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54.いつも一緒に寝ているではないか? 同じベッドで

「……なあ、本当にするのか?」

「当然だ。私たちは一心同体なのだからな」

 午後十一時半頃。僕は、クティラと一緒にベッドの上に座っていた。

 僕より一回り小さい女の子が黒いネグリジェが露出度を高めていて、目のやり場に困るこの状況。

 じっと彼女が僕を見つめている。ベッドの上で、少し前屈みになりながら女の子座りをして、じっと見つめてくる。

「……眠いんだが? そろそろ電気消して布団に入ろうではないか」

「……マジで一緒に寝るの?」

 僕が問うと、クティラは不思議そうに首を傾げた。

「いつも一緒に寝ているではないか?」

「いやそれはさ、お前が小さいマスコット状態だからギリセーフって言うかさ」

「ん? 私は私だぞ? 大きくても小さくてもな」

「あー……と……だなぁ……」

 正直に言えばいいのに。一緒に寝るのが恥ずかしい、と。

 なのに言えない。変なプライドがそれを邪魔している。言ったらまた童貞だのなんだのバカにされそうだし。

 それに、クティラをそういう目で見たくないし、見る可能性があると知られたくない。

 僕より一回り小さいとは言え、このくらいの身長なら同級生にも数人はいる。だから余計、同い年の、年頃の女の子に見えてきて意識してしまう。

「……あふぅ」

 クティラが眠そうにあくびをしながら、僕を睨みつけてきた。

 僕はそれから顔を逸らして、恥ずかしさを誤魔化すために頬を指で掻く。

「……とりあえず私はここで寝るからな」

 と、言いながらクティラは掛け布団を軽く持ち上げ、器用に身体を動かして中に入り込んだ。

 普段は僕が使っている枕を自分の元へと寄せ、そこにちょこんと頭を乗せて、彼女は天井を見上げる。

「天井のシミを数えている間に電気を消すんだぞ、エイジ」

「……ッ。しょうがないか」

 僕は小さくため息をついて、ベッドから降りてボタンを押し、照明を消した。

 暗い部屋。真っ暗な部屋。されど自分の部屋だから見えている、わかっている。

 物に当たらないように、何も踏まないように、目を凝らしながらベッドへと向かい歩き、僕はゆっくりとそれの上に乗った。

 先程のクティラ同様、掛け布団を持ち上げ、寝っ転がりながら僕はそれを被る。

 と、その時だった。耳元に、頬に、熱く温かい吐息がかかった。

 思わずそれに反応して、全身がビクッとしてしまう。多分今のは、クティラの吐息だ。

 小さい呼吸音、されど静かな暗い部屋では耳に確かに届く音。女の子の、小さな小さな吐息。

 ダメだ。変に意識してしまう。これは本当にダメだ。

 ほんの少し、鼻腔に甘い香りが漂ってくる。恐らくクティラの匂い、甘いシャンプーの香り。

 少し身体を動かすと、彼女の着ているネグリジェに触れてしまいそうになる。それが包む、柔らかくてスベスベとした綺麗な肌にも。

 心臓の鼓動が酷くうるさい。いつもは自分の心音なんて意識しないのに、今は何故かやけに耳に残る。

「なあエイジ」

 と、クティラが僕の背中に手でそっと触れてきた。

 背中に伝わる柔らかな感覚。小さな女の子の手。

「もうちょっとそっちに行ってくれないか……? 狭いんだが?」

「……しょうがないだろ、一人用のベッドなんだから」

「むぅ……それもそうか。ならば致し方ない」

 と、クティラが残念そうにため息をつく。

「……おまッ!?」

 次の瞬間、彼女は何故か僕に抱きついてきた。

 細く滑らかな両腕で、僕を背中から抱きしめてくる。

 それと同時に背中にむにゅっと伝わるのは、恐らく彼女の胸元に実る小さな果実。

 次に、スベスベとした肌と、もちもちとした太ももが僕の足に絡んでくる。

 女の子の持つ柔らかい部分。男では持ち得ないふわふわ感。それが、僕の全身に絡みつき意識させてくる。

 ドキドキと、ドキドキと胸が高鳴り始める。

 柔らかい。温かい。柔らかい。温かい。

 感じるのは人の持つ温もり。そして、深く優しく柔らかく包み込んでくる梱包材。微かに触れる、夜を彩るサラサラとした布地。

 僕は、全身で女の子を、クティラを感じてしまっている。

 色々な感情が脳内を巡る。様々な妄想が劣情を抱かせる。

「うむっ! 抱き枕にはちょうどいいな!」

 と、いつもの調子でクティラは自信満々に叫ぶ。

 そんな彼女の唇から発せられた熱い吐息が、僕の首筋に当たり、全身がゾワゾワとしてしまった。

 ダメだ。こんなのはダメだ。絶対にダメだ。

 意識してしまう。どう頑張っても、どう足掻いても、女の子を感じてしまう。

 しないわけがない。例え血の繋がった妹でも、大切な幼馴染でも、こんなことをされたら誰だって自然と意識してしまう。感じてしまう。

──興奮、しないわけがない。

 ダメだダメだと自分を抑えようと、咎めようとしても本能がそれを許さない。僕は、色々と感じてしまっている。

 それこそ、性的欲求を高めてしまっている。

 高校生に、童貞の高校生に、これを耐えろと言うのは全然無理な話だ。

 早く寝てしまおう。そうすれば何も意識せず、無駄に頭を動かさなくて済む。そう思い、僕はぎゅっと目を閉じる。

 けれど、目を閉じた瞬間に余計強まった。僕の全身に絡みつく女体の柔らかさを知る感覚が。

「……なあエイジ」

「な、なんだよ……」

 クティラが話しかけてきたので、僕はあくまで冷静を保って会話をする。

「さっきからドクンドクン五月蝿いんだが? 心臓、静かにしてくれ。むしろ止めてくれ」

「そしたら死んじゃうだろうが……」

「む、それもそうか……じゃあせめて少し抑えてくれ……むにゃ……」

 と、言いながらクティラは眠気が限界に来たのか、すぅすぅと小さな寝息を立て始めた。

 数秒、数十秒、数分経った。クティラの寝息は止まらない。どうやらちゃんと寝たようだ。

 ので、僕はゆっくりと彼女の拘束から抜け出し、ベッドから降り立ち上がった。

 チラッと、寝ているクティラを一瞥する。小さな唇を少し開け、きゅっと可愛らしく目を閉じて、幸せそうに寝ている。

「……クソ。バカ吸血鬼」

 僕はそんな彼女に悪態をつきながら、ゆっくりと部屋を出ていった。

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