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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第2章 最後の仲間
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第24話 夏の思い出に 中編

 みんなと集まってから夜の食事の時間までは、またみんなであちこち回っていた。結構街の中を歩くだけでも物珍しい物が多くて楽しめている。

 日が大分傾いてきた頃、巧巳さん達と待ち合わせている店に向かった。朔夜と玲が言うにはこの島で一番有名なお店で、実は朔夜たちの観光プランにも上がっていたお店だった。

 お店に着いてから入り口で巧巳さんの名前を言うと、すでに着いているらしくて案内された。向かったのは結構広い個室で、部屋の中央には15人は座れるであろう大きな円卓があった。そして、巧巳さんと蒔田さんが並んで座っていた。


「やぁ、迷わなかったかな?」

「はい」

「うんうん。じゃあ、好きなように座ってねー。優梨ちゃん、おいでー」

「紗奈ちゃんはここにどうぞ」


 好きなように、と言いつつ何故か指定される私と紗奈ちゃんは思わず顔を見合った。紗奈ちゃんのすぐ隣にいる雅樹は青筋を浮かべているけど、さすがにここで揉めるのはマズいと思っているのか顔を引き攣らせている。私と紗奈ちゃんは肩を竦め、それぞれ巧巳さんと蒔田さんの隣に座った。それを合図に順々に座っていく。

 席は巧巳さんから反時計回りに私、匡利、誠史、アオ、サオ、慶人、佳穂、朔夜、玲、雅樹、紗奈ちゃん、蒔田さんの順に座った。匡利が隣に座ってくれた事にちょっとびっくりしたけど、その分ちょっと安心もした。これなら何かの時はフォローしてもらえそうだ。蒔田さんと巧巳さんの真正面には慶人が座っているしね。


「一通りのおすすめは頼んだから、あとは好きなのを頼むと良いよ」


 巧巳さんが言うのと同時に個室の扉が開いて、次々と料理が運ばれてきた。どんどんテーブルに置いていくけど、どうやらテーブルの中央が回るようになっているみたい。聞くと「回転(ターン)テーブル」って言うらしい。確か、前世の中華料理屋さんにもあったんじゃないかな? 行った事ないから実物は知らないんだけど、イメージ的にはそれだ。

 料理は大皿盛りで、好きな物を自分のお皿に装って食べるみたい。他にも店員さんにお願いすればこれ以外の料理も1人前から持ってきてくれるらしい。料理は和食寄りで、たまに洋食っぽいメニューもある。

 料理が運ばれてくると、今度はそれぞれの前にドリンクが置かれていく。ワイングラスに薄ピンク色の綺麗な飲み物が入っている。でもこれ、お酒じゃないかな?


「おい、これは酒か?」


 慶人も気になったのか巧巳さんに聞いた。


「ん? あぁ、安心して。俺以外のみんなはロゼワインのノンアルコールだよ。俺だけ普通のワインだけど」

「えっ、俺もノンアルコールなのかよ」

「孝己だって未成年だろう? 今日は我慢しろー」

「ちぇ……」


 さては家では飲んでいるな、あれは……。でも、アルコール無しで良かった。お酒は前世でも飲んだ事ないから見当がつかないんだよね。今は慶人とか匡利が結構厳しいから、少なくとも高校生の内は飲まないかな?


「みんな、グラスあるね? それなら……俺たち兄弟とみんなの出会いに乾杯!」

「乾杯!」


 巧巳さんの合図でみんなの声が上がる。手が届く範囲で軽くグラス同士を当てると綺麗な音が鳴った。

 巧巳さんが選んだノンアルコールワインはかなり美味しかった。軽い甘口のぶどうジュースみたいで少しだけ炭酸もある。甘いのに炭酸だからスッキリとしていて飲みやすい。


「美味しい……」

「でしょう?」


 私の呟きが聞こえたのか、巧巳さんが得意げに声を上げた。


「この島の特産の1つだよ。貴族向けにワイナリーがあるんだけど、酒が苦手な人にも飲めるようにって造られているんだ。子どもにも人気なんだ」

「へぇ……」


 今日の観光では回らなかったけど、買ってみたいな……。後で買えるか聞いてみよう。


 乾杯の後はそれぞれ好きな物をお皿に装って食べ始めた。私はサラダとお肉を焼いたのとカポナータみたいな野菜の煮込みと、グラタンみたいなのを最初に取った。グラタンみたいなのは巧巳さんの勧められたんだけどね。

