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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第2章 最後の仲間
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第18話 波乱の始まり

 船が停まったのは西側の島にある港だった。特等室から順に降りるので、着いてからも少しの間部屋で待機になる。特等室や1等室はそもそも乗客の数が少ないから、2等室エリアの下船開始まで30分程しか待たなかった。

 船内放送で2等室エリアの下船開始の知らせが流れると、私たちはもう一度軽く忘れ物がないかを《鑑定》を使って見る。何もない事を確認したら、廊下へと出た。ちょうど同じタイミングで隣の佳穂と紗奈ちゃんと向かいの匡利たちも部屋から出てきた。

 佳穂の格好は暗めの赤が基調の格好で私と同じスカートタイプなんだけど、私と違って膝下までの長さの物を着ている。紗奈ちゃんは基調が茶色でサオと同じ長ズボンタイプの格好をしているんだけど、すらりと長い手足に良く似合っている。それに紗奈ちゃんのスタイルの良さが際立っていた。


「紗奈ちゃんの冒険者の格好、初めて見るけどかっこいいね! 凄く似合ってる」

「ありがとう、優」


 思わず褒めると紗奈ちゃんは嬉しそうにしている。

 男子の方は全員がだいたい同じ格好でシャツに長ズボン、ブーツと言う感じで、慶人・朔夜・玲は黒、誠史と雅樹は暗めの青、匡利が暗めの緑と言う感じの色合いだ。ここにそれぞれ自分に合った防具とベルト、マントを着ける事になっている。基本的にみんな長剣と短剣を持っているんだけど、匡利だけはもう1つの姿がエルフだから私と同じでメインは弓を扱うんだよね。私のと比べてかなり大きい弓になるけど。


 係の人の案内で順に廊下を進んで、数人ずつ船から降りていく。私たちが降りたのは下船を始めてから30分後くらいだ。


「西島エリアでお過ごしの方はこちらで入島審査があります!」

「東島エリアへ向かわれる方はあちらで入島審査をしてください!」

「あっちに行くぞ」


 船から陸に下りてすぐ港の関係者らしき人たちの声が聞こえてきた。東島に向かうための魔導バス乗り場のすぐ側に入島審査場が併設されていた。審査が終わり次第、順にバスに乗れるようになっているみたいだ。

 私たちと同じように向かっている人のほとんどは、冒険者らしき人とギルドに取引に行くのか商人らしき人が殆どだ。冒険者の人の中には従魔を連れている人もいて、玲が言うには従魔連れの人は専用のバスに乗るか自分たちでギルドに向かうらしい。


「――次の方どうぞ」


 審査の列に並んで40分ほどすると、私たちの番になった。私たちは団体だから全員で審査室に入る。


「えーっと……全部で11人で大丈夫ですか?」

「はい」


 審査のやり取りは慶人と玲がやってくれている。全員分のギルドカードを出し、審査員の人はカードをそれぞれ読み取りの機械みたいなのに通している。


「……全員高校生ですか。でも登録してからそれなりに期間は経っているようですね」

「はい」

「確認ですが、どなたか成人済みの方はご一緒ではないんですね?」

「俺たちだけです」

「そうですか……こちらへの滞在目的と期間は?」

「期間は10日ほど。目的は観光とダンジョンに潜る予定です」


 玲がそう言うと、審査員の人は軽く目を丸くした。


「ダンジョンですか……冒険者ギルドに申し込みはしていますか?」

「しています」

「宿泊場所の確保などは?」

「それも予約済みで、ギルド併設の宿泊施設に泊まる予定です」

「なるほど……ちなみに、それらの申込書類などはありますか?」

「あります」


 そう言って、後ろから朔夜が鞄から何枚かの紙を出して審査員の人に渡した。こう言われる事を想定して用意していたみたいだ。審査員の人はその書類を1枚ずつじっくりと読み進めている。


