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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第1章 新学期
4/53

第3話 日常③

4話目です

 あっという間に時間は過ぎて、残るは午後の授業だけとなった。


「あぁ~……憂鬱」


 昼休み、私たちはみんなでお弁当を食べるために屋上にいる。

 ここ、普段は立ち入り禁止なんだけれど昼休みとかは解放されていて、知る人ぞ知る私たちの息抜き場となっている。みんな、昼休みは私たちが使っているって知っているから、誰も近づかないのが暗黙の了解になっているらしい。


 そして、私は2年生最初のお昼休みを沈んだ気持ちで過ごしている。


「どうしたの、優」


 隣からアオが聞いて、サオと佳穂が不思議そうに私を見る。


「いや、ほら……5限の社会Ⅱって、B組と合同じゃん……」

「あぁ……なるほど、彼女(・・)ね」


 私が誰の事を言っているのか分かったアオたちは顔を見合わせている。


「優の選択って歴史だっけ?」

「うん」

「あの人が政経の可能性は?」

「……ほぼない。ほら……歴史じゃん」


 そう言いつつ私は横目で匡利の事を見る。幸い、匡利はこちらに背を向けていた。


 私が会いたくないのは宮岸梨香子(みやぎしりかこ)という子だ。子爵家の令嬢で、黒髪の華やかな感じの美人さんなんだけれど、ものすっごくプライドが高くてエリカ以上に高飛車で……。厄介な事に匡利の事が好きなんだよね。それで、私の気持ちを知っているみたいで何かと目の敵にされるというか……。

 去年、同じクラスになったら思い出すのも嫌なくらい散々な目に遭ったのよ。些細な事だと物を隠されたり教科書やノートを破られたり、靴に画鋲が入っていたり……困ったのは大半の嫌がらせは宮岸さん本人がしているんじゃなくて、彼女を慕っている他の生徒たち――私たちは「シンパ」って呼んでる――がやっている事。だから、直接の犯人は未だに不明なの。まぁ、大きな問題になるような事はなかったけど、1年間ずっと積み重なってうんざりしているだけだ。

 嫌がらせそのものは未だに続いているんだけれど、今朝の靴箱の紙ぐらいなので特にダメージはあまりない。でも、もう二度と関わりたくはないくらいには辟易しているのは事実だ。

 幸いなのは、匡利は彼女の態度やらアプローチやらはそのまま流している事ぐらいかな……。


 避けるのに具体的な方法が思い浮かばないまま昼休みの終わりに近づき、私たちはお弁当を片付けて教室に戻った。

 授業は、歴史はA組で、政経はB組でやる事になっている。政経を選択している佳穂・慶人・朔夜の3人はB組に移動し、私たちも席を移動する。


 なんか玲がみんなに耳打ちしているけど何だろう……?


 そう思いつつ私は窓際に座ると、私の前に匡利が、横にアオが、後ろにサオが座り、アオを前後で挟むように誠史と玲が座った。雅樹は匡利の前だ。ちなみに、同じく歴史を選択していた紗奈ちゃんは雅樹の隣にいる。

 いつの間にか私はすっかりみんなに囲まれるようになっていた。チラッと斜め後ろにいる玲を見ると、目が合ったと思ったら親指を立てて笑っている。


「(もしかして昼休みに話しているのが聞こえてた……?)」


 何気に匡利の事も囲っているからそういう事なのかな?


 そう思っていると、B組の歴史を選択している人たちが入ってきた。


「大和。横、良いか?」

「澤田か。良いぞ」

「俺も後ろええか?」

「沖田も歴史だったのか。もちろんいいぞ」


 見知っている人たちがどんどん集まり、さらに囲われていく。そうしていると、彼女(・・)が入ってきた。

 何人かが集まる中心にいる艶やかな黒髪の美少女、彼女が宮岸梨香子だ。宮岸さんは側にいる子と話をしながら、さっと教室を見渡した。匡利を見つけたのか一瞬笑みを浮かべたけれど、すでに匡利の近くには席が空いていな事を悟ると表情を曇らせた。おまけに声をかけようにも人が固まっていて難しい状態だ。

 そして、匡利の後ろにいる私と目が合った。


「(……蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちかなぁ。怖っ!)」


 鋭い視線に首を思い切り捻って顔を逸らした。それでもチクチクと刺さる視線を感じる。幸いなのは私の周りもガードがしっかりしているから、私にも近づいてこない事だ。

 結局、宮岸さんは匡利とは正反対の席に座る事になった。

 そこからの授業は何事もなく進んだ。時々チラチラとこちらを伺う視線を感じたけど、それくらいなんて事はない。


 授業終了後、宮岸さんは中々教室に戻ろうとしない。私と匡利の周りから人が減るのを待っているらしい。それが分かっているのか、玲たちも全く動こうとしない。私だけでなく匡利も心得ているのか、特に何も言わず隣の誠史や前の雅樹と話している。そのうち、B組に行ってた慶人たちが戻って集まると、諦めたように教室を出て行った。


