第45話 準備期間に向けて
すみません、1日遅れになりました。
出し物が決まった2日後、この日も1限がLHRになって各班で話し合いが行われている。
私たち衣裳班はウエイターとウエイトレスのデザインをそれぞれ持ち寄って、その中から候補を絞った。その後、クラス全員の多数決を取って、最終的なデザインが決まった。ウエイトレスは黒いワンピースで襟と袖口が白い。ウエイターは白いシャツに黒のベストとズボンだ。どちらも結構オーソドックスなデザインだね。エプロンはどっちも腰エプロンなんだけど、色を何種類か用意して選んでもらう事になった。どんな色を用意するかは私たち衣裳係に任されている。
桜先生から布の種類と色が載ったカタログを借りて、衣裳係のみんなでどんな布で作るか話し合った。サオの勧めで服の方は一般的なコットン生地で、エプロンの方はさらに撥水加工をしている物にする事になった。
「――じゃあ、来週の木曜日に布の見本が届くから、その時にエプロンの色も最終的に決めよう」
カタログから何種類か候補を選んで、あとは実物の見本を見て決めることにした。ひとまずウエイターとウエイトレスのデザインも決まったし、大体の今後の日程も決まったね。
「――あとは匡利たちの女装の衣装だけかぁ……」
私がそう呟くと、途端に衣裳係のメンバーは黙り込んでしまった。
女装の衣装だけは私たち衣裳係がデザインから全て決めて、お披露目は学園祭当日という事になった。その方が楽しみも増えるよねって言うのもあるけど、何より匡利たちがデザインの話し合いとか全部嫌がっているんだよね……。さすがに最終チェックの衣装合わせだけしてもらえるようにお願いできたけどさ。
「あの……」
どうしようかと考えていると、メンバーの1人が恐る恐る声をかけてきた。
「どうしたの?」
返事をすると、その子は何か言いづらそうに他の衣裳係の子に視線を向けた。私もアオとサオに目を向けるけれど、2人も不思議そうに首を傾げている。すると、意を決したように他の衣裳係の子たち5人が私たち3人を見た。
「お願いなんだけれど、天宮くん達の女装の衣装、汐崎さんと大野さんと日向さんにやってもらいたいの」
「えっ? 私たち3人に?」
困惑して顔を見合わせていると、5人は次々に頷いた。
「もちろん、他のみんなの衣装は私たちがやる。でも、天宮くん達の分は3人に任せたい」
「……一応、理由を聞いても良い?」
リーダーのサオがそう聞くと、5人は困ったような表情をする。
「……衣裳を作るってなったら採寸や衣装合わせに、場合によっては天宮くん達と話し合わなければいけないでしょう?」
「そうだね」
「でも天宮くん達、女装するのを凄く嫌がっているでしょう?」
まぁ、そうだね……。私たちに当たり散らすような真似はしないけど、元凶のアレックス君には時々怒りを募らせているような気がするよ……。
「……そんな彼らに採寸したり話し合ったりなんて、とても私たちには……」
「あ~、そういう事ね」
確かにあんな状態の匡利たちに近付くなんて慣れていない子にはできないか……。特に慶人なんてメチャクチャ怒っているしなぁ……。アオとサオもそれが分かったのか苦笑いを浮かべている。
「それにデザインによっては凄く複雑になりそうでしょう? 私たちのレベルだと、さすがに難しいかなって……」
確かに聞いてみると、4人はレベル15になったばかりらしいし、もう1人はレベル13だと言っていた。どんな衣装を作るかは決まっていないけれど、複雑な物にはなると思うから確かに難しいかも……。
チラッとアオとサオを見ると、2人とも肩を竦めて私を見ていた。私が苦笑いで頷くと、2人も頷き返してきた。
「分かった。慶人君達の女装の衣装は私たちがやるね」
サオがそう言うと、5人は安堵の表情を浮かべた。
「ありがとう! あと、天宮くん達のウエイターの衣装も一応作るじゃない? その分もお願いしたいんだけど……」
「えっ……」
返事に困って言葉が詰まったけれど、5人は期待の眼差しで私たちを見ている。とても断れる雰囲気じゃない……。サオが確認するように私とアオを見て、仕方ないと頷いた。
「……分かった、良いよ」
サオが返事をすると、5人は嬉しそうだ。……そんなに匡利たちに近づくのが怖いかな?
