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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第2章 最後の仲間
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第19話 ダンジョンへ 前編

 その夜、私は夢を見ていた。

 月が夜の海を煌々と照らしていて、さざ波の音があたりに静かに響いている。その波の中で1人の人が立っていた。


「(誰……?)」


 声をかけようとするけれど声が出ない。近づこうとしても足が動かなかった。

 すると、その人の背中から純白の大きな翼が現れた。その美しさに目を奪われていると、こちらをゆっくりと振り返った。そして、青い瞳が私を捉えた。


「(もしかして、あなたは……)」


 私は知らないはずのその人の名前を呼ぼうと口を開いた。


 でも、けたたましい音に私の意識は夢から浮上した。


「ん~、朝……?」


 ジリリリッと激しくなる目覚まし時計の音で、私は夢から完全に覚めた。ボーッとする頭を押さえて今まで見ていた夢の事を考える。


「(さっきのって、ただの夢だよね……?)」


 あまりにもリアル過ぎて、とてもただの夢だとは思えなかった。どこか釈然とせず、スッキリとしない。


「優、おはよう」

「おはよう、アオ」


 部屋の洗面所からアオが現れて声をかけてきた。洗面所にはサオもいるのか、水の音が聞こえてくる。とりあえず今は夢の事は忘れて朝食に向かうために支度を整えた。

 私の支度が終わって部屋を出ると、佳穂と紗奈ちゃんに会った。


「あっ、おはよう。優、アオちゃん、さーちゃん」

「おはよう、3人とも」

「おはよう! 佳穂、紗奈ちゃん」

「佳穂、紗奈ちゃん。おはよう」

「お、おはよう……」


 2人から声をかけられたけど、歯切れの悪い返事になってしまった。紗奈ちゃんを見た途端、私の脳裏には今朝見た夢の事が浮かんでいた。


「(なんかさっきの夢の子……なんだか紗奈ちゃんに似ている気がする……でも、瞳の色が違うんだよね……)」


 思わずジッと紗奈ちゃんを見つめると、首を傾げられた。


「どうしたの? 優」

「えっ? あっ、ううん。何でもない……」


 紗奈ちゃんは首を傾げつつもそれ以上何も聞いてこなかった。アオとサオを先頭にその後ろで紗奈ちゃんは佳穂と話しながら食堂に向かう。その後姿を見つめながら私は無言で後をついて行った。


「(……きっと今回一緒に来たから、紗奈ちゃんが仲間だったらって言う願望が出ちゃったんだろうな……そんな私の願望をあの夢は映し出したんだろうね。だから、あれはただの夢……)」


 まるで自分に言い聞かせるようにそう考えた。胸の奥のモヤモヤは依然として消えないけれど、それ以上は考えないようにしていた。






 食堂の朝食はいかにも冒険者向けらしいガッツリとした内容だった。最初、食堂の料理長からは分厚いステーキを勧められたけど、さすがに朝からは無理だと遠慮した。そしたら、なかなかの太さのあるソーセージが2本入ったポトフをくれた。まだこれなら食べられそうだと思ったけど、食べ終わるとポトフとパンだけで結構お腹いっぱいになった。

 私以外にアオたちも同じポトフを食べたんだけど、慶人たち男子は勧められるままステーキを食べていた。しかも、雅樹以外は2枚も食べている。雅樹が1枚食べた事も、慶人や匡利までもが2枚食べている事に驚きが隠せなかった。


 朝食の後はダンジョンに向かう支度を整える。昨日、船からここまで来る時に来ていた服に装備をさらに重ねる。

 私が着るのはコルセットみたいな形の皮鎧、革製の籠手を着用する。どれも魔物の素材で、売っていた防具店の中では結構上等な物だった。これに朔夜と玲に頼んでいくつかの魔法を付与してもらって、下手な防具よりも遥かに丈夫で防御力の高い物になっている。まぁ、本当は《結界》を使えばどんな装備でも問題ないんだけど、念のためね。

 矢筒を斜め掛けで持って、腰には太めのベルトを巻いてそこに短剣を2本付ける。私たちは慶人と匡利を除いてみんな魔法がメインの攻撃手段だ。全属性の魔法が使えるし、他にも補助魔法も支援魔法も使える。おまけに魔力量は桁違いで、レベルも普通の人の何十倍も高い。そこまでになると、一切魔法が利かない相手でもない限り魔法だけで全て事足りてしまう。短剣と弓を持つのは念のためだ。短剣に関しては採取でも使えるしね。ちなみに慶人は長剣を、匡利は弓をメインの攻撃手段にしている。それでも2人ともサブの攻撃手段は魔法だし、剣と矢に魔力を込めて使ったりもしている。

