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63.三人寄れば姦しい?

 暗い部屋。電気の消された部屋。照明が付いていない部屋。

 そんな僕の部屋で、僕は一人でベッドの中に入っていた。

 いつもはクティラがいるのだけれど、今日はサラの部屋で寝ると言い部屋から出て行ってしまったのだ。曰く、リシアとサラと一緒に寝てみたいとのこと。

 ので。隣の部屋、サラの部屋には今、女子が三人集まっている。

 吸血鬼のクティラ、ヴァンパイアハンター兼幼馴染のリシア、そして実の妹のサラ。

 一体全体あの三人で集まって、どんな話をするのだろうか。ほんの少しだけ気になる。本当に本当にほんの少しだけ。

「……なんだかなぁ」

 寝返りを打ちながら、僕は不満げに呟いた。

 いつもは狭いからそもそも打てないか、小さいクティラを潰さないよう配慮して寝返りを打たないといけないので不便だった。だが今日はクティラがいないのでスムーズに寝返りを打ててしまった。

 良いことのはずなのに。ストレスフリーで楽なはずなのに。何故かそれに、寂しさと不満を感じてしまう。

 きっとアレだ。家に四人もいるのに僕だけ一人でいるから寂しく感じるんだ。そうに違いない。それ以外ない。

 誰だってそう思う、僕だってそう思う。決して僕が寂しがり屋と言うわけではない。

「……はっ。誰に言い訳してるんだよ」

 僕は自嘲気味に笑い、もう寝ようと考えぎゅっと目を瞑った。

(……あの三人、どんな話してるんだろ)



 ピンク基調の可愛らしい、ザ・女の子と言った感じの部屋。

 その部屋に私は、クティラちゃんとサラちゃんと一緒に、サラちゃんのベッドで布団に包まれていた。

「うぅ……流石に三人はキツいなあ。リシアお姉ちゃんもそう思うでしょ?」

「う、うん……まあ確かに……」

「だが楽しくもあるだろう? どうだ? リシアお姉ちゃん」

「そ、そうだね……クティラちゃん」

 右に私、真ん中にサラちゃん、左にクティラちゃん。

 一人用のベッドに、女子高生──クティラちゃんって人間年齢で女子高生なのかな?──三人は流石に狭く感じる。二人でも少しキツいのに。

「んー……あ、そうだッ!」

 と、サラちゃんが勢いよく起き上がった。私とクティラちゃんを交互に見て、ニコニコと笑みを浮かべている。

「せっかく女の子だけのお泊まり会なんだからさ! もうちょっと夜更かししよ?」

 人差し指を立てながら、可愛らしくあざとくサラちゃんが提案してきた。

「でも明日学校だよ……? サラちゃん起きれる?」

 私は起き上がりながら、サラちゃんを心配する。

 すると彼女は一瞬だけムッとして、すぐに笑みを取り戻し、私をビシッと指で差してきた。

「無問題無問題! 寝起き良しのサラちゃんとは私のことなんだよ? リシアお姉ちゃん!」

「そんな二つ名聞いたことないけど……」

「だって今決めたもんっ」

「……へぇ」

 謎にドヤ顔をするサラちゃん。よくわかんないけど、満足げだ。

「いいではないかリシアお姉ちゃん。私はもっとサラとリシアお姉ちゃんと仲良くなりたいし、サラの提案は良いと思うぞ?」

「いい子だねクティラちゃんは! よーしよしよしよしッ!」

 クティラちゃんもドヤ顔で、優しくも強い声色で私を説得してくる。

 そんなクティラちゃんを、サラちゃんが髪の毛が抜けそうなほど激しく頭を撫でる。

 そして、二人は私に視線を向けてきた。

 じっと、じっと二人に見つめられる。じーっ、と言う効果音すら聞こえてきそうなほどに、じっと見つめられる。

 私はなんだか少しずつ、見られることが恥ずかしくなってきて、思わず俯いてしまった。

「べ、別に……私も……嫌って言ってないよ……」

 彼女たちは見ずに、私はサラちゃんの提案を了承する。

 そして、なるべく顔を上げないように彼女たちを一瞥する。すると彼女たちはとびっきりの笑顔を浮かべ──

「リシアお姉ちゃん大好きッ!」

「じゃあ私もリシアお姉ちゃん! 大好きだぞッ!」

「ぴ……ッ!」

 勢いよく、全開全力で私に抱きついてきた。

 ぎゅっと、ぎゅっと、ぎゅっと。握力全開筋力全開体力全開全力全開でものすごく、ものすごく強く抱きしめてくる。

(アイタタタタ……!? 流石にこれは……!)

 見る人が見たら羨ましい光景かもしれない。女の子全開で全てが可愛いで出来ている可愛いの顕現──と、私は思っている──サラちゃんと、美しさと可愛さを併せ持つ銀髪赤眼美少女に挟まれ抱きつかれているのだから。

 彼女たちの体がピタッと密着する。女の子の持つ柔らかい部分が、私を包み込んでくる。同性ながら恥ずかしくなるほどに、胸と腕とお腹の柔らかさを直に感じる。

 それでも勝つのは、痛いという感情と感覚。

 あ、今、骨が軋む音がした。

 やろうと思えば多分、二人を無理矢理引き剥がすこともできる。だけど、それはしたくない。

 二人とも、私に甘えてしてくれているのだから。私に大好きだよと、全身を使って伝えてくれているのだから。

 よし、死のう。二人を引き剥がすくらいなら、このまま死のう。

(ごめんねエイジ……私ここで終わりみたい)

 仲良くしてくれた友達に、大切な幼馴染に、大好きなあの人に向けて。私はさよならを心の中で告げる。

 楽しかったな、人生──

「あ、やばいぞサラ。リシアお姉ちゃん、まるでこれから天に召されるかのような顔をしているぞ。パトラッシュに向け疲れたと伝えているぞ」

「うそ!? ちょっ!? ごめんリシアお姉ちゃん! 今離すから!」

「……ハッ!?」

 突如、全身から痛みが消えた。と同時に、私は目を開き息を大きく吸う。

「あ、あはは……ご、ごめんねリシアお姉ちゃん。大丈夫だった?」

 サラちゃんが、苦笑いをしながらも申し訳なさそうな顔で謝ってくる。

「すまないリシアお姉ちゃん……ちょっとふざけすぎた……」

 クティラちゃんも申し訳なさそうに、頬に指をそわせながら謝ってくる。

「い、いいよ! 別に! 私そんな気にしてないから……!」

 と、私はすぐに二人をフォローする。だって実際、彼女たちは悪いことしてないし、私も苦しかったけど辛かったわけではない。

「リシアお姉ちゃん優しい……! けど、その優しさがいつか己の身を滅ぼすかもだから、注意してね?」

「優しさだけではこの世界、幸せに生きることは不可能だからな。時には厳しく他人を咎めなければいけないぞ?」

「え、なんで急にそんな……」

 じっと私を見つめ、私を厳しくも優しく説教する二人について行けず、つい困惑の声を出してしまう。

(クティラちゃんとサラちゃん……やっぱり少し面倒くさいところあるよね……あはは)

 少し面倒くさいかもな夜はまだまだ終わらなさそう。私は本能でそれを察した。

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