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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第2章 最後の仲間
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第28話 最後の仲間


「佳穂に連絡したよ」


 紗奈ちゃんと話す日の夜、私たちの部屋の準備が整って私は《念話(テレパシー)》を佳穂に送った。それを告げると、一気に部屋の中に緊張が走る。アオもサオもどこかソワソワとして落ち着かない。でもそれはみんな一緒だった。


「(この話し合いで、これからの紗奈ちゃんとの関係が決まる……)」


 どう転ぶのか分からないだけに、どうにも気持ちが落ち着かなかった。


 佳穂に連絡して数分後、軽くドアをノックする音がした。そしてすぐにドアが開く。部屋に入ってきた紗奈ちゃんはみんな勢揃いしている事に驚いていた。


「何でみんなが……」

「みんなにも関係するからよ」


 佳穂が優しくそう言うと、紗奈ちゃんはどこか不安げに私たちを見た。


「紗奈ちゃん、良かったらここに座って」


 アオがそう勧めると、紗奈ちゃんはおずおずとその椅子に座る。その間に佳穂が私の横に立った。


「部屋には?」


 ごく小さな声で佳穂が聞いてきた。


「昨日と同じ。人避けと防音の結界を張ったよ。昨日よりもさらに強力にね」


 同じように小声で答えると、佳穂はホッとしたように紗奈ちゃんに目を向ける。その紗奈ちゃんは戸惑いと不安の入り混じった顔で私たちを見ていた。

 慶人の方を見ると軽く頷かれた。私も小さく頷き返すと、慶人が紗奈ちゃんの方を振り向いた。


「紗奈」

「……なに?」

「話というのは……お前の事なんだ」

「えっ……?」


 紗奈ちゃんは見るからに困惑して、キョロキョロと私たちを見回した。


「……実は」


 慶人の横に移動しながら、今度は私が話し始める。


「一昨日の夜、私と匡利が見ちゃったの……」

「見た……?」

「うん。……海で、紗奈ちゃんの背中から翼が生えるのを、見てしまったの……」

「っ…………!」


 紗奈ちゃんは大きく目を見開いて、顔色を一気に青褪めさせた。怯えたようにみんなを見回して、最後に私の事を見つめる。その眼には明らかな恐怖が宿っていた……。


「……っ、でも……それが、私とは限らないんじゃ、ないの……?」


 震える声で何とか紗奈ちゃんは言う。縋るような眼差しに胸が痛んだけど、私は軽く首を横に振った。


「……あまり知っている人はいないんだけどね、匡利は普通の人の何倍も視力が良いの」

「えっ……でも、匡利くんは眼鏡を……」


 紗奈ちゃんはチラッと視線を匡利に向けた。


「……この眼鏡は視力矯正のためではなく、見え過ぎるのを抑えるための魔道具だ。だが、かけていても恐らくみんなよりは見えている。……だから、見間違えはしない」

「…………っ」

「……それにね、紗奈ちゃん」


 私は自分のポケットからある物を取り出す。それは1枚の白い羽だ。


「これ、覚えているかな? 少し前に紗奈ちゃんが散歩に出て戻ってきた時、髪に付いていた羽だよ」


 あの日、私はこの羽を拾った後にどうしても気になって、そのままずっと自分の《無限収納(インベントリ)》にしまっていた。


「それが……?」

「……これ、さっき《鑑定》したんだ」

「えっ……鑑定って、何を言って……」


 紗奈ちゃんはどこか怪訝そうにそう呟く。それに構わず、私は言葉を続けた。


「鑑定した結果は……白い鳥の獣人の羽って出たの。そして、その主は……紗奈ちゃんだった」

「……っ、嘘よ!」


 紗奈ちゃんは叫びながら勢いよく立ち上がった。


「そんなの絶対に嘘! 信じられない! だって《鑑定》って、そんな貴重なスキルを優が持っているなんて知らない! 本当に持っているなら、何で優は“ここ”にいるの? 国の保護対象の筈でしょう!?」


