第32話 紗奈の引っ越し③
慶人たちにエスコートされながら紗奈ちゃんは玄関前の階段を上って家の中に入った。
「――凄い……本当にこの家……?」
目の前の広々とした玄関ホールを目にして紗奈ちゃんは息を呑むようにしてそう言った。
「そうだよ。これから紗奈ちゃんも一緒に住むんだよ」
思った通りの反応に笑いながら言うと、紗奈ちゃんは目を白黒させながら周りを見ている。
玄関部分は白い石のタイルで、1段上がった部分の床は多分大理石だと思う。この大理石の床はそのままホールの方まで続いているから、なかなか凄いよね。
「あっ、紗奈ちゃん。靴脱ぐのにこっちに来てくれる?」
私はそう言って紗奈ちゃんを玄関の左側に寄ってもらった。と言うのも、こっちの方がシューズインクローゼットの小部屋に近いからだ。
私たちは脱いだ靴を手に紗奈ちゃんと一緒に小部屋に入った。
「うわぁ、凄い!」
中に入ると、紗奈ちゃんがそう声を上げた。
「ここはね、みんなが普段よく使う靴を置いておく部屋なんだ。こっちは女子用で、反対側の部屋が男子用ね。あと、傘とかも置いているよ」
この1週間の間に紗奈ちゃん用の傘立ても用意してある。靴を置く棚のスペースも紗奈ちゃん用に確保できている。紗奈ちゃんは早速いそいそと履いてきた靴を置いている。
「みんなはここにどんな靴を置いているの?」
「私は学校用の靴と運動靴、日常使いの靴を置いているよ」
「私は庭と温室の手入れをする時の靴も置いているよ」
私に続くようにしてアオが言う。その靴は誠史と一緒に土いじりをするから、汚れても良い靴だよね。
「私は雨の日用の靴も置いているよ。この部屋、《清浄》と《乾燥》が定期的に発動するようになっているから、外で乾燥させる必要もないんだよ」
「それは便利だね」
サオの話に紗奈ちゃんは目を丸くしている。そうそう、そんな機能も付けたから本当に便利なんだよね。
「私はそれ以外に少し余所行きの靴も置いているわよ。服や行き先によってはそっちの方が合う事もあるから」
佳穂もそう説明する。確かに私も夏になるとサンダル、冬になるとブーツも置いておいて目的によって変えているなぁ。
「それ以外のたまにしか履かない靴はみんな自室に置いているよ」
「みんな、そんなにいっぱい靴を持っているの? 凄いね」
「紗奈ちゃんもすぐに増えると思うよ」
アオがそう言うけど、紗奈ちゃんは不思議そうに首を傾げている。それに対して私たちは「そのうち分かるよ」としか言わなかった。まとめて説明した方が早いしね。
「家の中はそのまま裸足でも良いし、気になるなら室内履きとかスリッパとか好きな物を用意しても良いよ」
「みんなはどうしているの?」
「んー、私と佳穂は室内履き、アオとサオはスリッパかな?」
「うん。でも、私もサオちゃんも冬は室内履きだよ」
そういえば、冬の時期のアオはいつも中がモコモコした室内履きを履いてたな。あれ、暖かそうだし可愛いんだよね。
「男子の方はね、慶人と匡利と誠史が室内履きで、朔夜と玲はスリッパを履いているね。雅樹だけはたまにスリッパを履くくらいで、ほとんど裸足かな? たまに素足の事もあるけど」
「そっかぁ」
「あっ。あとね、自室では裸足って言う人がほとんどだよ」
「なるほど……とりあえず、今は手持ちのスリッパを履こうかな」
そう言って紗奈ちゃんは自分の《無限収納》からスリッパを出して履いた。それに続いて私たちも自分の室内履きに履き替える。シューズインクローゼットを出たら、慶人たちと別れて私たち女子はそのまま家の中を案内することになった。
広々とした玄関ホールは中央にすごく立派な絨毯が敷かれているんだけど、紗奈ちゃんはそれを踏むのに物凄く躊躇っていた。躊躇う気持ち、分かるよ。私も最初の頃は端の方ばかり歩いていたもの。
