8.VSドゥーダイ・ドーダイ
「──というわけだ! おやおやヴァンパイア……あまりに崇高で説得力のある説明に惚れ惚れしたのかな?」
「……あ、終わったのか」
「ほらエイジ立て。あいつ待っているぞ」
僕は、読んでいた本を閉じ、それを机に置いてから背伸び。
伸び終えたらゆっくりと立ち上がり、ソファーから降りた。
「……ヴァンパイア殺す!」
「急だな!?」
僕がソファーから降りると同時に、ヴァンパイアハンターの男が襲いかかってきた。
男は数分前とは違い、小さな剣を片手に持ちながら突っ込んでくる。
動きが遅く見える。これなら余裕で避けられる。
僕は彼の動きを確認してから、余裕を持ってそれを避けた。
「く……早い……!」
昨日戦った斧男と違い、彼の動きはスローモーションを見ているかのようだ。
もしかしてアイツ、相当強かった?
「どうしよう……どしろうと!? 早すぎておいつけない……!」
情けない声で、剣をギュッと握りしめ言う男。めちゃくちゃダサい。
「よしエイジ。もう一度股間を狙え。金玉を潰せ!」
「……あんま女の子が言うんじゃないよ、金玉とか」
僕はため息をつきつつも、拳を握りしめる。
これだけ弱いなら、頭にコントローラーを刺されなくても大丈夫。僕一人で倒せる。
クティラの言う通り、金的攻撃でさっさと決着をつけよう。
「く……携帯を取り出しポパピプペ……っと」
すると、男は急にポケットからスマホを取り出し、耳元に当てた。
「集合!」
男が叫ぶ。その瞬間、どこからともなくたくさんの足音が聞こえてきた。
真っ黒な人型の何かが、徐々に男の元へと集まっていく。
「……む。気をつけろエイジ、何か企んでいるぞ」
「……ああ」
やっぱり説明中に殴っておけばよかった、と後悔。
おそらくここからがあの男、ヴァンパイアハンターの本気。
僕は固唾を飲んで、ギュッと拳を握りしめた。
「ふふふ……じゅわぁ〜ん! これが私! ドゥーダイ・ドーダイが誇る究極の軍団! トタチツテだ!」
両手を広げ、高らかに言う男。後ろで綺麗に並んでいる真っ黒な集団も、各々独自のポーズを取った。
ポーズがバラバラすぎてせっかくの決めシーンなのにかっこ良くない。ダサい。汚い。
「さあ皆の者! 私のいいとこを述! べ! よぉ!」
「カッコいい!」
「メガネ!」
「背がそこそこ高い!」
「もっともっともっと!」
「……えと」
「……お前言えよ」
「……あー……と」
「ウソ……たったの三件しかないの……?」
微妙な空気が彼らに流れる。誰も彼もが、視線を誰とも合わせないように泳がせている。
ぶつぶつと何かを呟くヴァンパイアハンター。そんな彼からなるべく自然に目を逸らそうとする真っ黒軍団。
地獄のような空気が、彼らを意気消沈させる。
「……なあ、この茶番僕たちが見る必要あったのか?」
僕は思わずクティラの方を見て呟く。するとクティラは悲しそうな顔をしながら──
「しょうもない……」
と、呟いた。その意見には僕も同意だ。
「クティラ……範囲攻撃みたいなのできないの?」
僕はクティラに問う。もうあのバカ集団は、まとめて一撃で倒してあげた方が彼らのためだ。
すると、彼女はゆっくりと僕の方を見て、ニヤリとした。
「あるぞ……! 私とお前の合体技がな……!」
「……え、何それ?」
まるで僕もそれを知っている前提でニヤつくクティラ。合体技とかやったことないし、聞いたこともないのだけれど。
「行くぞエイジ! 私たちのあの技でトドメだ!」
「ちょ……待てよ!」
クティラが僕の肩からぴょんっと降りる。すると、彼女は僕の目の前で浮いて──
「はあああああああああああ!」
と叫びながら、己の体をぐるぐると回し始めた。
やがてそれは渦を巻いた光弾へと変わる。顔だけを残して。
「撃てエイジ! 私を撃てえええ!」
クティラが叫ぶ。僕に撃てと轟き叫ぶ。
「う……撃てって……はあ?」
僕は思わず首を傾げた。撃てって、どう言うこと?
とりあえず、回転し続ける彼女にチョンと触れた。
「うりゃああああ!」
するとクティラは大声で叫びながら、真っ直ぐにものすごい勢いで飛んでいく。
「くらえ! これぞヴァンパイア弾!」
鬼気迫る表情でクティラが叫ぶ。すると彼女は紫色に光初め、ヴァンパイアハンターたちの元へ。
「うぎゃあああああ!?」
「うわああああああ!?」
「ぐわああああああ!?」
まるでボウリングのように、真っ黒軍団を弾き飛ばしていくクティラ。
そして彼女はやがて、リーダー格のヴァンパイアハンターの目の前に辿り着いた。
「これで終わりだ! ヴァンパイアハンター!」
「ぬううん!?」
クティラは、彼の股間に思いっきり突撃した。
目が飛び出そうなほどに見開き、口から大量の唾を吐き出し、涙を流す男。
何故か股間ではなく腹を押さえながら、彼は真っ白になりながら崩れ落ちた。
──死んだ。かも。
「撤退! 撤退!」
すると、無事だった真っ黒軍団がそう騒ぎ始めた。
攻撃を受けて倒れた同志たちを抱え、徐々に撤退し始める。
最後に、真っ白になったヴァンパイアハンターを抱え、彼らは全員この場から去った。
「ふははは! 私たちが勝ったぞエイジ!」
「うん……そうだな」
僕はなんとなくため息をつく。相手は確実に僕の、クティラの命を取る気で来てるのに、なんでイマイチ真面目な戦いにならないんだろう。
別に、ガチの本気でやる命の取り合いを望んでいるわけじゃない。だけどさ、もうちょっとこう、真面目にやってほしい。
「む……?」
と、クティラが疑問符の付いた呟き。
彼女が呟くと同時に、辺りが謎の光に包まれ始めた。
「え、なにこれなんだこれおいクティラ!」
「ふむ……恐らく、先程のヴァンパイアハンターが使っていた便利な結界が壊れそうになっているのだろう」
やけに冷静に言うクティラ。すると次の瞬間、僕の視界は真っ白になった。
閃光。とても眩しい光。目が痛い。
ぎゅっと目を閉じて、その後数回瞬きをしてから、僕はゆっくりと目を開く。
すると、荒れに荒れた部屋も、壁に開けられた大きな穴も、何かも元通りになっていた。
まるで、何もなかったかのように。
「お、エイジラッキーだぞ。ドロップアイテムだ」
小さい身体でちょこちょこと動くクティラ。彼女は地面に落ちている何かを拾い、片手で持ちながら高く掲げた。
彼女が手に持っているのは、あのヴァンパイアハンターが持っていた謎の機械だった。
「これを使えば急な戦闘時でも周りにバレず世間に迷惑かけず、思う存分戦闘に集中できるようになるな」
「……ふーん」
僕は小さくため息をついた。
ヴァンパイアハンターが使う機械で、僕たちを襲ってくるのはヴァンパイアハンターなんだから、僕たちがそれを持っていてもあまり意味がないんじゃないか、と思う。
けれどそれは口には出さずに、僕はソファーに座り直した。
「ヴァンパイアハンターと……男に戻る事……どっち優先するべきなんだろうな」
誰に言うでもなく、僕は一人そう呟いた