 紗奈ちゃんがそう反応するのも無理はない。《鑑定》は希少スキルほどじゃないけれど、相当珍しいスキルだ。あまりに珍しくて《鑑定》を持っていると知られると、国に保護される事がほとんどらしい。今の私が――私たちがこうしていられるのは単純に“知られていない”からだ。


「嘘じゃないよ。珍しい事は分かっているから秘密にしているだけ。国に保護されたくないからね。……でも、持っているのは本当だよ」

「っ…………」


 紗奈ちゃんは言葉に詰まって、ますます顔色が悪くなる。動揺や怯え、恐怖といった様々な感情が入り混じった表情で泣きそうになっている。その様子が本当に可哀想だった。早く私たちの事を話したい気持ちになるけれど、まだ紗奈ちゃんの事を聞き終わっていない。

 私は痛いくらい手を固く握りしめた。


「紗奈ちゃん……」

「……っ、それでも……それでも、優と匡利くんが見間違えている可能性だって……《鑑定》が間違えている可能性だってあるでしょう!?」

「それは……」


 どこか縋るような必死な声と面差しで紗奈ちゃんは言う。でも、その問いには否としか言えない。私と匡利が見間違えた可能性はともかく、《鑑定》はレベルによって見られる内容は変わっても、その内容が間違う事は決してないからだ。

 ただそれを今の紗奈ちゃんにはとても言いづらくて、私は言葉に詰まった。すると、慶人が軽く肩を叩いた。


「――確かに、優たちが見間違えた可能性はある」


 慶人がそう言うと、紗奈ちゃんは一瞬表情が緩んだ。一方で慶人は顔をしかめている。


「……だが《鑑定》は違う。内容がレベルに左右される事があっても、その内容が間違う事は決してない。その事は……お前も知っているはずだ」


 そう言われ、紗奈ちゃんは表情を無くしてヨロヨロとしながら椅子に座る。俯く直前、髪の隙間から見えた表情を私は知っている。


「(……あの表情は“絶望”だ……)」


 私たちも今の紗奈ちゃんと同じ気持ちを抱いた事がある。みんなと出会った時と龍一に知られた時だ。あの時の事を思い出し、ギュッと胸が締め付けられる。

 紗奈ちゃんはすっかり黙り込んでしまって、項垂れたまま動かない。きっと色々と頭の中で考えているんだと思う。その考えの答えが出てからでないと、私たちも動けない。私たちはジッと紗奈ちゃんの答えが出るのを待った。


 不意にアオが動いた。どうするのかと思ったら、紗奈ちゃんの前でゆっくりとしゃがんだ。それから、そっと紗奈ちゃんの手を握る。紗奈ちゃんは驚いて手を引こうとしていたけど、思ったよりもアオの力が強かったみたい。困惑したようにアオを見た。


「お願い、紗奈ちゃん……私たちは、紗奈ちゃんを追い詰めたいわけじゃないの。ただ、本当の事を知りたいだけなの。だから……」


 アオはできる限り優しく、穏やかにそう言った。アオに見つめられて、紗奈ちゃんは少しの間だけ考える。そして、小さく息を吐いた。


「……分かった。本当の事を言う……。少しだけ離れてね……」


 紗奈ちゃんはそう言って、握り締めるアオの手からそっと手を離した。立ち上がると少し後ろに下がる。それから、何だか悲しげな瞳で私たちを1人ずつ見つめた。心なしか、最後に見た雅樹の事は誰よりも長く見つめたような気がする。

 そっと目が閉じられて、一度深呼吸をした。すると、一昨日の夜みたいに紗奈ちゃんの魔力の動きを感じた。


 あの時と同じように紗奈ちゃんの背中から何かがスルスルと出てくる。軽い音を立てて広がると、人を包み込んでしまえそうなほど大きな純白の翼が現れた。そして、ゆっくりと開かれた瞳は綺麗な青色をしている。

 私たちから話を聞いていても、みんなは驚いたように紗奈ちゃんを見つめる。それから少しの沈黙が流れた。


「――この通り、私は人間としての姿と白い鳥の獣人の姿を持っているの。それに、普通なら考えらえない程の数のスキルとレベルを持っているし、能力値もかなり高いんだ。魔力なんて、聞いた事もないくらい桁違いに持っているの……」

