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番外編:ひなMつり

「……ふわぁ……私も行けばよかったかな……でもお兄ちゃんとリシアお姉ちゃんのデート邪魔するのはなぁ……クティラちゃんみたいな化け物メンタルじゃないと無理だよねぇ」

 日曜日の午前中。私はソファに寝転びながら、天井を見上げながら、誰に聞かせるでもなく呟いた。

 やることないなぁ。何か食べようかな。そう思いながら私は立ち上がる。

 と、ほとんど同時に。玄関のチャイムがピンポーンと鳴らされた。

(もう来たんだ……)

 私は一旦全身を伸ばしてから、リビングを出て玄関へと向かう。

 扉を開けると、そこにいたのは二人の女の子。

「やほサラちゃん! おっ邪魔しまーす! ラルカがお邪魔するよー!」

 ザ・魔女な服装のラルカが片手を元気よくあげ挨拶する。

「お姉ちゃん恥ずかしいからやめてよ……!」

 全体的に黒くてフリフリとした服──ゴスロリって言うのかな?──を着た若井先輩が恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、握った拳でラルカの脇腹を突く。

「いらっしゃい、若井先輩。ラルカ」

 数分前。私は暇すぎたのでラルカとチャットでお喋りをしていた。

 そしたら彼女も今暇だから、と。家に遊びに来ることになっていたのだ。

 それにしても来るのが早すぎると思う。遊ぶ約束をしてからまだ二分くらいしか経っていない。

 魔女だからなんかこう、移動に便利な魔法とか使えるのかな?

「サラちゃん……なんか急に押しかけてごめんね?」

 と、若井先輩が申し訳なさそうに俯きながら言う。

 私は彼女に罪悪感を感じて欲しくなくて、急いで両手を振りながら言った。

「気にしないでください! 私も今誰も家にいなくて暇だったし……」

「そう……? じゃあ遠慮なく! あ、安心してね。お姉ちゃんはちゃんと私が面倒見るから」

「あはは……どっちが妹かわかりませんね」

 玄関で軽く談笑をした後、私たちは真っ直ぐに、私の部屋へと向かった。

 私はベッドの上。ラルカはふわふわクッションの上。若井先輩はもちもちクッションの上に座る。

「さて……何しようか!?」

 ラルカがドヤ顔をしながら意気込み叫ぶ。と同時に、私と若井先輩は少しだけ首を傾げた。

 なんとなく集まっただけだから、何をしようかは特に決めていない。それ故、やることがない。

 私は懸命に考える。ゲーム? トランプ? アプリ? 何か三人で遊べるものあるかな?

