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90.ずっとこんな毎日が続けばいいのに

 アムルちゃんと別れて数分後。私とクティラちゃんはようやく、愛作家へと辿り着いた。

「ふふふ……エイジよ! 私は帰ってきた!」

「クティラちゃん……耳元で叫ぶのだけはやめてほしいな」

 玄関の扉を開けると同時に、クティラちゃんが耳元で大声で叫ぶ。

 ので、耳の奥でキーンっとした痛みを感じる。エイジもいつもこんな感じなのかな? かわいそうに。

 とりあえず私はまず靴を脱ぐ。両手が塞がっているので廊下に背を向けたまま、脱ぐだけで靴がきっちり揃うように足を動かす。

「……よっと」

 肩の上に乗るクティラちゃんに負担が掛からないように。荷物が壁に当たってぐちゃぐちゃにならないように。慎重に、とても慎重に動く。

 そのまま廊下を渡り、私たちは真っ直ぐにリビングへと向かった。

「ただいまーエイジ、サラちゃん」

 帰宅を告げながらリビングへと入ると、何故かティラノサウルスのぬいぐるみを抱えたサラちゃんが私に反応し、ハッと顔を上げた。

「おかえり……リシアお姉ちゃん」

 少し眠たげな、そして甘えるような声を出して。サラちゃんは笑顔を咲かせる。

 と同時に。肩の上に乗っていたクティラちゃんがぴょんっと飛び降り、ふよふようきながら空を移動し、サラちゃんの太ももの上に可愛らしく降りたった。

「私も帰ってきたぞ! サラ!」

「そっかークティラちゃんもかー」

 ニコニコとしながらクティラちゃんの頭を撫でるサラちゃん。まるで、ペットと飼い主のよう。

 私はそんな二人を見ながら笑みを溢し、ゆっくりと荷物をその場に置いた。

 そして辺りをキョロキョロと見回した。

 いない。エイジがいない。エイジにも会いたいのに、帰宅を告げたいのに、彼の姿は見当たらない。

「ねえサラちゃん……」

 私はサラちゃんの方を見て、エイジの所在を聞こうとする。

 すると彼女は私が質問するよりも早く、口を開いた。

「お兄ちゃんなら今お風呂だよ?」

「ぴぇ……う、うんっ。ありがとうサラちゃん」

 どうしてわかったのだろう。私の質問を察せられたのだろう。ほんの少し驚いて、つい変な悲鳴をあげてしまった。

 そんな私を見て面白かったのか、サラちゃんはニヤニヤと笑みを浮かべている。

(うぅ……恥ずかしい……)

 とりあえず私は、恥ずかしさを誤魔化すように背伸びをして、ぷはぁと一息つく。

 それから床に置いた荷物を再び手に取り、大きなテーブルの元へと向かう。

 その上に荷物を置いて、もう一度一息ついてから、私はクティラちゃんに話しかけた。

「クティラちゃん……とりあえずお菓子、しまおうか」

「む! そういえば買ったな色々と! 今行くぞリシアお姉ちゃん!」

 私の言葉を聞いたクティラちゃんは、一度全身をビクッとさせると、目を輝かせながら勢いよくこちらに振り向いた。

 勢いそのままにサラちゃんの手を弾き、空を浮いてこちらまでやってくる。

 ついでに、サラちゃんも一緒にこちらにやってきた。

「何買ったの? クティラちゃん」

「色々だッ!」

「へぇ……どれどれ」

 ガサゴソと、レジ袋の中身を漁り始めるクティラちゃんとサラちゃん。

 クティラちゃんはレジ袋の中にまで入り、ポイポイっと自分の選んだお菓子を机の上向けて放り投げている。

 一方サラちゃんは一つ一つ丁寧に取り、どんなお菓子かを確認してから机の上へと置いている。

「……じー」

 と。サラちゃんが突然「じー」とわざわざ声に出しながら、私をじっと見つめてきた。

「リシアお姉ちゃん……流石に買いすぎじゃない?」

 持っていたお菓子をくるくると片手で回しながら、呆れるように言うサラちゃん。

 私はそんな彼女の雰囲気に気圧され、思わず俯いてしまう。

「……ごめんなさい」

 そして、自然と出た言葉で彼女に心の底から謝罪した。

 確かに調子に乗りすぎたし、買いすぎたとも思う。しかも自分のお金じゃないのに、クティラちゃんが欲しがるものをポンポン買い物カゴに入れていたのはどう考えても私の失態だ。

