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82.買い物をしよう!

 誰も居ない教室。そこにたった一人で、机の上に跨る少女がいた。

 頬を紅潮させ、はぁはぁと小さく息を吐き、両足をモゾモゾとさせている。

 机の角に手を置き、少女はゆっくりと腰を動かし始めた。

 何かを発散するかのように、秘めた気持ちをぶつけるかのように、必死に腰を動かす少女。

 くちゅくちゅと、小さな水音が静かな教室に響き始める。

 荒い息遣い。それを隠すかのように少女は口に手を当てる。

 されど漏れる吐息。溢れる吐息。止まらない吐息。

 激しく淫らに勢いよく、少女は全身をビクつかせ、悶える。

 大きく息を吐いて、全身の力が抜けたかのように、全身が溶けてしまったかのように、ゆったりとゆっくりと少女は机の上に倒れる。

 少女はおもむろにスカートの中に手を突っ込み、モゾモゾと何かを漁る。

 やがて取り出した手には、指には、粘っとした液体が付いていた。

 それを見て満足気に微笑む少女。自らの指を口に咥え、舌をチロチロと動かし、粘ついた液体を飲み込む。

「はぁ……こんなに興奮するのは初めて……だってまるで彼……童貞の初々しさと、処女の儚さを併せ持っているかのように見えるんだもん……」

 少女は手を机に置き、ゆっくりと全身を持ち上げた。

 そしてまた、少女は先程同様に──

「咲ー?」

 と、同時に教室の扉が開き、少女の名を呼ぶ友人が中に入ってきた。

 少女はすぐに行為を止め、瞬時に机の上に座り、友人を見て微笑む。

「アム……遅かったじゃない」

「だって部活だったもん……それに咲だって、放課後も委員会があるって言ってたじゃん。だから私、余裕もって教室に帰ってきたんだけど?」

「委員会なんて三分くらいで終わったよ? だからずっと待ってたんだよ? アムのこと」

「それはごめんだけど……まあいいでしょ? ほら、帰ろっ」

 微笑みながら少女に向け手を差し出す友人。少女はその手を取る事はなく、ぴょんっと机の上から軽く飛び降り、自分の荷物をもって友人の隣に並んだ。

「ねえ咲……ずっと教室で待ってたの? 何してた? スマホのゲーム?」

「んー……? そうね……強いて言うなら、ストレス発散?」

「あは……何それ」




「リシアお姉ちゃんリシアお姉ちゃん、これ買ってくれ」

「んー? いいよ」

「じゃあこれも買ってくれ、占いグミ」

「いいよー」

 放課後、正確な時刻は不明な今この時。私はクティラちゃんと二人でお買い物に来ていた。

 晩御飯の買い出しのためだ。本当はエイジがクティラちゃんと行く予定だったんだけど、私が無理を言って代わってもらった。家に泊まらせてもらうんだから、これくらいはしないとね。

 ちなみに出費は愛作家から。好きに使っていいとサラちゃんに言われているので、遠慮なく使わせてもらう。

「それにしても……珍しいね。クティラちゃんがエイジから離れるなんて」

 肩の上に乗る小さな彼女を見ながら、私は疑問を口にする。

 私の見てきたクティラちゃんは基本、一心同体だからという理由でエイジに付きっきりだった。お手洗いまで一緒に行く始末。そんなクティラちゃんがエイジから離れて私と二人っきりでお出かけなんて、不思議な気分。

「うむ……私も本当ならばエイジと一緒に居たいのだがな、一心同体が故に。けれど今日はリシアお姉ちゃんと一緒に居たい気持ちが勝ったのだ」

「え……もしかして私、媚び売られてる?」

「否、純粋にそういう気分だったと言うだけだ」

「……よしよし」

「……何で今、頭を撫でたんだ?」

 首を傾げながら不思議そうな顔をするクティラちゃんを見て、私は少し笑みをこぼしそうになる。

 一度咳払いをして、彼女の問いには答えずに、私は目当てのものを探す。

 ポケットから取り出すのはエイジメモ。今日のご飯担当はエイジらしいので、彼が料理を作るために必要なものがそれには書かれている。

 米、焼肉のタレ、胡椒、肉、ほうれん草、コーン、グリーンピース、と。大雑把に書かれている。

「エイジ何作るんだろ……」

 米はともかく、肉ってどれを買えばいいんだろうか。豚肉牛肉鶏肉、メジャーなお肉だけでも三種類もある。

 電話して聞いてみようかな。そう思い私はスマホを取り出し、エイジに電話をかける。

──出ない。

 じゃあ次はサラちゃんにかけてみよう。と、私は慣れた手つきでスマホをいじる。

 二、三度コール音が鳴ると、プツリとそれは切れて、聞き慣れた声が聞こえてきた。

『もしもし? リシアお姉ちゃん?』

「あ、サラちゃん?」

 エイジと違ってサラちゃんはすぐに電話に出てくれた。

「あのね、エイジメモのお肉何だけど……どれ買えばいいのかなって」

『あー……お兄ちゃーん! お肉何買えばいいのーってリシアお姉ちゃんが──』

「リシアお姉ちゃん、何をしているんだ?」

 と、クティラちゃんがそう言いながら私の頬を突いてきた。

「電話だよ?」

「携帯機を駆使しての通話か、魔法を使って思念伝達をすれば良いのに……」

「人間はまだそこまで進化できてないかな……」

 不満そうな顔をするクティラちゃんを撫でながら、私はサラちゃんの返事を待つ。

 全然返事が来ない。何かあったのかな。

『もしもし? あの……えっと、豚肉だって』

「はーい。ありがとね、サラちゃん」

『いえ〜。あ、そうだリシアお姉ちゃん。お兄ちゃんと二人っきりなの飽きたから早く帰ってきてね』

 それだけ言うと、サラちゃんは電話を切ってしまった。

 豚肉か、豚肉なら豚肉って書けばいいのにな。エイジったら。

「……すっごいつまんない会話だったな、リシアお姉ちゃん」

「……まあ、ただの確認だし?」

 つまんなそうに会話を聞いていたクティラちゃんが、つまんなそうにため息をついて、つまんなそうに肩の上に座る。

「あれ? もしかしてもしかして?」

 と、後ろから明るく楽しい声が聞こえてきた。

 それと同時に足音が聞こえてくる。楽しそうに嬉しそうにこちらに駆け寄る足音が。

 振り向くと、そこには──

「やっぱりリシアちゃん! 学校ぶりッ!」

 にっこり笑顔で可愛らしく、自慢のツインテールをぴょんぴょんと跳ねさせ、目をキラキラとさせているアムルちゃんが居た。

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