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52.お兄ちゃんと二人っきりなんて久しぶり

「はぁ……クソッ……」

 ため息をつきながら、僕は脱衣所の扉を開け廊下へと出た。

 クティラの裸体を見てしまうわ、サラに真っ裸を見られるわで最悪だ。リシアがいなくて良かった。彼女には変な誤解をされたくないし。

「あ、お兄ちゃん……」

 リビングに着くと、少し頬を紅潮させたサラがソファーに座りながら僕を見て呟いた。

 恥ずかしそうに手と指をいじりながら、彼女は何故か立ち上がる。

「あのさっ、気にしないでね? ほら……小さい頃は一緒に入ったりもしたし? ていうかノックもしないで開けた私が悪いんだし……」

 精一杯のフォローをされた。実の妹に、しかも普段は生意気寄りな妹に励まされると自分が情けなくて仕方がなくなる。

「ああ……ありがと、サラ」

 とりあえず僕はお礼を言っておく。そして彼女に気づかれないよう、小さくため息をついてから、僕はソファーに座った。

 なんとなくテレビを見る。美味しいもの特集の番組だ。これでも見て気を紛らわせようか?

 と、その時、何故かサラが僕の隣に座ってきた。

 じっと、上目遣いで見てくるサラ。なんだろう、何がしたいんだろう。

「うーん……銀髪赤眼美少女お兄ちゃんも良かったけど、やっぱり私、いつものお兄ちゃんの方が好きかな。見慣れてるってのもあるけどさ」

 と、はにかみながらサラはそう言った。

 そう言えば男に戻ったのは何日振りなんだろうか? 数日しか経っていないのに何週間も女の子の状態で過ごしたかのような気分だ。色々イベント、というか厄介ごとも起きてたし。