首を傾げていると、丁度授業終了の鐘が鳴ってこの日の話し合いは無事に終わった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
匡利たちの女装衣装を任されてから数日。私とアオとサオは暇さえあれば集まって話し合いをしていた。でもなかなか決まらず、土日を過ぎて月曜の夜になった。3日後には布見本が大量に届く予定だし、日程を考えると今週中には使う布を決めて発注をしたい。そうなると、遅くてもあと2日でデザインを決めてしまいたいんだけど……。
「――決まらないねぇ。デザイン……」
ため息交じりにアオがそう呟き、私とサオは同意するようにため息を吐いた。
今はサオの部屋に集まっていて、サオの持っている色んな衣装のカタログを見ているけれど、全然いいのが思い浮かばない。
「……1回休憩しよう。カフェオレでも淹れてくるね」
「ありがとう、サオ」
サオは台所に向かい、私とアオはパラパラと目の前の本を捲る。本当にどうしたものかな……。
しばらくしてサオが戻ってきて、私たちは一息を吐いた。
「――それにしても、あの6人に似合う衣装って何なんだろうね……」
カフェオレを飲みつつそう呟くと、アオとサオは首を傾げる。色々とカタログを見るんだけれど、どうにもピンとくる物がないんだよね。それに……。
「……正直、普通の女装衣装だとあの6人の見た目に服の方が負ける気がするんだよね」
「確かに……」
「みんな、顔が綺麗だもんね。特に慶人君と匡利君と雅樹君は言っちゃうと“派手”って感じだし、他の3人も華やかだしね」
「あと、当日は絶対メイクをするでしょう? そうすると、さらに迫力のある美人というか、派手さと華やかさが出ると思うんだよね……」
「「確かに!」」
そうなると、もういっそのこと普通の服じゃなくてちょっと豪華な衣装にしちゃった方が良いんだろうなぁ……。
そう考えた私はサオがたくさん出してくれた本の中からドレスとかが載ったカタログを出した。
「この際だから作るのはちょっと大変だけれど、色々とモチーフを決めて豪華なのにしちゃわない?」
「良いんじゃないかな」
「それなら決められそうだね」
2人も賛成してくれて、早速手にした本を読み始めた。
「慶人はもうドレス一択だね。色は豪華に赤とかにしたら似合うんじゃないかな? モチーフはズバリ『お姫様』でどう?」
「良いかも!」
丁度見ていたカタログになかなか豪華な赤いドレスの写真がある。これを参考にしてデザインを起こせばいいんじゃないかな。
「じゃあ匡利くんは?」
匡利かぁ……見た目は完全に“洋”って感じだけど……。
「匡利って背も高いし、結構体型がガッチリしているんだよね……」
「確かに筋骨隆々って感じではないけれど、誠史くんとか慶人くんに比べたらガッチリしているかも……」
「うん。だから、慶人みたいにドレスって言うより、ボリュームのある服の方が良いかなって思う」
「それなら、こんなのはどうかな?」
サオがそう言って見せてくれたのは、世界の民族衣装が載った本だ。その中の「華楊大国」の服を指している。
華楊大国は、前世での中国みたいな国だ。歴史とか文化とか、料理もほとんど同じ感じなんだよね。サオが指している服も前世で小説とかの表紙で見かけた服装だ。確か「漢服」って言うんだっけ。
「これのもっと豪華な感じにしちゃえば体型を隠せるし、匡利君の見た目にも合うんじゃないかな?」
「良いかも……。装飾品とかもジャラジャラいっぱい着ければ、匡利の見た目に負けないね」
「モチーフはどうする?」
アオに聞かれて少し考える。前世だったら「楊貴妃」って答えるけれど、こっちの世界なら……。
「……華楊一の美女って言われた『董貴妃』かな」
董貴妃は、前世で有名な楊貴妃みたいに「傾国の美女」と言われた人だ。相当な美人だったらしいけれど、匡利が華楊大国の服を着るのなら、モチーフとしてぴったりだと思う。
「じゃあ、匡利君は決まりだね。誠史君はどうする?」
「んー、誠史くんならちょっと可愛い寄りでも似合うと思うんだけれど……」
「……それならさ、こんなのはどうかな」
私は適当な紙にササッと簡単な絵を描く。黄色と青が基調のドレスで、頭には赤いリボンを着ける。
「これは?」
「えっと……海外の小説に出てくる『白雪姫』っていうお姫様のドレスだよ」
この世界に「白雪姫」のお話は無い。ただ、前世ほど簡単に海外の本は手に入らないし数も多くないから、これで多分誤魔化せると思う。