「サラちゃんの部屋でも物色しようかな……」

 と、ラルカが立ち上がりながら言う。

「えー……恥ずかしいからやだ」

「やだって。お姉ちゃん……聞いてる?」

 私が不満げに漏らした声に、聞こえているのか聞こえなかったのかわからないがそれに反応はせずに、ラルカが辺りを見回す。

 徐に箪笥を開け、ガサゴソと漁り始めるラルカ。

 数秒後。彼女は水玉模様の下着を手に取り、天井に向け掲げながら呟いた。

「意外と子供っぽいんだねサラちゃん……」

「それ、昔使ってたやつだからね。なんとなく取っておいてあるだけで」

「アムル極細ビーム」

「あいたっ!?」

 と、いつの間にか立ち上がっていた若井先輩の指先から光線が放たれ、ラルカの眉間をペチっと叩いた。

「な、なんばしよ!?」

 目を見開きながら、私の下着を握りしめながら、ラルカが若井先輩を見て叫ぶ。

「女の子の下着を漁るなんてサイテーだからね、お姉ちゃん」

 呆れたように、ため息をつきながら言う若井先輩。

 ため息をつき終えたと同時に、申し訳なさそうな顔をしながら、彼女はこちらに振り向く。

「ごめんねサラちゃん……バカな姉で」

 頭を軽く下げながら謝る若井先輩。私は彼女の謝罪に、苦笑いで返した。

「うぅ……アーちゃんの意地悪」

 と、唇を少し尖らせながら、目尻に少し涙を浮かべながら、私の下着をコネコネいじくり回しながら、ラルカが不満げに呟く。

「いいから早く下着を戻して。バカお姉ちゃん」

「はーい……」

 ブーブーと不満げにぶつぶつ呟きながら、ラルカが下着を箪笥の中へと戻す。

 戻し終えると、ラルカは再びキョロキョロと辺りを見回す。

「あ! サラちゃんサラちゃん! これもしかしてアルバム!? 見たいなー私! サラちゃんのアルバム見たいなー!」

 ビシッと、本棚に置かれたアルバムを指差し叫ぶラルカ。

 乞うように目を輝かせながら、両手の指を絡ませてギュッと祈るように握りながら、お願いオーラを醸し出しながらラルカが私に媚びてくる。

 別にそこまで媚びなくても、普通に見せてあげてもいいんだけどなぁ。と私は思いながら、ベッドから降りてアルバムを手に取り、ラルカに渡した。

「はい、いいよ。見ても」

「ッッッシャッ! アーちゃん見よ見よ! ほらサラちゃんも!」

「そんな慌てなくても……もぅ」

 ぴょんっとベッドの上に飛び乗り、私たちに向けおいでおいでと手を上下に動かすラルカ。

 若井先輩はため息をつきながら、私は少し苦笑いしながら、ラルカの元へと向かう。

「か……かわーっ! ミニサラちゃん! ロリサラちゃん! チビサラちゃんばっかり!」

 目を見開き、瞳をキラキラと輝かせながら叫ぶラルカ。

 彼女の指差す写真を見てみる。何の変哲もない、普通の写真だ。そんなに興奮することかな?

「ほんとだ……サラちゃんの面影残ってるね」

「アーちゃんは小さい頃、この倍十倍百倍千倍万倍億倍兆倍京倍は可愛かったけどねー!」

「や、やめれー! 撫でるのやめれー!」

 ぐしゃぐしゃと、整えられた髪型をぐちゃぐちゃにしながら若井先輩を撫でるラルカ。

 自慢のツインテールをぴょんぴょんと揺らしながら、若井先輩は勢いよく首を振る。かわいい。

「て言うかお姉ちゃん失礼じゃない!? サラちゃんの写真見ながら私の方がかわいいーって言うの!」

「失礼じゃないよ!? アーちゃんと少しでも比べられる時点でサラちゃんめっっっっちゃくっっっっちゃ可愛いんだから! ねーサラちゃん!」

「うぎゃぁ!?」

 ものすごく強い力でラルカが頭を撫でてくるので、つい悲鳴を上げてしまった。

 やばい。髪の毛全部抜けるかと思った。

「もぅ……お姉ちゃんバカじゃないの?」

 と、照れくさそうに俯きながら若井先輩が呟く。

 この人。なんだかんだ言ってお姉ちゃんのこと、ラルカのこと大好きだよね。

「……ん? あれ? これもしかして雛人形?」

 と、ラルカが私を撫でながら、ビシっと一枚の写真を差す。

「わ、懐かしい……あはは、私ちっちゃい」

 ラルカの指差した写真は、小さな雛壇と幼い頃のお兄ちゃんと私が写っている写真。

 懐かしいな。全然覚えてないけど、懐かしい。

 そういえばこの雛壇どこにあるんだろう。て言うか今も家にあるのかな? 小さいし、意外と捨てちゃってたりして。

「へぇ……なんか弱そう」

「よ、弱そう……?」

 写真を見ながら若井先輩が変なことを呟くので、私はつい困惑の声を上げてしまった。

 雛壇、ていうか雛人形に強そうとか弱そうとかある?

「サラちゃん、何時間で倒した? 私はねーなんと五時間!」

「……倒した?」

 ラルカのした質問の意味がわからず、私は思わず首を傾げてしまう。何? 雛人形って倒すものだっけ?

「えっと……お、今日たまたま三月三日だね!」

 と、ラルカがカレンダーを見ながら楽しげに言う。

 私の頭から手を離して、バッとその場で立ち上がって、拳を握った。

「よし! やってみるか久しぶりに! ツリマ……ナヒ……ヤシバ……ニンゴ……ボボンリ……リカア……モモ……ツセク……!」

 次の瞬間、ラルカは目を瞑り、両手を広げ、何か変な言葉をぶつぶつと呟き始めた。

 なんか、すっごい嫌な予感がする。

「はぁ!? ちょ待ってお姉ちゃん!? 正気!?」

 と、若井先輩が立ち上がりラルカに掴み掛かろうとする。

 しかし、それとほぼ同時にラルカから衝撃波が放たれ、若井先輩は飛ばされてしまった。

「若井先輩!? だ、大丈夫ですか!?」

「ッッッ……いててて……もうッ! バカお姉ちゃん! サラちゃん私から離れないでよ! ちょっと抱きついてて!」

「え!? わッ……わ!?」

 心配して駆け寄った私の手を取り、若井先輩がぎゅっと抱きついてくる。

 柔らかい。温かい。なんか、良い匂いがする。

(じゃなくて……!)