「この絨毯も定期的に《清浄》がかかるから、いつも綺麗でフカフカだから大丈夫だよ」
そう言って笑いながら紗奈ちゃんの手を引いて誘い込む。紗奈ちゃんは驚いていたけど、私の言葉にホッと息を吐いていた。
玄関ホールから2階に続く正面階段の両脇には扉がそれぞれ1つずつある。
「まずはこっちから案内するね」
私はそう言って階段に向かって左側にある扉に紗奈ちゃんを案内した。
中は広々とした部屋で、扉を開けてすぐの所にはビリヤード台が置かれている。他には座り心地の良いソファが並んで、ローテーブルもある。奥の壁際には今売られているテレビの中でも最大サイズの物が置かれている。
壁の1面は全体が窓になっていて日の光が入って明るいし、そこから外に出る事もできる。その窓の反対側の壁には大きな棚があって、様々なボードゲームやトランプ始めとしたカードゲーム類が並んでいる。
「ここは『遊戯室』って言って、みんなでビリヤードをしたりボードゲームをしたり、テレビで映画を見たりしている部屋なんだ」
映写機みたいな魔道具があるから、それほど数は多くないけど映画も見られるんだよね。
「凄いね」
「この部屋は好きな時に使って良いからね」
プレイルームの説明の後は反対側の扉から地下室に向かって、設備の説明をした。紗奈ちゃんは本格的なジムや訓練場さながらの設備の整い様に驚いていた。プール見せた時はしばらく言葉もなく呆然と見つめていたし。……私も最初見せられた時はそんな反応だったか。
地下から出たら、今度は屋敷の東側に移動した。東側の部屋は主に居間・食堂、厨房・貯蔵室がある。あと2部屋あるんだけれど、そこは普段使っていない部屋だ。
リビングルームには全員が座れるくらいの大きなソファや真っ白なグランドピアノがあって、音楽を聴くための魔道具も置いてある。プレイルームほどじゃないけど、ここにも大きなテレビを置いている。割とみんな結構この部屋で過ごす事が多いかな?
ダイニングルームにはいつも使っている長いテーブルがあって、他には食器棚やバーカウンター、普通サイズの壁掛けテレビもあるね。
そんな中で紗奈ちゃんが興味を示していたのは、キッチンと貯蔵室だ。キッチンは元々の状態から結構変えちゃっているけれど、なかなか使いやすくカスタマイズしてある。それに設備は最新の物が一通り揃っているしね。貯蔵室の方も色々な調理器具があれば食材もかなり保管しているから、紗奈ちゃんは目をまん丸にさせながらもキラキラと輝かせていた。
「凄い……これ、全部使っても良いの?」
「もちろん」
「お料理だけじゃなくてお菓子も本格的なのが一通り作れそう……」
「設備は本格的なレストランやホテルさながらだよ。材料も基本的なのから専門的なのまで一通りあるかな?」
みんなで色々と買っては個人の物以外は全部ここに保管しているから、結構色々あるんだよね。ここにあるのは在庫の申告さえすれば、いくら使っても良い事になっているし。もし使って良いか気になったら《鑑定》で調べれば、買った人が分かるから聞けば良いしね。
それからキッチンからダイニングルームに移動した時に扉横のホワイトボードについても説明をした。すでに連絡用のボードには紗奈ちゃんの欄が増えているし、当番表の方も紗奈ちゃんの名前が加わっている。朔夜と玲が色々と組み直してくれたみたいなんだよね。
「じゃあ、今度は1階の西側ね」
西側の方には男女それぞれのトイレ、大浴場、洗濯室、図書室を案内した。こっち側ももう少し部屋があるけれど、そこは私たちも普段は使っていない部屋で、収納部屋みたいに使っているんだよね。
