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65.仲のいいグループだけどその中に二人っきりだと気まずくなる相手っているよね

 現在時刻午後十一時四十二分。普段の私だったら、すでに寝ている時間。

 けれど今日の私はまだ起きている。クティラちゃんとサラちゃんと、軽い女子会を開催しているからだ。

 女子会、でいいのかな。女の子しかいないし、いいよね女子会で。

「そ、そろそろ離してくれないかリシアお姉ちゃん……」

「えー……やだ……」

 私に抱きしめれているサラちゃんが全身を動かし、私から逃れようとしている。

 そうはさせない、させまいと私は少し力を込め、サラちゃんをぎゅっとする。

「バリバリ……いつまで抱きついているんだ? リシアお姉ちゃんは」

 クティラちゃんがお菓子片手に咀嚼音を鳴らしながら、呆れたように私を見て言う。

 そんなこと言われてもしょうがないじゃん。今の私は、いつも感じているサラちゃんへの愛しさと切なさと心強さが爆発してしまっているのだから。

 私が好きで、私の真似をしていると。幼い子から言われきゅんっとしない人間がこの世にいるのだろうか。いや、いないと思う。

 それ故、それ故私はサラちゃんに抱きついているのだ。

「リシアお姉ちゃん……そろそろ離してくれないと私、リシアお姉ちゃんのこと嫌いになるかも」

「へッ!? そ、それは絶対ダメ!」

 目を細めながら私を見て、不満そうに呟くサラちゃんの言葉を聞き、私は瞬時に手を離した。

 サラちゃんとエイジにだけは絶対に嫌われたくないもの。もう少し、本当にあと少しだけ抱きついていたかったけど、嫌われるよりはマシだと仕方なく離してしまった。

「ふう……んー……!」

 私から解放されたサラちゃんは、気持ち良さげに目を細め、両腕を天高く上げ全身でのびーをする。

「あー……全身固まって死ぬかと思ったよ……」

 ふう、とため息をつきながら力を抜くサラちゃん。

 可愛い。抱きつきたい。でも今抱きついたら怒られるし嫌われるよね。そう察して、私は必死に自分を抑える。

「……私、ちょっとお手洗い行ってくるね」

 と、サラちゃんがゆっくりと立ち上がり、ベッドを降りる。

「うん、行ってらっしゃいサラちゃん」

「一人で行けるのか?」

「……クティラちゃん、私をバカにしてない?」

 私は少し不満げな顔でクティラちゃんを睨みながら、部屋を出ていくサラちゃんに向け手を振る。

 ゆっくりと扉を開けるサラちゃん。足音一つ立てずに彼女は部屋の外へ出て、ゆっくりと扉を閉めた。

「バリバリ……なあリシアお姉ちゃん」

「へっ!? な、何かな……?」

 突然話しかけられ、私はついビクッとなってしまう。

 恥ずかしい。顔に、頬に熱が帯びていくのを感じる。

「私、これ飽きたんだが……食べるか?」

 と、言いながら彼女はお菓子の袋を私に差し出してきた。

 めちゃくちゃ濃い味のするお菓子。正直、私はそんなに好きじゃないから、あまり食べたくない。

「え、遠慮しよう……かな……?」

「む……そうか」

 少し残念そうに眉を顰め、再びお菓子を食べ始めるクティラちゃん。

 何故か、私の顔をじっと見つめながら、バリボリと音を立てている。

「それにしてもリシアお姉ちゃんがあんなにサラを好きだったとは、少し驚いたぞ」

 お菓子を食べながら、音を立てながらなのに、やけにハッキリと聞こえる声色でクティラちゃんが話しかけてくる。

「え……う、うん。そうかな? エイジと同じくらい一緒にいるし……可愛いし……好きにならない方がおかしいって言うか……あはは……」

「そうか」

「うん……そう……」

「……ふーん」

(か、会話が続かない……!)

 気まずい。ものすごく気まずい。今すぐこの場から走って去りたいほどに、雰囲気が最悪だ。

 わかっている。原因は私だ。クティラちゃんは頑張って話しかけてくれているもん。それにちゃんと返せていない私が悪いのはわかっている。

 私は、本人には直接言わないけど、実はクティラちゃんと仲良くなっていると思っていた。けれど、それは勘違いだと今思い知らされた。

 二人っきりだと魔が持たない。何を話せばいいのかわかんなくなるし、どう絡めばいいのか想像がつかない。

 他の人。そう、エイジやサラちゃんがいる時は普通におしゃべりできるのに、なんで二人っきりだとそれが出来ないんだろう。

 そういえば、小学生の頃にもこういう事あった気がする。同じ仲良しグループなのに、二人っきりになると話すことがなくて、お互いだんまりしちゃって、微妙に気まずい雰囲気になるシチュエーション。

「……むうぅ」

 と、突然クティラちゃんが小さく唸りながら立ち上がった。

 どうしよう。不甲斐ない、つまらない、面白くない、会話が続かない私に対する不満が溜まって来たのかな? 部屋、出て行っちゃうのかな?

