第11話 ギルドに行こう 後編
大きな観音開きの扉から中に入ると、そこはとても賑わっていた。入口から少し進むと大きく開けて、天井が高い上に中央は吹き抜けになっている。見上げると、かなり高い位置に天窓があるのが分かって、そこから日の光がたくさん入ってきていた。
1階部分は入ってから少し進むと、前世での銀行や役所みたいにズラッと窓口が並んでいて、カウンターの向こうではギルドの職員が忙しそうに動いているのが見える。入口側の壁には各ギルドの掲示板があって、各ギルドの依頼や連絡事項が書かれた紙がいくつも貼られていた。
ギルドは国を超えた組織で、総本部は海外にあるらしい。各国に中央本部が存在していて、そこから地方支部がいくつもあって、その数は国によって異なるらしい。今、私たちがいるのは葦原瑞穂王国中央本部だ。
中央・支部に関わらず各ギルドにはそれぞれギルドマスターがいて、そのギルドマスターのトップが中央本部の各ギルドマスターになる。さらに、この中央本部の各ギルドマスターから全ギルドマスターをまとめる本部長が選出されるのだと、前に朔夜と玲が言っていたなぁ。ちなみに、今のグランドマスターは冒険者ギルドのギルマスらしいね。
そして、この世界のギルドは現在7種類ある。
まず1つ目は「商業ギルド」だ。
商業に関わる人たちが登録して、ギルドはそれらを取り仕切っている。主に商品の仕入れ・買い取り・販売、仕事や求人の仲介、不動産の紹介、運送の紹介と手配など多岐に渡るみたい。あとは困りごとやイベントの相談なんかも商業ギルドが請け負っている。
2つ目は「職人ギルド」だ。
主に技能・職人系のスキルを持った人たちやその店舗・工房が登録している。このギルドに登録すると、修行先や働き先の店舗や工房を紹介してもらえる。他にも個人で製作した物や素材の買い取り・販売もしている。腕のいい職人を探している時はこのギルドに聞くと間違いはない。ちなみに、ギルドの周辺にあるお店や工房はこのギルドに登録している所が殆どみたい。
3つ目が「魔道具ギルド」だ。
このギルドは同じ職人でも魔道具職人に特化している。ギルドの運営に関しては職人ギルドとほとんど変わらないけど、新しい魔道具の商品登録・特許申請なども請け負っている。
4つ目が「魔法ギルド」だ。
主に魔法系のスキルを持つ人――つまり、能力者であれば登録できるギルドだ。このギルドは少し他と違っていて、魔法の研究が主な業務だ。魔法の効率的な発動・使用方法、魔法陣、2つ以上の魔法を同時に発動する「複合魔法」、2つ以上の魔法を融合させて発動する「融合魔法」が主な研究内容だ。登録者は新たに発見したそれらをギルドに報告する事で「発見者登録」ができて、内容によっては一定期間報酬を得る事もできる。
それ以外の業務だと、魔法に特化した就職先の紹介、魔法の修行場や指導者の紹介、王立図書館にすら置いていない魔法書の閲覧や貸し出しの手続きなんかも行っているね。
5つ目が「召喚・従魔ギルド」だ。このギルドは魔法系職業の中でも召喚士・従魔師に特化している。
ここで召喚獣や従魔を登録すると、それぞれに合った依頼や仕事の紹介をしてもらえる。他には召喚獣・従魔の扱い・世話の仕方のレクチャー、餌や世話のための道具の販売、召喚獣・従魔と一緒に過ごせる物件や宿泊施設の紹介、召喚獣・従魔の預かり所やシッターさんの紹介なんかもやっているんだ。
あと《召喚魔法》・《従魔法》のスキルを持っていて、まだ何も契約していない人にはどんな魔物や動物などと相性がいいのか、適性検査も行っている。
ちなみにギルドによっては預かり所を担っている所があって、今いる中央本部も預かってもらえるんだよね。
6つ目が「医療ギルド」だ。
