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異能者恋物語  作者: 蒼月憂
第1章 新学期
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第9話 お出掛け 後編

 ~ side 雅樹 ~




「(さて、と……この後はどうしたもんかな)」


 学校を出て校門を抜け、今俺と紗奈は通りを歩いている。教室から繋いだままの手に紗奈は戸惑っているみたいだけど、振り解こうとはしない。


 紗奈の事は仲間以外で、ナオと澤田に続いて親しいと思っている。元々は優たちが仲良くしていて、あまり他人と関わろうとしない優たちが珍しい、と思ったのが最初だ。話してみれば、他の奴みたいに嫌に感じなかった。中学の頃の俺は今よりも“他人”が苦手で、特に女が駄目だった。でも、紗奈だけは平気だったんだよな……。


 今日、こうして誘ったのは本当にただ気まぐれだ。みんな用事でいないみたいだし、おまけに目の前で優と匡利が何だかんだ仲良さそうに出掛けようとしているし……。ナオは、今日は家の手伝いだって言っていたからな。1人で家にいても良かったけど、何となく紗奈が出掛けようとする優たちを羨ましそうにしていた気がした。だから、そのまま誘って連れ出してしまった。


「(……勢いのまま繋いだけど、嫌がられなかったな)」


 親しいとはいえ、付き合ってもいない男に手を握られたら嫌がられそうな気がしたけど、驚くだけだったな。俺自身も、仲間以外の人間だと言うのに、不思議と嫌な気はしなかった。むしろ、少し安心するような気がしている。ここまで来たら急に手を離すのも変な気がして、俺はそのまま紗奈の手を握り締めている。


「(とりあえずは昼ごはんか? 俺はどっちでもいいけど、紗奈はどうだろうか)」


 俺は歩くのを止めて一度紗奈の方を振り向いた。


「なぁ紗奈。腹は空いているか?」


 紗奈はずっと俯いていた顔を上げて俺を見た。少し顔が赤いのは気にしない事にする。紗奈は一瞬考えて頷いた。


「(この辺りで行けるのは……あそこだな)」


 1か所、ここからすぐ行ける場所がある。ただ、優たちが好きで行っているような店とはちょっと違うんだよな……。全く女がいないとは言わないけど、どっちかと言えば男が好む店だ。


「……ハンバーガーは好き?」


 その店のメインを言えば紗奈の目が一瞬丸くなった。


「うん、好きだよ」


 そう言う紗奈は嘘を言っているようには見えない。それなら大丈夫か?


「そう……。俺の知っている所で良いか?」

「うん」


 紗奈の返事を聞いて、俺は店の方向へと進んでいく。なんとなく紗奈が、俺が持っている自分の荷物を気にしているような気がした。でも、今更ここで返すのも変な気がするから気付いていないふりをした。


 しばらく歩いて向かったのはカフェのような店だ。ただ優たちが好きで行くようなカフェと違って、少し大人の雰囲気だと思う。実際、昼間はハンバーガー専門の店だけど、夜は酒と軽食を出す店になる。街にはファストフードのもっと手軽で安価な店が多いけど、何となくこっちの店の方にしてみた。

 中はテーブル席が中心で、奥にカウンター席もある。そのカウンターの一角が注文するところだ。カウンターの向こうには、色んな種類の酒の瓶が並んだ棚と、キッチンに繋がる小窓がある。

 カウンターに向かってメニューを見る。俺は大体いつも頼むのは決まっているから、紗奈の方を見た。


「何が良い?」

「えっと……この特製ハンバーガーかな」


 ……それだけ?

