第42話 始動! 学園祭準備
しばらくの間更新が止まってしまい、申し訳ありませんでした。
僅かですが続きができましたので、また更新をしていきたいと思います。
10月に入って最初の月曜日。この日、私は朝から第2体育館に来ている。
今日は朝のSHRから1限にかけて大講堂で集会があるんだ。その集会までは時間があるんだけど、A棟の校舎と大講堂の間にある第2体育館で、女子バスケ倶楽部が朝練の一環で部員同士の練習試合を行っている。女子バスケ倶楽部に入っている佳穂ももちろん選手として試合に参加している。だから、その試合をアオ・サオ・紗奈ちゃんと一緒に見に来ていた。
「キャーッ! 久乃木先輩、頑張ってー!」
「久乃木先輩、かっこいいー!」
おぉ、凄い声援だね。あれはみんな佳穂のファンクラブの子たちかな?
練習試合は見学自由なんだけど、思ったよりもたくさんの人が見に来ていた。その半分がどうやら佳穂のファンクラブの子らしく、しかも大半が女の子だから驚いた。
確かに佳穂のバスケをする姿って久しぶりに見たけど、動きも素早ければシュートするポーズも綺麗でかっこいいね。
「ハァ~、さすが佳穂。かっこいいね」
同じ事を思っていたのかアオがため息交じりにそう言う。サオと紗奈ちゃんも同意するように何度も頷いている。
「それにしても……ファンの数が凄いね」
「あっちなんて弾幕持っているよ。公式試合じゃないのに本格的だね」
「ねっ」
サオと紗奈ちゃんが言っているのは、最前列で応援している子たちで「頑張れ 佳穂」って書いてある。あれ、持ってくるのも大変だったんじゃないかな……。
「そろそろ試合が終わるよ」
私がそう言った途端、試合終了の笛が鳴った。選手たちは整列して挨拶をし合う。試合結果は佳穂がいるチームの圧勝だ。チームに貢献した佳穂は、挨拶が終わるのと同時にファンの女の子たちに囲まれた。
「あらら。囲まれちゃったね」
「サオ、集会までどれくらい?」
「えーっと……15分くらいかな?」
「佳穂、間に合うかな?」
心配する紗奈ちゃんの視線の先には未だに着替えに行けていない佳穂がいる。さすがの佳穂もちょっと困り顔だ。すると、佳穂のファンクラブ会長らしき子が一喝してようやく佳穂は更衣室に向かえた。
「うーん、結構ギリギリかもね」
「席は自由だから、後ろの方に座れば良いんじゃないかな?」
雑談しながら待っていると、大慌てで佳穂がやって来た。
「お待たせ」
「大丈夫だよ。急いで行こう」
急いで体育館を出て大講堂に向かうと、集会の始まりには何とか間に合えた。すでに前の方は埋まっているから、私たちは後ろの方の空いている席に横並びで座った。
「あっ、生徒会だ」
アオの声につられて私の視線は壇上に向く。そこには用意された椅子に座る生徒会役員がいた。
生徒会長の慶人、副会長の匡利、書記の玲はもちろんそこにいる。あと企画の子と会計の子が2人ずついる。それからもう1人の書記である宮岸さんは司会らしくて、1人だけ離れた所のマイクの前に立っていた。
「(分かっていたけどいるよね、当然。……こうして見る分には綺麗な子なんだけどな……)」
長い黒髪に切れ長の気の強そうな瞳。“可愛い”よりも“綺麗”が似合う美少女。子爵家のご令嬢らしく所作も優雅だし、立ち姿も凛としている。どこからどう見ても完璧なお嬢様だ。
「(これで性格が悪くなければ最高なんだけどね!)」
……悔しいけどさ、匡利の隣に立っていて物凄く様になっているんだよ。匡利にその気がない事が解っているから、そこまで気にならないけれど、やっぱり隣に立つ姿を見るとギュッと胸が痛くなるんだよね……。
胸が痛くなると言えば、双子島から帰って来てから匡利が変な風に佳穂を気にしたり見たりしている様子がないな……。あれって結局何だったんだろう?
