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84.ドリンクバー係みたいになる人いるよね

「あ、無くなっちゃった……。飲み物取りに行くけど、リシアちゃんとクティラちゃんどうする? 私取ってくるよ?」

「あ……じゃあ、メロンソーダお願いします」

「私は右から三番目上から二番目の飲み物と、左から四番目下から一番目のを混ぜたものを所望する!」

「え? えっと……えぇ……っと……うんわかった!」

 空になったコップを片手に、アムルちゃんは立ち上がり、ドリンクバーの元へと向かう。

「アーちゃんは素直でいい子だな」

「そだね」

 偶然出会った私たちは買い物を終えた後、三人でファミレスに来ていた。

 私とアムルちゃんが頼んだものは軽いデザートとドリンクバーのみ。クティラちゃんはパスタも頼んでいたけど。

「うむ……これも中々だが、リシアお姉ちゃんの作ったカルボナーラの方が美味いな」

「嬉しいけど……お店であんまりそう言うこと言わない方がいいよ、クティラちゃん」

「そうか……そうだな。お店の人すまない」

 私は何となくクティラちゃんの頭を撫でながら、天井を見上げる。

 そしてチョコケーキを一口食べてから、キョロキョロと何となく辺りを見回した。

(私、もしかしたら学校の友達とファミレスに来たの初めてかも)

 お父さんとお母さんとは何回か行ってるし、エイジとも何回も来たけど、それ以外の人とは本当に初めてかもしれない。記憶にないし。

 何となく落ち着かない。周りは制服を着た学生だらけで、アムルちゃんも制服を着ているのに、私とクティラちゃんだけ私服だから。

 この時間、学生が多いお店なのかな。色々な学校の生徒が沢山集まっていて、制服が定まっていない変な学校みたいになっている。

(そういえば……)

 ふと、私はクティラちゃんに抱いていた疑問を思い出し、彼女の頭を撫でるを止め、話かけた。

「ねえねえクティラちゃん」

「ズビ?」

 パスタを口に含みながら私を見て、あざとく軽く首を傾げるクティラちゃん。

 撫でたくなる衝動を抑え、私は彼女に問う。

「何で……大きくなったっていうか、元に戻っているの? クティラちゃんって今エイジとえっと……」

「完全一心同体状態、か?」

 あんまり興味がなさそうに言うクティラちゃん。それに怖けず遠慮せず、私は話を続ける。

「そうそう、その完全一心同体ってやつなんでしょ? その状態の時ってクティラちゃん、ミニクティラちゃんになってるんだよね?」

「うむ……そうだが?」

「じゃ……じゃあその、何で今大きくなっているの? エイジが言ってたんだけど、完全一心同体って解除されるのに数日掛かるんでしょ?」

 エイジとクティラちゃんは今、完全一心同体のはず。エイジは女の子に、クティラちゃんはミニクティラちゃんになっていたし、間違いない。

 そして、その状態を任意に解除する方法はわからないとエイジは言っていた。それ故とても困るとも言っていた。

 けれどクティラちゃんは数分前、アムルちゃんと会うために明確に自らの意思で姿を変えた。ミニクティラちゃんから、クティラちゃんに。

 もしかしてエイジが知らないだけで、クティラちゃんは知っているんじゃないかと私は疑っている。自由自在に一心同体になれたり解除できるなら、エイジもきっと喜ぶはず。だから、それを知ってエイジに教えてあげたい。

「クティラちゃんってもしかして……一心同体状態を自由に解除できたりするの? エイジに隠しているだけで」

 私は、教えて教えてと念じながらクティラちゃんをじっと見つめる。

 じっと。じっと。じっと。じっと。じっと。じっと。じっと。じっと。じっと──

「否……わからない、と言うよりは無理だ。ラルカほど魔法に精通しているならばワンチャンあるかもだが、私程度ではとても……。あの契約魔法は複雑すぎて理論と理屈がよくわからん」

「え? そうなの?」

 少し不満げな顔をしながら、クティラちゃんはパスタの最後の一本を口に含むと、それを丁寧に噛みながら私の方へ体と顔を向けた。

「うむ……今、私がミニクティラじゃないのは、変身魔法を使って無理やり普段の私の姿へと変えたからだ。かなりキツいぞ……変身中は腹に溜まっている便をずっと我慢している時と似た感覚を感じさせられるからな……」

「うえぇ……キツそうだね、大丈夫なの?」

「無問題だ、割と耐えられる。あと一時間は余裕だろう」

「ふーん……あ、ねえクティラちゃん」

 一旦話を終えようとしたが、また疑問が浮かんだので私は彼女に質問をする。

「さっき契約魔法はわけわかんないって言ってたけど……クティラちゃん、平気で使えてるよね? 理論と理屈がわけわかんないなら、そもそも使えないんじゃ?」

「む? それはだなリシアお姉ちゃん。これと同じだ」

 と、クティラちゃんはひょいっとこちらに身体を寄越してきた。

 彼女の甘い香りと、柔らかい身体が私を包む。

 するとクティラちゃんは何故か、私のポケットの中を漁り──

「……スマホ?」

 何故か私のスマホを取り出して、それを見せつけながらドヤ顔をしてきた。

「リシアお姉ちゃんは当然、これを使いこなせているな?」

「うん……まあ、普通に使えていると思うよ?」

「だがどう言う技術でこれが作られているかはわからないだろう? 要するに、私の使う魔法とは道具なのだ。道具の使い方と目的はわかっていても、なぜそれを使ったらその現象が起こるのか、までは理解できていないというわけだ」

「うーん……なんとなくわかったかも?」

 とりあえず、クティラちゃんは契約魔法というものを自在に扱えるわけではないらしい。

 じゃあ、エイジは自由自在に男の子になったり女の子になったり出来ないわけだ。少し残念。

「お待たせー、なんの話してたの二人とも?」

 と、笑顔で両手にコップを持ったアムルちゃんが帰ってきた。

 彼女は実に器用に動き、コップに入った液体を一切揺らさずに席に座り、私たちに差し出してきた。

 私に渡されたコップにはメロンソーダ。クティラちゃんに渡されたコップには、茶色と黒と黄色がぐちゃぐちゃに混じった謎の飲み物が入っている。

 クティラちゃんはそれを見ても一切躊躇せずに、コップを勢いよく手に取り、中身を一気に流し込んだ。

 と、同時に。彼女の顔がどんどん曇り始めた。目を細めながら不快そうに、叩きつけるようにクティラちゃんはコップを机の上へ置く。

「……マズイ、ハズレだ。何を混ぜたんだアーちゃん」

「エナジードリンクと烏龍茶だよ。あとアーちゃん言うなし」

「二度と作らないでくれ、こんなもの」

(クティラちゃん……自分で指示してたのに)

 と、何故かクティラちゃんは私に甘えるように、全身を預けながら倒れ込んでくる。

 私はそんな彼女をなんとなく撫でる。撫でり撫でりと撫でる。

 さて、アムルちゃんも帰ってきたし。彼女とはどんな話をしようかな。

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