「…………」

「……分かっていると思うけど、私はただの能力者じゃない。私は……あまりにも“異質”な異能者(ミュータント)なの……」


 そう話す紗奈ちゃんの表情は物凄く悲しそうだ。今にも泣いてしまいそうな目がとても痛々しく感じる。

 紗奈ちゃんはもう一度目を閉じると、背中の翼をしまう。翼は現れた時と同じようにスルスルと背中に吸い込まれるように消えていく。数秒も経たないうちにそれは跡形もなく無くなっていた。開いた目もいつもの色に戻っている。


「……ずっと上手く隠せていたのに、油断してたなぁ……。まさか、よりにもよって1番知られたくなかったみんなに知られちゃうなんて……」


 紗奈ちゃんはそう言って笑うけど、見た事もない顔をしている。自虐的で自分を卑下するような笑い方だ。それを見て、思わず私は顔をしかめた。


「紗奈ちゃん……」

「何? 別に、気を遣わないで言ってくれて良いんだよ? よくも騙したなって。……詰りたければ詰ればいいよ。離れたいなら、離れてくれて構わない……! もう、私も近づかないから……」


 笑みを消し、顔をしかめて紗奈ちゃんはそう言う。その表情と言葉に私たちは息を呑んだ。


「待って、紗奈ちゃん。何で、そんな事……っ」

「何でって……そんな事も分からないの……?」


 苦しげに顔を歪ませ、紗奈ちゃんは睨むように私たちを見る。

 アオとサオは動揺を隠せず、身体がふらついている。それを側にいた誠史と朔夜が2人を支えた。佳穂もギュッと自分を抱きしめるように腕を回している。慶人たちの顔にも動揺の色が見えた。私は唇を噛み締め、右手で自分の左腕を強く掴んだ。


「……分かる筈ないか」


 ポツリと呟いた紗奈ちゃんは自嘲気味に笑う。


「だって、みんなは“普通”だもんね。……こんなの、分かる筈ないんだよね……」

「紗奈ちゃ……」

「想像できる? “普通”じゃない事でどんな扱いを受けるのか……」


 紗奈ちゃんは苦々しげな顔でそう言った。その声には深い悲しみと憎しみが込められているように感じる……。


「……これでもね、私の両親は“普通”の人間で“普通”の能力者だったの。それなのに、2人の娘である私は全く違った。異能者(ミュータント)って言うだけでも異質なのに“普通の異能者”ですらない! おまけに鳥の獣人の姿まで持って“ただの人間”でもないなんて……っ、どれほどの扱いを受けると思う!?」


 泣き叫ぶような悲痛な声に、私たちはすっかり言葉を失った。それどころか、胸が痛くて仕方なかった。


「……もう、まともに“人”として見てもらえない。誰も彼もみんな……私を“化け物”扱いするの……」

「…………っ」

「親兄弟ですら受け入れてくれなかった……。私の事を知ると、周りの人みんなが嫌ってきた。……ううん、嫌うなんて生易しいものじゃない。あれは……憎んでいた。心の底から……そうして、みんな離れていくの……!」