 私はこれ以上変なことを考えないよう首をブンブンと振り、若井先輩をじっと見つめる。

「若井先輩……何が始まるんです?」

「……大惨事大戦」

 若井先輩が呟いたその瞬間、ラルカから眩い光が放たれる。

「わっ!?」

 眩しくて、目が痛んで、私は思わず目を瞑ってしまう。

 手で光を直視しないよう目を覆いながら、私はほんの少し目を開く。

 光が収まった。と同時に私は手を離し、目をしっかりと開く。

「な、なにこれぇ!?」

 そこには、目の前には、数秒前までは居なかった謎のバケモノ。

 バケモノっていうか、凄い大きい雛人形。雛人形? 雛人形なのかな? 似ているようで違う。

「……バカお姉ちゃん」

 と、ラルカを罵倒する若井先輩。その後、何か奇妙な言葉をぶつぶつと呟き始めた。

 次の瞬間、若井先輩の指に嵌められている指輪から黒い光が放出され、彼女を包み始める。

 数秒後。彼女を包んだ黒い光が弾き飛ぶ。そして現れたのは、魔法少女姿の先輩。

「アリメメルタラホミシロカナカ……!」

 若井先輩が謎の呪文を呟く。すると、彼女の目の前に可愛らしいステッキが現れた。

 先輩はそれをバシッと手に取り、くるくると回し、バケモノに向け構える。

 と、同時に。バケモノの目がギョロリと動き、私たちを睨みつけてきた。

「ひっ……!」

 あまりの怖さと奇妙さに、私は思わず情けない悲鳴をあげてしまう。

 それと同時に、若井先輩がぎゅっと私を抱く力を強めてくれた。優しい、大好き。

「あっはは! アーちゃんやる気じゃん!」

 と、ラルカが笑いながらぴょんっと飛び上がり、バケモノを飛び越え、私たちの元へと降り立つ。

 そんなラルカを若井先輩はキッと睨みつけ、小さくため息をついた。

「超防護魔法ゼンダイジョーブ……!」

 ニヤリと笑みを浮かべながら、ラルカが勢いよく指を鳴らす。

 パチンっと、心地の良い音が部屋に鳴り響く。

 けれど、特に何か不思議なことが起きるわけでは無かった。

「よし! これでこの部屋のものは傷つかない! 思う存分戦おう! アーちゃん! サラちゃん!」

「出しちゃったものは仕方がないから……仕方なくだからね、私が戦うの」

「え? 私も戦うの!? 私今普通の人間なんだけど……」

 魔女と魔法少女はいいとして、私は普段戦えない人間なのに、戦力として数えられていることに違和感を感じてしまった。

 無理無理。あんな強そうなやつと戦えないよ、私。

「大丈夫……サラちゃんは私に抱きついていて。絶対守ってあげるから」

 私をより引き寄せ、ぎゅっと抱きつかせてくれる若井先輩。

「若井先輩……好き」

 そんなイケメンムーブに、ちょっと心がキュンっとしてしまった。

「灯りをつけましょう……この絶望と失望に塗れた深き暗き世界に」

「なんか変なこと言い始めたけど……」

 大きな雛人形のバケモノが、口を動かさずに言う。

 と、同時に。ラルカと若井先輩が構えた。

「アムル……ウルトラビーム!」

 若井先輩が叫ぶ。その瞬間、彼女の持つステッキの先端から大きなビームが放たれた。

 バケモノはそれに怯えることなく、構えることなく。平然とそれを受け止める。

 全く効いていない様子。先輩もそう感じたのか、彼女は大きく舌打ちをした。

「ラルカ! 究極無敵ビームゥ!」

 くるりとその場で一回転し、ラルカがパチンっと指を鳴らす。

 と同時に、彼女の背後にたくさんの魔法陣が現れ、それらの中心から大きなビームが放たれた。

 それがバケモノを狙い撃つ。一つ残さず直撃する。

 バケモノは少し揺らいだが、それでもなお平然そうに表情ひとつ変えずに、私たちを睨みつける。

「あれま……なんか、効いてない?」

 自信満々な表情から一転。少し困惑した顔をしながら、ラルカが首を傾げる。

 そんな彼女の様子を見て、若井先輩がため息をついた。