「――間違いないようですね。では入島を許可いたします。ようこそ、双子島へ」


 書類を返しながらにこやかにそう言われ、私たちはホッと一息ついた。

 審査室を出たら、何台かあるうちの宿泊施設へ向かう魔導バスに乗り込んだ。昨日乗ったバスと違って、このバスは乗る前に大きな手荷物を預かってもらえた。代表して慶人が係の人から預かり札を貰い、昨日と同じように後方にあるボックス席に座った。30分ほど経つと予定していた乗客が集まったのか、バスが動き出した。

 私たち11人以外に乗客はそれほど多くない。大学生くらいに見える男の人が1人、男子のみの3人のパーティーが1組、同じように女子だけの3人のパーティーが2組、男女混合の4人のパーティーが2組と6人のパーティーが1組だ。全員、何となくこっちを気にしていた感じだけど、私たちは気にせず自分たちの会話を弾ませていた。


 それから景色を楽しみつつバスに揺られて1時間ほど経つと、バスが到着を知らせた。前の方から順に降りて行って、私たちは最後に下りた。


「――わぁ! 綺麗な建物」


 誰からともなくそんな声が上がった。私たちが下りたのはギルドとそのギルドに併設されている宿泊施設の前だ。

 この島のギルドは王都みたいに1か所にまとまっていなくて、目の前のギルドは冒険者ギルドと召喚・従魔ギルド、医療ギルドだ。他のギルドは各々ここから少し離れた所にあって、商業ギルドと医療ギルドに関しては東と西の両方の島にそれぞれあるらしい。ただ、一応今いる東島側が本支部で、西島側にあるのは出張所みたいな位置づけらしい。まぁ、王都でもギルドの本部は第7地区にあるけど、各地区に何か所か出張所としてこぢんまりとした所があるから、それと同じかな?

 ギルドも宿泊施設も木造の建物で、白く塗られている壁が一見どこかのペンションかコテージみたいだ。先に下りて行った人たちは何度か来た事があるのか勝手知ったる、と言った風に建物に入っていった。


「楽しくなりそうだね」

「ねぇ!」


 私たちのテンションは昨日船に乗った時のようにますます上がっていった。


「おいっ! はしゃぐのは後にして荷物!」


 後ろから慶人の叫ぶような声が聞こえてきて慌てて振り返ると、慶人を始めとした男子たちが私たちの荷物を持って立っていた。そういえば降ろす荷物があった事をすっかり忘れていた。なんなら、乗客も荷物も下ろした魔導バスはすでに何処かへ行ってしまっている。


「あれ? いつの間に……」

「いつの間に、じゃねぇよ。とっくに出発しているんだよ。お前らが受け取らねぇから、俺らが受け取ったんだぞ」


 慶人から怒り交じりの呆れた声で言われて、私たちは何も言えず乾いた笑いしか出ない。慶人と匡利以外の男子も完全に苦笑いだ。匡利はいつも通りの無表情だけど、若干呆れている気がする……。


「お前らな、そんなんでダンジョンは大丈夫なのか? 優と一緒に迷子になっても知らねぇぞ」


 心底心配したように慶人は言ってきた。その気持ちはありがたいけど、最後の一言がいただけない。


「私が迷子になるのは確定なの!?」

「身に覚えがねぇとは言わせねぇぞ」

「あう……」


 ダメだ、何にも言い返せない……。アオたちも私たちの様子に乾いた笑いしか出ないらしい。


「とりあえず、荷物を受け取れ。俺のは咲緒理だ」

「ありがとうね、慶人君」


 慶人は咲緒理に向かって持っていた荷物を差し出し、サオはそれを受け取った。私のは匡利が持っていて、アオは誠史、佳穂は朔夜、紗奈ちゃんは雅樹からそれぞれ受け取った。

 とりあえず中に入ろうかと話していると、宿泊施設の入り口のドアが開いた。何の気なしにそっちに目を向けると、黒髪を結い上げた凄く美人な女の人がいる。辺りを見回していたその女の人は私たちに目を留めた。


