから家の近くに着くまでの間、私たちは他愛のない話をしながら歩いていた。話題は学園祭の事、授業の事、慶人君たちの事も話した。思いのほか楽しくて30分くらいの帰り道があっという間だった。

 家の門が見えてきた所で沖田君とは別れる事にした。


「――ここまでありがとう」

「構へんて。ほな、またな」

「ありがとう。またね」


 もう一度お礼を言ってから門の方に向かった。門の中に入る直前、なんとなくもう一度振り返ると、沖田君はさっき別れた所にまだいた。私が振り返った事に気付いたのか、沖田君は軽く手を振る。

 私が中に入るまで見守るつもりなのかな? それなら急いで入った方が良いよね。

 急いで門の鍵を開けて、沖田君に軽く手を振り返してから中に入る。《透視》で見てみると、私が中に入ったからか沖田君も自分の家の方へと歩き出していたから、ホッとした。


「……楽しかったな」


 無意識にそう口から零れる。その言葉に自分でもとても驚いた。


「(……私、沖田君と一緒にいて楽しかったんだ)」


 そういえば、いつもよりも胸がドキドキと言っているような気がする。今まで優たち以外と一緒にいてこんな気持ちになった事が無いから凄く戸惑う……。


「……沖田君って、不思議な人……」


 慶人君たちとも、今まで出会ってきた人たちとも全然違う。一緒にいると楽しいけれど、なんだか気持ちが落ち着かない。この気持ちは何なの……?


『……っ、ば……化け物……っ!!』


 ふとした瞬間、頭に響く声がした。


 心の奥底にしまい込んだ遠い記憶。自分が“普通”じゃない事を認識させられる言葉……。自分が何者なのかを忘れてはいけないと囁く言葉……。

 沖田君は“普通の人”だ。私がこれ以上踏み込んではいけない人なの……。


 胸の前でギュッと拳を握り締め、一度深呼吸をする。頭を振り、呼び起こした記憶をもう一度しまい込んだ。


「――よしっ」


 ざわついた気持ちも落ち着いた。今は今日の楽しかった事だけを考えよう。そう心に決めて、私は優たちが待つ家へと歩き出していた。




 ただ、私も沖田君も気付いていない事がある。

 会議室を出てから私たちが別れるまでの間、ずっと後ろについてくる人影があった事を……。その“誰か”が憎しみのこもった鋭い目で私を見つめていた事を……。

 そして、この先で“あんな事”になってしまうとは、誰一人知る由もなかった……。




ここまで読んで下さり、ありがとうございました!




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