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68.おはよっ

「……朝か」

 バンバンバンバンと勇気が爆発しそうなほど五月蝿い目覚ましを止め、僕はゆっくりと起き上がった。

 まだ目は開いていない。いや、ほんの少しだけ開いている。

 ふわぁとあくびをして、ゴシゴシと目を擦って、もう一度あくびをして。

 ゆっくりと目を開けて、隣にいる彼女に当たらないよう──

「……あ、そっか。今日はいないんだったな」

 クティラに当たらないよう配慮して手を伸ばそうとして、それに気づいた。

 昨日はそうだ。何日ぶりかに一人で寝たんだ。いい歳した男子高校生が久しぶりに一人で寝たっていうと、なんか変だけど。

 僕はまたもあくびをしてから、ゆっくりと立ち上がり、全身を伸ばした。

 と、同時に時計を見る。現在時刻七時二十分。いつもよ似たような時間だ。

 僕はなんとなくため息をついてから、右足からベッドを降り、部屋を出た。

 隣の部屋。サラの部屋を見る。サラとリシアとクティラはもう、起きているんだろうか。

 確認すべきか否か。否否否、断じて否だ。そんなことする必要はない。

 もしも寝ていたら起こさないといけないが、すでに起きていて、その上部屋に残っていたら、絶対に変態呼ばわりされるからだ。

 リシアは優しいから多分何らかのフォローをしてくれるだろうけど、問題はバカ二人。

 クティラは煽ってくるだろうし、サラはゴミを見るような目で睨みつけてくるだろう。安易に想像できる。

 と言うわけなので。僕はサラの部屋をチェックすることなく、真っ直ぐにリビングへと向かっていった。

 リビングには誰もいない。テレビもついていないし、人のいた気配がない。どうやら僕が一番乗りらしい。

 ポケットからスマホを取り出して、何となくロック画面を見ながら僕はソファーに腰を下ろした。

 徐にテレビのリモコンを手に取り、電源を入れるためボタンを押す。

「……まあ、朝はニュースしかやってないか」

 次々にチャンネルを変え、何か面白い番組でもないかと探すが、軒並みニュース番組。

 トレンド特集をしているチャンネルで止め、僕はスマホを手に取った。

 いつの間にか結構時間が経ったようで、時刻は七時三十二分へと進んでいた。

「……三人とも起きてこないな」

 流石に少し心配になる。見にいくべきだろうか?

 ソファーから立ち上がり、僕は歩き出そうとする。

 けれどやめて、もう一度ソファーへと腰を下ろす。

 やっぱり立ち上がって、もう一度歩き出そうとする。

 しかし歩を進めることはなく、もう一度ソファーで腰を落ち着かせる。

 数秒後もう一度立ち上がり、サラの部屋へと向かおうとする。

 一歩踏み出そうとした瞬間、僕は思いとどまりソファーに座った。

 しばらく経ってまたも立ち上がり、僕はリビングから出ようとする。

 だが実行に移すことはなく、ゆっくりとお尻をソファーへと乗っけた。

 それでもやっぱり心配で、僕は──

「あ、お兄ちゃん……おはよっ」

「おはよ、エイジ」

「……眠い」

 と、三人横並びになって仲良さげにリシア達がリビングにやって来たので、僕はそのままソファーから立ち上がらずに、おはようと挨拶をした。

「んむ……私は眠い。眠いぞ、エイジ」

 千鳥足でふらふらとしながら、クティラが目を擦りながらこちらにやってくる。

 そして、ゆっくりと僕に向かって倒れてきた。

 スピー、と情けない寝息を立てながら鼻提灯を膨らませるクティラ。柔らかい頬が、僕の膝の上に乗っかる。

 僕はそんなクティラの頭をペチっと、軽く叩いた。

「あう……な……何で叩いたんだエイジ……?」

 とても信じられない、と言いたげな顔で。頭上にたくさんのはてなマークを浮かべながら首を傾げるクティラ。

 そんな彼女の頭を、もう一度ペチっと叩いた。

「……む。ぶったな、二度もぶったな? 母親にもぶたれたことはないのに……!」

「親父には?」

「……何回か叩かれたな」

「そうかよ。バカなこと言ってないで早く着替えてこい」

「四十秒で支度をしろと言うのか……!?」

「いいから早く行け」

 動きたくない、としがみつくクティラを必死に剥がし、僕はポイっと彼女をリシアに向け投げる。

 それを受け取るリシア。ビービー喚きながら僕に罵倒を浴びせるクティラ。それを見てサラは呆けた顔になっている。

「えっと……とりあえず制服には着替えようか、クティラちゃん」

「うむ! リシアお姉ちゃんが言うのならば仕方ないな! 従おう!」

「何でリシアの言うことはちゃんと聞くんだよ……」

「お姉ちゃんだからな! なんてったってお姉ちゃんだからな!」

 と、ドヤ顔で言うクティラ。全然意味がわからなかった。

「あはは……じゃあリシアお姉ちゃん、クティラちゃん。私たち部屋に戻ろうか」

 何故かサラが指揮を取り初め、三人仲良くリビングを出ていく。

 と、その瞬間。サラがパジャマをはためかせながら、くるりと一回転をしてからビシッと僕を指差してきた。

「美少女三人が着替えるからって、覗かないでよねお兄ちゃんッ!」

「バカなこと言ってないで早く行ってこい」

 上下に手を振り、早く行け早く行けとジェスチャーでサラに伝える。

 すると彼女は何故か、ほんの少しだけ頬を膨らませ、不満そうな顔をしながら僕に背を向け、リシアとクティラと共にリビングを出ていった。

 と、同時に。僕はあくびをしながら天井を見上げた。

(……あ、僕も制服に着替えないと)

 あと数秒、数十秒、数分経ったら自分の部屋に戻ろう。

 今行くとサラたちを追いかけて行った、みたいに見えて嫌だし。

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