表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/319

64.ポニーテールとヴァンパイア

「じゃーんっ! 持ってきたよ飲み物とお菓子!」

 ペットボトル数本を持って、扉を開けながらサラちゃんが嬉しそうに言う。

 その後ろには、お菓子を両手でたくさん抱えたクティラちゃん。何故か誇らしげにドヤ顔をしている。お菓子持ってきただけなのに。

「リシアお姉ちゃんどれ飲む?」

 ペットボトルを見せつけながら、サラちゃんがゆっくりとベッドの上に乗る。

 それとは対照的に、クティラちゃんはその場で軽く足を動かしてから、軽い動作でぴょんっと飛び上がり、勢いよくベッドの上に着地した。

「リシアお姉ちゃん、どれから開けるんだ? どれでもよござんしょだ!」

 子供のように目を輝かせながら、お菓子のパッケージを見ているクティラちゃん。ウキウキが隠せていない。

「私これ食べてみたいかも」

 ビシッと、サラちゃんが指差す。それは、エイジがよく食べているお菓子だった。

 私はそれを見て察する。この子達、エイジが買ってきたお菓子持って来たんだ、と。

 思わず振り返り、私は壁を見る。その壁の先にはエイジが一人で寝ているはず。

(止めておかないとサラちゃんとクティラちゃん……明日エイジに怒られるよね)

 チラッと、私は彼女たちを一瞥する。すると時すでに遅し、彼女たちはエイジのお菓子を開けてお喋りしながら食べていた。

「ムッ! 濃い味だな! 悪くはない! 悪くはないぞ!」

「うん、濃いだけだねッ!」

(……まあ、いっか。楽しそうだし。私も明日一緒に謝ろう)

 そう、心の中で呟き、私もエイジのお菓子を一つ手に取り、口に含んだ。

 パリパリっと心地の良い音が鳴る。見た目に反して、軽い食感。

 口内に広がるのは濃い味。うまく言語化ができないほど、濃いとしか言いようがない味。

(エイジが好きそう……濃い味ならなんでも美味いって言うし、エイジ)

