66.恐るべき悪魔、そして睡魔
「ただいまー。あれ? リシアお姉ちゃんとクティラちゃん、なんか仲良くなってる?」
扉を開け、お手洗いから帰ってきたのを告げるサラちゃん。
少し目を見開き、キョトンとした顔で私とクティラちゃんを見ている。
ベッドの上に胡座をかく私、その上に座るクティラちゃん。それを見てきっと、仲良くなったのか問うたのだろう。
確かに、数分前よりは仲良くなったかな。少なくとも、私はそう思っている。
「ふわぁ……もう十二時過ぎちゃったね。リシアお姉ちゃん、クティラちゃん、そろそろ寝ない?」
あくびをしながら、目元に少し涙を浮かべながら、サラちゃんがゆっくりとこちらに向かってくる。
のそのそと、やる気なさげに力なさげにゆっくりしっかりベッドに乗り、寝転ぶように倒れ、彼女は私に抱きついてきた。
「おやすみなさいぃ……」
小さな声で、弱った声で、かき消えてしまいそうなほどか細い声で、サラちゃんが目を瞑りながら言う。
すぅ、すぅと小さく寝息を立て、彼女は私に抱きついたまま寝てしまった。
「まだまだ子供だな、サラは」
「私と一歳しか変わらないけどね……」
寝ていても可愛い顔が一切崩れないサラちゃんの頭を、髪をすくうように撫でる。
ほんの少しだけ微笑むサラちゃん。気持ちよかったのか、それとも本当はまだ起きていて私が撫でてあげたことに気づいての笑みなのか。私にはわからない。
「あふ……私もそろそろ寝るかな」
こくん、こくんと小さく頷きながら、小さく可愛らしいあくびをするクティラちゃん。
目が徐々にか細くなっていく。ゆらゆらと、全身が揺れている。
「ヴァンパイアなのに夜遅くに寝るの……?」
私はつい、抱いた疑問を呟いてしまった。
クティラちゃんはヴァンパイア。ヴァンパイアといえば、夜になってから活動するイメージだ。
寧ろ普段、昼間から元気なのが変な気がする。特殊能力が使えなくなるだけとはいえ、昼間から平気で外を出歩いてるし。全然ヴァンパイアって感じがしない。
「眠いから寝るのだ……不思議なことなぞ一つもない。ではおやすみだ……リシアお姉ちゃん……」
と、クティラちゃんは私の名を呼びながらゆっくりと目を閉じて、私の腕に頭を乗っけながら眠りについてしまった。
(……二人ともしょうがないなぁ、もう)
クティラちゃんとサラちゃんの頭を撫でながら、私はなんとなく天井を見上げる。
なんていうか、二人とも本当に私の妹みたい。甘えてくるし、お姉ちゃんお姉ちゃん呼んでくるし。
私もそろそろ寝ようかな。そう思い、体を動かそうと──
「……あ」
そこで、可愛らしい小さな寝息を立てる美少女二人が私に身を預けていることを思い出した。
サラちゃんは腰に手を回しながら私に抱きついて寝ている。
クティラちゃんは私の腕を枕に、全身の力を抜いて溶けたかのように私に身体を寄せながら寝ている。
ここで私が動いたら、二人とも起きてしまうかもしれない。
そんなこと絶対にできない。だって、こんなに可愛らしく寝ているんだもの。とても幸せそうに安眠しているのだもの。
「……ふわぁぁあぅ。どしよ」
やばい。眠気が私を襲いにきた。
思わずあくびが出てしまう。意に反して全身が寝たい寝たいと睡眠欲を刺激してくる。
さっきまで全然眠くなかったのに、美少女二人の寝息を聞いてから、急に眠気がふって湧いてきた。
こくん、こくんと。抑えようとしても耐えられない眠気が、私の首をゆらゆらと揺らす。
「……うぅ」
目を閉じて寝ようとしてしまう。その直後、首が一気に地面に落ちそうになる程動いて、その衝撃で目が覚める。
眠たいけど眠れない。そんな地獄みたいな状況に私は今置かれている。
クティラちゃんとサラちゃんが抱きつきながら寝ている今、胡座をかいて座っているこの状態から動くわけにはいかない。
けれど眠たい。今すぐ眠りたい。目を閉じて頭を枕に預け布団に包まれ幸せに眠りにつきたい。
けれどそれは許されない。何度も何度も言うけど、天使二人が私に抱きついているからだ。
あ、だめだ。二人が段々と悪魔に見えてきた。眠たい私を、眠ろうとする私を、全身で押さえつけ阻止する悪魔に。
私に残された手段はただ一つ。この状態で、座った状態で眠りにつくことだ。
けれど、眠れない。眠れるわけがない。だって今までの人生で座りながら眠ったことなんてないんだもん。
目を閉じて、静かに首を項垂れ、眠る準備に入る。
けれど、眠りにつくその瞬間、首がガクンっと動いてしまい、その衝撃で目が覚めてしまう。開いてしまう。
「……ふにゃ……」
思い浮かぶのは教室にいるエイジ。彼はよく、授業中に寝ている。
椅子に座ったまま、机の上を凝視しながら、されど目を閉じて当たり前のように寝ている。
エイジだけじゃない。男女問わず、授業中に寝ている人は多い。特に日本史の授業。
あの人たちはどうやって寝ているんだろう。あんな安定しない体制で、不安定な状態でどうやって寝ているんだろう。
考え事をしていても、眠気はどんどん強まっていく。
コクンコクンと、首が項垂れては起き上がるスピードが早まっていく。
眠いのに眠れない。こんなに辛いことだとは思わなかった。
眠い。寝たい。すやすやと、すぅすぅと。何も考えず一切動かずただただシンプルに、身体と脳を休める人生において至福の時間に、早く辿り着きたい。
眠い。
眠れない。
眠い──
眠れ──
「……すぅ」




