94.もしも、年頃の男の子が女の子の身体を手に入れたならば、気にならないはずがないあの行為
「……ふわぁ。今、何時だ?」
目が覚めた。ので、僕は目を擦りながらスマホを手探りで探す。
それを見つけたらホーム画面を付けて時間を確認。示す時刻は午前四時半。起きるには早すぎる時間だ。
「……ん?」
いつも隣に寝ているクティラに配慮して動こうとしたが、彼女の気配を感じなかった。
「……そっか。クティラはリシア達と寝てるんだったな」
長い髪の毛を掻き分けながら、頭をボリボリと掻く。
甘い匂いが鼻にやってきた。恐らく僕の髪の毛の匂い。女の子の匂い。
サラに言われて僕は、女の子状態の時は彼女のシャンプーを使っている。曰く、お兄ちゃんの使っているシャンプーはノンシリコンじゃないから駄目とか何とか。
正直よくわからない。別にいつものシャンプーでいいと、僕は思うのだけれど。
「……はぁ」
僕はゆっくりと起き上がりながら、ベッドの上で座りながらため息をつく。
そして、自分の二の腕を触り、太ももを触り、胸を触り、またため息をつく。
柔らかい身体。ふわふわっとした肌。僕のものとは思えない、あまりにも女の子すぎる身体。
何も思わないわけがない。普段は表に出さないが、僕だって年頃の男子高校生。そう言うことくらい考えてしまう。
ダメだ。寝起きだからか頭がうまく回らない。なんて言うか、考えちゃいけないことを考え始めている気がする。
僕はなるべく見ないように。顔を背けながら、自らの右手で鼠蹊部に触れてみた。
何もない。付いていない。生まれてからずっと一緒だった相棒とも呼べる存在が、今の僕には無い。
本当に女の子の身体なんだと改めて実感する。トイレに行く時とか、お風呂入る時とか、なるべく見ないようにはしているけれど、それでもやっぱり視界には入ってしまう女の子の大切な部分。
心臓がドキドキし始めた。ダメだ、何を考えているんだ僕は。
自分の身体に興奮しているのを感じる。正直、エロいとすら思い始めている。
一度も触れたことのない異性の身体。それが今、自らの身体として触れるシチュエーション。誰にも拒まれる事なく、誰に迷惑をかけることもなく、好き放題に触れてしまう状況。
「……ッ!」
僕は自らの頬を少しつねる。バカなことを考えるんじゃない、落ち着くんだ、と。
それでも落ち着かない。考えてしまう。
流石の僕でも知識はある。女の子が自らを慰める時にどういう動きでどんな事をするのかくらいは。
してみたい。やってみたらどうなるんだろう。好奇心が止まらない。
辺りを見回す。いつもいるクティラが今日はいない。しかも午前四時半という微妙な時間、恐らくサラもリシアもクティラもまだ部屋で寝たまま。
──僕の邪魔をするものはいない。
いいのだろうか。触れてもいいのだろうか。下着の中に手を突っ込み、敏感な部分に触れ、快楽を得ようと動かしてもいいのだろうか。
必死に自分を止めようとする。それでも心臓は高鳴り続けるし、息は荒くなっていく。
好奇心と、それからしばらく得られていない性的快楽、それ故溜まる欲求不満。色々な感情がグチャグチャに混ざって、僕の脳をピンクにしていく。
僕はまず体育座りをする。手と足で感じる自らの鼓動。ドキンドキンと、五月蝿く高鳴る心臓。
右耳の耳たぶに熱が帯びる。額に汗が湧き出る。両頬が真っ赤に燃えているかのような感覚。
右足を開いて、左足を開いて、僕は開脚する。まるで、誰かに見せつけるかのように、それを広げる。
サラに借りているピンク色のパジャマが包む下半身。寝相が悪いが故に乱れた上半身。それら双方はところどころはだけていて、透き通るような綺麗な、見ただけで柔らかいとわかる可愛らしく美しい女の子の肌を強調している。
──触りたい。
──ダメだ。
──触りたい。
──ダメだ。
ムラムラと高まっていくもどかしい性欲と、まるで己が正しいかのように主張する制欲。
おかしくなりそうだ。今までこんなに女の子の身体を身近に感じたことがないから、それを改めて意識してしまったから。あまりにも都合のいい孤独の時間だから。
僕は、僕は固唾を飲んで。意を決して右手を──
「むにゃあああ……起きてしまった……ので……エイジのところに来たぞ……エイジよ……私は帰ってきた……」
「わあああああああ!?」
「んにゃ……? なんだエイジお前、まだ起きてたのか……」
と、突然。クティラが目を擦りながら扉を開けて部屋に入ってきた。
僕は思わず悲鳴を上げて、全力で掛け布団を手に取り、己の姿を隠す。
「……やはり寝心地のいい場所はエイジの隣だと私は改めて思ったのでな……夜中に目が覚めちょうど良かったので戻ってきたのだ……一心同体が故……一心同体が故……」
ほやほやと、ぽやぽやと。微妙に聞き取りづらい寝起き丸出しの声で何かを言いながらこちらに向かってくるクティラ。
そのまま彼女はボフンっとベッドの上に倒れ込み、僕を抱き抱えるようにして、ゆっくりと目を閉じた。
すぅ、すぅと可愛らしい寝息を立てるクティラ。彼女の甘い匂いと柔らかい身体が、全身を通して感じる、感じてしまう。
(……クソ……! バカ吸血鬼……! バカ吸血鬼……! 全部のタイミングが最悪だよ……! クソ……!)
僕は溢れ出す羞恥心を誤魔化そうと、それをクティラへの怒りに変えながら、ぎゅっと目を閉じた。




