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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第1章 新学期
11/54

第10話 ギルドに行こう 前編

 週明けには学校から模試の結果が送られてきた。結果はほぼ朔夜と玲の予想通りで、当然私たちの中に不合格の人は1人もいない。だから、晴れて待ちに待った連休を過ごす事ができる。




 休みの日になると、それぞれの生活習慣が現れて結構面白いんだよね。


 休みの日でも普段と変わらずに早起きをしているのは、匡利と玲だ。

 匡利は起きると、動きやすい服装に着替えて家の敷地内を軽くジョギングをしている。ここはかなり広大な庭があるから、庭をグルッと1周して走るだけでも結構な運動量になるんだ。多い時は2周しているらしい。

 玲も起きると庭に出るみたいだけど、走るんじゃなくてゆっくり散歩をしているみたい。季節ごとに綺麗な花がたくさん咲くからそれを観察しながら歩くだけでも楽しいらしい。


 2人の後に起きてくるのは慶人、誠史、朔夜かな。

 慶人は匡利と同じように庭を軽く走った後、家の横にある訓練場でテニスの練習をしたり、剣の練習をしたりしているみたい。

 誠史は庭の植物に水を上げたり手入れをしたりしてから、屋敷の裏手にある畑と温室に行っている。畑と温室では観賞用の花を育てている以外に、野菜や果物、ハーブ、薬草が育てられている。庭や畑、温室の管理は植物が好きな誠史が世話を一手に担っていて、普段は魔道具や魔法を使って管理しているんだけど、休みの日とか時間がある時は手ずから世話をしているみたい。収穫があると、その日の食事に出る事もあって、結構美味しいんだ。

 朔夜は起きた後、地下のトレーニングルームで軽く体を動かした後、そのまま作業室にこもる事が多い。何をしているのかはよく知らないんだけど、たまによく分からない色の物が入った瓶を持って出てくる事がある。あれ、本当に何なんだろう……。


 このくらいになると大体朝食当番の人が起きて朝ごはんの準備をしているかな。当番がなければ、次に早いのは佳穂だ。

 佳穂は起きた後、自分の部屋でゆっくり過ごしている事が多いね。時間がある時は地下のトレーニングルームでストレッチしたりランニングマシーンで走ったりしているみたい。ちなみに、ランニングマシーンとか前世のスポーツジムにあったような機械類は全部魔道具だ。


 佳穂の後に動き出すのはアオとサオかな。

 アオは自室で紅茶を1杯飲んだ後に、誠史の所に行って手伝いをしている。元々は2人きりになる口実で手伝っていたんだけど、最近はアオも楽しくなってきたみたいで、植物の世話に関して誠史の次に詳しくなったんじゃないかな? だから今では誠史もアオを頼りにしているみたい。

 サオは朝食当番じゃない時は、朝食の時間まで部屋で過ごしている事がほとんどかも。お茶を飲みながら本を読むのが好きって言っていたから、そう過ごしているんじゃないかな。


 朝食当番じゃなければ、私は大体このくらいのタイミングで起きている。

 起きてしばらくはベッドの中でゴロゴロ転がりながら一緒に寝ていたぬいぐるみのモフモフ具合を堪能してるかも。その後は自室のリビングエリアでお茶を飲みながら本を読んでいるかな。たまにタオルとスポーツドリンクを用意して匡利のところまで行って、そのまま朝食の時間まで一緒にいるよ。


 そして、当番じゃない限り誰よりも遅く起きてくるのは雅樹だ。

 雅樹は基本的に誰かに起こされるまで寝ていて、たまに自分から起きてもベッドから出ないで布団にくるまっている。起こしに行くのは慶人、誠史、玲の誰かかな。起きた後は軽く身支度を整えてから1階のリビングルームで、私たち女子が寝癖交じりの髪を整えてあげている。せっかく綺麗な銀髪なのにやってあげないと、何もしないでボサボサのままでいるんだよね……。そのせいか、雅樹の髪紐はその日に整えた人の好みで変わるんだ。私の時はだいたい赤か黄色の紐で結んでいるかな。



 こうして朝の時間を過ごした後、私たちは朝食当番に呼ばれてからダイニングルームに集まって朝食タイムとなる。ただ、この連休中の金曜日はいつもと少し違ったんだ――




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 金曜日の朝、私は起きて着替えを済ませた後、割とすぐに朝食の時間になって1階のダイニングルームに向かっていた。