 ベルトには他に小さな鞄を付ける。これは《無限収納(インベントリ)》を使うのにマジックバッグに見せかけている物で、中には特に物は入っていない。ただ、デザインがちょっと凝っていて可愛いから気に入って使っているものだ。

 最後にマントを羽織るんだけど、これも魔物の糸で織られている優れ物で、他の装備と同じようにたくさんの付与がされている。あと、他のみんなのマントと違って私と匡利のマントは中央で左右に分かれるようになっていて、矢筒を背負うのに邪魔にならないようになっているんだ。

 一通り装備を整えてから鏡の前で一回りする。うん、特に変なところもなくちゃんと着けられているね。ここまでしっかりとした装備を付けるのは久しぶりだから、ちょっとだけソワソワとしている。


「優、支度できた?」

「うん」


 アオとサオに目を向けると、2人とも昨日着ていた服に私と同じように装備を着けている。基本的には私とほとんど変わらない。

 支度が整ったら、3人一緒に宿泊施設のロビーに向かった。そこではすでに他のみんなもそろっている。みんな昨日着ていた服に装備を身に付けている。普段なら絶対に見ないような格好だから、紗奈ちゃん以外は見た事があるけど何だか新鮮だ。

 冒険者ギルドには施設のロビーから直接行く事ができる。昨日来た時に使ったドアとは別に出入り口があって、そこが冒険者ギルドに繋がっている。そこからギルドに入ると、かなり賑わっていた。

 私たちが入ると、同時に何人かがこちらに注目した。結構な大所帯だし、明らかに年齢も若いからか、かなり好奇の目に晒される。遠巻きながらも失笑したり怪訝そうにしている人が殆どだ。

 まぁ、注目される事には慣れているし、今は気にせず依頼用の掲示板の所に向かった。


「いくつかドロップ品の採取依頼があるな」


 そう言うや否や、慶人はいくつかの依頼書を素早く選び取った。それが終わると、全員で壁際に移動した。


「陸ダンジョンと海ダンジョンそれぞれの依頼書を選んだ。組み合わせは昨日決めた通りだ」


 昨日ギルドに行った時、ひとまずは男女に分かれて行動しようっていう事になった。その時に代表者も決めていて、男子の方は慶人が、私たち女子の方は佳穂が務める事になっている。

 依頼書の内容を見てから私たちが陸ダンジョンに、慶人たちが海ダンジョンに行く事になった。依頼の手続きはさすがに全員で窓口まで行くのは邪魔だろうという事で、代表者の慶人と佳穂が向かい、残りの私たちは壁際の所で待機している。


「――あいつら、どこから来たんだ?」

「どう見ても子どもだよな。貴族のお遊びか?」

「随分と美形じゃない。声をかけてみる?」

「装備だけ整えたって腕がなけりゃ意味無いだろうに……」

「ダンジョンは遊び場じゃねぇんだぞ」

「怪我して速攻でリタイアするのが落ちだろうよ」


 ひそひそと周りで囁くような声が聞こえてきた。本人たちは多分聞こえていないつもりなんだろうけれど、私たちは人一倍耳が良いから、割としっかり聞こえてきている。仲間内で特に耳が良いのはアオ、匡利、誠史、朔夜、玲、雅樹の6人だ。この6人には私には分からない声もきっと聞こえているんだと思う。匡利は僅かにいつもより眉間にしわが寄っているし、誠史の笑顔がいつも以上に怖いし、雅樹の視線はなんだか鋭くなっているし、アオ・朔夜・玲の顔がどんどん険しくなっている。軽く辺りを見回せば、あからさまに視線を逸らす人がいた。


「(何だかなぁ……)」


 これは所謂「洗礼」だ。見慣れない新参者、しかも明らかに年若い者への視線と言葉だ。ただ、アオたちの表情から察するに私には聞こえない言葉はよほどの事なんだろうね。……たまに誠史がアオの耳を塞いでいるのは、アオに聞かせるには酷すぎるのかな。塞いだ直後に声が聞こえ来たであろう方向にメチャクチャ怖い笑顔を向けているから、そうなんだろうなぁ……。

