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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第4章 波乱万丈! ドタバタ学園祭 ~ 準備期間編 ~
44/53

第43話 出逢いの思い出


「ハァ~……」


 学園祭実行委員を決めた日の夜、静かなダイニングルームにサオのため息の声が響く。サオはずっと何も言わないままため息ばかり吐いている。夕飯を食べながらもため息を吐いていて、私たちは何も言わずにその様子を眺めていた。


「【これで通算14回目のため息だな】」


 《念話(テレパシー)》を使って朔夜がそう言ってきた。数えていたのね……。


「【そんなに嫌なんだね、実行委員】」


 誠史の苦笑交じりの声も聞こえてくる。あまりにもサオが気落ちしているから、なんとなく話せずにいる私たちはずっと《念話(テレパシー)》で会話をしている。


「【とりあえず優たち、食事の後にでも慰めてやったらどうだ】」


 慶人からのご指名だ。まぁ、元々そのつもりではいたんだよね。


「【了解。夕飯の後、このままここでお茶でも飲もうかと思っているから、任せてよ】」

「【頼むな】」


 さてさて、サオのご機嫌は直るかな?




 夕飯の後、私たちはいつも通りダイニングルームでお茶を飲んでいる。誘ってみたら、サオも参加してくれた。


「ハァ……面倒な事になっちゃった……」


 お茶を飲み始めて数分後、やっとサオからため息以外の言葉が発せられた。


「あらあら」

「“あらあら”って、紗奈ちゃん~!」


 サオは頬を膨らませ、珍しく怒り交じりの声で紗奈ちゃんに詰め寄る。


「えっ?」

「私を実行委員に推薦したのは紗奈ちゃんでしょー!?」


 うんまぁ、確かに紗奈ちゃんが発端なんだよね。というかサオ、うっすら涙浮かべているけどそんなに嫌なの? サオの反応には紗奈ちゃんも少しタジタジだ。


「えっと……」

「そもそも何で私なの? 他にもできそうな人いっぱいいるのに!」


 涙目のサオに紗奈ちゃんは困った表情で頬に手を当て、首を傾げた。


「んー……だって、少しでも沖田君との接点を増やしてあげようかなって思って……」


 あぁ、なるほど。そう言う意図があったのね。


「紗奈ちゃん、さすがだね!」


 アオは妙に嬉しそうに紗奈ちゃんを絶賛している。確かにサオと沖田くんの関係性を考えたらグッドアイデアだね。……当の本人はポカンとしているけど……。


「接点って……えっ、何で……?」

「何でって、さーちゃんって沖田君の事、好きなんでしょう?」


 戸惑うサオに紗奈ちゃんはにこにこと笑いながら言う。今までの反応からして私もそうだと思うんだけど……。


「私もそう思ってた!」

「アオちゃんも? やっぱりそう思うよね」


 キャッキャと手を取り合いながら盛り上がるアオと紗奈ちゃん。その様子を隣にいる佳穂が苦笑しながら眺めている。


「……あの」


 蚊の鳴くような声が聞こえてきてサオの方を見ると、何故か頭を抱え込んでいた。


「凄く言いづらいんだけどね……」

「どうしたの? サオ」

「だから、その……私、沖田君の事、そう言う風に見てない、よ……」


 恐る恐るとそう言うサオ。一瞬、ダイニングルームの時が止まったような気がした。


「「……なにぃ!?」」

「わっ!?」

「やっぱり……」


 アオ、紗奈ちゃんは同時に我に返りサオに詰め寄った。アオたちの剣幕にサオは目を白黒とさせて戸惑っている。佳穂だけは予想していたのか、私と目を合わせて肩を竦めている。まぁ、自覚は無いだろうなとは思っていたけど、やっぱりね。


「沖田君の名前を聞いて顔を赤くしていたじゃない!」

「うんうん!」

「話す時はいつも恥ずかしそうにしているし!」

「そうそう!」


 紗奈ちゃんの言葉にアオが同意するように頷く。アオたちの反応と言葉にサオはすっかり困った顔をしている。


「あの、でも、好きだなんて私、一言も言っていないよ……?」


 まぁ、本人がそう言うのならそうなんだろうね。……いつ頃自覚するのかなぁ?

