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49.若井アムル

 若井の物凄い光線で戦いに決着がつき、僕たちは近くのソファーに座っていた。

 とは言っても、人数が多いので僕は立っているが。

「けほっ……けほッ! 負けたぁ……うぅ……リシアちゃーん!」

「えっと……よしよし?」

 真っ黒焦げになったラルカがリシアに抱きつき、リシアがそれを撫でる。

 それを見た若井は呆れたようにため息をついて、やれやれと言いたげに両手の平を反らせる。

「全く……お姉ちゃんが自分の同級生に甘えてる姿とか見たくないんだけど?」

 少し不満げな声で言う若井。だがそれは聞こえていないのか、ラルカは特に反応はせず涙目でリシアに全力で甘えていた。

「とーりーあーえーずッ! 私が勝ったんだから、お姉ちゃんは一人で帰ってよね!」

「うぅ……ワンモアチャンス?」

「ダメ」

「あうぅ……リシアちゃん!」

「……よしよし?」

 リシアの胸に顔を埋め、ラルカは鼻を啜りながらえずいている。

 大人のガチ泣きだ。あんまり見たくないものを見てしまった気がする。

「はあ……安藤さんにあまり迷惑かけないでよね」

 若井はため息をつきながらそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、何故か僕を見てきた。

「ごめんね……せっかくの観光、お姉ちゃんのせいで変なことに巻き込んで」

 申し訳なさそうな顔をしながら若井が頭を下げてくる。

「え……あ! き、気にしないでいいよ!」

 僕は急いでそれを止めようと、両手を振りながら彼女に言う。

 若井は別に何も悪いことをしていないのだから謝る必要はない。どっちかというと若井もラルカに迷惑をかけられた被害者だ。

 それに、観光とかリシアの親戚とか、全部嘘だし。

「……ありがとう」

 と、若井が顔を上げ、笑みを浮かべながら頷いた。

 その姿が綺麗で、可愛らしくて、一瞬ドキッとしてしまった。そんな自分のチョロさが少し嫌になる。

 それに相手は彼氏持ちだし、変なことを考えるのは若井に申し訳がない。

「なあエイジ、ツゴーイーイナーは解除していいのか?」

 と、クティラが僕の頬を引っ張りながらそう言ってきた。

 僕は何も言わずに頷く。もう戦いは終わったし、解除しても大丈夫だろうと。

「……え? ちょっと待って? 今そのお人形喋らなかった? 動かなかった?」

「……しま……ッ……!?」

 指でクティラを差しながら、目を見開いて驚いている若井から僕はすぐに視線を逸らす。

 しまった。若井はクティラの事を知らないんだった。なんかもう当たり前に動き回るから意識するのを忘れていた。

「バカお前……! なんで認識阻害を使っていない……!」

「あー……すまんエイジ。シンプルに忘れていた」

「魔法……? いや……安藤さんの親戚だからこっちの子だよね……?」

 首を傾げながら、顎に指を添えながら、ぶつぶつと呟きながら若井が近づいてくる。

「どうするんだ? エイジ。別に私は正体をバラしても良いと思うが? 相手も魔法少女なのだから、一般常識の範疇から抜け出してはいるだろう?」

「いや……クティラはともかく、僕のこの状態を説明するのが面倒くさすぎる。しかもクラスメイトだし……バレたくない」

「ならば誤魔化し作戦その六で行くか」

「おいなんだその作戦、僕知らないぞ……!?」

 徐々に、徐々に近づいてくる若井。

 僕の目の前に止まると、彼女はクティラを指でツンツンと突こうとした。

「これは……私のウルトラ腹話術だよ! アーちゃん!」

 その瞬間、クティラがやけに甲高い声でそう喋った。

 シンプルかつ王道で、捻りのない誤魔化し方だった。なんでこれが作戦その六なんだ? 一から五はどんな作戦にしてあるんだ?

「なんだ、腹話術なんだ……」

 と、若井は見事に騙され、安堵のため息をついた。

 次の瞬間、ニコニコと笑みを浮かべながら若井が僕の目をじっと見つめてきた。

「面白いね安藤さんの親戚さん! 名前はなんて言うの?」

「えっと……クティラ・ギル……サンダー……? う……ウンターラ・ガンダーラ……だよ?」

「クティラ・ウェイト・ギルマン・マーシュ・エリオット・スマス・イン・ヤラ・イププトだ!!」

 僕が名前を言えずに、テキトーに答えると肩の上のクティラがブチギレたように物凄い早口で大きな声を出しながらそう叫んだ。

 申し訳ないことをしたとは思う。だけどやっぱり、長すぎて全然覚えられない。

「えっと……クティラギルマン……えっと! クティラちゃんだね!」

「おいエイジ……こいつ途中で諦めたぞ……!?」

「……まあ、しょうがないんじゃないか?」

 僕はなるべくクティラと顔を合わせないように喋る。無論、クティラもヒソヒソ声で喋っている。

「とりあえずクティラちゃん! これからよろしくね! 若井アムルです!」

 と、若井がバッと手を差し出してくる。

 握れ、と言うことなのだろう。だけど僕は思わず、躊躇してしまう。

 クラスの女子と、ていうか女の子と手を繋ぐなんて、握るなんてサラとリシア以外では初めてだ。緊張してしまう。

「いいから早く取ってやれ童貞坊や」

 クティラが不満げに、耳元でそう愚痴る。

 若井も不思議そうな顔をしながら、ほんの少し首を傾げている。

 僕は固唾を飲んで、意を決して、若井の手を取った。

「よろしく……えっと……若井さん?」

「アムルでいいよ! でもアーちゃんはダメだから」

 ニコッと笑いながらそう言う若井──アムル。

 なんでアーちゃんと呼んではダメなのだろうか。呼ぶ気はないから別にいいけど。

「安藤さんもー! 私のことアムルでいいからねー!」

 僕の手を握りながら振り返り、リシアに向け手を振るアムル。

 それを見たリシアは小さく頷きながら、ラルカの頭を優しく撫でた。

 僕とリシアに今日、友達が一人増えた。

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