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70.お昼休み

「ふわぁ……やっと、ようやく、ついに昼休みか……待ちくたびれたぞ」

 僕の膝の上に座りながら、あくびをしながらクティラが呟く。

「……頼むから降りてくれないか?」

「何故だ? 家ではいつもこうだろう?」

「ここ学校だろ? 学校なんだよ。見てくれよ周りをさ」

 僕は天井を見上げながらため息をつく。クラス中の視線がクティラと僕に集まっているのだ。ため息もつきたくなる。

 登校する時は忘れていたが、クティラのやらかしでこのクラスでは僕と彼女は恋人、どころか夫婦という設定になっているのだ。その上で、露骨にイチャついているように見えるこの状況。注目を浴びないわけがない。

「みんなエイジ見てるね……」

 と、隣に座るリシアが呟く。改めて言われると、余計意識してしまって恥ずかしくなってくる。

 僕は辛抱たまらず、クティラの脇腹部分をガシッと掴み、強制的に彼女を膝の上から下ろした。

「……むう。何ゆえダメなのだ……」

「学校では椅子以外に座ったら死刑っていうルールがあるんだよ」

「マジか!?」

「あー……マジマジ」

 適当についた嘘をあっさりと信じるクティラ。ので、その設定のまま僕は進めることにした。

 まあすぐ後ろに机の上に座っている生徒がいるけど。彼に気づかなければクティラも僕の嘘に気づかないだろう。

 とりあえず昼ごはんを食べようと思い、僕はカバンの中を漁る。

 僕とクティラ、二人分の弁当箱を取り出し、机の上へと置く。クティラの分が僕のカバンに入っていたのは彼女がカバンを持っていないが故。そのため、僕が持たされた。

「これを食べるためだけに学校に来ていると言っても過言ではないな!」

「過言だよ」

 目を輝かせながら、嬉しそうに弁当箱を手に取り、蓋を開けるクティラ。

 中身は唐揚げとか卵焼きとか、家にあった冷凍食品を適当に詰め込んだよくある弁当だ。

 と、その時だった。教室のドアが大きな音を立てながら開かれた。

 ピシャッと鳴る大きな音に、クラスメイトたちの視線が寄せられる。無論、僕たちのも。

「クティラちゃーん! お兄ちゃーん! 安藤先輩ー! 来ちゃった!」

 元気よく弁当箱を掲げながら現れたのは、僕の妹愛作サラだった。

 彼女が昼休みに教室に来るだなんて珍しい。放課後は割と頻繁に来るが、昼休みに来たのは今日が初めてかもしれない。

「愛作妹だ……」

「また愛作ファミリーが教室に……」

「もしかしてB組じゃなくて愛作組なのかここは……」

 クラスメイトたちがサラを見ながら、ざわざわと騒がしくなる。

 そんな彼彼女らに気圧されずに、堂々とした態度でサラは教室に足を踏み入れ、真っ直ぐにこちらにやってきた。

「あ、ここ空いてるよね? じゃあ私ここ座ろーっと」

 空いている椅子を引っ張り、そこにちょこんと座るサラ。

 机の上に置かれた僕の弁当箱を少しズラし、トンッと小さな音を立てながら、彼女は自分の弁当をそこへ置く。

「サラ、一つ聞きたいのだが……」

 と、クティラが唐揚げを口に含みながら、首を傾げながらサラへ話しかける。

「んー? なにー?」

 サラは弁当を開けながら、クティラを一瞥もせずに答える。

 もぐもぐと口を動かし、唐揚げを飲み込んだと同時に、クティラが口を開いた。

「何故リシアお姉ちゃんをリシアお姉ちゃんと呼ばずに、安藤先輩と呼んだのだ?」

「学校だからだよ? リシアお姉ちゃん先輩だしね」

 ニコッと笑みを浮かべながら答えるサラ。それを聞いたクティラは、更に右へと首を傾げる。

「……また疑問が生まれたのだが」

「え? なになに?」

 箸を手に取り、一度クルクルと回した後、箸を構えるサラ。

 彼女はそのまま卵焼きを取り、パクりと一口で全て口に含める。

「リシアお姉ちゃんは先輩、エイジはお兄ちゃん。ここまではまあわかるのだが……何故私はクティラちゃんなのだ? リシアお姉ちゃんの例に倣えば、愛作先輩もしくはクティラ先輩と呼ぶべきだと思うのだが……」

「いやー、クティラちゃんはクティラちゃんじゃん?」

「……なるほどな」

 口では理解したかのような反応をするが、顔を見るとクティラは何一つ理解できていないのだと察せられた。なんなら、頭上にはてなマークが五つほど浮いているし。

 僕も正直よくわからない。けど、ぶっちゃけどうでもいいので特に反応はしないでおく。

「ねえねえサラちゃん。私のこと先輩じゃなくて、リシアちゃんって呼んでもいいんだよ?」

「んー……安藤先輩はやっぱり安藤先輩だよ。これが一番だと思う!」

「えー……私もリシアちゃんでいいのに……」

「そう? じゃあ……リシアちゃん?」

「あ……なんかいい……いいよサラちゃん……!」

「でもやっぱり安藤先輩!」

「ぴぇ……」

 サラとリシアが楽しげに会話をしている中、クティラはずっと首を傾げたまま、頭上に次々にはてなマークを浮かべていた。

 僕はというと、一旦彼女たちから視線を離し、後ろを向いていた。

 何故後ろを向いているのか。それは、僕の後ろに立つ人物に話しかけられていたからだ。

「なあエイジ……親友の俺を差し置いて、女の子三人とハーレムお食事会とはいいご身分じゃあねえか……」

 いつも一緒に弁当を食べている友人が、恨めしそうに羨ましそうに僕を睨みつけながら言う。

「ハーレムってお前な……」

 僕は、僕の周りに集まる女の子を一瞥する。

 リシアは確かに良い子だし可愛いけど、幼馴染が故。仲の良い友達ってだけだ。

 クティラは見た目の可愛さは認めるけれど、中身が色々とアレ。

 サラはそも妹だし、学校では猫かぶっているが家ではただの生意気娘みたいなもんだし。

 ハーレムだと言うなら、みんながみんな僕を好きで僕のためだけに動いて僕だけを愛する、みたいな感じじゃ無いとダメだろ。

 だからこれはハーレムじゃない。一見そう見えるかも知れないが、本質を知ればそんなに羨ましい事じゃ無い。

 現に僕を差し置いて、女子たちだけで盛り上がってるし。僕はたまたまその場にいるだけの人、みたいな感じだ。全然主になれていない。

「……ハーレムだったら、まだ良かったな」

「は? エイジお前……なんで悲しい顔してんの?」

 僕は友人に顔を向けながらも、天井を軽く見上げ、そう呟いた。

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