このギルドは主に医療関係に特化したギルドだ。基本的に属性魔法の1つである《治癒属性魔法》、薬や魔法薬を調合できる《調合》または《錬金術》、他にも《医術》や《看護》など医療に関係するスキルを持っている、またはその職業に就いている人であれば登録が可能だ。あと、直接医療に関わらないけど、薬草の採取・栽培・活用に長けている「薬草師」っていう職業の人も登録できるみたい。
業務は主に治癒魔法使いや医者の派遣と紹介、病院の紹介、魔法薬を含めた医薬品とその素材の仕入れ・買い取り・販売を行っている。あと、災害時やウィルスが萬栄した時にギルドを通して治癒魔法使いが派遣されたり魔法薬が配布されたりもしている。
ちなみに、この世界の医療技術は前世とほとんど変わらない。と言うのも、魔法が使える「能力者」はそうでない人よりずっと少ない。その中で「治癒属性魔法」を使える人はそれほど多くない。おまけに治癒属性魔法はレベル上げが難しい上に属性魔法の中でも魔力消費量が多い魔法だ。さらに初級魔法はともかく上級・超上級魔法は使い手が圧倒的に少ないし、難しい魔法ほど消費魔力が多い。そして、治療には必ずお金がかかる。つまり、治療内容によっては平民どころか貴族すら手が出しにくい値段になったりする。
同じような理由で魔法薬も初級と中級の一部は普通の薬よりちょっと高いくらいだけど、それより上の魔法薬や特化型の魔法薬は、材料の希少性や作り手の少なさからかなり高額だね。
こういった理由で、魔法と魔法薬頼りの医療では治せるはずの怪我や病気が治らない、という事でそれらだけに頼らないで済むように医療技術と医薬品がかなり発展したみたい。私の感覚では前世の医療に治癒魔法と魔法薬が加わった感じかな? 今では緊急性や治療内容、値段によって患者が自分で選択できるようになっているんだ。
そして最後が、最もポピュラーなギルドである「冒険者ギルド」だ。
冒険者の仕事は街中の雑務も含めて色々とあるけど、主に素材の採取、魔物の討伐、護衛の依頼がほとんどだ。噂だと表に出ない「裏の依頼」なんて言うのもあるらしいけど、定かじゃないんだよね。
ギルドの主な業務は依頼の受注や紹介以外に登録者の教育指導、各種素材の買い取り・販売、魔物の解体なんかも含まれているね。
登録は基本的に誰でもできるんだけど、各種魔法系スキルか戦闘系スキルの所有を推奨しているかな。持っていない人は、仮登録で何かしらのスキルを得るまで訓練してもらえるらしいね。あと、どのギルドにも言える事だけど、登録は16歳以上じゃないとできないし、未成年者はどっちにしても保護者の許可が必要になる。
それから冒険者にはランクがあって、下から順に「G・F・E・D・C・B・A・S」って8段階ある。これも噂なんだけど、実はさらに上にSSランクとかSSSランクがあるらしいけど、今のところ存在しているのはSランクまでかな。
冒険者だけじゃなくて依頼も難易度や規模、期間なんかを総合してランク分けされていて、受けられる依頼は自分のランクとその1つ上のランクだけ。下のランクも受けられない訳じゃないけど、よほど長期間残っていない限り上のランクの人は受けない事になっている。
ちなみにランク付けに関しては魔物や採取物にも付けられていて、討伐や採取の難易度や魔物の魔力や戦闘力、生息地、希少性などを加味して分けられているらしい。依頼はこのランクを考慮してランク分けされているらしいね。他にもダンジョンとかが攻略難易度でランク分けされているかな。
それで、ランクが低いのは安全なのが多いけど、その分依頼料は低いんだ。危険だけど依頼料が高い依頼は基本的にランクが高くて、それを受けるにはランク上げをしなきゃいけない。そのランク上げにも色々と条件があって、未成年の内は年齢制限も加わるんだよね。
「(年齢制限あるから危険性の高い依頼は受けられないし、そもそも学生の内は『副業扱い』で危険そうなのは受け付けの段階で止められるし、指名依頼とか強制依頼も受けられないしね)」
