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62.まだ○日しか経ってない!?

 天井にぶら下がる水滴。視界を覆う水蒸気。静かに揺れる水面。

 僕は一人で、天井を見上げながら湯船に浸かっていた。

 久しぶりの一人風呂だ。クティラが来てからは毎日無理矢理一緒に入ろうとしてくるから本当に困る。

 リシアが居てくれてよかった。先週より簡単に説得できたし、リシア様さまだ。

「……そうか、一日男でいるの、先週の日曜ぶりか」

 静かに、誰に訊かせるでもなく僕はそう呟く。

 それと同時に疑問に思う。そういえばクティラとはいつ出会ったんだっけ?

 ここ一ヶ月の記憶を整理してみる。確か、クティラと出会ったのは──

「……先週の金曜日!? まだ一週間経ってねえのか!?」

 僕は思わず叫んでしまった。クティラと出会ってから一週間も経っていないという事実に驚くあまり。

 そうか。まだ一週間経っていないんだ。なんか、時間の流れがバグっている気がする。

 一家の長年の宿敵を倒すために何年も旅をしていたと思っていたら五十日しか経っていなかったとか、それに似た感覚を覚える。

 体感では二ヶ月ほど経っているような気がするのだけれど、何度整理しても確かに、クティラと出会ったのは六日前だ。全く信じられない。

「一週間も経たずにこの密度……か」

 僕は思わずため息をつく。時間の流れって不思議だな、と。

「お兄ちゃーん? 何騒いでるのー?」

 と、扉を軽く叩きながらサラが話しかけてきた。

 さっきの叫びを聞いて心配して来たのだろうか?

「なんでもねーよ」

 扉越しでも聞こえるよう、少し大きめの声で言う。

 するとサラは「あっそ」と言いながら、その場から去っていった。

 何しに来たんだアイツは。いや、僕を心配して来てくれたのか。

(いや待てよ……?)

 本当にそうか? ちょっと風呂場で叫んだくらいで兄を心配して見にくるほど、サラはいい子ではないだろう。

 多分、なんとなーく気になって、なんとなーく来たんだろうな。そうだ、そうに違いない。

「……はぁ、出るか」

 僕はとっとと風呂を出ようと、湯船から立ち上がった。



「リシアお姉ちゃん、もう少し足引っ込めてくれ」

「う、うん……」

 天井からたまに滴る水滴が冷たくて、目の前にはクティラちゃん。二人で入るから狭くなる浴槽。

 私はクティラちゃんと、見つめ合いながら湯船に浸かっていた。

 大きくて綺麗な赤眼。アニメのキャラのように長い綺麗なまつ毛。美しい、というより可愛らしいという言葉が似合うあどけなさの残った美少女顔。

 アニメから、漫画から飛び出してきた美少女と言っても過言ではない銀髪赤眼美少女とお風呂に入っていると思うと、同性ながら少し恥ずかしくなってくる。

 肌もとても綺麗。すべすべすぎて、一切の汚れが見えなくて、まるでお人形さんのよう。

「ん? どうしたんだリシアお姉ちゃん?」

「いや……別に……」

 首を傾げきょとんっとした顔をするクティラちゃん。美少女だから許される仕草。可愛すぎると思う。

 と、同時に羨ましく感じる。私だって、これくらい可愛かったらもっと自信を持てたかもって。

 正直に言って、私はブスではないと思う。けれど、美人とは言えないとも思っている。要するに、普通の顔だと思っている。

 友達からもあまり可愛いって言われないし。

(サラちゃんはよく言ってくれるけど……あれ、私に懐いてくれているからだろうしなぁ)

 クティラちゃん、本当に綺麗だな。

 これだけの美少女だったら、これだけの美少女が迫ったら、エイジもすぐに堕ちちゃいそう。

 幸い、クティラちゃんはギャグキャラ寄りだからエイジといい雰囲気になっていなくて安心するけれど。

 それに、私の恋を手伝ってくれるとも言ってたし。

「初めて会った日以来だな……二人でお風呂入るのは」

「ん……そうだね」

 初めて会った日。私が、クティラちゃんを殺そうとしていたあの日。

 あれから何日経ったっけ? 私は一日一日振り返ってみる。

(……あれ!? あれ!? あれ!? まだ四日しか経ってない!?)

 驚いて、驚きすぎて、思わず声に出してしまうところだった。

 ビックリだ。まだクティラちゃんと出会ってから四日しか経っていないだなんて、とても信じられない。

 もう四十日くらい経っている気がする。時間の流れって、こんなに遅かったっけ?

「リシアお姉ちゃん……? どうしたんだ? ドラキュラが心臓に杭を刺されたような顔をして」

「え、何その例え……ドラキュラ死んでるじゃん」

 可愛らしく首を傾げながら、変なことを言うクティラちゃんについツッコミを入れてしまう。

 私は何となく天井を見上げながら、心の中でだけため息をついた。

(時間の流れって……不思議だなぁ)

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