洗濯室には洗濯機と乾燥機、アイロン――いずれも魔道具だ――が4台ずつある。
「この部屋は基本的に共用スペースの洗濯物を洗うのに使っていて、たまに個人の物とかシーツとかの大型の洗濯物をするのにも使っているよ」
「じゃあ、自室にも洗濯機を置く感じ?」
「そうだね。基本的に自分の服とか下着は自室の洗濯機を使っているかな? ほら、うっかり回収し忘れたら大変だから……」
「あっ、なるほど……」
今まで見られたことはないんだけど、気付いたら終わってから数十分経過していて慌てたりするんだよね……。だから、見られたら困る物は基本的に自室で洗っているね。
ちなみに共用スペースの洗い物は週に2回、当番の人が洗う事になっている。基本的にみんな私物を使うからそこまで洗濯物が溜まらないんだよね。大型の物は年末にまとめて洗うしね。
大浴場は脱衣所に洗面台が3台、着替えとかを入れるための籠が9つ、タオル類やドライヤー3つがしまわれている棚が置いてある。浴室の方はシャワーが4つ分あって、それぞれに洗面器や椅子があるんだ。お風呂の方は前世のテレビで見かけた旅館のお風呂みたいに広々としていて、8人くらいは一緒に入っても余裕なんじゃないかな?
あと、実は4人くらいが一緒に入れる本格的なサウナもあって、その側にはサウナから出た時に入る冷たい水用の浴槽もあるんだ。たまに私も入るけど、結構気持ちいいんだよね。これにはさすがの紗奈ちゃんも驚いていた。
お風呂に関しては定期的に《清浄》がかかるようにしているから、基本的に私たちが何かすることはないかな? 年末の大掃除の時に掃除するくらいだね。
それから図書室に行くと、その豪華さと蔵書数に紗奈ちゃんは目を丸くさせていた。
「ここ、本を読む以外に勉強とかするのにも向いているよ」
「あとね、窓際のソファでたまに雅樹くんがお昼寝しているよ」
アオが何の気なしに言うと、紗奈ちゃんはほんのり頬を染めた。
双子島に行って以来、私たちはなんとなく紗奈ちゃんの雅樹への気持ちに気付いていた。この反応は間違いなさそうだね。
あらかたの案内が終わってから玄関ホールに戻り、今度は紗奈ちゃんの部屋まで行く事になった。
ホールの正面階段を上って、目の前の両開きの扉を開けた。その先の階段を上って紗奈ちゃんの部屋がある7階まで向かう。途中の各階の踊り場では誰の部屋があるかの説明を忘れない。ちなみに3階は佳穂と玲、4階はサオと朔夜、5階はアオと誠史、6階は私と匡利の部屋がある。
7階の踊り場に着いたら、そのまま両開きの扉から7階のフロアに出た。広い空間が広がって、床にはやっぱり絨毯が敷かれている。入ってきた扉の正面にある出窓の所には花が飾られているんだけど、これは誠史がいつも定期的に変えている。左右には同じデザインの扉と小さな呼び鈴のボタンがある。
「ここが紗奈ちゃんの部屋がある階だよ。紗奈ちゃんの部屋は西側のこっちね」
私はそう言って入ってきた扉を背にして右側を指した。次に左側にある向かいの扉を指す。
「反対の東側は雅樹の部屋ね。ついでに8階の西側に慶人の部屋があるからね」
「扉には鍵が付いているけど、別にかけなくても大丈夫よ。私たちもほとんどかけたことないわね」
「たまに朔夜くんと玲くんの部屋の鍵がかかってることあるけど、あれは中で何か作業をしているからなんだって」
「危ないから作業中は入れないようにしているらしいよ」
私から佳穂、アオ、サオの順で説明すると紗奈ちゃんは頷きながら聞いていた。アオが言っていた朔夜たちの部屋は、鍵をかけると結界が発動して《瞬間移動》でも入れなくなるらしいんだよね。どんな魔法をかけているんだろう?