冒険者は最悪命を落とす仕事で、昔は特にランクの低い若い人がたくさん亡くなったらしい。今も冒険者はそれなりにいるけど、昔ほどは多くないから、1人でも多くの冒険者が生き残れるように色々と制度を作ったり、制限をかけたりと工夫しているみたい。その1つで、学生や別途で本業がある人はいくつかの書類と一緒に「副業申請書」をギルドに提出すると、国やギルドから出される依頼(いわゆる強制依頼)や指名依頼を受けなくても良くなるんだ。副業申請は子育てや介護をしている人も出せるみたいだね。
それでも冒険者をやる以上は怪我を負ったり、最悪死んでしまったりするのには変わらない。ランクや実力に見合わない場所に行ったり依頼を受けたりして万が一の事があっても、それは全て「自己責任」として扱われる。そこはどうしても厳しくなるよね。
だからこそ未成年の内はコンスタントに依頼を受けて経験と実力をつける必要がある。依頼だって、確かに高いのは討伐依頼だけど、それ以外もそこまで低いわけじゃない。数を受ければそれなりの額になって一種のアルバイトみたいになるしね。
ギルドの中に入ってからはそれぞれ別行動する事になった。私はさっそく一番数がある「総合窓口」に向かった。
総合窓口は、どのギルドに依頼をすればいいのかを紹介してくれたり、ギルドに関わる様々な手続きをしてくれたりする場所だ。誰かに会ったり検査したりする時もここで予約できるんだ。
私が総合窓口に向かったのは自分の口座を見るためだ。
この世界にも銀行は存在する。国営のとか民営のとかいくつか種類があるけど、私はギルドが運営している「ギルド銀行」に口座を持っている。
ギルド銀行は、いずれかのギルドに登録すれば口座が作れる。依頼の報酬を直接振り込んでもらったり、ギルドで発生する年会費や税金の引き落としができたり、ギルド内での買い物も口座から支払いができるんだ。もちろん、ギルドに関係ない公共料金の引き落としや振り込みも可能だ。
難点なのはこの世界にはまだATMがない事かな。一応どの銀行もあちこちに専用の窓口を置いているけど、それでも前世でコンビニのATMを使っていた時ほどの手軽さはないかな……。まぁ、私の場合は《無限収納》に結構まとまった金額を入れているから、それほど困った事はないんだけどね。
「すみません。口座の確認と金貨5枚の引き出しをお願いします」
そう言って窓口の人にギルドカードを出した。
ギルドカードは魔道具で、どのギルドに登録しているか・ランクはどのくらいか・どんな依頼を受けたかなど、色々と記録されている。あとは銀行の入出金や振り込みとかの手続きにも使われるし、そもそも身分証として使える優れ物だ。私は使った事ないけど、いわゆるパスポートの役目もあるみたい。
「――お待たせしました。まず金貨5枚と、こちらが現在の口座の記録です」
金貨5枚は前世で言うと5万円くらい。今回は色々買うつもりなんだよね。お金はすぐに受け取って財布にしまった。
さて、口座の方は……。
「……えっ?」
私は受け取ったギルドカードに表示された金額に目を見張った。
「どうかされましたか?」
「あっ、いえ。大丈夫です」
慌てて私は窓口から離れ、改めてギルドカードを見た。
「(思っていたよりも金額が多い……私の記憶より金貨30枚、つまり30万円くらい多いんだけど! また俊哉さんかなぁ……)」
私たちは後見人の俊哉さんから毎月生活費としてそれなりにまとまった金額を口座に振り込んでもらっている。それだけでも十分なお金を頂いているんだけど、どうしてか気付かない間に“お小遣い”と称してさらに結構な金額を振り込まれている事があるんだよね……今回みたいに。
「(侯爵家だから案外これくらい平気なのかもしれないけど……でも申し訳ないんだよね……)」