 一方でアオと紗奈ちゃんはがっくりと残念そうに椅子に座り直した。


「そんなぁ……」

「つまらない……」


 心底残念そうなアオと紗奈ちゃんに、サオは乾いた笑いを浮かべている。


 というか、そもそもサオは沖田くんといつ出逢ったんだろう? 私が沖田くんの事を知ったのは中学3年生の時に慶人の紹介だったけど、サオはその時すでに知っていたみたいなんだよね……。いい機会だから聞いてみようかな。


「――ところでさ、サオ」

「なぁに、優」


 私の呼びかけに、サオは笑顔で振り返る。


「ちょっと気になったんだけどね。私たちが沖田くんと知り合ったのって中3の時の今頃じゃない?」

「そうだね」

「でも、あの時の沖田くんとサオ、なんとなく初対面じゃないような気がしたんだけれど……」

「うん。その前に1度だけ会っているよ」


 あっ、やっぱり勘違いじゃなかった。アオたちは初耳みたいで結構驚いている。


「えっ、嘘。知らなかった」

「あれ? 話した事なかったっけ?」


 アオの言葉にサオも首を傾げている。それに対してアオと紗奈ちゃんと佳穂はこくこくと頷く。


「気のせいじゃなかったんだ。でも、クラスも違うし委員会も倶楽部も違ったじゃない。どうやって知り合ったの?」

「それはね――」


 私の問いにサオは懐かしそうな笑みを浮かべる。そして、どこか遠くを見つめて話し始めた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ~ side 咲緒理 ~




 あれは中学3年生になったばかりの頃。あの日はSHRの時間に集会がある日だったんだけれど、私は朝から倶楽部の顧問の先生に用事を頼まれていたの。そのせいで朝に伝えられた集会の場所を聞きそびれちゃったんだ。結構ギリギリで用事の後、直接行くしかなくて、顧問の先生にも聞けなかったんだよね。

 それで、試しに集会が良く行われる第1講堂に行ってみたんだけれど、そこには誰もいなくて本当に困っちゃったの。


『(どうしよう……どこで集会なんだろう……)』


 中学生は学校内での通信機の使用は禁止だし、《念話(テレパシー)》で聞くにも魔力探知機に反応したら困るし、途方に暮れていたんだ。


『――おいっ! そこの3年生!』


 突然声がして振り返ったら、少し若い男の先生が肩を怒らせてこっちに向かってきていたの。後から知ったんだけど2年生の騎士クラス担当の新任の先生で、その時の私には全く見覚えのない先生だったんだ。


『こんな所で何をしている! もうすぐ集会が始まるぞ!』

『す、すみません……』

『出席しないつもりだったのか? まったく、これだから素行の悪い者は……』


 苦々しげに言われて驚いたんだけれど、その先生は私が集会をサボる素行不良の生徒だって決めつけてきたの。あまりの事に唖然としていたら、今度はキッと睨みつけてきた。


『何を考えてそんな色に染めたんだ、その髪』

『……えっ?』

『それに、何だ。目の色を変える魔法薬も使っているのか? 学校は遊びに来る場所じゃないんだぞ!』

『いやあの、えっと……』

『とにかく! 明日までに黒く染め直して、解毒薬を飲んできなさい!』


 この先生、ちっとも私の話を聞こうとしないし、決めつけて次から次へと色々と言ってくるし……集会にも遅れそうで、本当に困っちゃったの。でも、無視するわけにもいかないからひとまず弁明する事にしたんだ。


『あの、先生。この髪と瞳の色は生まれつきです』

『生まれつきだと?』

『はい。学校からの許可も下りています』

『それなら、その許可証を見せてみろ』

『それは……』


 そう言われて、また困ってしまった。確かに許可証は持っているけれど、教室の鞄の中にあるのであって手元にはない。でも、目の前の先生は「早く出せ」と言わんばかりに睨んでくる。