「あぁ、良かった。なかなか来ないから、入島審査に引っ掛かったのかと思ったわ」


 そう言ってホッと息を吐くと、私たちに微笑みかけた。その微笑に思わず見惚れていると、すぐ側にいたアオやサオも同じような表情をしている。


「さぁ、中に入ってらっしゃい」


 そう促されて、私たちは順に宿泊施設の中に入った。中は外から見るよりもずっと広々としていて、ここでも空間魔法が使われているんだと思った。内装は私のイメージするペンションと言うよりも、ホテルに近い感じだ。

 フロントのカウンターの傍らにラウンジがあって、私たちはそこに案内された。


「改めて、私はこの施設のオーナーの静香です。元はAランクの冒険者をしていたから、あなた達の先輩でもあるわ。宿泊中に何か困った事があったら、遠慮なく頼ってね」


 そう言った後、静香さんは鍵を数本出した。部屋番号が刻まれた細長い棒の先に、鍵が1つずつついている。番号が続いているから隣同士なんだろう。


「外出の際は必ずフロントに鍵を預けてね。この施設内と隣接のギルドに行くくらいだったら、自分たちで持っていて大丈夫よ。あと、オートロックだから室内に鍵の置忘れにも注意してね」


 部屋割りはすでに決まっていて、2人部屋が匡利と慶人、朔夜と玲、誠史と雅樹、佳穂と紗奈ちゃんで、私とアオとサオだけが3人部屋だ。それぞれ代表が鍵を受け取る事にして、私たちの部屋はサオが受け取った。


「朝と夜の食事付きで予約していたわよね? 夕食は6時から10時までよ」

「それまでどうする?」


 静香さんの言葉で慶人を振り返って聞くと、少し考えている。


「……とりあえず荷物を部屋に置いて、一度ギルドに行くか。実際動くのは明日からだが、臨時パーティーの登録とかしておいた方が良いだろう」


 実は私たちの活動人数は登録上ソロになっている。全員で1つのパーティーとしても良いんだけど、まだ未成年で副業扱いだから本登録ができないんだ。だから、いつも一緒にこうして活動する時は臨時パーティーとして登録をしている。手続き自体は簡単なんだけど、申請書を書いたり軽い質問に答えたりってちょっと面倒くさいんだよね。

 話がまとまると、まずは部屋に行こうと全員が立ち上がった。それぞれが荷物を手にしていると、私たちから少し離れた所に座っていた男の人が近づいてきた。あの人、確かここまでの魔導バスで一緒だったような……。何の用かと横目に見ていると、端の方にいた紗奈ちゃんに近づいた。


「重そうな荷物だね。手伝うよ」

「えっ?」


 紗奈ちゃんが返事をする間もなく、男の人は紗奈ちゃんの手からヒョイと荷物を取った。その手際の良さには唖然とした。私たち全員がその状況に固まっていると、話し合いの間は離れていた静香さんが何事かと近づいてきて声を上げた。


「ちょっと蒔田(まきた)くん! 何しているの!」

「あっ、オーナー! お久しぶりです。またお世話になります」

「『お世話になります』じゃないでしょう!」


 ハァーッと深くため息を吐いた静香さんは紗奈ちゃんと男の人の間に入って、同じように出際よく紗奈ちゃんの荷物を取った。その荷物を紗奈ちゃんに返すと、もう一度男の人に向き直る。


「あのね、相手は将来有望な冒険者と言えど、まだ高校生なんだからちょっかいを出すのはやめて頂戴」

「高校生? へぇ。もしソロなら俺と組まない?」


 静香さんの横をするりと抜け、隠れるようにしていた紗奈ちゃんに近づく。めげないな……。


「話を聞きなさい! それに、ソロどころか結構な人数のパーティーよ」

「パーティー?」


 そう言って周りに目を向けた男の人は、初めて私たちに気付いたみたいだ。私たち女子は呆然と見つめ、慶人を始めとした男子たちは完全に警戒したように見ている。何なら少しずつ私たちとの距離を縮めていた。