 ギリッと音が鳴りそうなほど力強く拳を握ったかと思うと、紗奈ちゃんは私たちを睨むように見据えた。


「みんなだって同じでしょう? もう私の事、今までの様には見られないでしょう? ……っ、化け物だって思うでしょう!?」


 一瞬、全員が息を呑んだ。思わずといった風にアオが一歩前に出た。


「そんな事……そんな事ないよ、紗奈ちゃん!」

「嘘! 綺麗事を言わないで!」


 紗奈ちゃんの激しい叫びに、アオは体を震わせて後ろに下がった。倒れそうになるのを慌てて誠史が支える。


「そんなの、信じられない……っ、だって、今まで誰も受け入れてくれなかった! 厄介者扱いして、化け物と呼んで……“お前なんかいらない”って言った!」

「紗奈ちゃん……っ」

「誰一人、側にいてくれなかった。もう……あんな思いはたくさん!」


 ポロリと堪えていた涙が紗奈ちゃんの瞳から零れ落ちた。そのままポロポロと涙が流れる。


「お願いだから、期待させないで。いつか離れてしまうのなら、今突き放して……これ以上、悲しい思いをしたくないの……っ!」


 紗奈ちゃんは膝から崩れ落ちて、両手で顔を覆った。指の間から涙が零れ落ちて、小さな嗚咽の声が聞こえてくる。

 ふと、私は自分の視界が滲んでいる事に気付いた。いつの間にか私も同じように泣いている。私だけじゃなくてサオも泣いていて、涙を滲ませながら堪えている佳穂に手を握られていた。アオは誠史に抱き締められながら肩を震わせている。慶人たちも悲痛そうな面立ちで俯いていた。


 その時、思ってもみない事が起こった。


『話しかけるんじゃねぇよ、この化け物!』

『置いて行かないで……独りにしないでぇ……っ!』

『お願い……ここから出して……っ!』

『何で……どうして……どうして私を嫌うの……っ!』

『俺の言う事なんか、誰も……信じないんだな……』

『私の娘に何するつもり!? この悪魔っ!!』

『お前のせいだ……何もかも、お前が生まれたせいで、全てを失った……!』

『あんたが……あんたらが弟じゃなければ良かった……そうすればこんなにも、私が苦しまなくて済んだのに……っ!』

『あんたさえいなければ、私は幸せだったのに……っ!』

『あんたなんか……あんたなんか、産まなきゃ良かった……』


 突如、頭の中をいくつもの声が流れた。聞いた事のある声も、聞き覚えのない声もある。そのどれもが悲しみに満ち溢れていた。

 何が起こったのかと驚き、あまりの衝撃に足元がふらつく。よろけて側にいた誰かに軽くぶつかると、そのまま支えるように肩を抱かれた。誰なのかと見上げたら匡利だった。匡利は眉を顰め、珍しく困惑の表情を浮かべながら私を見た。

 もしかして、匡利にも聞こえてた……? 周りを見ると、みんな同じように驚きと戸惑いの表情を浮かべている。そして、それは紗奈ちゃんも同じだ。


「……今のは、何……?」


 紗奈ちゃんの問いに私たちは顔を見合わせる。

 あれはきっと、みんなの“過去の記憶”だ。あまりにも悲しくて、誰にも触れられたくなくて、心の奥底にしまい込んでいた記憶たち……。それが紗奈ちゃんの悲しみに触れた事で、溢れ出てしまった。そして、意図せず互いに《念話(テレパシー)》で伝え合ってしまった。紗奈ちゃんにも聞こえたという事は、紗奈ちゃんも《念話(テレパシー)》のスキルを持っているんだね。

 私たちにはなんとなくそれが分かったけれど、私たちを“普通の能力者”だと思っている紗奈ちゃんからしたら、青天の霹靂だと思う。さっきとは違った意味で困惑の表情を浮かべていた。

 私たちはお互いに目配せをして、軽く頷き合った。


「――今のは、俺たちの記憶だ」


 意外にもそう話を切り出したのは雅樹だった。それを聞いて、紗奈ちゃんは目を見開いて私たちを見た。


「悪い、紗奈。俺たちもずっとお前に黙っていた事がある。……俺たちは、紗奈と同じ“異質”の異能者(ミュータント)なんだ」

「っ!?」


 紗奈ちゃんは息を呑み、私たちの方にも目を向けた。私たちは何も言わず、ただ頷いた。


「……嘘」

「嘘じゃない。本当なんだ」

「だって、そんな……っ」

「……これでも、信じられないか?」


 雅樹がそう言うと、一瞬だけ体が光る。その光は狼の姿を形どっていて、光が収まるとそこには銀色の毛と金の瞳の大きな狼が現れた。紗奈ちゃんは声にならない驚きの悲鳴を上げる。雅樹は座り込む紗奈ちゃんに近づくと、側に座った。2人はしばらくじっと見つめ合った。