説明が済んだら、そのまま西側の扉に向かった。
「じゃあ、お待たせしました。紗奈ちゃんのお部屋でーす」
アオの掛け声と同時に部屋の扉を開けた。
扉の向こうは広々とした空間が広がっている。まだ部屋の仕切りとか何もないから本当に広く感じる。とはいえ、元々どこかのホテルで芸能人が何百人も呼んで結婚披露宴をするような会場並みの広さだから、誇張でも何でもないんだけどね。
紗奈ちゃんは部屋に入ると、口をあんぐりと開けて固まってしまった。やっぱり驚くよねぇ。
「……ほ、本当にこの広さを使うの? 1人で?」
「もちろん」
「寮の部屋……ううん、敷地の何倍の広さ何だろう……」
何やら呟きながら紗奈ちゃんは部屋の中を見渡す。そして、部屋の奥にある物を見つけた。
「ねぇ、あそこにあるのって……」
「あぁ、天蓋付きベッドよ。サイズはキングね」
紗奈ちゃんが指さす先を見て佳穂が答えた。
「やっぱり!」
思わずといった感じで叫ぶ紗奈ちゃん。なんか「サプラ~イズ!」って言いたくなるな。
「あれってどうしたの? みんなが買ったの?」
「違うよ。あれはね、俊哉さんから紗奈ちゃんへのプレゼントとして昨日送られてきたんだよ」
俊哉さんの名前を出すと、紗奈ちゃんはギョッとしたように目を見開いた。
「私たちも同じベッドをもらっているよ。柱のデザインとかカーテンの色とかはちょっと違うけど」
「みんな引っ越した時にお祝いでもらうんだよね」
アオとサオから全員もらっていると聞いて紗奈ちゃんは少しホッとしたように息を吐いた。なんとなくその気持ち分かるよ。
「――それじゃあ、今後の事を決めましょうか」
佳穂がそう言うと、私たちは頷いてからその場に座り込んだ。
「見ての通り、部屋の間取りも決まっていなければ家具とかも全然ないから、数日で整えようと思うの。夏休みも残り2週間足らずだしね」
「そうだね」
「間取りはできれば今日中に決めちゃって、大きな家具とかの買い物は明日と明後日で考えているんだけど、どうかな?」
「私は大丈夫だよ」
まずは紗奈ちゃんに聞いてみると、大丈夫そうだね。
「私も大丈夫」
「私も」
「ごめんなさい。私は明日と明後日は用事があって一緒に行けないのよ。その代わり、その後の作業は手伝えるわ」
買い物はアオとサオも一緒ね。佳穂は行けないみたいだけど、荷解きも結構大変だからそれだけでも一緒にやれるなら有難いよね。
「じゃあ、早速間取りを決めようか」
私の言葉で、紗奈ちゃん以外の全員が自分の部屋の間取りを書いた紙を取り出した。家具を置くのにも間取りが決まっていないとできないもんね。
「これが私たちの部屋の間取りね。基本的な設備と部屋は一緒で、あとはそれぞれの好みによって変えているんだ。例えば、私の部屋には6畳くらいの広さの書斎みたいな部屋があるよ」
数年前から私は小説とか漫画を含めた本を色々と集めるようになって、結構な数を持っているんだよね。それで専用の部屋を作って、そのままそこで読めるようにテーブルとソファも置いてあるんだ。何もすることがない時は何時間もこの部屋で漫画を読んでるんだよね。
「私の部屋には占い用の部屋があるよ」
仲間内で唯一《占術》のスキルを持つアオは趣味の1つが占いだ。結構レベルも高いから、腕はかなり良いんだよね。
この部屋は私も見た事があるけど、色々な占いの道具とか本を保管する部屋でもあるみたいで、色々と魔法付与がされた棚がズラッと並んでいたなぁ。その時にタロットカードがこっちの世界にもあるって初めて知ったんだよね。占いの仕方は複雑すぎて私には無理だったけど……。
「私は裁縫関係の道具や材料の保管と作業のための部屋があるよ」
サオは私たちの中で1番《裁縫》のスキルのレベルが高い。ちょっとした小物から洋服まで作っちゃうから凄いんだよね。確か、いくつかはギルドにも卸しているんじゃなかったかな?