 私には濃すぎてキツいので、一つ食べて終わりにする。嫌いじゃないし、美味しいとは思うけど、濃すぎる。

「そういえば私、気になっていたんだが……」

 と、クティラちゃんが私とサラちゃんを交互に見て言う。

 なんだろう? 私は思わず首を傾げてしまった。

 サラちゃんもほぼ同時に、首を傾げている。

「今は髪を下ろしているからいいのだが……二人とも、どうして普段同じ髪型なんだ?」

 あざとく。口元に人差し指を添えながら、クティラちゃんが首を傾げる。

 そう言えば、私もサラちゃんも普段はポニーテールだ。昔からそうだったので、改めて言われないと気づけなかった。

 どうして私ポニーテールなんだっけ? 自分の過去を思い返し、思い出してみる。

 脳裏に浮かんだのはお母さんの顔。そうだ、そうだった。

「私は昔……お母さんがよくポニテで結んでくれたからだと思う。小さい頃からポニテだったからそれが当たり前、みたいな?」

「うむ! なるほどな! だがリシアお姉ちゃん……私が聞いているのは何故、二人が同じ髪型なのか? だ」

「あ、そっか……うーん? たまたまなんじゃない?」

 と、私はサラちゃんを見ながら言う。

 すると彼女は、髪を指でくるくると弄りながら、恥ずかしげにそっぽを向いていた。

「サラはどうしてポニーテールなんだ? 気になるから教えてくれ」

「えー……いいけど、ちょっと恥ずかしいなぁ」

 可愛さ全開乙女全開で恥ずかしがるサラちゃん。写真に撮っておきたいかも。

 と、そんな顔を赤くしながら恥ずかしがるサラちゃんを、クティラちゃんが両手で肩を掴んでグラグラと全身を揺らし始めた。

「おーしーえーてーくーれー!」

「わうわうわうわう……!」

 変な悲鳴をあげるサラちゃん。教えてもらおうと必死に乞うクティラちゃん。

 そんな二人を、何も言わずに見つめる私。

 なんて言うか、本当の姉妹みたいだな。と私は感じた。

「わかったわかったわかったから! 揺らすのやめれー!」

「うむわかった!」

 サラちゃんの意思表明を聞くと、クティラちゃんはすぐに彼女から手を離した。

 揺らされていた勢いが残っていたのか、クティラちゃんが手を離した瞬間、サラちゃんは勢いよく左に倒れ、壁に頭をぶつけた。

「あうちッ!?」

「わ!? サラちゃん大丈夫!?」

 少し涙目になりながら、己の頭を痛そうに押さえるサラちゃん。

 そんな彼女に、私は瞬時に近づき、なるべく早く痛みが引くよういつもより優しく頭を撫でてあげた。

「うぅ……リシアお姉ちゃん……」

「す、すまないサラ! 私のせいだ……!」

「あ、あはは……気にしなくていいよクティラちゃん! 正直めっちゃ痛いけど、リシアお姉ちゃんの特技、癒し全開撫で撫でヒーリングを今受けているから無問題!」

「そ、そうか……? ならいいが……それにしてもリシアお姉ちゃんは凄いな、攻撃だけでなく回復までできるとは」

(私そんな技、使った記憶も覚えた記憶もないけどね……)

 イマイチサラちゃんのノリがわからず、どうやってノればいいのかわからず困惑してしまう。

 でもまあ、サラちゃん可愛いからいっか。

「それでサラ? お前は何故普段ポニーテールなのだ?」

 首を傾げながら、クティラちゃんがサラちゃんを見て問う。

 この子、この短時間で何回首を傾げるんだろう。子犬みたいだ。

「えっとね……本人の前で言うの恥ずかしいけど、これリシアお姉ちゃんの真似なの」

「ぴぇ……? わ、私の真似?」

 突然そう言われ、私は思わず変な声を出してしまう。

 知らなかった。全然知らなかった。初めて聞いた。

 少し思い返してみよう。サラちゃんっていつからポニーテールだっけ?

 初めて会った時は確か私とエイジがまだ幼稚園児の頃。えっと、幼稚園って何歳だっけ? 忘れちゃった。

 とにもかくにも、かなり幼い頃。その頃のサラちゃんは確か、ポニーテールではなかったはず。

 初めて見た時から可愛い子だな、と思っていたから一応覚えている。その頃のサラちゃんの髪型は確か、シンプルなストレートヘアだった。

 私より長くて、私より綺麗で、私より可愛い髪型。ちょっと羨ましかったくらい。

(んーと……)

 考え込む。サラちゃんと過ごした日々を一ヶ月ごとに思い返しながら、いつ髪型が変わったかを思い出す。

 一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月。

 四ヶ月、五ヶ月、六ヶ月。

 七ヶ月、八ヶ月、九ヶ月。

 十ヶ月、十一ヶ月、一年。

 思い出した。出会ってからちょうど一年、サラちゃんはある日突然、ポニーテールに変わっていた。

 その時、私はサラちゃんに聞いていた。どうして髪型変えたの? と。

 その問いにサラちゃんは確かにこう答えていた。大好きな人の真似だよ、と。

(あ……あれ私のことだったんだ!)

 それを思い出すと同時に、普段から抱いている愛しさが、サラちゃんへの私の愛が、大爆発した。

 隣にいるサラちゃんを、私は思わずぎゅっと抱きしめてしまう。

「わっ!? リシアお姉ちゃん!?」

「ちょ……ちょっとサラちゃん! 可愛すぎない!?」

「へ!? そ、そんなこと言われても!」

 ぎゅっと、ぎゅっと、ぎゅっと。私はサラちゃんを抱きしめる。

 可愛いよ、と伝えるため。大好きだよ、と表現するため。

「……姉妹百合か。そんなに妹って愛おしく感じるものなのか……?」

 クティラちゃんが変なことを呟いた。それはハッキリと聞こえていたけど、私はあえて無視する。

「さ、流石にもう恥ずかしいよリシアお姉ちゃん! クティラちゃん見てるし!」

「さっきサラちゃんだって私抱きしめたんだし……いいじゃん……」

「うえぇ……!」

 サラちゃんが少し逃れようとするので、私は逃がさないよう少し力を強くした。

 夜はまだまだ、終わらなそう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