でも、断ると悲しい顔をされるんだよね……。何なら1回「この通りお願いだから貰ってほしい」って懇願されたんだよね。何故そこまで、と思わなくはなかったけど、聞ける雰囲気じゃなかったから未だに謎なんだ。
とりあえずギルドカードに軽く魔力を流すと、口座の記録は見えなくなった。
「(うーん……。せっかくだからもう少し下ろそうかな)」
そう考えた私はもう一度総合窓口へと向かった。
「――これくらいあればちょっと良い物を買っても大丈夫だよね」
数分後、さらに膨れた財布の中を見ながら私は頬を緩ませた。そのまま向かうのは2階だ。
ギルドの1階は各ギルドの窓口があって各種手続きとか少量の買い取りなんかをやっている。さらに奥は外に繋がっていて、召喚・従魔ギルドと冒険者ギルドが使っている倉庫とか訓練場がある。大型・大量の買い取りもそこでやっている。
2階から上は各ギルドのエリアで、私が向かっている2階は冒険者ギルドのエリアだ。グランドマスターの執務室とか応接室以外に食材や素材の販売所もそこにあって、私の目的の場所はそこだ。
販売所の中でも私は食材のコーナーに向かった。一般的な食料品店には出回らないような珍しい食材が色々売られている。まぁ、そのどれもが結構高いんだけどね。
「――ダンジョン産のシイタケとシメジだ。普通のキノコの5倍くらいの値段だけど、これが美味しいんだよね……。ちょっと買おうかな」
お金に余裕はあるから気にせずに買ってしまおう。そう思って近くにいたギルドの職員の人に声をかけた。どっちも2キロずつ買うと言ったら、心なしかギルド職員がホクホク顔でキノコを量り始めた。一気にこんなに買う人はあまりいないのかな?
他にも一緒に木の実とかも買う事にしたら、少し安く売ってもらえた。やったね!
次に肉売り場に行くと、いつもながら色んな種類が売られている。そして、どれも思っていたよりもちょっと高めの値段だ。
「(あっ、オークキングの肉がある。ブランド豚みたいに美味しいんだよね。……元の見た目はアレだけど。……でも、ちょっと高いな)」
魔物の肉は畜産みたいに安定して入るわけじゃないから、その分高いんだよね。高ランクの魔物肉はさらに高いし……。
ショーケースの中を見ていると、サーペント類の肉もあった。しかも、珍しくブルーサーペントの肉があった。
「(珍しいけど……レッドやブラックより安いとはいえ、100グラム金貨1枚……1万円でしょう? みんなの分も買ったらさすがに手持ちが足りない……)」
高ランクの魔物肉は高額なうえに大抵一般に出回る前に貴族が買い占めちゃうんだよね。だから、こうして店頭にある事自体珍しいんだけど、それにしたって高い。
「……ん? 普通のキラーサーペントも売っている」
キラーサーペントもそれなりにランクが高い魔物だけど、色付きよりは低い。
「100グラム銀貨1枚と銅貨が数枚……高級和牛を買うと思えば、同じくらいかな」
これだったらみんなの分を買っても手持ちには余裕がある。そう考えて、私は売り場にいる職員の人に声をかけて注文をした。キラーサーペントと一緒にもう少し安価なレッドボアとブラックホーンブルの肉も買った。キラーサーペントは鶏肉に、レッドボアは豚肉、ブラックホーンブルは牛肉に似ているから、今からどんな料理にしようかと楽しみだ。
包みを受け取ってマジックバッグに見立てた鞄に入れるふりをして《無限収納》にしまう。その後は、他にも何かいい物が無いかと販売コーナーを眺めていた。
「――もしかして、優梨ちゃんか?」
聞いた事のある声に振り返ると、そこには沖田くんが立っていた。
「沖田くん、偶然だね」
「こないな所で会うとは思わへんかったな。1人なんか?」
「ううん。他のみんなも一緒だよ。今は別行動中」
「ほなら、天宮と姫さんもおるんか」
そう言って沖田くんは何か考えている。と言うか、どうしてその2人なんだろう?