 すると、雅樹が紗奈ちゃんに近づき腕を引いて離し、そのまま背に隠す。そして、男の人を思い切り睨んだ。その視線に気圧されたのか、男の人はやっと少しだけ紗奈ちゃんから離れてくれた。


「本当にもう……。ごめんなさいね、みんな」

「いえ……ところでこの人は……」


 少しも警戒心を隠さずに慶人はそう聞いた。静香さんは肩を竦めると、男の人の横に立った。


「彼は蒔田くん。これでも優秀な冒険者で、長期の休みのたびにこの島のダンジョンに来ているの」

蒔田孝己(まきたたかみ)、19歳。一応今は大学に通いながら冒険者をしている。Dランクだけど、20歳になったらCランクに上がる事が決まっている」


 という事は、実力的にはもうCランクなんだ。実力は結構凄いんだなぁ。自己紹介をされて私たちは互いを一瞥し合った後、蒔田さんに顔を向ける。


「……天宮慶人」

「佐塚匡利です」

「石井朔夜といいます」

「大和玲といいます」

「加村誠史です」

「汐崎優梨です」

「大野葵です」

「日向咲緒理です」

「久乃木佳穂です」

「……須藤雅樹……」

「松川紗奈です」


 慶人を筆頭に順に名前を言っていく。若干一部の人が渋々言っているけど、これは仕方ないよね?

 蒔田さんは順に私たちを見た後、やっぱり紗奈ちゃんに目を向ける。その視線を遮るようにして雅樹が紗奈ちゃんの前に立った。紗奈ちゃんって私たち女子の中では一番背が高いけど、雅樹はその背を優に超えるから背に隠れられるんだよね。だから蒔田さんから紗奈ちゃんは見えないと思う。一方で雅樹と蒔田さんは睨むようにして互いを見つめていて、一触即発かと私たちはハラハラとした。すると、蒔田さんはなんだか意味深な笑みを浮かべた。


「しばらくは俺もこの施設にいるし、ダンジョンにも行くから何かと会うと思うよ。その時はよろしく」


 そう言い残して蒔田さんはどこかへ行ってしまった。それを見送って静香さんは肩を竦めると、改めて部屋に案内すると言ってくれた。みんなそれについて行こうとするけど、雅樹だけはまだ蒔田さんが気になるみたい。


「雅樹くーん」

「……今行く」


 アオに呼ばれて雅樹はやっと移動を始めた。


「――決めた。今回はあの紗奈って子にしよう」


 そんな声が聞こえて、思わず振り返った。雅樹にも聞こえていたのか、同じように振り返っている。振り返ってはいないけど、多分他のみんなにも聞こえていると思う。私と雅樹の視線の先にはこちらを見ながら口元に笑みを浮かべている蒔田さんがいる。雅樹が思わずその場をかけ出そうとしたけど、それよりも先に蒔田さんは宿泊施設から出て行ってしまった。立ち尽くす雅樹は困惑しているみたいだ。


「雅樹……」

「……あいつの声、優も聞こえたか」

「うん」

「……あいつ、紗奈を狙っている」

「そうみたいだね。言い方からして、割と色んな子に声をかけているみたいだけど……」

「……させてたまるか」


 珍しく雅樹は力強くそう言って、拳を握り締めた。蒔田さんが出て行ったドアを一睨みすると、踵を返して他のみんなの後を追う。


「(……なんか一波乱も二波乱も起きそうだけど、大丈夫かな……)」


 僅かな不安を抱えつつ、私も雅樹たちの後を追いかけて行った。


ここまで読んで下さりありがとうございました!




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