「――やっと行ったね」


 宮岸さんが教室を出るのと同時に誠史が呟いた。見れば、他のみんなも頷いている。


「次回からもこの方法で良さそうだね」

「理科Ⅱもこの方法でいけそうだな」

「匡利の選択は生物だったか?」

「あぁ」

「物理は雅樹と朔夜だけだ」

「それならこの方法だな」


 慶人たちだけで何やら話し合いが始まった。この感じだと、社会Ⅱと理科Ⅱはこの席順かな? 私としては宮岸さんと関わらなくていいなら全然構わないんだけどね。思いのほか匡利と関が近くなるし。


「優たちもそれで良いか?」


 話がまとまったのか、側にいた私たちに慶人が聞いてきた。アオもサオも佳穂も頷き、私も頷く。全員の確認が取れたところで一度自分の席に戻った。次の授業はLHRなので準備するものはない。確か、委員会を決めるんだっけ?

 何にしようかなと思っていると桜先生がやってきた。


「話し合いもあるでしょうから、今だけ好きに座って良いわよ」


 そう言って先生は黒板にずらずらと委員会名を書いていく。その間に私たちは席の移動を始めた。

 私の席はどちらかというと窓側なんだけれど、なんだか人が集まり出した。私とアオと朔夜はその人だかりから逃げるように廊下側に移動した。そのまま玲の近くに座った。


 藤永高等学校の委員会は、割と前世の高校の時にあった委員会と結構似ている。最初は貴族も通うような学校で委員会なんてあるんだ、と思った。ただ将来的な事を考えたらそう言う事もやった方が良いのかな、とも思う。

 委員会の種類は学級委員、風紀委員、保健委員、図書委員、美化委員、放送委員、福祉委員、進路学習委員、卒業アルバム委員が主だ。生徒会も一応委員会に含まれるけれど、生徒会役員はすでに決まっているので今は関係ない。あと、行事がある時の実行委員があるけれど、今は決めない。


「とりあえず、希望の委員会の下に自分の名前を書いてくれるかしら? 定員数が多い時は話し合いなりじゃんけんなりして決めてね」


 先生の言葉と同時にみんな動き出した。おぉ、女子の学級委員が争奪戦だ……。理由は慶人だろうなぁ。


 慶人は今期・来期の生徒会長だ。生徒会は他の委員会と違って決め方が独特らしいんだけれど、生徒会役員以外その方法は知られていない。自薦だとか他薦だとか、はたまた指名制だとか噂は色々ある。それで、慶人は今期に入った時から来期もやるって決まっているんだよね。ちなみに、匡利と玲も生徒会役員で、慶人と同じように来期までやる事になっている。


 それで、その慶人と関われる委員会ナンバー1が学級委員なの。だからかな。このクラスの慶人のファンの子たちが群がっているんだよね。何やら顔を突き合わせて話し合っているけど、あれ決まるのかな……? というか、1人の子に他の子が圧倒されていない……?


 数分もすれば圧倒されていた子たちがすごすごと席に戻って、残った子が嬉々として自分の名前以外を消していた。男子の学級委員も穏やかな話し合いで決まったらしい。


「男子は二之宮」

「女子は小野瀬か」

「「予想通りだな」」

「そうなの?」


 朔夜と玲の息の合った呟きにアオが反応した。私も思わず耳を傾ける。


「小野瀬は慶人のファンクラブ幹部だ、と言えば分かるか?」

「……あぁ、なるほど? だから慶人、あんな顔しているんだ」


 私たちの視線の先には、離れたところにいる慶人が渋い顔で黒板を見つめている。


「あの子が、慶人が苦手意識持っている幹部の子なんだね」

「優、知っているの?」

「前に、慶人のファンクラブ幹部の1人が穏健派を装った過激派だって、私のファンクラブ会長がこそっと教えてくれたの」

「なるほど……」


 先程から出る「ファンクラブ」とは、その名の通りだ。この学校、不思議な事に多数のファンクラブが存在するんだよね。対象は生徒が大多数だ。倶楽部と違って学校非公認の活動ではあるんだけど、暗黙で認められている。

 そもそも、ファンクラブができたきっかけって、ファンだって名乗る子たちが何かと問題を起こすから、そう言うのを統制管理するためにできたんだよね。だから暗黙で認められているのかな? もちろん入会は強制じゃないから、ファンだって言ってもファンクラブに入らない子も存在するよ。

 それで私を含めた10人には各々ファンクラブが存在する。自分で言うのもなんだけれど、ファンクラブができるほど自分にファンがいる事が不思議でしょうがない。でも、存在するんだよね……。