女装の話が出た時、ちょっと考えたんだよね。誠史にはあの某アニメ映画の衣装が似合いそうだなって……。ただ、さすがにどんなドレスだったかはうろ覚えだから、実際のとはちょっと違うかもしれないけれどね。
「可愛い……誠史くんに似合いそう」
「じゃあ、これにしようか?」
「うん!」
2人も賛同してくれて、誠史の衣装はこれで決まった。次は朔夜かな。
「あのね、朔夜もちょっとこういうのはどうかなって言うのがあるんだけれど……」
そう言いながらさっきと同じように簡単に絵を描く。赤と黒が基調のドレスでモチーフはハートだ。
「これは?」
「これも海外小説に出てくるキャラクターなんだけれど、その名も『ハートの女王様』」
これも似合いそうだなぁって思っていたんだよね。ただ、朔夜も匡利みたいに体型がガッチリしているから、ちょっと元のデザインよりもボリュームを多くしたよ。
「へぇ。確かに朔夜くんに似合いそうだね」
「でしょう? 袖を大きくゆったりさせれば、筋肉質な腕も気にならないんじゃないかなって思うんだよね」
「良いと思う。朔夜君はこれにしよう」
これで4人決まった。あと2人だ。
「玲はどうかな?」
「んー……個人的に、玲くんは“和”かなぁって思うんだよね」
「確かに……」
「それなら、玲は『和風のお姫様』かな?」
現在の瑞穂国の王族は、特別な儀式の時以外は洋装だ。ただ、昔は当然和服を着ていた。つまり着物だ。この辺りも結構日本と似ているんだよね。
和風のお姫様というと、私が真っ先に浮かぶのが十二単だ。こちらの世界にもあったと歴史で学んだ。ただね……。
「……カフェをやるのに十二単は無理じゃない?」
サオの言う通りだった。十二単って相当重いらしいし、何より場所をかなり取る。それで接客はいくらなんでも無理だ。
「んー、それなら普通に着物にする? ちょっと髪飾りとか派手にして」
「良いと思うんだけど……当日の着付けって私たちがするんだよね?」
「……できる?」
3人で見つめ合い、ほぼ同時に首を傾げた。全員の答えは聞かなくても分かる。否だ。
一応着物は着た事あるのよ。毎年1月1日に着物を着てお参りに行くから。でも、いつもお店に行って着付けてもらっているから手順はさっぱり分からないし、たとえ分かっていてもできる気が全くしない。
「困ったな。一度和服って思ったら、それ以外が思い浮かばないし……」
「そうだねぇ……」
「……いっそ浴衣にする? それだったら着物より難しくないと思うんだけど」
あ~、確かに浴衣ならいつも自分たちで着ているから着方は分かるかな……? それに、確か玲ってたまに自室で浴衣を着ているって聞いた事があるような気がする。
「良いと思う。浴衣なら玲もある程度着方が分かっているかもしれないし」
「じゃあ、それで決まりだね」
よしっ。玲も決まったから、あとは雅樹だけだね。個人的に雅樹にはしてもらいたい格好があるんだけど、この世界にあったかな……。
さっき見ていた世界の民族衣装の本を手に取って、パラパラと捲ってみる。そうしたら、ちゃんと中東地域のページに乗っていた。その中でも「アラビア王国」と言う国の衣装の1つだ。
「ねぇ、雅樹にはこれが良いなぁって思うんだけど、どうかな?」
私が2人に見せたのは、前世の「千夜一夜物語」に出てくるような踊り子の衣装だ。
「わぁ。雅樹くんに似合いそう」
「でしょう? 雅樹って他のみんなより細身だからこういうのも似合うんじゃないかなって思って……。まぁ、所々改良した方が良さそうな部分はあるけど」
基本的に踊り子の衣装は露出が多い。そのままだと多分雅樹は嫌がって着ないだろうから、少し抑えめの物を考えた方が良いと思うんだ。そう言うと、サオが布のカタログを取り出した。
「腕とか脚とか筋肉が目立つところは透けない布を使って、お腹とかはシースルーの布地とかあるから、そういうのを使えばいいんじゃないかな? これみたいに顔半分を隠すデザインにも使えると思うし」
サオの言う通り、目元だけ出して顔の下半分を隠しているデザインもある。うん、これは雅樹のミステリアスな雰囲気に似合いそう。
「モチーフは『アラビアの踊り子』かな?」
「そうだね。……これで全員分決まったかな?」
「うん。じゃあ、あとは具体的なデザインだね」
チラッと時計を見るとあと2時間ほどで日が変わる。でも、このままの勢いでやってしまいたい。アオとサオを見れば、2人とも同じような表情をしている。