「……っ、雅樹くん、なの……?」

「あぁ。俺だよ」

「本当に……?」

「本当だ。俺は人間と狼人間の姿を持っている。これは狼型の姿で、獣人型と人型の姿もある」


 そう言うや否や雅樹は姿を変えた。現れたのは、瞳が金色で狼の耳と尻尾の生えた獣人型の雅樹だ。この姿、私たちもあまり見ないから珍しいんだよね。ちなみに人型だと瞳の色が違うだけで、あとはいつもの雅樹とほとんど変わらない。

 目の前で見た事もない姿の雅樹がしゃがんでいるからか、紗奈ちゃんは思わず顔を赤くして驚いている。良い反応だなぁ……。


「これでも信じられない?」

「う、ううん……」


 紗奈ちゃんはそう言うと、私たちの方をチラッと見た。その眼にはさっきまで流れていた涙はなくて、恐怖や絶望の代わりに戸惑い色が見えた。


「……みんなは?」


 思った通りにそう聞かれて、私たちは視線を交わす。これは、口で言うよりも見せた方が早いかな? そう思って、私は自分の姿を変えた。

 犬歯と爪が鋭く伸びて、耳の先が尖る。目の色もきっと琥珀色から赤くなっていると思う。それから背中からは大きなコウモリの羽が生えている。姿を変え終えると、私は紗奈ちゃんの方を見た。


「これが私のもう1つの姿。吸血鬼だよ」

「吸血鬼……」

「そう。他のみんなだって、もう1つの姿を持っているよ。ねっ?」


 私が声をかけると、みんなは苦笑いを浮かべながら変身をする。

 アオは瞳が桔梗色から金色に変わって、狐の耳と尻尾が生えた。

 サオは紺色の髪が黒く染まって、瑠璃色の瞳が緑色の猫目になる。頭からは猫耳が生えて、細長い猫の尻尾も生えた。

 佳穂はさすがに人魚姿にまではならなかったけど、耳がエメラルドグリーンのヒレ耳になる。それに樺色の瞳が綺麗な水色になった。

 慶人は髪が金髪になって、背中から紗奈ちゃんよりも少し大きな純白の翼が生える。不思議とよくイメージされるような「天使の輪」はないみたいなんだよね。

 匡利は耳が長く尖り、髪が長く伸びる。それから瞳の色が深緑から青色に変わった。

 誠史は髪が黒く染まって、瞳が赤い猫目に変化する。私ほどじゃないけど犬歯が鋭く伸びて、爪も長くなっている。耳も尖って、背中には漆黒の鳥の翼が生えた。

 朔夜はこげ茶色の瞳が緑色に代わって、黒いピンと立った犬耳と少し太い尻尾が生えた。

 玲は髪が真っ白に染まってこげ茶色の瞳が水色に変わった。それから朔夜と色違いの白い犬耳と尻尾も生えている。

 みんな一斉に姿を完全に変えたのは初めてで、私から見ても少し圧巻だった。もちろん紗奈ちゃんもそれは感じているみたい。目を見開いてあんぐりと口を開けている。


「ねっ? 同じでしょう? それにね、スキルとか魔力とかそう言うのも全部一緒だよ」

「一緒……?」

「うん。全部、紗奈ちゃんと一緒。……私たちはね、紗奈ちゃんの“仲間”なんだよ」


 そう言うと紗奈ちゃんは唇を戦慄かせて、涙をボロボロと零し始めた。


「わ、私……みんなに、酷い事、言って……っ!」


 震える声で紗奈ちゃんが言ったかと思えば、すぐ側にいた雅樹が紗奈ちゃんを抱き締めた。その行動に紗奈ちゃんだけじゃなくて、私たちも少し驚く。でも、雅樹は構わずギュッと紗奈ちゃんを抱き締めている。