この部屋も見た事があるけど、大きな裁縫箱とか魔道具のミシンが置いてあって、色々な材料がたくさんしまっている棚が並んでいた。綺麗な柄の布とかレースとか色々あって、見ているだけで楽しかったな。種類と量はあのまま手芸店でも開けそうな感じだったね。
「私は音楽を聴くための部屋があるわね。防音がしっかりされていて、音の響きも良いのよ」
佳穂の部屋も私は見た事がある。瑞穂国だけじゃなくて海外のレコードも色々と集めていて、凄い数があったんだよね。聴くための魔道具も最新の結構良い物だったなぁ。
あと、佳穂から教えてもらって知ったんだけど、ここ20年くらいの間に従来のレコードよりも小さなディスクが出始めたらしくて、見せてもらったら完全に前世のCDと一緒だった。まだまだレコードの方が主流らしくてCDはほとんどないけど、あと15年くらいしたらこっちの方が主に出るだろうって佳穂は言っていた。私もそう思うよ。レコードもなかなか良いけど、やっぱり大きいから保管が大変だからね。
「――色々あるんだね、私はどうしようかな……」
紗奈ちゃんは私たちの間取り図を見ながら考えている。私的には、紗奈ちゃんは《編物》のスキルが高いしギルドに納品もしているみたいだから、その作業をする部屋があっても良いんじゃないかなって思うんだけどね。
「……ところで、さっきから気になったんだけど、この衣裳部屋って何?」
紗奈ちゃんは私の間取り図を指さしながら聞いてきた。
「えーっとね、本当はウォークインクローゼットなんだけど完全に部屋としての広さだから、いつの間にかみんなそう言っているんだよね」
「紗奈ちゃんもそれなりの広さで作った方が良いよ。最低でも12畳とかかな……」
私とアオがそう言うと、紗奈ちゃんは目を丸くした。
「えっ? でも私、そんなに服とか持っていないよ? むしろ、寝室にタンスが1つあれば十分だけど……」
「これがね、後で必要になるんだよ。絶対に」
そう言うと、紗奈ちゃんは不思議そうに首を傾げた。まぁ、口で説明してもにわかに信じ硬い事だからね……。でも、今までの事を考えたらね……。
衣裳部屋に関しては、結局私たちと同じくらいの広さの部屋を造る事に決めていた。
「――当番表の時のも説明したけど、日曜日・祝日は朝と昼の当番が無くて、朝はともかく昼は各自になる事が多いから設備とか規模は好みによるけど、キッチンは必要になると思うよ」
「それからトイレとお風呂かな。トイレは基本的に各自だし、大浴場は男子と交代で使っているからね」とアオ。
「洗濯機もあった方が良いから、専用のスペースを作るかお風呂の脱衣所に置くか決めた方が良いかな」とサオ。
「寝室と衣裳部屋は隣り合わせの方が使いやすいわよ。リビングとダイニングは、どちらかだけでも大丈夫よ」と佳穂。
私たちの説明を聞きながら紗奈ちゃんはそれぞれの部屋の配置と広さを決めていく。個人的な部屋はとりあえずある程度の広さの部屋を2つ用意する事になった。
すべて決まったのは夕飯前で、まだ時間に余裕があるからこのまま仕切りの壁を造る事にした。慶人たちにお願いして壁を作るための建材や壁紙なんかの材料とひとまずの照明器具を運んでおいてもらったから、それを使って全員で《創造》を使うことにした。
「紗奈ちゃん、《創造》って持っている?」
「う、うん。……でも、ほとんど使った事ないし、使っても小さい物ばかりだったから……」