 それからの話は色々と自分たちの事を巧巳さん達に話したり、逆に蒔田さんと巧巳さんの話を聞いたりもした。特に巧巳さんはすでに成人している上にBランクだから結構色々と経験していた。


「――Cランクになった時に初めて海外に行ったけど、結構凄かったなぁ。瑞穂国じゃ見ないような魔物もいるし、ダンジョンも色々あるからな」

「今まで行ったので1番印象に残っている所ってどこですか?」

「んー、いっぱいあるけど、海中にある遺跡ダンジョンには行きたかったかなぁ」

「海の中に?」


 中には普通の人間が行くにはかなり大変な所にもあるって聞いた事があるけど、そんな所にまであるんだ。


「そう。さすがに、それは行くのを断念したよ。まず入り口その物がかなり深い所にあるし、そこまで行くのに海魔や大型のサメがうようよいて、相当危険だったからね」

「行くとしたらどうやって行くんです? そのダンジョン」

「金銭的に余裕があれば、専用の潜水艇を借りるか買うのが1番だな。それか上等な結界石を買って自分に結界を張ってそこまで泳ぐ方法もあるよ。どっちにしても、毎年結構な人数がやられているみたいだけどね」


 どうして朔夜は興味津々なのかな。何か行く方法でも考えているとか……? どっちにしても海魔やサメが周りを泳いでいる中で泳ぐなんて相当怖いよ……。


「後はね、火山の火口付近に入口がある所とか、魔物の巣が集まっている所のど真ん中にある所とか、入口に行くだけでも命がけの所はいっぱいあるね」

「……それ、行ったんですか?」

「火山は行ってないけど、魔物の巣の方は行ったよ。運よくその魔物よりもリズたちの方が強かったからね」


 なるほど。自分のランクはもちろんだけど従魔師(テイマー)は自分の従魔の能力も考慮して探索をするのか……。


「将来的には、人間界側だけじゃなくて魔界側も行こうと思っているんだよね」

「それ、海を渡るだけでも大変じゃないですか」

「そうだねー。だから従魔も増やしたいし、《時空属性魔法》のレベルを上げるかもっと性能の良いマジックバッグを手に入れたいし、俺自身のランクもせめてAに上げたいな」


 ……結構軽い態度しか見ていないけど、冒険者として本当に優秀なんだって言うのが今の話だけでも少し分かった。将来的な目標もそれに向けて自分の必要な物もしっかり分かっていて、意外としっかりしているんだなぁ。


「優梨ちゃん達さ、チラッと見ていたけど結構強そうだよね」


 そう言われ、私たちは思わず目を丸くした。ただ単に私に会いに来ているだけだと思っていたけど、私たちの腕も見ていたんだ……。


「このまま冒険者を続けていくなら、ランク上げて海外に行っても良いんじゃない? なんだったら、俺が案内しても良いし!」

「その時は俺も案内するぞ!」


 巧巳さんの話に便乗するように蒔田さんも声を上げる。私たちは互いに見合って、軽く苦笑した。


「……いつか、行けたらいいですね」


 もし巧巳さん達と一緒に行くとしたら、それは彼らに私たちの正体を明かすという事になる。それに巧巳さんもいくらなんでも本気で言っている筈がない。そんな気持ちからか、私の返事はとても曖昧になってしまった。でも、巧巳さんは特に気にする風でもなく、いつもの軽い笑みで「そうだよね!」と言っていた。

 冒険者には色々と複雑な事情を抱えている人が多い。もちろんそうでない人もいるけど、私たちぐらいの年齢の人には特に多い。それを経験上分かっているのか、巧巳さんも蒔田さんもそれ以上の事を詮索してくる事はなかった。


 それから食事を終えてデザートまでしっかり食べた後、私たちは店を出た。しかもここの支払いは巧巳さんと蒔田さんの奢りだった。私たちの分は自分で払うと言ったけれど、丁重に断られてしまった。


「だってそのために昼間のうちにダンジョンで目一杯稼いできたんだよ? だから大丈夫! ここは大人に任せなさい」


 そこまで言われてしまっては何も言えない。店を出た後、私たちは全員で2人にお礼を言った。

 それから一緒に私たちの泊まる宿泊所まで戻ったけれど、巧巳さんは召喚・従魔ギルドが運営している従魔と一緒に泊まれる宿泊施設だからと魔導バスを降りたところで別れた。


「またねー」


 そう軽く言って手を振りながら巧巳さんは行ってしまった。それを見送って宿泊所の中に入ると、ロビーの所に静香さんがいた。


「あら、おかえりなさい。観光はどうだった?」

「楽しかったです」

「それは良かったわ。蒔田くんたち、みんなに迷惑をかけなかった?」


 こそっと聞かれて、私は無言で笑みを浮かべて頷くだけにした。それだけで察したのか、静香さんはそれ以上何も言わなかった。静香さんがチラッと蒔田さんを見ると、そそくさと部屋に戻って行ってしまった。


「そうそう。みんな、ちょっと待って」


 部屋に戻ろうとすると、そう引き留められた。もしかして、海の事かな?