「女の子の成長を祝いましょう……さあ、成長してご覧なさい!」

 と、雛人形のバケモノが叫びながら大きく手を振ってきた。

「きゃあ!?」

 こちらに向かってくる手が怖くて、私はつい目を閉じてしまう。

 何かを強く叩く音が鳴り響く。けれど痛みは感じない。私には、攻撃が当たっていないみたい。

 恐る恐る目を開けると、若井先輩が片足を大きく上げ、バケモノの手をそれで受け止めていた。

 ちょっとパンチラしてる。スカートだから。

──じゃなくて!

「わ、若井先輩! 大丈夫なんですか!?」

「大丈夫大丈夫……小さい頃はともかく、今の私にとってはこいつ、ただ硬いだけのムカつくバカ雛人形だから」

 と、笑いながら言う若井先輩。

「あ、ありがとうございます……若井先輩」

 守ってくれたお礼を言いながら、私は先輩にぎゅっと抱きついた。

「よーしアーちゃん! 私たちの合体技で一気に決めちゃおッ!」

 と、ラルカが何故か目をハートにしながら、好き好き大好きオーラを醸し出しながら、ぎゅっと若井先輩の手を握る。

 握られた瞬間、若井先輩は大きく、わざとらしく、ちゃんとラルカに聞こえるようにため息をついた。

「お姉ちゃん……これやりたかっただけでしょ」

「わ、バレてる……流石アーちゃん! 姉妹が故に相思相愛一心同体意気投合!」

 ラルカと若井先輩がお互いの手を握り、キッとバケモノを睨みつける。

 私も、先輩をより強く抱きしめながら。何もできることはないけれど、バケモノを睨みつける。

「お花をあげましょう……己の本質を知り日々学習し、進化を続ける美しくも儚い少女に」

 両手を広げ、表情は変わらずとも笑みを浮かべた雰囲気を出し、語る雛人形のバケモノ。

「さっきからそれなんなん……?」

 私は疑問をつい、呟いてしまった。

「行くよアーちゃん!」

「うぅ……やだ……けど……!」

 ラルカと若井先輩がぶつぶつと呪文を呟き始める。と、彼女たちの足元から炎のようなオーラが湧き出て、彼女たちを包み始めた。

 先輩に抱きついていた私にもそれが纏わりつく。なんか、力が湧いてくる気がする。

「二人の箒とステッキが真っ赤に燃える!!!」

 いつのまにか手に持っていた箒をくるくると回しながら、ラルカか叫ぶ。

「幸せ掴めと轟き叫ぶ!!!」

「恥ずかしい……!」

 ラルカがノリノリで熱く叫ぶ中、若井先輩は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら少し俯いていた。

「アムルラルカ! ラブラブ……!」

 ドヤ顔をしながら、自信満々に叫ぶラルカ。

 多分二人が叫ぶ系の必殺技なのかな。途中で止めたし。

 私はチラッと、若井先輩を一瞥する。彼女は変わらず恥ずかしそうに、俯いていた。

「……ぅ」

「ラブラブ〜!?」

「……」

「ラ! ブ! ラ! ブ!?」

「……言わなきゃダメ?」

「ダメ!」

「……ラブラブ」

「ダメだよそれじゃ! 愛が足りないよその声色には! 最初から行くよ!? アムル!」

(テンションの差が違いすぎる……!)

 箒でバケモノをビシッと指差しながら叫ぶラルカ。

 すると、先輩は私の方を向いて、ちょいちょいと肩を突いてきた。

「ごめんサラちゃん……代わりに言って」

「……え!? 私!?」

「流石に恥ずい……」

「アムル! アムル! アムル!」

「ほら……その……頑張れ……! サラちゃん……!」

「うぇえぇ……!」

 私は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にする若井先輩と、アムルアムルと先輩の名を叫び続けるラルカを交互に見る。

 私がするしかないのか? 私がやって何か意味があるのか? ていうか私が言って効果あるのか?