 チラッとメニューを見ると、特製ハンバーガーはいくつもあるメニューの中でも安い。……失敗したな。奢るつもりで何も言わずに連れてきたのがまずかったか? でも、紗奈の事だから今から奢ると言ってもメニューを変えそうにないな……。勝手に追加でセットにすればいいか。

 紗奈を見るけど、やっぱりこれ以上を頼む気はないらしい。俺は無意識に小さく息を吐いた。


「紗奈、サラダ好き?」

「えっ? うん、好きだよ」

「ポテトは? 皮付きになるけど」

「好きだよ」

「ドリンクは何が好き?」

「えっと、ウーロン茶かな」


 矢継ぎ早に聞けばスラスラと答えが返ってくる。多分、セットメニューの方は見ていないだろうから、俺に質問の意図は気付いていないだろう。その方が答えを聞けて都合がいい。

 セット内容が決まって、俺は店員に向き直った。頬を赤くしている店員は俺と目が合うと、居住まいを正した。


「ご注文をどうぞ」

「ベーコンチーズバーガーのポテトセットを1つ、ドリンクはコーラで。あと、単品で照り焼きチキンバーガーを1つ。それから、特製ハンバーガーのサラダとポテトのセット1つ。ドリンクはウーロン茶で」


 俺の注文内容を聞いた紗奈はかなり驚いている。その様子が分かってつい笑いそうになった。


「銀貨4枚と銅貨3枚になります」


 金額が伝えられ、紗奈が出すよりも素早く支払った。財布を出しかけて固まる紗奈を見て、今度こそ笑いが出た。


「俺の奢り。俺に付き合ってくれた礼だ」

「でも……」

「いいから。気にするな」

「……ありがとう」


 そう言って、優たちと一緒にいる時とは違った笑顔を向けられた。はにかむ様なその笑顔に、俺は何故か胸が鳴った。


「(可愛いな……)」


 無意識にそんな事を思っていて、ハッとした俺は何とも言えず、照れ隠しに頭を掻くしかできなかった。


 店員から番号が書かれた札を受け取って窓際の席に向かった。途中で他の客の視線を感じたけど、応えるつもりはないからそのまま素通りする。

 紗奈と話しながら待つこと数分、注文したものが来た。バスケットに入ったハンバーガーを見た紗奈は、明らかに目がキラキラとしている。


「「いただきます」」


 2人で声を揃えて言ってから、ハンバーガーに齧り付いた。


「(やっぱり美味いな)」


 ここのハンバーガーの肉は、ビーフパティと言うよりも肉厚なハンバーグと言って良い。その分食べ応えもあって色んな旨味を感じられて美味い。俺の方はカリカリのベーコンと熱でとろけたチーズも一緒にバンズに挟まれていて食感と味が色々楽しめる。野菜も結構しっかり入っている。


「美味しい~」

「それは良かった」


 感激して顔を輝かせて紗奈が言う。その顔を見れば、誘って良かったと思えた。


 それなりのサイズはあるけど、俺は早々に2個目のバーガーに手を伸ばした。こっちはビーフパティじゃなくて照り焼きにしたチキンが入っている。ピリッと辛い玉ねぎのスライスと野菜に照り焼きのタレが絡んで美味い。


「雅樹くんは、よくここには来るの?」


 俺の様子を見ていた紗奈が聞いてきた。


「いや、たまにだな。最初は慶人に誘われて来て、その後は1人で来たり誰かに誘われたり……」

「そっかぁ。それにしても本当に美味しいね。気に入っちゃった」

「じゃあ、また誘うな」


 自然と口からそう出た。紗奈は一瞬目を丸くしたけど、すぐに照れ臭そうに笑いながら頷いた。それを見て、俺も無意識に笑みを浮かべていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ドーナツ屋に向かう私の足取りはとても軽かった。頬は緩みっぱなしだし、気を付けていないと鼻歌やスキップまでしそうなくらいだ。


「……嬉しそうだな」


 そう声をかけられて振り返ると、匡利が無表情で私を見ていた。


「だって模試も終わったし、久しぶりにドーナツ屋さんに行けるし」


 何食わぬ顔で答えるけど、1番の理由は久しぶりに匡利と出掛けられているからだ。それに気付かない匡利は、そう言うモノかと納得したみたい。


「(相変わらず疎いなぁ。こっちとしては好都合と言えば好都合だけど)」


 私の方は前世と合わせてもここまで誰かを好きになったのは、匡利が初めてだ。前世の時は色々とあり過ぎて恋愛らしい恋愛をしていられなかったからな……。まぁ、そのせいでどう行動すると良いのか全く分からないけどね!