「――よしっ、じゃあもう少し頑張ろうか」
「「賛成!」」
そう声をあげるのと同時に私たちはデザイン画を描くための紙を出した。サオは同時に型紙のラフ案も作るみたいでそのための紙も用意している。
そして、私たちの話し合いは日を跨いでも続き、刻一刻と時が過ぎていった……。
「フアァ~……」
翌朝、私は大きなあくびをして目を擦りながらダイニングルームに向かった。私の後ろには同じような様子のアオとサオがいる。何なら2人とも目の下のクマが凄いし、なんとなくげっそりとした表情をしている。……多分、私もだね。
そんな状態でダイニングルームに入ったら、すでに他のみんなは揃っていて、私たちを目にした途端ギョッとして目を見開いた。何ならちょっと引いているような気がする。
「お前たち、一体どうしたんだ……」
「ん……ちょっとね……」
口元をひくつかせて慶人が真っ先に聞いてきた。でも、あまり働いていない頭でその問いかけに答える余裕はない。何なら今はしょぼしょぼとしてぼやける視界で、自分が座る椅子を探すので精いっぱいなのよ……。
「……考えたくはないが、俺たちが学園祭で着る衣装を考えていたんだろう。……しかもほぼ徹夜で」
「玲君、正解……」
サオがあくびを噛み締めながら答えて、空いていた佳穂と紗奈ちゃんの間に座った。アオは誠史が隣に座らせて、目を擦る手をやんわりと止めている。私も空いている席を見つけて座ると、そこは匡利と玲の間の席だった。あまりに酷い顔だと思うから匡利に見せたくないんだけど、他に席は空いていないし、あったとしても移動する気力は無い。うつらうつらとしていたら、匡利が目の前の大皿からパンを取ってお皿に乗せてくれた。
「ありがと……」
「……寝たまま食べるなよ。喉に詰まらせる」
「うん……」
とりあえず小さくちぎりながらモソモソと食べ始める。そうしたら玲が牛乳をコップに注いでくれた。一方でアオは誠史に食べさせてもらっているし、サオは隣の佳穂が補助してあげている。
「何だってそんなになるまでやっていたんだ」
若干呆れ交じりに慶人が言うと、私たちは「うーん」と首を傾げた。
「気付いたら明け方だったの……」
「すぐに解散して寝ようとしたんだけど……」
「なかなか寝付けなかったの……」
「それで結局一時間しか寝られなかった……」
私、アオ、サオで順に言葉を紡いで、最後にもう一度私があくびを噛み殺しながらそう言った。私たちのセリフに慶人たちは言葉を失っている。やりすぎなのは分かっているよ……。
「何人かは衣装デザインと一緒に型紙案もできていて……残りもあとちょっとでできそうなの……フアァ~……」
どうしよう……。全然あくびが止まらない。何なら瞼はほぼ閉じているような気がする。持っているパンを落としそうになったら、横から匡利がそのパンを取ってお皿に戻していた。ちぎった分だけ口に運んで、残りはもう食べるのを諦めよう。無理だ……。
「……今日は学校を休んだらどうだ」
私たちの様子に心配になったのか、慶人がそう言ってきた。それができたら良いんだけどねぇ……。
「ん~……でも、今は準備期間に向けて色々忙しいし……」
ポツリとアオが言うと、サオが同意するように頷いた。
「私は今日3回目の実行委員会があるから……」
「俺も出るから大丈夫だぞ?」
サオのセリフに朔夜が言うと、サオは緩々と首を振った。
「ううん……朔夜君だけに任せきりは悪いよ……実行委員会は放課後だから、多分それまでに復活すると思う……」
「……そうか」
真面目なサオらしいセリフに朔夜はそれ以上何も言わない。
「……とりあえず、多分これくらい大丈夫だよ……」
最後に私が言うけれど、ほぼ目を閉じている私に正面の慶人は明らかに怪訝そうな顔をしている。
「……説得力がねぇぞ」
私たち3人を順に見た慶人はそう呟き、他のみんなも乾いた笑いを浮かべていた。
「(――ダメだ、全然集中できない)」
当たり前と言えば当たり前だけど、学校に行ったのは良いもののまったくもって集中できなかった。しかも1限の授業は寄りにもよって現文だ。教科書を読む先生の声がまるで子守唄のように聞こえて、眠気が倍増している。それはアオとサオも同じみたいで、斜め前に座る2人も眠そうだ。……アオに至っては完全に寝ているかもしれない。隣の誠史がメチャクチャ苦笑いを浮かべている。
ノートを書こうとするけれど、ミミズみたいな文字が並ぶだけで何が何だか分からない。板書の写しが全く追いつかなくて、なんとか書こうと思っていた部分を今まさに消された。
