57.ゼッタイ人妻宣言ッ!
「ねえねえ愛作さんってもしかして外国人!?」
「なんでウチに来たのー?」
「そこにいる旧愛作とはどんな関係なんだ?」
(旧愛作って……)
ホームルームが終わり、一限目二限目三限目四限目の授業が終わり、あっという間に昼休み。
案の定、クティラの周りに人が集まり、彼女は質問攻めされていた。
クティラが何か仕込んだのか、彼女の席は僕の隣になった。昨日まで別の人がいたのに、あっさりと変わっていた。誰も疑問を持たずに、まるで元々空いていた席だったかのように。
「お前もお前だ愛作! ややこしいからエイジ!」
「って言われてもなぁ……」
普段よく絡む奴が、ビシッと僕を指差す。
僕が説明できる訳ないじゃないか。裏合わせもしてないし、余計なことは言えない。
ここはなんとなーく誤魔化すしかない。雰囲気に合わせて曖昧な答えを出し続けるしかない。
「はいはーい、質問いいかなクティラちゃん」
と、手を挙げてアムルがひょこっと姿を現した。
「うむ、いいぞアーちゃん」
「ちょ……アーちゃんって呼ばないでって言ったじゃんあの時……」
少し不満そうな顔をしながら、アムルが人と人の間を華麗にすり抜けてこちらにやってくる。
(……そういえば若井──アムルとクティラは一度会っているんだっけ?)
と、その時、僕は気づいてしまった。
アムルとクティラは確かに会っている。あのデパートで会っている。
だがしかし、その時クティラはミニクティラ状態だったはずだ。僕が女の子状態だったから。
そしてあの時、女の子の僕が自己紹介してしまったのだ。アムルに、クティラ・なんたら・かんたら、と。
恐らくアムルの質問はその事だ。この学校に転校してきたのは愛作クティラ。見た目はほぼ同じなのに苗字が違い、性格も違う女子高生。
疑問を抱かないはずがない。同じ人間が、あの時の自己紹介とは全然違う性格で転校してきたのだから。
「クティラちゃんってリシアちゃん……安藤さんの親戚、だったよね? ね、リシアちゃん」
と、アムルが僕の隣にいるリシアを見ながら言う。
するとリシアは「ぴえっ!」と鳴きながら、全身をビクつかせた。
「うむ、そうだ。そうだったな。そういう設定だ」
オロオロしてしまっているリシアの代わりに、クティラはアムルの質問に答えてしまう。
(設定とか言うなバカ吸血鬼……!)
クティラの答えを聞いたアムルは、案の定首を傾げている。
本当に自分の正体隠す気あるのかこのバカは。
「それでクティラちゃん、クティラちゃんってすごい長い名前だったよね? クティラギルマン何たらって感じの」
「クティラ・ウェイト・ギルマン・マーシュ・エリオット・スマス・イン・ヤラ・イププトだ。もう一度言うぞ? クティラ・ウェイト・ギルマン・マーシュ・エリオット・スマス・イン・ヤラ・イププトだ!」
「そうそうそれ! だからなんだけど……」
クティラとアムルの会話を聞いていた周りの野次馬が、一斉に静かになり、同時に固唾を飲む。
しばしの沈黙。皆が皆、アムルの次の問いに、それに対するクティラの答えに注目している。
「どうしてそこにいる愛作くん……えっと、エイジくんと同じ苗字になっているの?」
「え……あー……それはだな……」
頬に一滴の冷や汗を垂らしながら、クティラが助けを乞うように僕とリシアを一瞥する。
何も言えない。言えるわけがない。なぜ愛作クティラなのか、それは僕たちも気になっている側だからだ。
多分、何も考えずに苗字を愛作にしたんだろう。甘い、あまりにも設定が甘すぎる。
「ねえねえクティラちゃん? どうして?」
「そのだな……えー……私とエイジは夫婦だからだッ!」
「え……クティラちゃんマジ?」
アムルが僕に視線を向ける。
集まっていた野次馬も全員、僕に視線を向ける
ついでにリシアも、僕に視線を向ける。
興味なさげだった、離れた場所にいる残りのクラスメイト達も全員、僕に視線を向ける。
全員が、この場にいる全員が、僕に注目している。
「あー……と……」
やばい。僕のコメント待ちだ、全員。
あのバカ吸血鬼。なんであんなアホみたいなこと言いやがった。僕は思わずクティラを睨みつける。
すると、彼女は珍しく申し訳なさそうに俯きながら、合掌していた。
「愛作お前結婚してたのか!?」
クラスメイトの一人が叫ぶ。
「年齢的に無理じゃね……」
よく絡んでいる友達が、小さく呟く。
「すご……アニメじゃーん!」
一度も喋ったことのない女子が物珍しげに言う。
(……よし、死のう。もう全部めちゃくちゃだ、僕の人生)
クラスメイト達が騒ぐ中、僕はただ、天井を見上げることしかできなかった。
現実逃避したくて、もう色々と面倒くさくて──
「クティラちゃん……?」
「リ、リシアお姉ちゃん……怖い……ぞ……?」