 そりゃ、前世でも色々あったし恋愛小説も色々読んでいるから、恋愛におけるセオリーとか段階みたいなのは分かるよ? でも、知識だけあっても経験がね……いまいち過ぎて。

 何よりも、匡利があまりにも恋愛に興味なさ過ぎて……。こうして一緒に出掛けてくれるだけでもありがたいと言うか……。


「(そもそも私自身、現状維持を望んでいるからなぁ)」


 せっかく心地いい関係を築けているのに、変に告白なんかしてこの関係が壊れる方が怖い。だったらこのまま気付かれないまま、何も言わずに今の関係を続けたいんだよね。


「(それならこのまま何も言わずにいるのが正解、だよね?)」


 ひとまず自分の中で納得はできたから、今は折角のデートを楽しもう。そう思って私はこっそりと匡利との距離を縮めた。




 目的のドーナツ屋さんは、土曜日という事もあって結構にぎわっていた。

 注文するカウンターの横には大きなショーケースがあって、そこには色々な種類のドーナツが並んでいる。ここにあるのはおやつ系の甘いドーナツが中心で、食事系のドーナツとかセットに関してはメニュー表に載っている。

 食事系に使うドーナツは甘くなくて、色々な具を挟んだサンドイッチとか、カレーとかシチューとセットになっているのもあるんだよね。そのセットになる料理が結構美味しくて、それが目的で来る人も多いみたい。


 私と匡利は順番に並びながら、一緒にメニュー表を見て頼む物を選んでいる。


「色々あって迷う~。匡利はどうするの?」

「……この野菜とチーズのサンドとコーヒーにする」

「甘いのはいらない?」


 答えは分かってはいるけれど一応聞いてみた。


「そのつもりだ。お前は両方食べるのか?」

「うん。デザートセットにすると、手ごろなサイズで両方楽しめるんだ」

「(本当に好きだな……)」


 何かを言いたげな匡利の視線は気にせず、私は自分の注文を考える。ギリギリまで悩んだけど、野菜のオムレツとベーコンのセットにして、デザートは定番のチョコと砂糖を選んだ。

 匡利が一通り店員さんに注文して、飲み物と番号札を受け取ったら席を探した。店内はそれなりに混みあっていたけど、運よく窓際のテーブル席に座れた。移動の間、飲み物の乗ったトレイを匡利が持っていてくれたんだよね。優しいなぁ……。


「とりあえず、模試お疲れ様」

「あぁ、お疲れ様」


 荷物を置いて向かい合わせに座ると、アイスコーヒーとアイスカフェオレが入ったグラスを軽くぶつけ合った。そのまま一口だけ飲んで一息ついた。


「匡利はどうだった? 模試」

「問題ない」


 迷いのない答えが返ってきた。さすが苦手教科はないって豪語するだけあるな。だからこその自信なんだろうね。


「優は?」

「んー、数学は手応えが十分あったし自信もあるけど、他の教科は1個か2個は自信がない部分があるんだよね……。あっ、不合格ではないと思うよ」

「それは大丈夫だろう。前日の勉強もよくできていたんだから」


 実は前日の日まで匡利は私のテスト勉強に付き合ってくれていた。申し訳ないと思いつつも「自分の復習になるから大丈夫だ」と言われたから最後まで甘えさせてもらったんだよね。


「ありがとうね。ここの事も」


 勉強だけじゃなくて、ご褒美のお願いまで聞いてくれて本当にありがたい。そう思ってお礼を言えば、匡利は表情を変えずに頷いてくれた。


 そう話していると注文した料理がやってきた。運んできたのは女性の店員さんなんだけど、料理をテーブルに置いた時にチラッと匡利を見ていた。と言うか、私は眼中にない……。視線に気付いた匡利が顔を上げると、目が合ったみたいで店員さんは顔を赤くして戻っていった。ただ、その様子の意味が分かっていないのか、匡利は首を傾げている。


「(本当に鈍いね……)」


 私も苦笑するしかない。慶人を始め私たちの殆どが自分の見た目に対してある程度の自覚はある。でも、匡利はきっと分かっていないんじゃないかな?