「慶人とサオに用事?」
「いや。せっかくやから会おうかと思うただけや」
……慶人はともかくサオにも? へぇ……。私はにやけそうになる口元を軽く隠した。
「それなら、慶人は商業ギルドか冒険者ギルドにいると思うよ。サオは医療ギルドか職人ギルドかな」
「せやったら、ちょっと行ってみるわ。おおきに。ほなな、お嬢さん」
「うん。またね」
沖田くんは手を振ってその場を離れて行った。私はその背を見送り、見えなくなると今度こそ口元を緩めた。
「あれは無自覚かな? 慶人と仲良いし、悪くはないと思うけどね。……色々壁はあるけど」
とはいえ、あの様子じゃ自覚があっての行動じゃないみたいだし、サオの気持ちが一番の優先だから私から何か言うつもりはないけどね。軽く応援くらいはしようかな?
そんな事を考えながらハーブ・薬草のコーナーで何種類かのハーズとスパイスを購入した。ハーブとスパイスは食材でもあり薬の材料でもあって、この世界では前以上に需要があるみたいなんだよね。あと、向こうでは見なかったようなのもあってちょっと面白いんだ。
一通り販売コーナーでの買い物を終えて、他のみんなと合流しようかと移動をする。1階に下りてみんなを探していると、職人ギルドの買い取り窓口でよく見知った人を見つけた。
「紗奈ちゃん」
「あっ、優! 偶然だね」
そこにいたのは紗奈ちゃんだ。側に寄ると、丁度何かの報酬をもらっている所だった。
「紗奈ちゃんって、職人ギルドに登録していたんだ」
窓口から少し離れてそう話しかける。
「うん。冒険者ギルドにも登録しているよ」
「へぇ! そうだったんだ」
意外と身近に冒険者仲間がいてちょっと驚いた。
「優は? どこかに登録している?」
「私は冒険者ギルドと商業ギルドだよ。でも今日は買い物に来たの。紗奈ちゃんは?」
「私は納品だよ」
「納品?」
さっき報酬をもらっていたのが、そうかな?
「うん。冒険者とか寒冷地に向かう人向けの手袋の納品。前に職人ギルドの依頼で見つけて、丁度いいから受けてたの」
「そういえば紗奈ちゃんって編み物のスキルが結構高いんだっけ?」
編み物のスキルは「技能・職人系」のスキルの1つだ。他に《裁縫》とか《楽器演奏》も技能・職人系スキルになる。
「そうなの。魔羊の毛糸を使って作ったんだけど、結構良くできてね。追加で帽子とネックウォーマーの依頼も受ける事になったの」
「凄いね!」
基本的にどのギルドも実力主義だ。腕が認められれば、私たちみたいな高校生でもこうして仕事の依頼を受けられる。追加で頼まれるくらいだから、紗奈ちゃんは本当に腕が良いんだろうな。
「(確か紗奈ちゃんって学校の寮で1人暮らしだっけ?)」
学校の寮は沖田くんみたいに実家が王都じゃない子はもちろん、家庭の事情で家から通えない子が利用している。単純に、同じ王都でも学校から1番遠い地区だとそれなりに通学が大変だから寮に入っている子もいるけどね。
どっちにしてもこの世界には前世では考えられないような苦労をしている子どもが多い。孤児だという子も親元で暮らせない子もそれなりにいる。私たちだってその1人だ。よほどの事がない限りその事について深く聞く事はないけど、紗奈ちゃんも私たちが知らないような苦労があるのかな……。
「――じゃあね、優。また学校で」
「うん。またね」
しばらく話してから紗奈ちゃんはギルドを出て行った。それを見送って、私は依頼の貼られている掲示板に向かった。そこで軽く周りを見たら、医療ギルドの掲示板の近くで沖田くんとサオが話していた。ちょっとサオが緊張気味だけど、それなりに会話は弾んでいるみたい。心なしか沖田くんが楽しそうに見えるなぁ。あえて2人には声をかけずに私は冒険者ギルドの掲示板に向かった。