――ピンポーン ピンポーン



 丁度1階に着いた時、玄関ホールにインターホンの音が響いた。


「(誰だろう?)」


 この家に誰かが来る事なんて滅多にない。住み始めた頃は色々と勧誘系の来客があったんだけど、あまりにもしつこいから勧誘除けの結界を張るようになったら全然来なくなった。たまに龍一が来る事はあるけど、今回の休みは特に来るとは聞いていない。


「(あっ、もしかして……)」


 1人だけ思い当たる人がいたから、とりあえず玄関脇のインターホンを見る事にした。

 このインターホンは呼び鈴の音を伝えるのと、門の外の映像を見るための物だ。魔道具なんだけど、前世の時みたいに会話をするのはできないんだよね。朔夜と玲曰く、できない事はないけど構造が複雑になってサイズ的にまだ問題があるらしい。


「……あ、やっぱり」


 思っていた通りの人が門の外で開くのを待っている。すぐにインターホンの横にある門の鍵を開ける。もう一度インターホンを見ると、門のところのカメラに向かって手を振っているのが見えた。


「優」


 後ろから声をかけられて振り返ると、慶人と匡利がいた。


「誰か来たのか?」

「うん。慶人、俊哉さんが来たよ」

「俊哉さん? 久しぶりだな」


 慶人は急いで室内履きから靴に履き替えると外に出た。その後を追うように私と匡利も外へ向かった。

 急なお客様は、門から屋敷まで数百メートルもある道の半ばの噴水まで来ていた。先にその人のもとに辿り着いた慶人と親しげに話しているのが見える。私たちも側まで行くと、こちらに気付いていつもの優しい笑顔を向けてくれた。


「――久しぶりだな。優梨、匡利」

「お久しぶりです、俊哉さん」




 彼の名前は、藤宮俊哉(ふじのみやとしや)。慶人の遠い親戚で、この家に住む私たち全員の後見人だ。

 年は40を過ぎているらしいけど、そう見えないくらい若々しい。紺の三つ揃えをビシッと着こなしていて、それがまた素敵なんだ。


 瑞穂国の貴族には、物語の中のように「派閥」や「有力一族」と言うモノが存在している。さすがに派閥に関して私はよく知らないけれど、有力一族に関しては1つだけ知っているのがある。それが「宮一族」だ。

 宮一族は数ある貴族の中でも財力はもちろん、影響力もかなり高い一族だ。本家の神宮公爵家は今までに何度も王家に嫁いだり、逆に王女が降嫁したりして王家との繋がりがそれなりに深い。その神宮家を筆頭に、分家の家名がいくつも連なる。分家の中でも高い地位にいるのは侯爵家の位を持っていて、末端ですら伯爵家の位を持っている。

 私がここまで詳しいのは、俊哉さんがその宮一族の中でもかなり高い地位の分家の1つ「藤宮侯爵家」の当主だからだ。そして、宮一族の末端にあたる分家は「天宮伯爵家」だ。天宮家は慶人以外いない。つまり、慶人はこの年で伯爵家の当主だ。さすがに未成年だし、学業もあるから当主業は俊哉さんに委任しているらしいけど、今後はどうなるんだろうね……。




 軽く挨拶をした後は、屋敷に戻って一緒にダイニングルームに向かった。ダイニングルームにはすでに他のみんなが集まっていて、俊哉さんを見るとみんな嬉しそうにしていた。

 そのまま朝食をとる事になって、俊哉さんの席はダイニングテーブルの真ん中になった。食事の間、それぞれ近況を俊哉さんに話した。その話の1つ1つを俊哉さんは相槌を打ちながら真剣に聞いてくれた。


「――ところで、お前たちは今日何か予定はあるのか?」


 朝食が食べ終わって、一通りの話が終わると俊哉さんはそう聞いてきた。


「特にはありませんが……」

「では、私と一緒に出掛けないか? 丁度ギルドに行こうと思っていたんだ」

「それでしたら、丁度俺たちも用事があります」


 そう言って慶人は確認で私たちの方を見た。2人の意見に異存はなかった私たちが頷くと、早速それぞれの自室に戻って出掛ける支度をする事になった。私も着替えのために衣裳部屋へ向かった。


 衣裳部屋はこの屋敷を色々と改装……いや、改造した時に全員の自室に作った部屋だ。と言うのも、この家に住むようになってから俊哉さんが服や装飾品類をこれでもかって言うくらい色々とくれてね……。もう普通の衣装ダンスなんかじゃ全然しまう場所が足りなくて……あと、管理もまぁ大変で……。

 それで自室を作るならいっその事しまう専用の場所を作ろうってなって、最初は広めのウォークインクローゼットくらいのつもりだったんだけど、今度は俊哉さんが《清浄(クリーン)》とか《乾燥(ドライ)》とか色々な付与付きの箪笥や棚をいっぱいくれて……結果、広めの部屋ができたよね!


