表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/320

74.銀髪赤眼美少女お兄ちゃん

「何故キスを拒むかエイジ! 説明しただろうしっかりと!」

 振り向きながら、器用に後ろ歩きをしながら、クティラが僕の胸元を掴んでくる。

「学校が終わった後ならいいけどさ! 今昼休み中なんだぞ! ここで女の子になったら色々と面倒くさいだろ!」

 僕とクティラがキスをする。それ即ち、完全一心同体状態になり、僕が女の子になると言うことだ。

 学校が終わった後なら明日休めば、直るまで休めばそれでいい。最悪、放課後ならば急いで帰ればどうとでもなる。

 でも今このタイミングはダメだ。最悪のタイミングだ。ここで女の子になったら、午後の授業はどうすればいい?

 早退する、早退したことにするにしても、本人がそれを教師に告げず無断で帰るなぞ大問題すぎる行為だ。しかも女の子状態が続くのは数日。それも、いつ終わるのか正確に把握できない不安定な状態。翌日すぐ男に戻って全力謝罪、なんてことはできない。

 それ故、今ここで女の子になったら物凄く面倒くさいことになるのだ。

「だがなぁ……このまま逃げ続けるのは難しいぞ?」

 と、クティラが僕の背後を指差す。

 振り返ると、よだれを口からたくさん垂らして、瞳孔をぐるぐると渦巻き状にしたケイがゆっくりと、されど勢いよくこちらに向かってきていた。

「私はともかく……エイジ、お前の体力は持つのか?」

 首を傾げながらクティラが問う。僕は図星を突かれたかのように、返す言葉を失ってしまう。

 まだ大丈夫、まだ体力は残っている。けれどクティラの言う通り、このまま延々と逃げ続けられるほど持つとは思えない。

 最悪僕が動けなくなってもクティラに抱えて貰えば、とか想像したが、それはいくらなんでも恥ずかしすぎる。

 ダメだ。いい案が思いつかない。

 ケイの魔の手から逃れるには、彼を落ち着かせるためには、もうクティラとキスをするしか選択肢がない。のかもしれない。

「覚悟は決めたか? エイジ」

 じっと僕を見つめながらクティラが言う。

 後ろから聞こえてくる足音。クティラの吐く吐息の音。僕の定まらない呼吸。

 それらを聞きながら、僕はギュッと拳を握り、クティラの目を見て言った。

「……してくれ、僕にキスを」

「ふふふ! 無駄に時間をかけさせおって! 行くぞエイジ!」

 いつも通りドヤ顔をして、力強くも優しく、僕の両頬を両手で包むクティラ。

 じっと僕の目を見つめ、彼女は呟き始める。

「ルグルウナフ……イラクラルク……メルケハルタ……ツヌニメフル……チネホムメカ……」

 何一つ理解できない単語の羅列。それを聞くと同時に僕は、ギュッと目を閉じた。

 直後、唇に訪れるのはとても柔らかい感触。クティラの唇。

「……ッ!?」

 触れたと同時に、なぜか彼女は少しだけ唇を開いた。そこから這い出てくるのは小さな舌。

 閉じている僕の唇をそれは無理矢理開け、僕の舌に絡みついてくる。

 その瞬間、僕の目の前は真っ白になった。目を閉じたままだが、それとは似ているようで違う視界遮り方。

 開けようとしても目を開けられないいつもの感覚。全身がぐにゃぐにゃと変形していく感覚。

 数秒後。僕の両目は意思に関係なくぱっちりと開いた。

 目の前には、ミニクティラ状態となったクティラがふわふわ浮かんでいる。いつも通り、自信満々そうにドヤ顔をしている。

「成功だなエイジ! まあ? この私が? 失敗などするはずがないのだがな!」

 両手を目の前に持ってきて、いつもと違う手のひらを見て僕はため息をつく。

 なってしまった。また成ってしまった。女の子になってしまった。

 銀髪で、赤眼で、胸がそこそこ大きくて、スタイル抜群の美少女に。

(自分で自分の容姿褒めてるみたいで恥ずかしいけど……実際そうだしなぁ)

「エイジくん……!? どうやって一瞬で女の子の姿に……!?」

 直後、目の前に現れたケイが手を伸ばしながら、目を見開きながら、驚愕の声を上げながら僕に襲いかかってくる。

 見える。動ける。さっきまでと違い、今の僕は彼の動きにちゃんと反応できる。

 勢いよくやってくるケイの手を僕は軽く避け、そのまま彼の背後へと回る。

 あまり力を入れないように、僕はケイ目掛け蹴りを放った。

 それに気づいたケイは瞬時に反応し、僕の蹴りを避け距離を取ってきた。

「さて……とりあえず大人しくさせるか。会話しようにも、今のケイには何も届かないだろうからな」

 僕の肩の上にゆっくりと、呟きながら降りてくるクティラ。

 彼女を見つめながら、僕は力強く頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