「……気にしない。それよりも少しの時間でも、悲しい思いをさせてごめん」

「そ、んな事……っ」

「紗奈の事をちゃんと知ってからじゃなきゃ、俺らの事を話せなかった。それでも、怖い思いをさせてごめんな……」


 雅樹の言葉に紗奈ちゃんはますます涙を流している。そんな紗奈ちゃんを慰めるように雅樹は紗奈ちゃんの背中をゆっくりと撫でてあげていた。

 雅樹が紗奈ちゃんを慰める間、私はそっと慶人に近付いた。


「ねぇ、慶人」

「なんだ」

「紗奈ちゃんもさ、私たちの家に一緒に住むのって無理かな?」


 私の声が聞こえたのか、紗奈ちゃんが驚いたように顔を上げた。慶人は眉を軽く顰めると、腕を組んで考えた。


「……俊哉さんに確認する必要はあるが、反対はしねぇだろうな。家の方も問題ない。後は、紗奈次第だ」


 そう言って慶人が視線を向けると、紗奈ちゃんは少し戸惑っていた。少し説明が必要かな?


「あのね、紗奈ちゃん。私たちが一緒の家に暮らしているのは知っているよね?」

「う、うん。シェアハウスだって言うのは聞いた事あるよ」


 あっ、そういえばそう言う設定なんだっけ?


「それでね、紗奈ちゃんも一緒にどうかなって思って……」

「……お誘いは嬉しいけど、難しいんじゃない? 大家さんとか契約とか色々あると思うし……」


 やっぱりそう言うのが気になっちゃうよね……。そう思ってチラッと慶人を見ると、小さく息を吐いた。


「それは学校や世間に対する建前で、実際は普通の家だ」


 ……あれは普通の家とは言わない。でもまぁ、シェアハウスじゃないって言う点では普通の家かな?


「えっ、大家さんとかは?」

「んー、あえて言うなら慶人かな? 元々は慶人の家だし」

「そうだな。契約、と言う意味では俊哉さんに話す必要が多少はあるがな」


 俊哉さんの名前に紗奈ちゃんは首を傾げている。


「俊哉さんは慶人の親戚の人で、私たちみんなの後見人になってくれているの。もちろん、私たちが異能者(ミュータント)だっていう事を全て理解してくれた上でね」

「凄く優しい人だよ」

「面倒見も良い人だよね」


 私とアオとサオの話に紗奈ちゃんは少し驚いているみたいだ。


「……そんな人がいるの?」

「うん」

「私たちみんな大事にしてもらっているのよ」

「きっと紗奈ちゃんの事も歓迎してくれるよ」


 佳穂と私が言うと、紗奈ちゃんは困惑したように私たちの顔を順に見つめる。


「……本当に、良いの……?」

「もちろん!」


 意図せず私たち全員の声が揃った。こんなにも揃うとは思わなくて、私たちも驚いてお互いを見た。その様子がおかしかったのか、紗奈ちゃんからやっと笑い声が聞こえてきた。


「……うん。私、みんなと一緒に暮らしたい」


 そう言われ、私とアオとサオと佳穂は喜びの声を上げた。慶人たちも安心したように表情が柔らかくなった。


「これから忙しくなるな」

「紗奈が引っ越してくるまでの段取りは俺と玲が考えよう」

「それから、必要な物を購入する店もリストアップしておく」

「任せたぞ。朔夜、玲」


 慶人と朔夜と玲がそう話すのが聞こえてきた。3人とも表情が嬉しそうだ。


「俊哉さんにも一度会ってもらわないとね」

「俊哉さん、驚くだろうね」


 誠史とアオも楽しそうに話している。


「家も少し変えないといけないわね」

「お買い物もたくさんだね」


 佳穂とサオの楽しげな会話も聞こえてきた。

 雅樹は紗奈ちゃんの手を取って立ち上がらせると、何かを話している。それを聞いている紗奈ちゃんもとても穏やかな顔をしている。

 みんなの様子を眺めていたら、不意に匡利が頭を撫でてきた。見ると、匡利はいつも通りの無表情だけど、穏やかな目をしている。


「良かったな」


 優しく言われ、私は満面の笑みを浮かべて大きく頷いていた。






 こうして紗奈ちゃんは私たちの仲間になってくれた。密かな願いが叶って、私たちは喜びに満ち溢れていたと思う。






 そして実はこの時、不思議な運命で繋がった「私たち」が初めて(・・・)全員揃った瞬間だったという事を、私たちは知る由もなかった……――






ここまで読んで下さりありがとうございました!




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