「そういえばお兄ちゃん、クティラちゃんはどうしたの?」

 指を頬に添えながら、首を傾げクティラの所在を聞いてくるサラ。

 僕がまだ風呂に入っている、と言うと彼女はあまり興味なさげに「へー……」と呟いた。

 その直後、彼女は目を見開き、何故か僕をビシッと指差してきた。

「じゃ、じゃあお兄ちゃんもしかして! 大きい状態のクティラちゃんとお風呂入ってたの!? 変態じゃんッ!」

 変態、変態、と罵ってくるサラに、僕は思わずため息をつく。

 そして彼女の目を見ながら、僕は弁明を図る。

「一緒に風呂に入っている時に突然戻ったから不可抗力だよ、クティラも何も言ってくれなかったし……なるべく見ないようにすぐに出たけどその時に──」

 と、僕が言い終わる前にある程度察したのか、サラが申し訳なさそうに顔を逸らした。

「あー……だからドタバタ……ごめんお兄ちゃん、あんまり変態じゃなかったね」

「あんまりって何だよ」

「いや……大きい小さい関わらずクティラちゃんと一緒にお風呂に入ってるのは変態じゃん?」

「……それはそうか」

 僕だって入りたくて一緒に入っているわけじゃない。クティラが「私たちは一心同体だからなッ!」と五月蝿いからだ。

 と、言おうと思ったが、言い訳がましくて情けない気持ちになりそうだからやめた。

「そんなに女の子と一緒にお風呂に入りたいならさ……」

「ん?」

 小さく呟くと同時に、サラが何故か俯きながら僕の胸元に手を当ててきた。

 そして、ゆっくりと顔をあげ、じっと僕を見つめながら、小さく唇を動かした。

「私と一緒に入る……?」

 少し口角を上げ、頬を赤く染めながらも嘲るような表情で、サラはそう言った。

 そんなバカ妹の額を、僕はペチっと叩く。

「ひゃうっ」

「バカなこと言ってるんじゃあねえよ、サラ」

「……ちえっ、これで頷いてたらそれをネタに強請ってお小遣い手に入れようと思ったのに」

「やっぱりな……」

 二人で暮らしていた頃に、サラはたまにこうして僕を雑に誘惑してきた。

 童貞童貞だと、よくクティラにバカにされる僕だけど、流石に妹にガチで劣情を抱くほど性に飢えているわけではない。

 吸血鬼の本能で時折暴走しかけるが、あれは僕と言うよりクティラだからノーカンだ。多分。

「……少しくらい意識してくれてもいいのになぁ」

 と、サラは何かを呟きながら立ち上がり、何故かその場でくるりと足を軸に一回転する。

 そして僕を見て、楽しげに笑みを浮かべ──

「お兄ちゃんと二人っきりなんて久しぶりだから、ちょっとふざけちゃった。えへへ……」

 彼女はそう言った。僕はそれを聞いて、思わず笑みを浮かべてしまった。

 生意気で、うるさくて、だいぶバカだけど、それでも素直に甘えてくる可愛いところはあるんだな、と。

 多分、今は両親がいないから甘える対象が僕しかいないだけなんだろうけど。事実、リシアが家にいる時サラは彼女にべったりだし。

 思い返せば、サラもリシアに負けじと甘えたがりだ。幼い頃は僕とリシアと常に一緒にいたし。小学生の頃なんて休み時間になると毎回教室に来るほどに。

 いつから彼女は生意気寄りの性格になったんだろう。いつの間にかなっていたからどこからとは正確に言えないが、恐らく中学生辺り。

 思春期か。そう思うと納得できた。

「それにしてもクティラちゃん遅いね……よっと」

 と、サラは何故か僕の膝の上に乗ってきた。

 重い。絶妙に重い。ギリギリ耐えられそうだけどキツい、と言った感じに重い。

「なんで乗ってきたんだよ……!」

 僕は思わずそう言ってしまう。するとサラは少し悩んだように天井を見上げてから、こちらに視線を向けながら言った。

「いつもクティラちゃん座ってるから座り心地がいいのかな……って。でも全然良くないね、太ももちょっと痛い……」

 と、言いながら自らの太ももに手を添えるサラ。

 僕はため息をつきながら、彼女に言ってやった。

「じゃあ降りろよ」

「はーい」

 存外、素直に言うことを聞いたサラはあっけなく僕の膝の上から降りる。

 重いものから解放され、すごく足が楽になった。この感覚は少し好きだ。

「はぁ……リシアお姉ちゃんいないとつまんないなぁ」

 と、サラが文句を言いながら僕の肩の上に頭を乗せてきた。

 僕はそんなサラを見る。サラも、僕をじっと見る。

「……お兄ちゃんの肩、リシアお姉ちゃんと違って硬いし痛いしちょっと汗臭いし、やだ」

「そうかよ……」

 はぁ、とため息をついてからサラは肩から頭を離す。

 それから全身をだらけさせ、溶けるようにソファーに座り込み、ふぅと一息つく。

「……ねえお兄ちゃん」

 と、サラが何故か僕の頬を指で突いてきた。

 うざったらしい。クティラによくされるから慣れてきてはいるが。

「デートするって言ったの、忘れてないよね?」

 少し頬を膨らませながら、何故か怒ったように言うサラ。

 そんな約束してたっけ? 僕はつい天井を見上げ、考え込む。

「ほら忘れてる! 忘れるとかほんっとありえない! 今朝の出来事だよ!? 私だけ仲間外れにされたから今度買い物一緒に行こって言ったじゃん!」

「……ああ、それか。それなら忘れてないよ」

 そういえば、そんな約束したなと思い出す。

 ていうかそれはデートというよりは、ただのお出かけなのでは? 兄妹だし、カレカノではないんだし。

 だからサラとの約束をパッと思い出せなかったのか、と納得する。ただの買い物をいちいちデートなどと壮大に言わないでほしい。

「ふぅ……いい湯だった。素晴らしいな……風呂」

 と、後ろから満足げに風呂を語る声が聞こえてきた。

 それに反応して、僕とサラは同時に後ろに振り向く。

 そこには、頭にタオルを乗せながら黒いネグリジェのようなものを着たクティラが立っていた。

「……またイチャついてたのか? 愛作兄妹」

「イチャついてねえよ、バカ」

「……エイジ。人をすぐにバカという癖、やめた方がいいぞ?」

「……うるさいな」

 僕を嘲るように言いながら、クティラはソファーの背もたれ部分に手をかけ、ぴょんっと飛び上がる。

 そして、僕の目の前に降り立つと、そのままちょこんといつも通り僕の膝の上に座ってきた。

 柔らかい太ももが僕の足に触れる。ふわっと漂った髪から甘い香りがする。お風呂から出たてだからか、熱った身体が熱く感じる。

「……なんでミニクティラじゃないのに乗ってくるんだよ」

「ここが私の定位置だからな」

 ほんの少し、女の子の柔らかさと温かさを感じてドキっとしてしまったが、それ以上に絶妙に辛く感じる重さが勝り、すぐにそんな感情は消えてしまった。

 重い。結構重い。かなり重い。

「……じゃあ私、お風呂行ってこようかな」

 と、サラが小さく呟きながら立ち上がり、彼女はそのままリビングから出ていく。

 サラが出たら、また僕も風呂に入ろうかな。身体が洗えてなくて少し嫌な気分だし。

「……む、サラめ。私なんかにジェラったな」

「……とりあえずクティラ、もう退いてくれないか? 重い」

「やだ」

「……クソ」

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