「……よっと」

「……ぴぇ?」

 私の予想と大きく違い、クティラちゃんは何故か、私の隣に勢いよく腰を下ろしてきた。

 そして、私の顔を覗き込むようにじっと、じっと見つめてくる。

(うぅ……! は、恥ずかしい……!)

 私は思わず、クティラちゃんから目を離してしまう。

 同性とはいえ、銀髪赤眼美少女のクティラちゃんにじっと見つめられていたら、羞恥心を覚えてしまう。子供の持つ可愛さと、大人の持つ美しさ、その両方を携えた美少女に見つめられて恥ずかしくならない人間なんてこの世にいない。

 それに、女の子状態のエイジに似ているせいでまるでエイジに見つめられているかのような気分にもなるし。

「……リシアお姉ちゃん、私思ったんだが」

 綺麗なピンク色の唇を動かし、鈴のように聞き心地の良い声を発するクティラちゃん。

 思わずドキっとしてしまう。なんでかわからないけど、私の心臓は確かにドキっと高鳴った。

「私とリシアお姉ちゃん……まだあんまり、仲良くなっていないのか?」

 可愛らしく首を傾げるクティラちゃん。

 彼女の問いは、先ほど私が気づいた真相そのものだった。

 図星をつかれたような感覚。私はゆっくりと、彼女から視線を逸らす。

「私、もっとリシアお姉ちゃんと仲良くしたいんだが?」

 逸らす私の顔の動きについてきながら、クティラちゃんが覗き込むように見つめてくる。

 逃れられない。クティラちゃんから逃れられない。だってもう、首が動かないもん。これ以上動かしたらバキってボキってお陀仏だ。

「リーシーアーおーねぇーちゃーんー?」

 ちょいちょいと、細い指で私の頬を突いてくるクティラちゃん。

 私だって、私だってクティラちゃんと仲良くしたい。もっと仲良くなりたい。

 けれど、あの気まずさを味わったあとだと上手く喋れないというか、関わろうと動けないというか。

 なんて言うか、よくわからない恥ずかしさが込み上げてきて、自分に素直になれない。

「わ、私だって仲良く……したい……よ? クティラちゃんと……」

 必死に、頑張って、どうにか振り絞って、私は仲良ししたい宣言をする。

 すると、クティラちゃんは何故かニヤニヤと笑みを浮かべ、口元に手を添えて笑い始める。

「くくく……! なるほどそうかツンデレか……! リシアお姉ちゃんはツンデレだったか!」

「別に……ツンっとはしてないと思うけど……」

 ツンデレの意味は流石に知っている。最初はツンツン、後にデレデレ。略してツンデレだ。

 あれ? 普段ツンツン時にデレデレ、だっけ? どっちでもいいや。どっちにしろ私には当てはまらないんだし。

 どちらかと言うと私は、クーデレだと思う。クトゥグアがデレているという意味ではなく、クールな子がたまにデレる、という意味で。

 いや違う。私、全然クールじゃない。大人しい、というか陰キャ?

(え……私、なにデレなの?)

「リシアお姉ちゃん……その顔、真面目な顔してバカなこと考えてるな?」

「ぴぇ!? そ、そんなことないよ!」

 図星をつかれ、私はつい焦ってしまう。

 なんで自分は何デレ、とか考えていたんだろう。普段こんな事、考えたりしないのに。

「なるほどわかったぞ……! リシアお姉ちゃんは案外存外意外にいじられキャラだということがな!」

「……えっと?」

 ビシッと指で私を指して、ドヤッとドヤ顔をするクティラちゃん。

 私はつい首を傾げてしまう。私がいじられキャラ? そうなのかな? 全然実感湧かないけど。

「というわけで! これからもよろしくな! リシアお姉ちゃん!」

と、クティラちゃんがニコッと笑いながら手を差し出してくる。

 なんかよくわからないけど、彼女の中で何かが自己完結したらしい。とても満足げに笑みを浮かべているし。

 それに、私も少しだけ。ほんの少しだけ、クティラちゃんと仲良くなれたような気がするし。

 私は彼女の差し出した手を取る。ゆっくりと、丁寧に、少し力を入れてそれを軽く握る。

「私こそ……もっと……その……仲良く……なろうね?」

「ふふふ、もちろんだ。まあ、仲良くなろうと言った相手ほど、あまり仲良くなれないものだがな。変に意識しすぎるから」

「……いじわるっ」

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