 私の衣裳部屋は、寝室と廊下の両方から入れるようにしている。部屋の中は結構広い。壁際には黄色と白を基調とした色んな形の箪笥や棚が並んでいて、全身が映る大きな姿見と豪華なドレッサーまであるの。部屋の中央には寝転がれるくらい大きな円形のソファも置いているよ。天井には小ぶりのシャンデリアがあって、部屋の中を明るく照らしている。

 箪笥と棚には大まかに種類ごとに服が並んで、他にも様々な靴や帽子、ベルトなんかの小物類、鞄、アクセサリーが並んでいるの。ドレッサーとすぐ横の棚にはヘアメイクの道具が色々と入っているんだ。


「(本当いつ見ても、まるで王侯貴族の部屋みたいだよね)」


 この世界の貴族や王族の部屋なんて見た事ないけど、実際にこんな部屋なんだろうなぁっていつも思う。下手したら、伯爵家とか侯爵家並みに豪華なんじゃないかな? あまりに豪華でいつまでも慣れないけど、この部屋を見るたびに気持ちが高揚するのも嘘じゃないんだよね。


「(さて、何を着ようかな……。せっかくだから俊哉さんから貰った物がいいよね)」


 しばらく悩んだけれど、ノースリーブの水色のワンピースにした。裾の方に白い糸で花の刺繍がしてあって、それが凄くかわいいんだ。さすがにまだ少し肌寒いから丈の短い薄手の白いカーディガンも用意して、低めのヒールの水色の靴も用意する。髪型はハーフアップにして、青系の花のバレッタで留める。軽くメイクもしておこう。

 全部の用意が終わってから姿見の前でクルッと回って確認もした。うん、中々いい感じだ。選んだ靴を片手に玄関ホールに《瞬間移動(テレポート)》で移動をした。


「――では、行こうか」


 全員が揃うと、俊哉さんを先頭に屋敷を出た。さらに門の外に出ると、そこには1台の高級車が停まっていた。後部座席の扉の側には運転手の男性が立っている。何度か見た事のある人だ。


「さぁ、乗りなさい」


 俊哉さんがそう言うのと同時に運転手さんが後部座席のドアを開けてくれた。車に乗り込むと、外から見る以上に中は広々としている。ちょっとした部屋みたい。窓際に沿ってフカフカのソファみたいな座席があって、中央にはガラス製の長いローテーブルがある。

 全員が乗り込んで入り口のドアが閉まり、少しして動き出した。前世の記憶にある車特有の揺れやエンジン音はほとんど聞こえなくて、車内はとても静かだ。


「魔導リムジンって何度乗っても驚くね」


 隣のアオがそう言って、私とサオは無言のまま頷いた。




 この世界には魔物やダンジョンから採れる「魔素材」を使用し、魔法の付与や魔石類が組み込まれた「魔道具」が存在する。前世で慣れ親しんでいた機械類と同じに見える大半の物がその魔道具だ。発明と改良を繰り返しながら、相当な昔からこの世界の人にとって当たり前で、豊かな生活を送るために必要とされてきた。


 それに加えて200年ほど前から新たな「知識」として「科学」が注目され始めた。元々、魔法が使えない「非能力者」の間では割と当たり前の知識で簡単な道具であれば存在していたみたいだけど、それを研究する人はとても少なかったらしい。それがこの200年ほどの間に注目され始め、研究が進められて発展し始めた。その結果、今ではその科学知識と魔道具の技術を併せ持った「ハイブリット製品」が登場するようになった。

 私の感覚だとその発展具合は昭和後期から平成初期ぐらいじゃないかな? だから、前世にあってまだこの世界に存在していない機械類が色々とある。私が思うその代表格はスマホかな。簡単な通信機はあるんだよ。でも、ネットは見られないしメールを送る事はできないし、写真や動画の機能なんてない。今思うと、スマホとかの技術って本当に凄かったんだね。テレビだって見た目は前世でよく見かけた物だけど、まだまだ贅沢品だね。番組数もそんなに多くないし、ちょっとしたドラマやアニメ以外はニュースが大半だなぁ。


 そして、ハイブリット製品で今一番注目されているのが「魔導車」だ。見た目と基本的な構造はどうやら前世とほぼ一緒で、エネルギー源をガソリンじゃなくて魔石類にしているみたい。私からすると環境保護の点ではこっちの方が良さそうに思う。最近ではエンジンや内装にも魔法付与や魔石類を使用した魔導車が次々と開発されているみたいだけど、正直まだまだ高級品で簡単には手が出せない。だから魔導車に乗っている大半の人が高位貴族で、下位貴族や平民はまだまだ馬車が主流だ。それに元々貴族は馬車があるから不便に感じていないみたいだし、平民は結構な長距離でも歩くか乗り合い馬車が当たり前だったからね。なかなか「自家用車」の便利さと快適さに気付いてもらえていないんじゃないかなぁ?