あれやこれやと思考を巡らせていると、集会が始まるのか講堂の中が静まり返った。
『――これより集会を始めます。まず生徒会長から連絡です。生徒会長、お願いいたします』
宮岸さんがそう言うと、慶人は立ち上がって壇上の中央の演台の所に立つ。すると、講堂中の人が慶人に注目した。
『――本日より、10月最後の土曜日および日曜日に行われる学園祭の準備期間に入る』
慶人の言葉と同時に講堂中で歓声が上がった。そう、藤永学園はこれから学園祭の季節へと突入する。
藤永学園の学園祭は中等部・高等部・大学部で同時に行われる大規模な物だ。初等部でも一応行うんだけど、基本的に保護者がバザーを開いたり高学年の子がイベントに参加したりするくらいで、基本的にはお客様としての参加になる。
この学園祭が1年間で1番の目玉の行事とも言えて、学園中の力の入れ方が全然違うんだよね。学園祭は毎年あるけれど、1番盛り上がる行事だから生徒たちも一段と楽しみにしている。
『まず、これから2週間はLHRの時間が増える。その後、3日の半日準備期間と7日の終日準備期間がある。学園祭直後の月曜日は振り替え休日だが、午前中は片付けをする事になるからな。全員でなくても良いが、各クラスで何人参加するか話し合うように。それから、明日には早速学園祭実行委員会がある。どのクラスもこの後LHRだと思うが、今日中に男女1名ずつ実行委員を決めるように』
慶人はそう言うと自分の席に戻って行った。その後は企画の子が出てきていくつかの注意事項を伝えると、集会は終了となった。出入り口に近い子から順に大講堂を出てそれぞれの教室へと戻って行く。私たちも少し待ってから大講堂を出た。
「これから教室に戻って色々話し合いをするんだよね」
「実行委員を決めてって言われたけど、誰がなるのかな?」
隣に立つアオと話しながら教室に向かっていると、A棟に入った所でB組の人たちがいるのが見えた。その1番後ろに見知った後姿があった。
「龍一とナオと沖田くんだ」
そう言うと、3人にも聞こえたのかこちらを振り返った。
「なんだ、優梨たちか」
「おはようございます」
「おはようさん」
私たちだと分かると、3人は立ち止まって私たちを待ってくれた。……心なしかサオが少しだけ下がったような気がするなぁ。
「丁度いいじゃありませんか。優梨さん達に聞いたらどうですか?」
「せやなぁ」
「何が?」
ナオと沖田くんの会話に首を傾げると、沖田くんが苦笑いを浮かべてこっちを見た。
「あんな、A組って学園祭実行委員に誰がなるか候補上がっとる?」
「実行委員?」
チラッと後ろにいるアオたちを見ると、4人とも不思議そうな顔をしている。特にそういうのはなかったよね。
「特にないよ。B組は候補がいるの?」
「あぁ。それがこの沖田だ。春のうちに決定はしていないが、候補は決めていたんだ」
龍一の言葉に全員の視線が沖田くんに向く。
「推薦なんやけどな」
「お前ならできると思ったから推薦したんだ」
「龍一くんの推薦なんだね」
アオがそう言うと、沖田くんは苦笑いのまま頷いた。
「それはええんやけどな。他に知り合いはおるんかなぁって気になったんや」
まぁ、確かに知り合いがいる方が連絡し合うのとか楽だもんね。
そう話しつつサオに視線を向けたけれど、サオは俯いたままこちらを見ない。隣の佳穂はあえて気にしないようにしているみたいだね。うーん、先月に「沖田くんはかっこいい」って話をした時から、やっぱりなんか変だなぁ……。
私は気付かれないくらい小さく息を吐くと、沖田くんに視線を戻した。
「確か、春に委員会を決める時に朔夜がなりたいって言っていたと思うよ」
「へぇ、石井か。何や意外やな」
そう言いつつ沖田くんはちょっと安心したような表情を浮かべていた。
それから沖田くんたち3人と私たちは一緒に教室に戻りながら、学園祭でどんなのを出したいかとかあったら嬉しい出し物の話とかを話していた。私だけじゃなくてアオと紗奈ちゃんと佳穂も話していたけれど、やっぱりサオだけは話を聞いているばかりでほとんど会話に加わらなかった。
「(これはちょっとサオから話を聞いた方が良いかな?)」
後ろの方にいるサオを横目で見つつ少しだけそう思う。ちょっと色々と気になるしね。
しばらくしてから、それぞれの教室の前に着いた。
「ほな、またなぁ」
「またな」
「失礼しますね」
「うん、じゃあねー」
沖田くんと龍一とナオがB組に入るのを見届けて、私たちも自分の教室に入る。結構みんな帰って来ていて、教室中は学園祭の話で持ち切りだ。
しばらくすると桜先生がやって来て、教室は静かになった。
「じゃあ、もう一度改めて説明するわね」