 本当にどうしようかと、私はすっかり困り果てていたの。


 そこへ現れたのが、沖田君だった。


『先生』


 声がして振り返ると、颯爽とこちらに向かってくる沖田君がいた。この時の私は誰か分からなかったけれど、先生は面識があったのか相手が分かると肩を落としていた。


『なんだ、沖田か。どうした』

『校長先生が探してはりましたよ』

『……チッ』

『(か、感じ悪い!)』


 多分、本人は小さくしたつもりだったんだろうけれど、明らかな舌打ちの音に私は唖然とする。そんな私の視線に気づかず、先生はため息を吐いた。


『分かった。お前たちも早く集会に向かえ』

『はい』


 苦々しげにその場を去る先生に対して、沖田君はにこやかに返事をした。先生の姿が見えなくなると、私はやっと一息つく。そして、横に立つ沖田君を見上げた。


『(そう言えば、この人誰……?)』


 沖田君の事を知らなかった私は、そう思いながら見つめた。そうしたら、私の視線に気付いた沖田君がこっちを振り返ってニコリと笑った。


『なんや自分、大変やったな』

『(この言葉遣い……浪華(なにわ)言葉、だっけ?)』


 あまり王都では聞かない浪華言葉に驚いていると、沖田君は右手を差し出してきた。


『俺、3-Bの沖田侑哉や。自分は?』

『えっと、3-Aの日向咲緒理です』

『よろしゅうなぁ』


 差し出された手を握り返しながら言うと、沖田君は人当たりの良い笑顔のままそう言う。


『ところで、日向はん』

『はい』

『もうすぐ集会の時間やけど、どないしてここにおるん?』

『えっと、倶楽部の顧問の先生の用事をしてたら少し遅れて、集会の場所が分からなくて……』


 あまり慣れていない人との会話に緊張してポツポツと答えると、沖田君は納得したように頷いた。


『せやったら、丁度俺もこれから向かうし、案内するで』

『あ、ありがとうございます』

『ええって。あとな、同い年なんやから敬語やなくて、もっと気楽に話してええんやで』

『はい……じゃなくて、うん』


 思わず敬語で返事しちゃって、慌てて言い直すと沖田君は楽しそうに笑った。初対面の人とこんな風に話すのは初めてで少し戸惑ったけれど、この時の私は嫌な気はしていなかった。

 そのまま沖田君の案内で、私たちは集会が行われる第3講堂へ向かった。


『……ところで、さっきのは大丈夫やったんか?』

『えっ?』

『さっきの先生や。あの人、頭は固いわ厳しいわで、捕まるとなかなか放してもらえへんからなぁ』

『(もしかして、助けてくれた……?)』


 沖田君が声をかけてきた理由が分かって、私は不思議と心が温かくなった。放っておく事もできたはずの場面で、沖田君は私を助ける事を選んでくれた。たったそれだけの事が、私にはとても嬉しかった。


『それで、何で捕まっててん?』

『えっと……髪の事で、ちょっと……』


 思わず言い淀んだ。それまで優たち以外に私の髪を好意的に見てくれた人はいなかったから……。


『髪? そういうたら、黒か思たら青っぽい色やな。どっち言うたら紺色やろか?』


 まじまじと見てくる沖田君に私は冷や汗が流れるのを感じた。これまで言われ続けた批判的な言葉を言われたらと思うと、無意識に唇を噛み締めて拳を固く握っていた。


『――せっかく綺麗やのに』


 不意に聞こえてきたのは、あまりにも予想外の声だった。驚いて沖田君を見上げると、彼は微笑みながら私を見つめていたの。その表情で沖田君が本気で言っているって分かった。