 あと、匡利たち男子に向ける女性冒険者の視線も気になるよね。まぁ、これだけ長身イケメンの冒険者が6人も現れたら、気にするなって言う方が無理か。

 そんな事を考えていたら、案の定3人組の女性冒険者たちか近づいてきた。


「こんにちは」

「こんにちは」


 声をかけてきたのは3人のうちリーダーらしき女の人だ。腰に細めの剣を携えているから、多分剣士なんだと思う。綺麗な人だし、かなりスタイルが良い。なんて言うか、大人の色気が凄い。偏見かもしれないけど、その色気で今まで色んな男の人と組んだんだろうなぁ。何て言うか、声のかけ方が手馴れているもん。

 ただ、声をかけた相手は誠史だ。そう簡単に女性たちの手には乗らないと思うけど、どうするんだろう?


「あなた達、見かけない顔だけれどここは初めて?」

「えぇ、そうですよ。ちょうど学校が休みなので、折角だから来てみました」


 ……にこやかに対応しているけど、魂胆が分かっているのかその目がとっても冷たい。それに気付かないのか、誠史の言葉に女性たちは目を丸くする。


「学校って大学?」

「いえ、高校ですよ」


 思っていたよりも若いと知って、女性たちはしばらく顔を見合わせた。どうするのかと思えば、相手が高校生でも良いと判断したらしい。互いに頷き合ってもう一度誠史に向き合った。それはそれで凄いな……。


「ねぇ、良かったら私たちと組まない? ここのダンジョンは何度か入っているし、案内できるわよ?」

「せっかくのお誘いですが、もうパーティーは決まっているので」

「パーティーってあの子たちと?」

「どう見てもあの子たちじゃ力不足じゃないかしら……?」


 そう言ってチラッと私たちに視線を向ける。わぁ、目に見えて小馬鹿にしているね。しかも一番小柄なアオの事を特に見下しているし……。アオもそれが分かるのか、額に青筋が浮かんでいる。実際はアオの方がずっと強いんだけどねぇ。


「私たちなら必ずあなた達のお役に立てるわよ。これでもランクはCよ。なんならダンジョンの事以外にも色々と(・・・)教えてあげるわよ」


 そう言って大抵の男の人なら見惚れるであろう妖艶な笑みを浮かべる。

 ……相手は高校生って言うか、未成年ですよ。美人なのに言っている事が完全にアウトで台無し……。あと、直接言われた誠史の笑顔が大変怖いです……。


 これまでにこやかに対応していた誠史の顔から突如として笑みが消えた。稀に見る冷ややかな真顔に対峙していない私たちまで身震いする。目の前にいた女性たちの笑顔も完全に凍り付いた。


「――結構です」


 誠史はたった一言だけハッキリと言う。でも、その声はこれまでにほとんど聞いた事がない冷たさがある。あまりの冷たさに女性たちは怯んだように一歩下がった。


「……っ、なら良いわ。後悔しても知らないから……っ!」


 そう吐き捨てて女性たちは足早にその場を去っていった。ある程度離れると、誠史はため息をついて肩を竦めた。


「そんなの、するはずがないだろう」


 そう言って振り返った誠史は、いつも優しい笑みを浮かべていた。その事に私たちはホッと胸を撫で下ろした。


「さすがだな、誠史」

「ありがとう、玲」

「それにしても、あまりにもあからさまな誘いだったな……」

「本当、迷惑極まりないよね」


 誠史と玲の会話に全員が頷いてため息を吐いた。

 未成年の内はどんなに実力があっても、よほどの事でもない限りは高くてもランクはDだ。それより上のランクは成人してからでないと無理だ。そして、冒険者は知り合いでもなければ基本的に同じくらいのランクの人とパーティーを組む。それでも差のあるランク同士で組む場合、指導目的でなければ、金銭的にしろ何にしろ何かしらの下心(・・)があると思って良い。


「(今のは明らかに見た目の良い誠史たち自身が目的だよねぇ……)」


 ここまであからさまなのは珍しいとは言え、あまり良い気分じゃないよね。私だけじゃなくみんなそう思っているのか、全員何処か表情が暗くなっていた。


「――大丈夫だったか?」


 手続きを済ませた慶人と佳穂が戻ってきた。本当はもっと早く終わってきていたけど、さっきの女の人たちと誠史がやり取りしているのを遠巻きに見ていたみたい。


「問題ないよ。一応ね」

「お前がそう言うのならそうなんだろうが……あとで、詳しく聞かせろ。場合によってはギルドに報告する」

「分かったよ」


 誠史の返答に頷くと、慶人は私たちの方を向いた。


「手続きは済ませた。転移石をもらったが、それぞれ代表が持つ。時間制限は午後6時だ」


 未成年の冒険者活動で色々とある制限の中の1つが、ダンジョンにいられる時間だ。どの場所にいても6時には地上に戻るのが決まりになっている。だから、また地上からではなく最後に辿り着いた場所から進めるように、未成年の冒険者または1人でも未成年がいるパーティーにはギルドから「転移石」を貸し出される。

