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96.無知故の怯え及び怒り

「サラちゃん……可愛く一人で立って、スマホを一人で見て、誰かを一人で待ってるね」

「……ああ、間違いなく待ち合わせだ」

「なあエイジ、リシアお姉ちゃん。本当に見張るのか?」

 いつものショッピングモール。そこで一人誰かを待つサラを、僕たちはすぐ近くの店に隠れながら見ていた。

 クティラの言った通りだ。童貞の僕でもわかる。あれはデートの待ち合わせだ。

 友達と遊ぶんだったらもっとラフな格好だろうし、律儀に立って待つなどサラの性格上あり得ない。

「どうしようかな……サラちゃんがいいなら私はいいけどだけど私よりサラちゃん大切に出来る人なんてエイジ以外思いつかないしもしもサラちゃんを私よりも大切にできない最低な男だったらその場で別れさせてもいいよねサラちゃんのこと思ったらそれが当然だよねうん間違いないそうしよう絶対にそうしようサラちゃんのためだもん仕方ない仕方ない多少の犠牲は仕方ないだってサラちゃんいい子だし私サラちゃん好きだし大好きだしサラちゃんには幸せになってもらいたいし泣かせたくないし苦しい思いして欲しくないしそれに──」

「なあエイジ、なあなあエイジ」

 いつ相手が現れてもいいようにサラをじっと見ていると、後ろからクティラがシャツをクイクイっと軽く引っ張ってきた。

 僕は思わず彼女の方へ振り返る。すると彼女は何故か、怯えたような表情で僕の服をぎゅっと掴んでいた。

「なんだよ?」

「その……リシアお姉ちゃんが普通に怖いんだが?」

 震える指でリシアを差すクティラ。それに合わせて僕はリシアを見る。

 彼女はいつの間にか取り出した二つの剣を重ね合わせながら、ぶつぶつと何かを呟いていた。

 僕はそれを見て、はぁとため息をつきながらクティラの頭に手を置き、彼女の目をじっと見て言った。

「いいかクティラ、リシアが優しい子なのはお前も知っているだろ?」

「うぇ? ま、まあ……普段はそうだな。思わず甘えたくなるほど優しいのは私も重々承知だ」

「そう、リシアは優しいんだよ。だからサラの心配をしてくれているんだ。ほら、サラって結構バカだろ? だから悪い男に騙されているのかもってリシアは心配なんだ。それ故気合いが入ってるんだよ。リシアは昔からサラを可愛がってくれたからな、僕以上に。多分本当の妹のように思っているんだろう。優しいリシアが大切な妹であるサラを本気で心配するのは、彼女の性格を鑑みれば至極当然の事だ。多少怖く見えるかもしれないが、それだけ本気なんだよリシアは。サラは幸せ者だよな、リシアにこんなに可愛がってもらえるんだからさ」

