75.飢餓哀楽
「エイジくん……本当にクティラちゃんとキスをする仲だったんだね……それでもなお童貞だとは……いや……?」
目をぐるぐるとさせながら、ふらふらと全身を揺らしながら。口元に人差し指を添えながらケイが呟く。
「童貞なのは間違いない……けど……やっぱり君は不思議だ……処女の匂いもする……初めて会った時は勘違いだと思ったけど……違う……クティラちゃんが処女なのか……? というかクティラちゃんは何故小さく……いや昨日の説明通りか……あは……あははは……やばい……!」
「あーあ、完全にぶっ壊れてるぞ。どうするエイジ」
「どうするったって……!」
僕はとりあえず拳を握る。いつ襲われてもいいように足に力を込める。
どうすればいい。本当にどうすればいい。
暴力で解決するべきなのだろうか。それしかないのだろうか。それしかできないのだろうか。
ケイは、まだよくわからない所もあるけれど、悪い奴ではないと言うことはわかる。
だからなるべく傷つけたくない。彼も僕と同じ、血を吸いたい衝動に犯されているだけなんだから。
それに、一応は友達なんだし。
「はああああああ……童貞と処女が入り混じった血……どれだけ美味しいんだろう……素敵なんだろう……甘いんだろう……!」
「……ッ!」
大きく息を吐いた後、瞬時にケイは地面を蹴り、一瞬で僕の目の前に現れた。
大きく口を開けて、鋭利な牙を見せつけて、そのまま僕に襲いかかってくる。
それら一連の動きがしっかりと見えていた僕はすぐに彼の口を避け、勢いよく地面を蹴り彼から距離を取る。
次の瞬間。ケイは軽く飛び上がり、廊下の壁を思いっきり蹴り、こちらに勢いよく飛んできた。
(──速いッ!)
間一髪で彼の突進を避ける僕。だが彼の動きはそれで止まることはなく、両手両足を乱雑に動かし僕に触れよう近づこうとしてくる。
それら全てを、一つ一つしっかりと見切り、僕は彼の攻撃を全て避けた。
そして彼に距離を取ってもらうために、全力の半分ほどの力を込めて、僕は蹴りと拳を同時に突き出す。
予想通り彼は僕の攻撃を避け、僕との距離を取った。その瞬間に僕は一息つき
体勢を整える。
「エイジ! やるようになったな! もうこのクティラちゃんコントローラーは必要なさそうで安心したぞ!」
と、空気も読まずにクティラが自信ありげに、どこから取り出したのか謎のコントローラーを僕に見せつけてくる。
あれか、思い出した。初期の方で僕の頭にクティラが突き刺したコントローラーだ。リシアと戦う時にも使っていたはず。
初期の方と言っても、数日前の出来事だけど。
と言うか、そんなことは今はどうでもいい。僕はすぐに拳を握り直し、ケイを見据える。
「うむ……ラノベとか漫画だとここらで悪役が主義主張を唱え、説教バトルが始まるのだが……生憎ケイは悪ではないし、暴走状態が故会話もままならぬ。どう戦いを盛り上げたものか……なあ? エイジ」
「お前はどう言う視点で今を生きているんだよ……」
久しぶりに聞いた。クティラのラノベだったら漫画だったら論。
バカ吸血鬼の戯言は置いといて、今はケイをどうするかを考えなくては。
恐らく、このままでは埒が開かない。ケイが襲いかかってきて僕が避ける。それを、どちらかの体力が尽きるまで何度も何度も続ける羽目になる。
いっそのこと僕の血を吸わせてみたらどうだろうか。クティラがサラの血を吸う場面を何度か見たが、サラは意外と平気そうだった。
「それはやめた方がいいな。今のケイは腹べこ半パイアなのだ。度を超えた量を吸われて死ぬぞ」
「マジか……」
当たり前のように心を読み、僕の提案に待ったをかけるクティラ。今回ばかりは助かるけど。
「……はぁっ……エイジくん……クティラちゃん……吸わせてよ……血……」
「ダメだな。友人としてお前を守るためだ、我慢をしろケイ」
「……クティラちゃんのいじわる……意地悪だなぁ……あはは……そっか……友達だけど……いや……私が悪いのだけれど……あは……もうなんかいいや……」
小刻みに方を揺らしながら、ほんの少し目尻に涙を浮かべながら、弱気だが強気な声で呟くケイ。
吸血鬼としてのケイと、人間としてのケイが、彼の中でぐちゃぐちゃに混じりおかしくなっているのだろう。僕もなりかけたし、その感覚は何となく理解できる。
助けたい。何とかして助けてあげたい。苦しんでいるだろうから、その苦しみから解放してあげたい。
「なあクティラ……真面目な話、お前ならもうケイを落ち着かせる作戦とか既に考えてあるんじゃないか?」
僕は、今この状況で最も頼れるクティラを見ながら、彼女に問う。
すると彼女はドヤ顔をしながら、力強く頷いた。
「無論だ……! 実行するか? ならば時間を稼げ! エイジ!」
「……わかった。お前に任せるよ」
僕は足に力を入れ、拳をもう一度ぎゅっと握りしめ、ケイを見据える。
どれくらい稼げばいいのかとかわからないけど、とりあえず時間を稼げばクティラがきっと何とかしてくれる。そう信じて─