 転移石は3つで1セットになってて、そのうち2つはいわゆる目印みたいなものだ。1つは入口で管理を担当しているギルド職員に預けて、もう1つは最後に辿り着いた安全地帯(セーフエリア)に置いてくる。その2つの目印の間を最後の1つの石を使って行き来するの。これがある意味、ダンジョンの中に入った未成年者が無事かどうかを確かめる方法にもなっているんだよね。


 慶人から佳穂が転移石の入った袋を預かって、時間になって戻ってきたらギルド前で集合する事を約束した。それからお互いに健闘を祈ると、私たちはそれぞれ入るダンジョンへと向かって行った。


 陸ダンジョンは東側の島の中央にある山の中腹に入口があるらしい。だからかその山の麓には山を囲うようにして冒険者向けの施設や店が並んでいた。海ダンジョンは東側の浜に入口があるらしくて、そっちの方も同じようににぎわっているらしい。

 ギルドのすぐ近くの道からダンジョンに入口に向かう山道が続いている。きちんと整備されているから、歩くのはそれほど大変じゃなかった。


「佳穂、陸ダンジョンの採取依頼ってどんなの?」


 山道を歩いている途中で先頭を歩く佳穂に聞いた。佳穂は斜め掛けに持っていた鞄から依頼書を取り出して渡してきた。そのうちの何枚かは後ろにいるアオたちにも渡す。


「基本はドロップ品ね。後はダンジョン内にある薬草類や食材類がほとんどね」と佳穂。

「へぇ。食材はきのこ類各種に山菜だね。薬草は……基本的なのがほとんどかな」とアオ。

「ドロップ品は……スライムの粘液、ホーンラビット・キラースネーク・グレイウルフの角とか皮類、プラントの蔦、キラースパーダ―の糸だね」とサオ。

「大体どれも5体分あれば良いみたいだね」と紗奈ちゃん。


 順に依頼書を回しながら見ていって、何が必要なのかを頭に入れていく。全員が見終わると、また佳穂に戻した。


「ダンジョンの詳細は聞いたの?」


 依頼書を佳穂に返しながら聞くと、佳穂は頷いた。


「ここのダンジョンは海も陸も全部で30階層。10階層までが初級、11から20階層が中級、21から30階層が上級みたいね。各階ごとにボスがいるけれど、10・20階層は中ボス、30階層は大ボスって感じらしいわよ。あと、1階層目は石造りの通路タイプみたいだけど、2階層から下はフィールドタイプになるみたいよ」

「なるほど。それじゃあ、目標はとりあえず10階層まで行く感じかな?」

「そうなんだけれど……」


 サオの言葉に佳穂は少し言い淀んだ。佳穂以外のみんなで首を傾げると、佳穂は肩を落とした。


「私たちの今のランクであるFランクは、5階層までしか推奨できないみたいよ。6階層からはEランク向けですって。副業扱いの私たちにはそれくらいの方がおススメだそうよ」

「はぁ~、つまりは実力に見合った階層までにしろって事?」

「そういう事」


 依頼書の中にあったキラースネークとグレイウルフの依頼はEランクだ。自分のランクとその1つ上のランクまでが受注できるから、規定違反にはならない。ただし、1つ上のランクの依頼はどのランクでもある程度の経験値がないと難しい事がほとんどだ。だから、1つ上のランクの依頼を受けるのは自分のランクをある程度受けて、昇格の直前に受けるのが普通だ。


「んー、親切で言ってくれたんだとは思うけど……私は大丈夫だと思うんだよね。アオは?」

「私も。サオちゃんは?」

「私も大丈夫だと思う。紗奈ちゃんは?」

「私も大丈夫だよ。これでも腕には自信があるから。佳穂は?」

「もちろん、私もよ。じゃあ、満場一致で10階層を目指すって事でいいかしら?」

「「「「賛成!」」」」


 みんなの声が重なって、これからの方針が決まると私たちはそのまま歩を進めた。


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