「…………」
ボーッとする頭でしばらく考えた後、1ページ分を空けて次の板書を写し始める。でもやっぱりノロノロとしか書けなくて、結局書き終わらないうちに無情にも消されてしまった。
「(……諦めよう)」
これはどうしようもないと悟り、私は鉛筆を置く。それからは完全に寝入ってしまわないように耐えながら、教科書を読む先生の声を聴いていた。
授業終了の鐘が鳴って先生が教室を出ると、私とアオとサオはほぼ同時に立ち上がった。アオ、一応起きていたんだね……。
「「「やっぱり無理!」」」
3人で声を揃えて言うと、ちょうど真ん中にいた佳穂が苦笑する。それから側まで来ていた慶人が呆れ顔になった。
「だから言っただろう」
「予想以上に無理だった……」
「ねぇ……」
「ここまでとはね……」
そう話している間にも私たちはストンと椅子に腰を下ろしてうつらうつらとする。その様子を見ていた慶人が盛大にため息を吐いた。
「潔く休んで来い。先生には誤魔化しといてやるから」
そう言って渡されたのはいつもの屋上の鍵だ。屋上は本来特別な事がない限り生徒の出入りは禁止されていて、使う時は職員室で管理されている鍵を借りる事が決まりになっている。でも、生徒会でも一部管理がされていて、この鍵も慶人が任されている物だ。どう交渉して任されたのかは謎なんだけれどね……。
私はアオとサオと視線を交わし、2人も限界だったみたいで、誰からともなく立ち上がった。
「……じゃあ、よろしくね」
慶人にそう言って鍵を受け取り、私たちはそのままいつもの屋上へと向かった。
屋上に出ると鍵をしっかりと閉め、念のため慶人たち以外は来られないように結界を張った。ついでに結界内の温度調節もしておく。秋になって暑くも寒くもないけれど一応ね。
それからいつもお昼に使っているシートを敷くと、私たちはそれぞれの《無限収納》からクッションとかブランケットとかを取り出した。私に至っては抱き枕代わりのハムスターの大きなぬいぐるみも持ってきている。
「こうなる気がして一応持ってきて良かったね」
苦笑してそう言うと、アオとサオも同意するように頷いた。
「とりあえず、みんながお昼に来るまでは休んでいようか」
「そうだね」
「じゃあ、おやすみー」
それぞれ横になって、アオの言葉を皮切りに屋上が静まり返る。数秒後には2人の静かな寝息が聞こえてきた。私もぬいぐるみをギュッと抱きしめて目を閉じる。そして、すぐにも眠りの世界へと沈んでいっていた……。
その後、私たちが目を覚ましたのは午前の授業が全て終わり、慶人たちが屋上に来てからだった。みんなに起こされた私たち3人はすっかりと回復していた。お昼ご飯を食べて、午後からの授業にはちゃんと出席する。よく眠れたからか、なんだかいつもよりも授業に集中できた気がするのは、ここだけの話だ……。
午後の授業と帰りのSHRが終わって、クラスのみんなは倶楽部に向かったり帰り支度をしていたりする。匡利と慶人と玲は実行委員会の準備があるからって早々に教室を出て行った。誠史と雅樹と紗奈ちゃんと佳穂は倶楽部に行くらしい。朔夜は図書室に行ってくるとサオに声をかけていた。
「さすがにあっという間の1日だったね」
「そうだね」
アオの言葉に苦笑いを浮かべる。午前中は何もなかったも同然だからね……。帰ったら佳穂たちに午前中の授業のノートを見せてもらわないと……。
そんな事を考えていたら、サオの鞄から音が鳴る。通信機の呼び出し音だ。サオは通信機に出てしばらく話すと、肩を竦めてこちらを振り返った。
「朔夜君、図書室で先生に捕まっちゃったみたい。しばらくかかるから先に行っててだって」
「あらら、そうなんだ。2人はこれから実行委員会だよね?」
「そうだよ。多分、下校時刻までかかると思うから、優とアオちゃんは先に帰っていてね」
そう言うと、サオはチラッと時計に目を向ける。
「……あと30分くらい時間あるけど、もう行こうかな。2人とも、気を付けて帰ってね」
「うん、ありがとう」
「サオちゃんも気を付けて帰って来てね」
「うん。また家で」
サオは自分の鞄と実行委員会の資料を手にすると、私たちに手を振りながら教室を出て行った。私とアオはしばらく教室に残って帰りに何処か寄ろうかと相談をする。それが決まると、私たちは帰路についていた。
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