「今朝話していた海の事だけれど、無事予約が取れたわよ。西島の方では取れなかったんだけれど、東島側で取れたわ。ただ、ここからちょっと離れた場所なのよ。それでね、良ければ私が連れて行くわ」

「いいんですか?」


 静香さんの申し出に慶人が聞き返すと、静香さんはにっこりと笑った。


「えぇ。明日は私も休みなんだけれど、夫の休みと合わなかったのよ」


 ……旦那さんいたんだ。会った事あるかな?


「だから用事も特に何もなくて。それに、あなた達にはすっかり蒔田君たちがお世話になっているみたいだし、私からのお礼も兼ねて連れて行きたいの。どうかしら?」


 そう言われて私たちは顔を見合った。みんな、特にこの申し出に異論はないみたい。


「では、お言葉に甘えさせていただきます」


 慶人がそう言うと、静香さんは満足そうに頷く。


「じゃあ、明日の朝食の後、10時ごろにここに集合で良いかしら?」

「はい」

「じゃあ決まりね」


 それから部屋に戻ると、さっそく明日の用意を始める。と言ってもマジックバッグから《無限収納(インベントリ)》に移すだけなんだけどね。


「水着でしょう、寒くなった時の上着でしょう、帽子でしょう、日焼け止めと……うん、こんなものかな」


 移し替えた後、もう一度《無限収納(インベントリ)》の中を見た。マジックバッグに見立てる鞄は探索の時にも使っている物だ。普段はベルトに着けているけど、肩掛け用の紐を付ければショルダーバッグにもなるんだよね。《無限収納(インベントリ)》の中身も問題なさそうだ。


「何だかんだで、海にちゃんと行くのって初めてだね」


 準備が終わるとアオがそう言った。


「そうだね。近くまで行く事はあっても遊ぶような事はなかったしね。それに昔は……」


 サオが何かを言いかけて口を噤んだ。何も言わなくても、サオが何を言いたいのか私とアオには理解できる。

 小さい頃、それこそみんなと出会うまでは想像できなかった。こんな風に海まで来てさらに遊ぶなんて考えられなかった。だって今日1日を生きるのに必死で、将来どころか明日だって無事に生きているか分からなかったから……。そんな自分が、まさかこんな生活を送れるようになるなんて思いもしなかった。


「……せっかくだから、思い切り楽しもうね。アオ、サオ」

「「うん!」」


 私の言葉に2人は大きく頷く。せっかくの海なんだから、昔の事はもう忘れて、今は楽しい事を考えよう。そう思って私たちは明日の事に胸を躍らせながら眠りに就いていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 翌日は夏らしい快晴の空だった。東島の海水浴場の浜辺は西島からも近い場所で、人気の観光スポットの1つだった。私たちが静香さんの運転で着いた頃にはすでに多くの人がいたけれど、遊ぶのには十分なスペースがあった。

 浜辺の入口にはちょっとした建物があって、そこで予約している事を係の人に告げてから更衣室に向かう。ここには着替えと遊んだ後にシャワーができる設備がある。チラッと見てみたけど、更衣室もシャワールームも綺麗に管理されていた。

 着替えたらいよいよ浜辺へと出て行った。


「「「「「海だーーーーっ!!」」」」」


 浜辺に出た瞬間、私たち女子はそう叫んではしゃぎだした。


「あらぁ、元気ねー」

「ハハッ……」


 後ろから静香さんの楽しそうな声と慶人の乾いた笑い声が聞こえてきた。


「いやぁ、可愛いねぇ」

「うんうん」


 そして、何故かちゃっかりとついてきた巧巳さん兄弟も何か言っているけれど、ここは気にしない事にする。

 人数も多いからそれなりのスペースがある所に大きめのレジャーシートを2枚敷いて、ビーチパラソルも設置する。どうやら静香さんが用意してくれていたみたい。そこまで用意できた私たちはバッグと着ていた上着を脱いで波打ち際に向かって行った。


 それにしてもみんな水着姿が可愛いなぁ。

 アオは白地にカラフルな花柄のビキニで、トップスが前でリボン結びをするのなんだよね。ボトムスはスカートタイプだから、物凄く可愛いデザインなんだけど、それがアオによく似合っている。