桜先生は集会でザッと話された学園祭の事を説明した。
学園祭は10月最後の土日の2日間開催される。1日目は校内発表で、主に学園の関係者とその家族、招待者が来ることになっている。2日目は一般公開で、近隣などからさらに大勢の来客があってかなり盛り上がる。
各クラスの出し物に加えて、倶楽部や個人の発表、野外ステージでのイベントなど様々に行われる予定だ。あと、2日目の夕方から夜にかけて、学園の生徒と教師のみの参加で後夜祭もある。やる事は盛りだくさんで、その分準備にもかなり力が入るんだよね。
ただ、10月後半は学園祭準備が中心になるからそれまでの授業はかなりハードだし、各授業で行われる小テストで合格できないと後半の準備期間中の放課後に補習が入っちゃうんだよねぇ……。
「――じゃあ、早速今から実行委員を決めましょうか」
桜先生がそう言うと、一瞬教室がざわついた。
「今後の話し合いや活動は実行委員中心に行うのよ。その実行委員がクラスを代表して生徒会とこの学園祭を盛り上げるの」
学園祭実行委員は男女ペアで決められる。クラスをまとめて学園祭までのスケジュール調整を行い、生徒会とクラスの伝達もする。あとは発注書の提出や当日の会計のまとめなど、やる事はたくさんあって忙しいし大変なんだよね。もちろん、その分やりがいも十分ある。そういうのが好きな人は好きなんだろうけれど……毎年結構大変な思いをしている実行委員を目にしているせいか、みんな気が引けちゃって決まらないんだよね……。
「自薦他薦は問わないから、誰かやってくれないかしら?」
桜先生がそう言って教室を見渡すけれど、みんな先生と視線を合わせないようにしている……。その様子を見た朔夜が手を上げた。
「はい。俺、やります」
「石井くんね。他には……いないみたいだから、男子の実行委員は石井くんに決定ね」
先生がそう言うのと同時にクラス中から拍手が起こる。あとは女子だけだ。なんとなくこのクラスの朔夜のファンの子がどうしようかっていう顔をしているけど、さすがに実行委員の大変さを思うと二の足を踏んでいるみたいだね。
「(これで決まらなかったらどうするのかな。去年までだと、他薦してもらうかくじ引きで決めていたよね)」
今年もそれで決めるのかなって誰もが思い始めた時、紗奈ちゃんが手を上げた。
「松川さん、やりますか?」
「いえ……でも、実行委員に推薦したい人がいます」
紗奈ちゃんの推薦か。誰なんだろう?
クラス中の人がそう思っているのか、少しざわついている。そうしたら、紗奈ちゃんは隣の席にいるサオを見た。
「日向さんを推薦したいです」
名前を呼ばれたサオは驚いたように紗奈ちゃんを見上げる。その視線を気にしてないのか、紗奈ちゃんは推薦理由を話し出した。
「彼女なら責任感もありますし、全体の指揮をしっかり執ってくれると思います」
「えっ、ちょ……っ!」
「それに石井くんとも親しいですし、良いペアになってくれると思います」
途中で止めようとするサオをスルーして紗奈ちゃんはどんどん話を続けた。紗奈ちゃんの話を聞いた桜先生は少し考えている。
基本的にこういうクラスの決め事の決定は生徒たちでするんだけれど、意見がまとまらなかったり滞ったりした場合、最終的な決定権は桜先生にあるんだよね。今回もなかなか決まらなさそうだし、先生が良いと思ったらサオに決定かな……。
そう考えていると、先生の中でも結論が出そうだ。
「――そうねぇ。他に立候補する人は……いなさそうねぇ。このまま多数決を取っても結果は変わらないわよね……」
ぽつぽつと呟く先生の声は小さいけれど、私の耳にはしっかりと聞こえている。それはサオも同じなのか、桜先生をハラハラとした表情で見つめている。すると、桜先生がにこりと笑ってサオを見た。
「じゃあ、お願いするわね。日向さん」
「えっ!?」
サオから驚きの声が上がると、反論する余地も与えず先生が軽く手を打った。
「はい、決定ね! じゃあ、日向さんと石井くん。実行委員、よろしくお願いね」
先生がそう言うと、クラス中から拍手が起こった。一方でサオはショックを受けたように口をあんぐりと開けて固まっている。
「【う、嘘でしょーーー!?】」
不意にサオの叫びが《念話》で聞こえてきた。それはアオたちも同じなのかみんな吹き出しそうになっているのを堪えている。念話を伝えたのは無意識だったのか、サオは唖然としたままだ。
そして、そんなサオの心の叫びは実行委員が決まって安堵している他のクラスメイト達には、全く届いていなかった。
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