 色々と疑問点が浮かび上がるけれど、若井先輩は羞恥心が限界に達したのかどんどん顔が赤くなっていくし、それに気づかずラルカはアムルアムルと叫び続けるし。雛人形は律儀に待っていてくれてるし。

 私がやらないと終わらない、進まない。そんな気がして、私は意を決して叫んだ。

「ラ、ラルカ!」

「サラちゃんが言うの!? まあ別にいいや……! 行くよアーちゃん! サラちゃん!」

 箒を投げ捨て、人差し指を伸ばし、腕をビシッと天井に向け伸ばすラルカ。

 私も先輩に抱きつきながら、真っ直ぐに天井向けて手を伸ばす。

「アムル!!!」

「ラルカ……!」

「ラブラブ!!!」

「ラ、ラブラブ!」

「究極無敵ウルトラァァァアアア!!!」

「きゅ!? きゅ、究極! 無敵! ウ、ウルトラァァァアアア!」

「ビィィィィィイイイイイイムァァァアアアッッッッ!!!」

「ビ、ビームッ!」

 私とラルカが叫んだ瞬間、ラルカと先輩が同時に指を鳴らす。

 と同時に。私たちの目の前に見たことのないほど大きな魔法陣が現れて、グルグル回り始め──

 次の瞬間、魔法陣の中心からびっくりするほど大きなとんでもないビームが放たれた。

 それは、真っ直ぐに雛人形のバケモノへと向かい──

 バケモノを勢いよく穿った。

「認めましょう……あなた達の成長と繁栄と未来を」

 最後にまた変なことを呟きながら、雛人形は粒子状に溶けて消えていった。

「……勝ったッ!」

 いつのまにか手に持っていた箒をくるくると回し、振り向きながら勢いよく地面に突き立てるラルカ。

 すっごいカッコつけてる。

「……ありがとサラちゃん」

 と、未だ顔を真っ赤にしたままの先輩が、私の手を両手でぎゅっと握りお礼を言う。

 私はそんな彼女をじっと見て、可愛いなと思いながら笑みを浮かべ、返事をした。

「いえ……これくらい。いつもお世話になってますし」

 恥ずかしくて途中で死にそうになったけどね。



「ただいまだー! 帰ったぞサラー!」

「ただいまーサラちゃん」

「……ただいま」

 リシアとクティラが帰りを告げる。僕も彼女達に続いて帰りを告げる。

 一度軽くあくびをして、僕は靴を脱ぎ始めた。

 クティラとリシアの買い物袋を持ちながら、僕はそれを傷つけないよう慎重に運ぶ。

 そのまま僕たちは真っ直ぐに、リビングへと向かった。

「あ……お帰りお兄ちゃん、リシアお姉ちゃん、クティラちゃん」

 と、何やらくたびれた様子で、ソファーに座っているサラが僕たちを見て言った。

「おークティラちゃんリシアちゃん! それにエイジくん! お邪魔してまーす!」

 その横には何故か、ラルカが座っていた。

「お邪魔してます……」

 どうしてかアムルも居る。サラが呼んだのだろうか? それともラルカが押しかけてきてそれに巻き込まれた?

「聞いてよお兄ちゃん! 大変だったんだから! ラルカがね、雛人形のバケモノ呼び出してね、それと戦ったんだよ? それでラブラブビームを放ったの」

「……は?」

 言ってること、全然わからなくて僕は思わず首を傾げる。

 雛人形のバケモノってなんだ? それと戦った? どこで? ラブラブビームに至っては想像すらつかない。

 ていうかまたラルカか。コイツが居ると、クティラ以上に厄介ごとが増える気がする。

 けど、ラッキーではあったかも。リシアとクティラと出かけていたおかげでそんな面倒事に巻き込まれずに済んだみたいだし。

「そっか、大変だったな」

 終わったことにはそんな興味はないので、僕はとりあえずテキトーに返事をした。もう解決してるみたいだし。

「はぁ? 何その返事……もうちょっと真面目に聞いてよね」

 すると、サラは少し頬を膨らませながら不満げに言った。

 面倒だし、これ以上は聞かなくていいや。

「は……? なんで私がいない間に面白そうなことが起きているんだ? なんでメインキャラの私たちがそれに関わっていないんだ? 番外編だからか? ヴァンパイアは蚊帳の外、略してヴァン外編なのか?」

「お前、この前も似たようなこと言ってなかった……?」

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