 サオはバッククロスのフレアワンピースの水着で、水色にリーフ柄だ。シルエットは可愛らしいけど、色と柄で大人っぽくも見えて、サオらしいチョイスだなぁ。そしてよく似合っているね。

 佳穂は黒いVネックのモノキニで、凄くシンプルなデザインなんだけどそれが大人っぽいんだ。だから佳穂の雰囲気によく合っているし、スタイルの良さが凄く際立っている。

 紗奈ちゃんは白地に黄色とオレンジのチェック柄のタンキニだ。ホルターネックになっているのがオシャレで、何より紗奈ちゃんの背の高さとスラリと長い手足に凄く合っていて、モデルさんみたいなスタイルの良さがよく分かる。

 私は赤に大きな黄色い花柄のビキニタイプで、腰にはパレオを巻くようになっている。着替えた時にアオたちからは「凄く似合っているし可愛いよ!」と言われたし、自分で言うのもなんだけどよく似合っていると思う。


「それにしても優梨ちゃんたちの水着姿、華やかだなぁ。みんなスタイル良いから良く似合っているし、いいね!」


 そんな声が聞こえて振り返ると、巧巳さんが何とも言い難い笑顔を浮かべていて、隣の蒔田さんもさすがに呆れた表情をしているけど、顔は赤い。その後ろでは慶人が変な虫を見るような顔をしているし、朔夜と玲は苦笑いを浮かべていて、誠史と雅樹は顔が怖い。匡利は無表情ながらあれは呆れているね。とりあえずサッサと離れよう……。

 そうしたら、慶人たちも素早く上着を脱いでこちらに向かってきた。ちなみに男子の水着はいわゆる「海パン」で、みんなシンプルなのしか選ばなかったんだよねー。慶人と朔夜は黒、匡利は深緑、誠史と雅樹は青、玲は白の無地を着ている。ただ、みんな鍛えていて腹筋は割れているし程よく筋肉がついているから、見た目の迫力が色んな意味で凄い。それにこうして見ると、雅樹も前と比べたら大分健康な体つきになってきたんだね。それはちょっと安心かも。


 私たちが海に入ると、巧巳さんと蒔田さんも私たちの後を追うように入ってきた。静香さんは「ゆっくり体を休めたいから」と言ってビーチパラソルの下でデッキチェアに座って笑いながらこちらを眺めている。

 海に入ってからは好きなように泳いでいたんだけど、何故か途中で雅樹と蒔田さんの水泳勝負が始まっていた。結構いい勝負だったんだけど、結果は雅樹の方が勝って蒔田さんは凄く悔しがっていた。それから巧巳さんがビーチボールを用意していて、ビーチバレーもやったよ。みんな凄かったけど、バレー倶楽部部長・副部長の誠史と玲がやっぱり上手かったなぁ。

 ただ、巧巳さん兄弟に向かって誠史が打ったスパイクがかなり強烈だったのはきっと気のせいじゃない……。ビーチボールなのに鉄球を打ったみたいだったんだけど……。誠史とは雅樹が組んでいたんだけど、さすがに雅樹も顔が引きつっていた。


「残念。外したか」


 巧巳さんたちの間の砂浜にボールがめり込んだ直後にそんな誠史の呟きが聞こえきたよ。……怖っ!

 ちなみにこの勝負は巧巳さんが即行で棄権を宣言して、誠史・雅樹ペアの勝利となった。


 太陽が高く昇った頃、私たちは海から出てビーチパラソルの下に集まった。もうお昼時って言う時間で昼食を食べようか、という話になった。すると、静香さんが宿泊所の食堂でお弁当を作ってもらっていた。飲物だけは現地調達らしくて、それを買いに売店へ行く事になった。行くのは静香さん、佳穂、紗奈ちゃん、巧巳さん兄弟、雅樹と玲だ。


「じゃあ、行ってくるわね」


 静香さん達が買い物に行っている間、私たちはパラソルの下で待っている事にする。とりあえず上着を着て、帽子もかぶっておこうかな。あっ、でも《無限収納(インベントリ)》の中だから鞄の所行かなきゃ。鞄はシートの端の方に重しを兼ねて置いてある。


「ふぅ、たくさん泳いだねぇ」

「楽しかった?」

「うん!」


 後ろからそんな声が聞こえて、見るとアオがパーカーを着ながら誠史と話していた。すると、誠史がジッとアオを見た。見つめられているアオはちょっと照れ臭そうに首を傾げている。どうしたんだろう?