 最近になってやっと誰でも使える魔導バスや魔導列車が開発・普及し始めたみたいだね。ちょっと高いけど、乗り合い馬車とかよりは乗り心地が良くて静かだし、他の地区に行く時はつい使っちゃうなぁ。


 それで、俊哉さんの車なんだけど、その魔導車の中でもさらに高級とされている「魔導リムジン」と呼ばれるものなの。今ある技術をふんだんに盛り込んだだけに、これ以上ないくらい快適だ。この感じはさすがに前世でもなかったんだろうなぁって思うよ。




「――ギルドに行くのって久しぶりだね」


 窓からの景色を眺めていると、アオが話しかけてきた。


「そうだね。前回は春休み中に1回行っただけだしね。……ところで、今日はどうするの?」

「簡単で期限の長い依頼があれば受けるけど、今回の1番の目的はクィーンビーの蜂蜜なの」

「あぁ、お菓子用に?」

「うん。ちょっと高いけど、やっぱりあの蜂蜜が1番美味しいし、お菓子に合うんだ。前回買った分が無くなりそうだったから、丁度来られて良かった」


 アオの趣味の1つがお菓子作りだ。元々食べるのが好きだったけど、自分で作れたら好きなのが食べられるって思って以来作るようになったらしいんだよね。アオらしい。今ではプロも顔負けの腕で、最近は道具にも材料にも拘ってみるようになったみたいだね。確かにクィーンビーの蜂蜜は美味しいね。


「優は?」

「んー……まだ考え中だけど、食材はちょっと買い足したいかな……依頼も見たいし、そう言えば口座も確認しないとだね」

「何か買ったら帰ってから見せてね」

「うん」


 家を出てから大分時間が経った。それぞれが思い思いに過ごす中、私は窓の外を流れる景色を眺めていた。


 私たちが暮らす王都は、前世の東京23区より少し広いくらいの面積で国内最大の都市だ。

 王都の中心に王城があって、そこは王族が暮らす以外に国の政治の中枢となっている。王城の周りには城壁があって、そこを通れるのは本当に限られた人間だけだ。王城をグルッと囲うように中央区があって、そこでは貴族が暮らし、王族・貴族の御用達店がいくつもある。

 王都の周りには、魔物から市民を守る都市防壁があって、王都を出入りできるのは8か所ある。

 まず東西南北に「大門」と呼ばれるかなり大きな門がある。その大門から城壁まで真っ直ぐ繋がる「大道」と呼ばれる通りがあって、大きなパレードや行軍、王族の移動なんかに使われている。大道は中央区の周りにもあって、それが中央区と他の地区の境界の役目をしているんだ。

 大門と大門の間には「小門」があって、そこは徒歩の人や乗り合い馬車なんかが主に利用している。その小門から中央区まで真っ直ぐ繋がるのが「大通り」と呼ばれている、大道ほどじゃないけど結構広い道がある。

 そして、大道と大通りに挟まれているのが主に平民が暮らし、生活の場となっている各地区になる。北の大道と北東の大通りの間を「第1地区」として、そこから時計回りに第8区まであるんだ。


 私たちが普段暮らしているのは、北の大道と北西の大通りの間にある「第8地区」だ。学校もそこにある。それで、今私たちが向かっているギルドは隣の第7地区にある。さっき、北西大通りを過ぎたからあともう少しで着くかな?