「別にいいけど……お父さんとお母さんのお金だしっ。金持ちだから自由に使えって言われてるし」

 と、サラちゃんはお菓子の箱を開けながら、中身を食べながら軽い調子で言う。

 私はそれを聞いて、本当はダメなんだろうけど思わず安堵してしまう。でもしっかりと反省もする。一度調子に乗ると乗りすぎてしまうのが自分のダメなところだとわかっているのに、それをしてしまったのだから。

(ありがとうエイジとサラちゃんのご両親……お金持ちで)

 しばらく会っていない二人に向け、私は手を合わせながらお礼を言った。

 ついでに、いつか働き始めたらちゃんとお返しします。と一人で約束をした。

「……お、クティラとリシア。帰ってたのか」

 と、突然後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 私は瞬時に振り返る。そこに居たのは、お風呂上がりの銀髪赤眼美少女。つまり、女の子状態のエイジ。

「ただいま……! エイジ……!」

 私は思わず拳をグッと握りしめながら、彼に帰宅を告げた。

「おう」

 するとエイジは軽く頷きながら、水滴の付いた綺麗な銀髪を靡かせながら、こちらにやってきた。

「何だこれ……お菓子?」

 少し首を傾げながらエイジが疑問を口に出す。

 すると、彼の横でバリバリと音を鳴らしながらお菓子を食べていたサラちゃんが、彼の肩をちょんちょんっと突いた。

「なんだよ」

 振り返すエイジ。そんな彼に向けサラちゃんは何も言わずに、ビシッと空いている人差し指で私を差してきた。

 ゴクン、と口内のお菓子を飲み込むサラちゃん。それからゆっくりと口を開き──

「リシアお姉ちゃんが買ってきたんだよ」

 大量のお菓子を持って帰ってきた犯人を、彼女は可愛らしく告げ口した。

 私は思わず全身をビクッとさせてしまう。それと同時に、エイジがこちらに視線を向ける。

「別にいいけど……買いすぎじゃね?」

「……ごめんなさい」

 兄弟二人に同じことを言われた。ので、また罪悪感が私に押し寄せる。

 私が百悪いだけに、余計に。

「ふふふ……!」

「ん? クティラちゃん、やけに楽しそうだね」

 と、ドヤ顔をするクティラちゃんをサラちゃんが撫でる。

 するとクティラちゃんは腕を組みながら、レジ袋の中から出てきた。そして私、エイジ、サラちゃんの順にそれぞれの顔を見る。

 満足気に笑みを浮かべ、クティラちゃんは口を開く。

「くだらない会話、どうでもいい会話、されど楽しい会話。私はお前たちとそんなくだらない日常を過ごすのが好きだぞ……エイジ、リシアお姉ちゃん、サラ」

 と言いながら、クティラちゃんは近くにあったお菓子を一つ広い、それを口に含む。

 そして──

「ずっと、こんな毎日が続けばいいな」

 と、どこか遠い目をしながら言った。

「え? クティラちゃん何で急にフラグ立ててるの? 死ぬの?」

 サラちゃんが首を傾げながらそう問いかける。確かに私も少し、そう思ったけど。

「言いたかっただけだ。とりあえずエモい感じになるだろ?」

「ふーん……クサイよ?」

「んなぁ!?」

 クティラちゃんとサラちゃんのしょうもないやり取り。それを見て私は思わず静かに小さく吹き出してしまった。

 一方、エイジは呆れ気味にため息をつきながらそれを見ていた。

 そんなエイジとクティラちゃんとサラちゃんを見て、私もクティラちゃんと同じことを思った。

 ずっとこんな毎日が続いたらいいのにな、と──

(……やば。これ、私も死亡フラグ立てちゃった感じかな……?)

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