「――もしかして、加村くん達ですか?」


 不意に聞き慣れているけれど意外な声が聞こえてきて、私たちは声のした方を振り向いた。そこには驚いたような顔をした水着姿のエリカが立っていた。


「エリカ!?」

「どうしてここに……」


 アオと誠史も驚きの声を上げているし、サオと慶人と朔夜も驚いた顔をしている。匡利はいつも通りだ。

 チラッと見ると、エリカの後ろには侍女の人と護衛の人らしき人が全部で3人もいる。エリカは黄色地に赤のハイビスカス柄の綺麗なフレアワンピースタイプの水着を着ているけど、侍女さんと護衛さんは多分普段通りの格好だ。


「加村くん達が仰っていた遠くのダンジョンとはここの事だったのですね」

「うん、そうなんだ」

「エリカが行くって言っていた別荘地って、もしかして西島の中心部の別荘地?」

「えぇ、そうですよ」


 エリカとアオと誠史が3人で話して、その周りで私とサオと慶人が話を聞く。匡利と朔夜は侍女さん達と挨拶をしていた。すると話を聞いていたアオが首を傾げた。


「でも、貴族向けのビーチって西島だよね? ここ、割と一般向けだよ?」

「昨日まではそちらにいましたよ。今日は少し気分を変えようかと、こちらまで足を延ばしたんです。そのおかげで加村くんにお会いできました」


 どことなくエリカの表情は嬉しそうだ。まぁ、思いがけず誠史に会えたんだから嬉しいよねぇ。


「加村くん達のダンジョン探索はいかがですか?」

「今のところ順調だよ。一応ね……」


 曖昧な返事なのは蒔田さん達の乱入で色々と予定外の事が起こっているからね。でも当初の予定通り探索後に観光していたら、エリカに会えなかったかもしれないのか。


「こちらのダンジョンはなかなか凄いと聞きますわ。探索は少々難しいようですが、採れる物は良質で一級品の物が多いとか」

「確かに採れる素材は良い物が多いね」

「そうだね。海ダンジョンの方は魚がなかなか良い物が獲れているよ」

「陸ダンジョンもホーンラビットとかジャイアントボアの肉も結構美味しそうだったね。虫が出るのはちょっと嫌だけど……」


 私とサオも会話に参加して昨日までのダンジョン探索の事をエリカに話して聞かせる。意外とエリカも興味深そうにその話を聞いてくれた。


「――色々とあるんですね。ところで、皆さん全員で一緒に潜っているんですか?」

「ううん。さすがに人数多いし2か所もあるから、二手に分かれているよ」

「そうなんですか……。本当に、良いですね」


 そう言って笑うエリカの表情が何だか寂しげに見えて、私は思わずアオと顔を見合わせた。アオも驚いているし、次に顔を見たサオも同じような表情をしている。でも、次に見た時のエリカの表情はいつも通りだった。


「おい、白鳥」


 慶人は呼びかけると、離れている侍女さん達を見る。エリカが視線を向けると侍女さんが駆け寄ってきた。そして、耳元で何かを囁いた。


「……そう、レイカお姉さまが……えぇ、分かったわ」


 また侍女さんが離れると、エリカはなんだか残念そうな表情で私たちを見た。


「すみません。家族が呼んでいるようなので、私は戻りますね。加村くん、皆さん、また学校で」

「うん、また……」

「それでは、ご機嫌よう」


 エリカは全員に声をかけると侍女さん達を引き連れて行ってしまった。エリカが行った後、私とアオとサオは首を傾げた。


「……さっきのエリカの顔、何だったのかな?」

「ねぇ……」


 アオとサオの顔はなんだか複雑そうだ。誠史と慶人も何とも言えない顔をしている。


「……エリカにも私たちには想像できないような悩みとか葛藤があるのかもね」


 そう言う私はさっきのエリカの顔を思い出した。そして、一緒に来ていた侍女さん達の事も考える。

 一緒に行動はしているけど、その関係は主従だろうから友人とはまた違っていると思う。そんなエリカからすると私たちはどう見えたのかな? そう考えると、なかなか貴族のお嬢様って言うのも良い事ばかりじゃないのかもしれない。


「(いつか、アオと誠史の事は関係なく、エリカと分かり合えたりする日が来るのかな?)」


 そうなったら、それもまた楽しいなと私は思っていた。


 エリカが行ってからさほど時間が経たないうちに静香さん達が戻ってきた。とりあえず今はこの時間を楽しもうと、私たちはお昼の準備を進めていた。


ここまで読んで下さりありがとうございました!




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