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97.過保護なのは正直良くないよ?

 若者で溢れる飲食店。その端っこの席に僕とリシアとクティラは座っていた。

 少し離れたところにいるのはサラと男。僕は彼女たちから目を離さないようにしている。

「ほらエイジ……ちゃんと顔が見えないように帽子深く被って」

「ん……ありがとリシア」

 店の中から覗いていた前回と違い、今の僕たちはいつサラに見つかってもおかしくない場所にいる。ので、僕たちは近くの店で服と帽子を買い、変装していた。

 僕は中折れシルクハットに、無地のパーカと長めの黒スカートを着ている。普段僕は女の子の姿だとしてもスカートは基本着ないので、あえてそれを着てバレないようにしている。

 リシアはどこかの球団のマークが入った帽子と少し大きめサングラスを付けており、服装は全体的にスポーティな感じ。普段の彼女からは全く想像できないボーイッシュな雰囲気。これならサラにもバレないだろう。

 クティラは髪型をツインテールに変え、大きめな麦わら帽子を被っている。赤縁のメガネを付けており、ぱっと見どこかの喫茶店の制服かと見紛うほどに可愛らしいワンピースを着ている。バレないための変装とはいえ、変な格好だ。

「……基本サラちゃんからコミュニケーション取ってるね。それってなんかさ……頼りないよね。デートなら男の子からリードして欲しいって私は思うな。サラちゃんもきっとそう思ってるよね」

「同感だ。トークの主導権すら握れないような奴が、あの生意気娘全開のサラをしっかりと面倒見れるとは思えない。コップの置き場所も悪いな……む……しかも飲むタイミングも最悪だ。サラが笑顔になって話の山場を語っているというのに、その瞬間に飲み物を口に含んで、己の反応を話し手に見せないなんて聞き手として最低だな」

「……よく知らん相手を憎みすぎだろう、貴様ら」

 リシアの隣に座るクティラが小さくため息をつく。そんなクティラを何故か、リシアは優しく頭を撫でた。

「クティラちゃんもサラちゃんが心配なんだね……安心して。いざとなったら私がどうにでもするから」

「サラよりも……異常に過保護なお前たちが心配だ。いや……それも含めサラが心配になるな」

 もう一度ため息をつくクティラ。リシア曰く、彼女もサラを心配しているらしい。

 クティラも普段からサラと仲がいいし当然か。僕は特に何も言わず理解したかのようになんとなく頷き、サラの方へと視線を戻した。

 男と二人っきりで食事をしながら会話をしているサラ。ぱっと見は楽しげだが、やはり自宅でリシア達と仲良さげに食事をしている時の笑顔と比べると、どこかぎこちなく感じる。

 僕は思わずトントンっと、トントンっと机の上を指で叩いてしまう。

「あはは……ほらエイジ、あんまり怒らないの。もしかしたらいい人かもよ?」

 と、リシアは苦笑いしながら、握った拳で僕の頭を優しく撫でてきた。

 そうだな、リシアの言う通りだ。少し落ち着かないと。

 僕はゆっくりと息を吸い、それを深く吐いて落ち着きを取り戻そうと画策。

「……うん。ありがとうリシア。落ち着いたよ」

 僕はリシアに感謝を述べながら、彼女に見えないように拳を強く握りしめた。


 *


 いつものゲーセン。ここ周辺にはここにしかゲーセンが無いから、付近の学生達はみなここに集まる。

 休日だからか、この前ラルカ達と来た時よりも人が多い。

 休日にも関わらず制服を着た学生カップルや、小学生くらいの子を連れた親子、大学生辺りに見える男の集団。多種多様なグループが眩い照明に惹かれた虫のように、まるで吸い込まれるかのように、ゲーセンへと足を踏み入れている。

 僕たちはそこに向かうサラ達を追い、彼女たちに見つからないよう距離を取りながらゲーセンへと踏み込む。

「あ……あのぬいぐるみ、サラちゃんの好きなシリーズだ。それに気づいて取ってあげる、とかしないんだ……ふーん……ふーん……ふーん……減点だね」

「僕でもあれがサラの好きなものだとわかっているぞ? それすら知らずにサラと一緒にゲーセンデートとは……度胸は認めるがそれ以外は論外、減点だな」

「エイジ……リシアお姉ちゃん……マウント取りながら減点方式の点数付けとかやめた方がいいぞ?」

 至極真っ当なクティラのツッコミは無視して、僕とリシアは隣に並びながらサラたちを追っていく。

 見ているだけだ。さっきから見ているだけだ。あの二人は。

 あれが可愛いとか、面白いとか、そんなしょうもない会話しかしていない。認めたくはないがデートなのに。

「なあエイジ……そういうのが楽しいものなのだぞ? デートは」

 クティラの意見は無視して、僕とリシアは横並びにサラたちを追いかけていく。

「うーん……歩いてるだけだね。イベントが無いと私だったらつまんなくて帰っちゃうかも……サラちゃんもそう思ってるんじゃないかな? きっとそうだと思う」

「確かに……どれか一つくらいチャレンジしてみればいいのにな。取れても取れなくても盛り上がるだろうに……景品品評だけしてるなんてダメダメだ」

「エイジ……リシアお姉ちゃん……そろそろ恥ずかしいからもうやめよう? 貴様らとて実際デートしてみたらこんな感じになると私は思うぞ」

 クティラの指摘は無視して、僕とリシアは確実にバレないように誠実に見つからないように、サラたちの後方につく。

 と、二人はその場で立ち止まり、何やら会話をし始めた。

 雰囲気から察するに、どうやら一通り見終えたようなので、ゲーセンを後にするらしい。

 デートもいよいよ終盤だろう。僕はゴクリと固唾を飲み、リシアと目を合わせてからサラたちを追いかけた。

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