 私たち以外でファンクラブがあるって知っているのは、紗奈ちゃんと隣のクラスの子が何人かかな? 先輩にも後輩にもファンクラブがある子がいるらしいし……。

 ただ、ファンクラブができても問題が減っただけで無くなりはしないから、私たちはなるべく自分のファンクラブ会長と連絡を取り合って、情報交換を定期的にするようにしているんだ。今回の小野瀬さんの情報みたいにね。


「――ところで、アオは委員会に入るの?」


 聞けば、アオは首を傾げてしまった。


「うーん。ちょっと考え中。朔夜くんは?」

「俺は学園祭実行委員になろうと思っている。でも、あれは夏休み明けに決める事だからな」

「そっか。サオちゃんと雅樹くんはどうするんだろうね。まだ名前、書いていないけれど」


 アオがそう言うと、私と朔夜と玲は黒板をじっと見た。確かに、生徒会に入っている慶人たちは除いてサオと雅樹の名前が黒板になかった。


「本当だね。入らないのかな?」

「雅樹は入るつもりがないんだろうな。去年、保健委員になったら『保健室まで運んでほしい』と仮病を使う女子が続出して、ウンザリとしていたからな」


 そう言えばそんな事があったような……。


「あれって確か、あまりにも凄すぎるから異例で2、3ヶ月くらいで別の人に変更したんだよね。あれは雅樹と保健の先生が可哀想だった」


 運ばれてくる以上無下にもできないし、かといって明らかな仮病だから処置のしようがないし……雅樹が委員の変更を学校側に訴えるのに後押ししてくれたんだよね。


「じゃあ、サオちゃんも同じような理由かな? 去年、卒業アルバム委員になったら連日写真撮影を求められたり、よく分からない写真を渡されたりで困ってたんだよね。しかも男子ばっかり」

「あー、それ覚えている」


 両手いっぱいに写真を抱えて「どうしよう」って昼休みに相談された記憶がある。中には見合い写真かっていうくらい関係ない写真があったんだよね。


「あれって最終的に慶人がキレたんだっけ? 余計なもの渡すなって」

「そうそう。その後すぐに別の人に変えられてたよ」


 ファンクラブは私たち対象者に迷惑をかけないように規則を作ったりいろいろ工夫してくれているけれど、それでもルール破りをする人はいっぱいるし、そもそも人数が多すぎてファンクラブの与り知らぬところで起こる事も多いし……。

 サオと雅樹の話はその1つなんだよね。後から会長さんたちがメチャクチャ謝ってて、なんか可哀想だったなぁ。会長さんたちは悪くないのにね。


「ところで、優はどうするの? まだ黒板書いてないみたいだけど」

「私は図書委員会に入るつもりだよ。今のところ他に希望者はいないみたいだし、黒板の前が空いたら書きに行くよ」


 図書委員は昼休みとか放課後に貸し出しの受付をしたり、本の整理をしたりといった仕事があるんだけど、空いた時間は本読んでていいから好きなんだよね。


「生徒会に関わる委員会には入らないの?」

「いやぁ、だってあの人も書記じゃない」

「あぁ、宮岸さん?」


 実はそう。宮岸さんは生徒会の書記も務めているんだよね。後は匡利が入っている倶楽部のマネージャーもやってる。匡利に関われるなら何でもやる心意気は凄いよね。


「必要以上にもう関わりたくないんだよね」

「それもそっか」


 私たちがこうして話している間に黒板はどんどん希望者の名前で埋まっていた。定員オーバーしている委員会が話し合いを始めたタイミングで私も図書委員会の所に書きに行った。図書委員会は定員1名だけど、私以外に希望はいない。私が書き終わった途端、桜先生が決定と言わんばかりにチョークで囲った。

 それを見届けて席に戻ろうと振り返ったら、誠史がアオのところにいる。……お誘いかな?


「誠史くん、どうしたの?」


 近づくと、2人の話す声が聞こえてきた。


「葵、委員会はもう決まっている?」

「ううん」

「じゃあ、俺と一緒に美化委員会に入らない?」

「美化委員?」

「うん。どうかな?」


 アオは嬉しくて顔が緩みそうになっている。それを一生懸命抑えながらアオは大きく頷いた。誠史はアオの返答にニコリと笑うと、私と入れ替わりで黒板に名前を書きに行った。美化委員もまだ誰も希望を出していなかったみたい。


「良かったね、アオ」

「うん」


 小さな声で話しかければ、アオは今度こそ嬉しそうな顔を浮かべた。


 なんやかんやとすべての委員会が決まると、各委員会の最初の集まりの日が知らされた。図書委員会はさっそく明日集まるみたい。委員が集まって当番を決めないと、図書室の貸し出しができないからね。結局、サオと雅樹はどの委員会にも入らなかったみたい。

 その後は、今回決めなかった他の委員会を決める時期の説明がされて、今回委員にならなかった人は検討しておくようにって桜先生は説明をした。


 多少時間が余って、残りの授業は自習時間になった。


ここまで読んで下さりありがとうございました!




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