69.登校登校登校登校
「いい天気だな! 太陽の光が気持ちいいぞ!」
両手を上に上げながら、太陽の光を浴びて気持ち良さげに目を細めるクティラ。
「吸血鬼の言うセリフじゃあねえな……」
僕の読んできた漫画や観てきた映画だと、吸血鬼は大抵太陽の光に弱いのだけれど、なんでこいつは平気なんだろう。
以前、太陽の下では特殊能力が使えなくなって弱体化するから苦手ではある、とは言っていたけれど。
まあ、それ言った直後に奴は平気で認識阻害を使っていたが。太陽の下で。
「そういえばクティラちゃんってヴァンパイアなんだよね? なんで太陽の下歩いても大丈夫なん?」
と、サラが首を傾げながら問う。
「かくかくしかじかだ!」
自信満々にドヤ顔をしながら答えるクティラ。こいつ、またかくかくしかじかを使いやがった。
「なるほどー」
サラがうんうんと、何もかも理解した様子で頷く。
やはりサラにはちゃんとした説明に聞こえているらしい。恐らくリシアにもそうなのだろう。僕に、僕だけがかくかくしかじかに聞こえているのだろう。
一体この不可思議な現象には何の意味があるのか。何かの伏線なのか? だとしたらどういう伏線だ。
「……どうしたのエイジ? なんか顔色悪いけど」
と、リシアが心配そうな顔で僕を覗き込みながら問う。
「いや……別に」
彼女を心配させないよう、僕はとりあえずそう答える。
以前、かくかくしかじかを聞いた時に決めたはずだ。これについては深く考えないようにしようって。
それでも考えてしまう。だっておかしいじゃないか。意味がわからない。
ダメだ。キリがない。無かったことにしよう。もう、忘れよう。
「……ん?」
そういえば、先ほどから気になっていたのだが、やけに視線を感じる。気がする。
自意識が高すぎるのか? いや、そんなはずはない。僕は普段から大して目立たない普通の存在。誰もそんなに興味はないだろうと自認しているはずだ。
それでもやっぱり視線が気になる。こんなに視線が気になるのは今日が初めてだ。
僕は思わず顔を動かし、辺りを見回す。すると、視線の正体がわかった。
僕を見ていたのは、いや、僕たちを見ていたのは街ゆく普通の人々。
今更気づいた。そうだ、気にならないはずがない。今の僕たちをつい見てしまう人が多いのは当然だ。
「それでなサラ! 私は彼の有名で崇高な──」
「へぇ……なんかすごいね」
クティラが大声で訳のわからない話をしているからだ。かなりの大声で、聞こうと思えばはっきりと聞こえる程度に大きな声で。
僕は思わずリシアを見る。やはり、彼女もたくさんの視線を感じているからなのか、少し頬を染めながら俯いたまま歩いていた。
「エイジと登校……えへへ……っ」
小さな声で何かを呟くリシア。クティラへの不満だろうか? あまりそう言うこと呟くような印象はないけれど、恥ずかしさが故つい呟いてしまったのかもしれない。
大声で、自信満々に、得意げに語るクティラの頭を、僕はペチっと軽く叩いた。
「あう……っ。なんだエイジコラァ! 喧嘩売ってんのか私に!」
僕が頭を叩いたと同時に、キッと鋭い目つきで睨みつけてくるクティラ。
それに怖じずに、僕は彼女の目を見ながら言う。
「もうちょい静かな声で喋れ、バカ吸血鬼」
「貴様また!? 何度も言ってもなおまた!? まだ言うか!?」
目を見開き叫ぶクティラ。こいつ、僕の注意を全く聞いていないな。
だんだんムカついてきた。
「だああああもう! うるせえ! バカ吸血鬼!」
「貴様ァァァアアア! 今日の私は荒いぞ覚悟するんだな!」
「わ!? クティラちゃんがどこからか鉢巻を!?」
瞬間、クティラは頭に鉢巻を撒きながら勢いよく飛び上がり、全身を瞬時に回転させ──
「ヴァンパイア……キィィィィックッッッ!」
と、叫びながら必殺の蹴りを放ってくる。
僕は瞬時にそれに反応し、右腕を出し彼女の蹴りを受け止める。
襲いかかる衝撃。この程度なら大丈夫。全然痛くない。
クティラが足を僕の腕から離し、くるりと一回転したから地面に降り立つ。
よし、今度は僕の番だ──
「……ッ!?」
クティラに反撃をしようとしたその瞬間、背筋にゾクっと悪寒を感じた。
言語化しづらい感覚。言うならば、死神がすぐ後ろに立っているような。死がすぐ目の前に迫ってきたような。そんな恐ろしい感覚。
思わずクティラの顔を見る。すると彼女も僕と同じように、何かに怯えていた。
次の瞬間。気づいた時には、僕とクティラの首元に鋭利な刃の先端が突き付けられていた。
「エイジ……クティラちゃん……喧嘩はダメだよ……?」
気づかないうちに、僕とクティラの間に立っていたリシアが、目だけを動かして僕らを交互に睨み、小さな声で言う。
優しさと恐ろしさの入り混じった声。それを聞いた瞬間、思わず全身がビクついてしまった。
「……ごめんなさい」
「リシアお姉ちゃんごめんなさい……」
自然と出た言葉。心からの謝罪。申し訳なさと、恐怖の詰まった誠心誠意のごめんなさい。
僕らのそれを聞いたリシアは、目にも止まらぬスピードで両手に持っていた剣をどこかにしまい、ニコッと笑みを浮かべた。
「うんうん……二人とも仲良くねっ」
パンッ、と軽く両手を合わせるリシア。その仕草すら、今は少しだけ怖い。
「へえ……リシアお姉ちゃんが最強なんだ。じゃあ私リシアお姉ちゃん親衛隊になろーっと」
と、完全に空気と化していたサラが僕の後ろでそう呟き、軽い足取りでリシアの元へと向かい、彼女に抱きついた。
「なあ……エイジ」
困惑した顔のまま、クティラが僕の元へとやってくる。
そして、リシアに聞こえないようにするためか、小さな声で囁いてくる。
「リシアお姉ちゃんって……怒らせると怖いんだな」
「普段優しいだけにな……」