『滅多にないんやないの? そないに綺麗な髪。地毛なんか?』

『う、うん……』

『へぇ、ほなら別にええやんなぁ。地毛やったら許可ももろてるんやろ? 何を文句言うとったんや、あの先生』


 心底訳が分からないと言いたげに沖田君は眉を顰めた。まるで自分の事のように怒ってくれる沖田君に正直私は困惑していた。だって、今までこんな風に言ってくれる人はいなかったから、何て返したらいいのか分からなかったの。


『気にせんでええと思うで、咲緒理ちゃん。似合うとるし、メッチャ綺麗なんやから。もっと自慢したってええと思うで』


 沖田君に満面の笑みで褒めてもらった上にサラッと名前まで呼ばれて、私は顔が熱くなるのを感じた。そして、何とも言えない温かい気持ちが心に広がったの。


『……ありがとう』


 やっとの思いで言えたお礼は消え入りそうなくらい小さな声だった。それでも沖田君にはしっかりと届いたみたいで、沖田君はとても嬉しそうに笑ってくれていた……――




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ~ side 優梨 ~




「――という訳なの」

「へぇ~、そんな事があったんだね」


 アオは頬を緩めながらそう言う。サオからは滅多に聞けないロマン溢れる話に、私たちは興味津々だ。


「沖田君はみんな以外で初めて私の髪を褒めてくれた人なの。それが凄く嬉しかったんだ……」

「確かになかなか認められないし、そんな風に言われないもんね」


 私はチラッとこの場にいるみんなの髪に目を向ける。私は金髪、アオは真紅、佳穂は雀茶色、紗奈ちゃんは金茶だ。サオが沖田くんから綺麗だと言われて、それがどれだけ嬉しかったのはよく理解できる。たださ……。


「それで?」

「それでって……何が?」


 試しに聞いてみると、サオはキョトンとした顔で聞き返してくる。やっぱり……!


「(普通そこで恋に落ちるでしょう!?)」


 心の中で全力で突っ込んでいると、アオと紗奈ちゃんも似たような顔をしている。多分、アオあたりは「最高のシチュエーションなのに」って思っていて、紗奈ちゃんは「鈍い!」とでも思っているんだろうな……。佳穂はそんな私たちの思っている事が解るのか、声に出さず笑っている。

 唯一、サオだけは心底分からないと言いたげに眉を顰めて私たちを順に見つめている。うん、これは多分言ったところで分からないだろうな……。みんなそう思っているのか、私たちは顔を見合わせて大きくため息を吐いた。


「あ~……もういいや。うん」


 思わず口から出たのは、力のない声だった。それから私たちは順に立ち上がる。


「私、お風呂に入ってくるね」


 アオは力なくそう言って、ダイニングルームを出た。


「私は部屋で音楽でも聴いていようかな」


 紗奈ちゃんもアオに続いてそう言って出て行った。そういえば、最近音楽を聴く魔道具を買ったって言っていたね。


「私は宿題をしているわね」


 苦笑いを浮かべた佳穂もそう言うと、ダイニングルームを出て行く。


「あれ? みんな……どうしたの?」


 《清浄(クリーン)》でお茶の片づけをして次々とダイニングルームを出て行くアオたちにサオは戸惑っている。私は苦笑して肩を竦めた。


「何でもないよ、サオ。私ももう寝る支度をするね。おやすみー」

「う、うん。おやすみー……」


 最後までサオは不思議そうにしていたけれど、結局答えは出なかったみたい。


 それから部屋に戻った私は自室のお風呂に浸かって一息ついた。そして、さっきのサオの話の事を考える。


「((((……なんで、あれで恋に落ちないんだろう……))))」


 多分、他のみんなも自分たちの部屋で同じ事を考えているんだろうな……。そんな気がして小さく笑いつつ、私は何とも言えないため息を吐いていた。




 ちなみに、私たち4人の疑問は翌日になっても晴れず、ため息も続いた。せっかくサオのため息が落ち着いたと思ったら、代わりに今度は私たちがため息ばかり吐くようになってしまった。その事態に、事情を知らない慶人たちは何故なんだと言いたげに首を傾げていた。




ここまで読んで下さりありがとうございました!




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