「(――街並みは現代の日本とヨーロッパを足したような感じだよね。でも、高層ビルだけは全くと言って良いくらい見ないね。高くて10階程度かな)」


 技術的には造れるんだろうけど、どうやら法律上造れないらしいね。まぁ、あと魔法を使っちゃえば建物自体の大きさはあまり関係ないのもあるんだろうな……。


「(あと、結構自然が多くて綺麗なところが多いよね)」


 意外とあちこちに公園があって、道路脇や店先に植物を見かける。前世の東京はビルばかりで緑豊かな場所は本当に限られている印象だったから、自然の豊かさに違いを感じたんだよね。


「そろそろギルドが近いかな。色々な騎獣の子がいるよ」

「もうすぐだよ」


 アオと誠史がそう言うのが聞こえて外を見ると、確かにちらほらと増えてきている。

 数少ない魔導車や馬車は街中でよく見るんだけど、ギルドが近づいてくると馬や狼に似た大型の動物にまたがる人や馬車を引く小型の竜のような動物をよく見かける。この子たちは「召喚魔法」や「従魔法(テイム)」のスキルを持つ人たちが契約を交わして騎獣として使役している子たちだ。召喚獣や従魔はサイズによるかもしれないけど、基本的に限られた場所にしか連れて行けないんだ。でも、第7地区は全体で許可をしているみたい。だから、こっちの地区に来ると色々と見かけて楽しんだよね。


「何かいたか?」


 外の騎獣の子たちを眺めていると、座席1つを空けて座っていた匡利が声をかけてきた。


「さっき8本脚の馬がいたよ」

八脚馬(スレイプニル)か。珍しいな」

「黒毛と白毛の子がいてね、仲が良さそうで可愛かった」

「……そうか」


 八脚馬(スレイプニル)って結構なサイズの馬で迫力が凄いんだけど、それを可愛いと言う私に匡利は何とも言えなさそうだ。いや、ちょっと厳つい顔かもしれないけど馬特有の可愛さがちゃんとあったよ?


「匡利はギルド行ったらどうするの?」


 話題を変えようとこれからの事を聞いてみた。すると、匡利は軽く首を傾げて考えた。


「……依頼は見る予定だが、後は未定だ」

「そっか」

「優は?」


 あら、会話を続けてくれるんだ。嬉しいな。


「依頼と口座を見て、後は食材を買おうと思っているんだけど……折角だから珍しい魔物肉を買いたいんだ」

「珍しい……サーペント類ならありそうか」

「サーペントって大型の蛇の魔物だっけ?」

「あぁ。普通のから順にキラー、イエロー、グリーン、ブルー、レッド、ブラックと珍しくなる。ブルーからは高級品だ」

「何か聞いた事あるかも……せめてキラーくらいなら買いたいかなぁ」

「あとはダンジョン産なら普通に売っているのより珍しいんじゃないか」

「良いかも。ダンジョン産はキノコが欲しいなぁ。……アオが嫌いだけど」


 そうやって匡利と話している内に塀に囲まれた一角に辿り着いた。この塀はギルドを中心に広がる街を囲っていて、目的は防犯と魔物の脱走防止のためだ。ギルドの周辺には、ギルドの職員や利用者向けの宿泊施設や住宅、店舗が並んでいて、訓練所なんかもあるんだ。その中には召喚士や従魔師(テイマー)の魔物を扱った店や預かり所もあるんだけど、結構昔に主人を探して魔物が脱走しちゃって、街総出で探す羽目になったらしいんだ。前世でのペット探しの比じゃないんだろうなぁ……。それ以来塀で囲うようになったみたい。

 その塀で囲まれた街は通称「ギルド街」って呼ばれているの。東西南北に門があるんだけど、私たちは東の門から街に入った。門を抜ける時に結界を通り抜ける時の独特の感覚がしていた。


 塀の中は、前世で小説や漫画で見たような中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。

 門からギルドまでの道の両脇にはたくさんの店舗が並んでいる。食料品を扱う店、魔道具の店、武具や防具の店、魔法薬の店、オーダーメイドの洋装店と多岐に渡る。ギルド街の店は基本的にギルドに登録している店で、腕も品質も確かなところが多いの。

 門を抜けてからそれほど時間がかからないうちに街の中心部に辿り着いた。私たちは車から降り、俊哉さんは運転手の人と何かを話している。運転手の人は軽く頷いた後、車に戻ってそのままどこかへ行ってしまった。

 車を見送ってから、私は無意識に周りを見た。今、私たちがいるのは中心部の大きな広場だ。屋台やキッチンカーが並んでいて、商品を求めて集まる人がたくさんいる。その人たちの間を通り抜けて向かったのが、この辺りで一番目立つ建物だ。

 2階建ての木の柱と白い壁の建物が「ギルド葦原瑞穂王国中央本部」だ。この建物の中も私たちの家みたいにかなり広くなっているんだよね……。


「優、行くよー」


 建物を眺める私にアオが声をかけて、私は慌てて視線を戻して他のみんなの元へ駆け寄った。


ここまで読んで下さりありがとうございました!




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