「じゃあ、みんなで一緒にやろうか」
そう言って紗奈ちゃんの手を握り締める。そのままアオ、サオ、佳穂の順に手を繋いで、佳穂が私とは反対の紗奈ちゃんの手を握り締めた。
目を閉じて自分とみんなの魔力の流れに集中する。左手からは紗奈ちゃんの、右手からはアオの魔力を感じる。その2人を通じて、サオと佳穂の魔力も感じ取る。紗奈ちゃんの魔力の流れをみんなの魔力でサポートしながら巡らせ、部屋いっぱいに広げていく。
「――《創造》!」
誰からともなく魔法を発動させると、部屋のあちこちから光が発生して次々に壁と扉が現れていく。その光景に紗奈ちゃんは驚いたように見つめていた。うん、配置もデザインもちゃんと紗奈ちゃんの希望通りだね。数分もすれば魔法の発動は落ち着いて、すっかり部屋が完成した。
「フゥ……これで部屋の準備は完璧だね」
全員一緒とは言え、結構な量の魔力を使った気がするな。そう思って私は額に滲んだ汗を手で拭った。
「この魔法、こんなに使ったのは初めてだけど、凄いんだね」
紗奈ちゃんの声が少し弾んでいるように感じる。今まで思い切り魔法を使う事なんてなかっただろうから、やっぱり興奮するよね。私も最初に思い切り魔法を使った時はあんな気持ちだったなぁ。
「じゃあ、明日は色々とお買い物だね。楽しみだなぁ」
紗奈ちゃんと同じくらいウキウキとした声でアオが言う。その様子が可愛くて、つい頭を撫でてしまった。
一息ついたところで部屋に呼び鈴の音が響いた。出てみると、誠史が夕飯だと呼びに来ていた。
「そっちは大丈夫?」
「うん。丁度終わったところだよ」
「じゃあ、一緒に行こうか」
誠史とアオを先頭に私たちはダイニングルームへと向かった。そこで紗奈ちゃんの歓迎会を兼ねて、いつもより少し豪華な食事が並んでいた。紗奈ちゃんは少し戸惑っていたけど、凄く嬉しそうにしながら食事をしていた。
それからお風呂も今日は慶人たちが大浴場を使う日だったけど、女子が使って良いと言ってくれた。だから、私たちは紗奈ちゃんを誘ってみんなで一緒に入る事にした。広々としたお風呂に浸かったりサウナに入ったりと、まるで旅行の時みたいな賑やかさで楽しんだ。
「じゃあ、おやすみー」
「おやすみー」
お風呂から出たら私たちはそれぞれの部屋へと戻って行った。
良かった。まだ初日だけど、紗奈ちゃんもこの家での生活を楽しんでもらえそう。……今までがどうだったのかは分からないけれど、この家で今までの分も幸せに過ごせると良いな。
部屋に戻りながら、私はそんな風に思っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
部屋に戻った紗奈は寝る支度を整えて寝室に唯一ある貰ったばかりのベッドに横になった。
「うわっ、凄くフカフカ……」
初めての感触に紗奈は思わず声が出た。そのまま上を見上げ、紗奈は今日1日の事を考えた。驚いたり戸惑ったりすることばかりだったが、そのどれもが新鮮で楽しかった。これから先もこんな風に過ごせるのかと思うと心が躍った。
「……明日が楽しみだな」
自然と零れた言葉はワクワク感に溢れている。それに気付いた紗奈は笑みを浮かべ、そっと目を閉じた。気持ちのいいベッドと布団の感触にすぐ眠気を誘われ、数分後には小さな寝息を立てていた。
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