冒険者ギルドの掲示板は3つもあって、ランクごとに分けられて依頼が貼られている。
「(んー……学校があるから長期依頼が良いんだけど、今のランクだと少ないからな……採取にしても、残りの休みで近くのダンジョンまで行く時間もないし……)」
しばらく吟味したけど、今回は見送る事にした。次にじっくり依頼が受けられそうなのは夏休みかなぁ? できたらガッツリとこなせると良いんだけど。
とりあえず休憩しようかと思って、ギルドの1階にあるラウンジへ向かった。ここでは休憩したり、軽食を食べたりできる。行ってみると、少し奥のソファで匡利が座っていた。
「匡利」
声をかけると、匡利はこちらを振り返った。
「優か。どうした」
「みんなを探していたの。隣、座っても良い?」
「あぁ」
一応断りを入れてから少し間を空けて私は座る。すぐにギルド職員の人が声をかけてきて、ドリンクを聞かれた。とりあえずアイスティーを頼んで、職員の人がいなくなってから一息ついた。
「予定は済んだのか?」
「うん。依頼は今回止める事にしたよ。でも、買い物は結構良い物が買えたよ。ダンジョン産のキノコとか、キラーサーペントとか」
「そうか」
「オークキングとかブルーサーペントもあったんだけど、さすがに金銭的に無理だから止めたよ。ちょっと欲しかったけど」
「ブルーは珍しいな。ほとんど貴族が買うから出回りは少ないはずだ」
「そうそう。だからなのかな? びっくりするくらい高くて1人分だけでも結構な金額が飛びそうだった」
せっかくなら200グラムくらいは食べたいけど、1人で2万円のお肉は高すぎる……。
「……俊哉さんが見つけたら買ってそうだな」
「あー、確かに……」
案外家に帰ったらブルーサーペントの肉をドンッと渡してくるかも……。
そんな姿が想像できて私は思わず苦笑いを浮かべた。匡利も口元を押さえるように手で隠した。
「(あっ、匡利が笑いそうだなんて珍しい)」
匡利は普段、全くと言って良いほど表情を変えない。しいて言えば、怒った時はそれと分かるくらいに少しだけ表情が変わるけど、それもほぼ見た事がない。そして、笑いそうになった時は無意識なんだろうけど、何故かこうして手で押さえてまで表情を隠す。
「(考えてみれば、匡利が笑った顔って一度も見た事がないんだよね。他の表情もだけどさ……)」
どうしてそこまで感情を抑え込んでいるかは私には分からないけど、いつか匡利が心から笑ったり怒ったりできると良いな……。
それから割とすぐに他のみんなも合流した。最後に慶人と俊哉さんが合流してから私たちはギルドを後にした。
家に帰ってからはそれぞれが買った物とか受けた依頼とか報告し合ったんだけど、なんと俊哉さんがブルーサーペントのお肉を買っていた。それも買い占めたんじゃないかって思うほど大量に……。私と匡利、思わず顔を見合わせちゃったよね。だって、あまりにも予想通りの行動なんだもの。
その夜、俊哉さんを交えたディナーはブルーサーペントのお肉をたっぷりと使った豪勢な料理がたくさん並んだ。さすが高級なだけあってブルーサーペントはとっても美味しかったです。
また機会があったら食べたいなぁ……。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
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