 慶人たち男子は、系統は違うけど全員美形と言っても過言じゃない。特に慶人と誠史と匡利は「もう1つの姿」が影響しているのか“東人離れ”というより“人間離れ”した美形なんだよね。

 匡利だけに関して言えば、もう1つの姿が「世界で最も美しい種族」と言われているエルフ族だからか、本当に綺麗なんだ。だから、ちょっと目が合っただけでも慣れていない人は見惚れて顔を赤くしてしまう。でも、当の本人である匡利はどうして自分を見てそう反応されるのか、いまいち分かっていないんだよね~。


 それはさておき、来た料理を早速いただこう。野菜のオムレツは中に玉ねぎ、トマト、ズッキーニ、茹でたほうれん草が入っていて、さらに切ると中からとろけたチーズまで出てくるんだ。味付けはケチャップとしっかり炒められたベーコンがあるからかとてもシンプルだ。セットで頼んだから、ミニサラダとコーンスープも付いていた。

 ドーナツは穴のない丸型だ。甘さは控えめだけどそのままでも十分美味しい。何よりオムレツとベーコンと一緒に食べると、それがよく合っていた。コーンスープにちょっと浸けても美味しかった。

 匡利が食べているドーナツ・サンドのチーズはここのオーナーさんが厳選して仕入れているものらしくて、私も食べた事あるけどそのチーズが本当に美味しかったんだよね。今度来た時はまたそれを頼もうかな。


 ペロリと食事の方を食べ終わったら、今度は甘いドーナツだ。通常販売のより少し小ぶりのリングドーナツで、1個はたっぷりの砂糖がまぶされたシュガードーナツ、もう1個は表面に満遍なくチョコレートが塗られたチョコドーナツだ。定番中の定番の味だけど、全然飽きないし、色々食べても結局この2個に戻ってきちゃうんだよね。


 機嫌よく食べていたら、いつの間にか食べ終えてコーヒーを飲んでいる匡利がじっと見つめてきてた。何だろう?


「なぁに?」

「いや……随分と幸せそうに食べるなと思っただけだ」


 ……そんなしみじみと言われると、なんか恥ずかしいんだけど。そりゃあ幸せですよ? だって美味しい料理とドーナツが食べられて、目の前には好きな人がいるんだから。こんな事は本人には言えないけれどね……。

 でも、匡利の雰囲気は揶揄うとかそんな感じは全然なくて、純粋にそう思ったみたい。その雰囲気は、きっと匡利に表情があったら優しそうに笑っているんじゃないかなって思うほどだった。


 食事が終わった後はこれからの事を話し合った。予定通り近くの大きな本屋さんに行った後、そのまま近くの店を回ろうかってなった。思っていたよりも長めに一緒にいられて、私は内心とても喜んだ。

 お店を出る前に、折角だから他のみんなにお土産を買う事にした。それぞれの好みを考えながら選んだら、10個入りの箱が2箱になったよ。さすがにお店を出た後に人のいない場所で《無限収納(インベントリ)》にしまったよね。持ち歩いてお店巡りはできないし。


「行けるか?」

「うん。大丈夫だよ」


 匡利の横に並んで本屋に向かう。その道すがら、どんな本を買おうかと話した。歩調は私に合わせてくれている。その時間が、ドーナツ屋さんで過ごしたのとはまた違う意味で幸せだなぁと私は感じていた。




 お土産に買っていったドーナツは夕飯後にデザートとして出した。みんな凄く喜んで食べてくれて、また機会があったらあのお店に行こうと私は思っていた。



ここまで読んで下さりありがとうございました!




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