 リシアの今の状態を説明してあげると、何故かクティラは目尻に涙を浮かべながらプルプルと震え始める。

 そして彼女は、全身を震えさせながらゆっくりと口を動かした。

「く……」

「く?」

 消えてしまいそうなほどにか細い声で「く」と呟くクティラ。意味がわかんない。

「句読点があるのに物凄い早口で怖い……」

 俯きながら、よくわからない事を言うクティラ。

 とりあえず彼女は放っておいて、僕は再びサラに視線を向けた。

 それとほぼ同時に、サラがスマホをバッグに入れながら顔を上げた。

「リシア……!」

 サラに大きな動きがあったので、僕は振り返りながらリシアの名を呼ぶ。

「すでにいるよ気づいてるよもう見てるよ……」

 と、気づいた時には隣に居たリシアが僕を見ずにサラを見ながら、そう言った。

 そんな彼女の横顔を見ながら僕は頷き、サラを中心に辺りを見渡す。

 その直後、目に入ってきた一人の男性に僕の視線は奪われた。手を上げながら、サラの元へと向かいながら、笑顔を浮かべながら彼女に話しかけている男性に。

「アイツか……?」

 よくわからないけど、僕は奴に苛立ちムカつき舌打ちをしてしまう。そして拳を握りしめた。爪が肉に食い込むほどに、強く。

「もうっ、エイジったら……。ほら、落ち着いて落ち着いて」

 と、青筋を額に立てながら、優しい声色で僕を宥めようとリシアが頭を撫でてくる。

 ので。僕は落ち着こうと、両手で拳を強く握りしめた。

 そのまま僕はサラとクソをじっと見つめる。二人は楽しそうに笑顔を浮かべながら、会話をしていた。

「絶対怪しいよサラちゃんと会話する時は普通もっと笑顔になるもんおかしいおかしい絶対におかしいもしかして無理矢理笑顔を浮かべてるんじゃないかなサラちゃんを騙すためにもしそうだとしたら私今すぐあの男の子を文字通り八つ裂きにしてサラちゃん助けに行かなきゃだよねじゃあもう今から準備しなくちゃ一瞬で決めなくちゃだってサラちゃんにはずっと幸せでいて欲しいもん女の子にとって恋愛関係での裏切りは一番のダメージそんな攻撃サラちゃんに受けさせるわけにはいかないよね辛くて苦しくて泣きたくなるような嫌な思いを抱えていい子じゃないのサラちゃんはだってとっても良い子なんだから可愛くて綺麗で素敵で甘えたがりで大切な私のサラちゃんを傷つけさせるわけにはいかないあんなよく知らない男の子にサラちゃんをいじめはさせない絶対にだから私が守らなきゃ盾にならなきゃ守護霊側近ボディガードにならなくちゃねそういえば攻撃こそが最大の防御ってよく言うしもうとっととあの男の子を──」

「もしかして何か弱みを握られて無理矢理付き合わされているのか? サラは好きな相手にはちゃんと猫を被らずに本音で話す子だ。実際リシアの前でアイツが猫を被っているところなんて見たことがない。なのにあの男と話しているサラはなんというか、作り笑顔をしているような気がする。つまらない話題に面白いと無理矢理反応する時のような嫌な笑顔をしている気がする。僕やリシアに見せる笑顔とは全然違う気がするな。彼氏相手だからか? いや、あんな奴よりも僕の方がサラをわかっている。兄妹が故長年一緒に暮らして育ってきたんだ。本当に好意を持っている相手に見せる笑顔くらいわかる。あの男に見せている笑顔はほぼ間違いなく偽の笑顔だ。例えサラが本当にアイツの事を好きなんだとしても、仮面を被る必要がある相手ならばそれは偽りの愛だ。全くあのバカは……その場その場で得た勘違いから連なる吊り橋効果に騙されているな……兄貴を困らせやがって。ならばこの僕が今すぐサラを──」

「落ち着けバカ二人ッ!」

「あいたぁ!? なんで叩いたのクティラちゃん!?」

「……ッ!? クティラテメェ……!」

 突然頭を叩かれ、その痛みに反応し僕は思わず頭を押さえてしまう。

 そしてそれをした張本人、クティラを睨みつける。彼女は頬をハムスターのように膨らませながら、腰に手を当て怒ってますのポーズをしている。

「このシスコンバカ夫婦が……! ぶつぶつと早口で長台詞を……!」

 プルプルと震えながら、ビシィッと思いっきり、クティラはリシアを指差す。

「まずリシアお姉ちゃん! その剣と剣を合わせてキンキン鳴らす癖やめろ! 怖いし周りも引いてる! いつ警察を呼ばれてもおかしくないぞ!」

「あぅ……ごめんなさい」

「そしてエイジッ!」

 リシアが俯きながら謝ると同時に、クティラが今度は僕を指で差してきた。

「貴様のぐるぐる思考は頭の中だけで完結しろ! 口に出すな! バカッ!」

「……すみませんでした」

 勢いに押され、気圧されて。僕は思わず頭を下げ謝ってしまった。

 それと同時に、リシアが大きな声で「あーッ!」と何故か叫ぶ。

 僕はそれに反応しすぐに彼女の方へ視線を向ける。リシアは目を見開きながら、サラの居た場所を指差していた。

「いつの間にかサラちゃんいなくなってる! もうクティラちゃん! お説教長いよ!?」

「え……私も怒られるのか?」

「行こうエイジ! 見失っちゃうよ!」

 大声で叫びながら、僕の手を握るリシア。

 そんな彼女の手を僕は握り返し、力強く頷く。

「ああ……! 行こうリシア……!」

「うん……! 私たちならきっと追える! まだ追いつける! そして救えるよ……サラちゃんを……!」

「……なあ、せめて無駄にカッコつけるのだけはやめないか? エイジ、リシアお姉ちゃん」

 クティラが首を傾げながら何かを呟くと同時に、僕とリシアは店の出口に向かって走り出した。

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